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駆け引き①
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さっきの杉本さんの生霊を目にしてから、僕は嫌な胸騒ぎがしていた。
誰かを長期的に呪うと言う事は、呪術者にもかなりの負担をともなうことになり、龍神の力を借りて、僕が強力な呪詛返しをしてしまった事で喘息の発作を起こしてしまったのかも知れないと思ったからだ。
僕は、叩きつけられた体を引きずりながら階段を駆け上がった。
『健、梨子ちゃんが引き止めておけるのも、そろそろ限界だよ! このまま一気に屋上に行くんだ。そっちの方から、菊池家やトンネルで出会った呪詛の強い気配がする』
「はぁっ……! ああ、やっぱり……っ 凄い嫌な感じがしてきた」
上の階に行けば行くほど、霊の警告色である赤が濃くなってきている。
蜘蛛の巣のような髪の毛が、天上から張り巡らされ、まるで扉を守るかのように四方八方に伸びて行く手を阻んでいた。
ばぁちゃんがそれを、遠慮なく式神を使って切り裂いていく。
僕は、不気味な切り裂かれた髪の毛をくぐると、この先を進むことに恐怖を覚えながら、ようやく現れたドアノブに手をかけようとした。
『ちょっと! 健、上!』
「えっ、何っ! うわっ……さ、坂裏さん」
僕は突然叫んだばぁちゃんに、反射的に僕は天井を見上げる。
そこには、僕がこの呪詛事件に巻き込まれる発端となった人物がいた。
坂浦さくらさんだ。
屋上から飛び降りた時に、激しく体を叩きつけられ、おかしな方向に曲がってしまった首と手足で、天井に張り付き、ありえない方向にねじれた首をこちらに向けると、ニヤニヤと笑って僕を見ていた。
『あのさァ、私、見ちゃったんだよネェ~~あんたが、エンコーしてるトコ。林田センセと付き合ってるナラ、お小遣いモラエバ? あ、知ってタ? 林田ッテ、他のコとも付き合ってるラシイヨ。前のガッコウでも教え子とイロイロあってココにキタンダッテ、ママが言ってタ。優里、学校コナイノ?
優里がコナイト噂の真相聞けないジャン……ギャハハ』
坂裏さんは、どちらかと言うと人より目立つ事が好きな性格だ。
優里さんが、曽根さんに強要されて、本当に援助交際していたかどうかは、僕には分からない。
だけど、噂好きで目立ちたがり屋の坂裏さんにとっては、周りの学生たちから注目されるには良いネタだった。
学年、いや、学校中に噂を流した張本人だと確信する。おそらく優里さんはそれから、学校を休みがちになってしまったのかも知れない。
優里さんの姿が見えないのは、彼女がきっとこの扉の奥にいるからだ。
『あぁ、さっきからネチネチネチ煩い子達だね! 死んで悪霊になってもまだ、しょうもない苛めをしてるのかい。そんなんだから呪詛の一部にされちまうんだよ!!
ここは、ばぁちゃんが浄霊するから、あんたは優里さんを救うんだよ』
「ばぁちゃん、任せたよ!」
ついにばぁちゃんの堪忍袋の緒が切れた。曲がった事が大嫌いなばぁちゃんの怒りも、さすがに頂点に達したらしい。
化け物じみた咆哮をあげて、坂裏さんの悪霊がばぁちゃんに襲いかかっていく。
僕は屋上のドアノブに手を掛けると、内側からの抵抗感を感じて、歯を食いしばりやながら無理矢理扉を開けた。
ブチブチと、髪の毛が千切れるような音がして僕の体は扉の奥へと導かれる。
「くっ、うぁ……!」
僕を待っていたのは、沢山の悪霊達の暴言。
僕は思わず耳を塞ぐ。
屋上であるはずなのに、まるで誰かの体内の中にいるような、気味の悪い湿気とせまくるしい圧迫感。それが、ひしめきあった悪霊達の肉絨毯であるという事に気付いた時には、発狂しそうになってしまった。
そして呪詛と思われるような古い言葉の羅列が、まるで鎖のようにそこら中のに書かれていて、僕は思わず膝をついてしまった。
これが、人を呪う呪術の内部なのだろうか。
「優里……さんっ……」
僕は思わず嘔吐してしまったが、額に意識を集中させる。抵抗感を感じながらもゆっくりと立ち上がり、体を引きずるようにして奥へと向かう。
龍神に祈りを捧げながら、悪霊の体を押しのけるようにして前に進むと、髪の毛で出来たおぞましい繭の前に、門番のように杉本さんの生霊らしき人が立っていた。
般若の面のような怒りの形相をした杉本さんの生霊に、僕は声をかける。
「杉本さん。僕には兄弟がいないから、貴方の気持ちは分からないけど、家族を突然奪われる悲しみは人並みに経験してるよ。
加奈さん達のやったことは僕も許せないし、杉本さんの、復讐心に綺麗事を言うつもりは無いよ、あの人達は最低だ。
だけど、これ以上お姉さんを苦しませちゃいけない」
『うるさい! だまれ! 俺も両親も、必死で姉さんの為に働いて面倒を見てるんだ。あいつらさえ、あんなことをしなければ……姉さんだって元気で、みんな幸せになれたのに……ここから立ち去れよ! お前は部外者だろ』
「そうだね。彼女たちは取り返しのつかない事をしたよ。杉本さん、貴方はわらも掴む思いだったんだと思う。その危険性も知らないで呪詛を使ったのかも知れない。
だけど、そのおかげで優里さんは、ずっと目覚めない悪夢の中で、彼女たちにいじめられ続けてるんだぞ。それでもいいのか……!」
僕が怒りに任せて言葉を放つと、悪霊たちがざわついて離れていく。
僕の体が徐々に暖かくなって、ぼんやりと光りに包まれてしまったからだろうか。杉本さんの生霊は一瞬、その言葉に動揺したような表情を浮かべていた。
誰かを長期的に呪うと言う事は、呪術者にもかなりの負担をともなうことになり、龍神の力を借りて、僕が強力な呪詛返しをしてしまった事で喘息の発作を起こしてしまったのかも知れないと思ったからだ。
僕は、叩きつけられた体を引きずりながら階段を駆け上がった。
『健、梨子ちゃんが引き止めておけるのも、そろそろ限界だよ! このまま一気に屋上に行くんだ。そっちの方から、菊池家やトンネルで出会った呪詛の強い気配がする』
「はぁっ……! ああ、やっぱり……っ 凄い嫌な感じがしてきた」
上の階に行けば行くほど、霊の警告色である赤が濃くなってきている。
蜘蛛の巣のような髪の毛が、天上から張り巡らされ、まるで扉を守るかのように四方八方に伸びて行く手を阻んでいた。
ばぁちゃんがそれを、遠慮なく式神を使って切り裂いていく。
僕は、不気味な切り裂かれた髪の毛をくぐると、この先を進むことに恐怖を覚えながら、ようやく現れたドアノブに手をかけようとした。
『ちょっと! 健、上!』
「えっ、何っ! うわっ……さ、坂裏さん」
僕は突然叫んだばぁちゃんに、反射的に僕は天井を見上げる。
そこには、僕がこの呪詛事件に巻き込まれる発端となった人物がいた。
坂浦さくらさんだ。
屋上から飛び降りた時に、激しく体を叩きつけられ、おかしな方向に曲がってしまった首と手足で、天井に張り付き、ありえない方向にねじれた首をこちらに向けると、ニヤニヤと笑って僕を見ていた。
『あのさァ、私、見ちゃったんだよネェ~~あんたが、エンコーしてるトコ。林田センセと付き合ってるナラ、お小遣いモラエバ? あ、知ってタ? 林田ッテ、他のコとも付き合ってるラシイヨ。前のガッコウでも教え子とイロイロあってココにキタンダッテ、ママが言ってタ。優里、学校コナイノ?
優里がコナイト噂の真相聞けないジャン……ギャハハ』
坂裏さんは、どちらかと言うと人より目立つ事が好きな性格だ。
優里さんが、曽根さんに強要されて、本当に援助交際していたかどうかは、僕には分からない。
だけど、噂好きで目立ちたがり屋の坂裏さんにとっては、周りの学生たちから注目されるには良いネタだった。
学年、いや、学校中に噂を流した張本人だと確信する。おそらく優里さんはそれから、学校を休みがちになってしまったのかも知れない。
優里さんの姿が見えないのは、彼女がきっとこの扉の奥にいるからだ。
『あぁ、さっきからネチネチネチ煩い子達だね! 死んで悪霊になってもまだ、しょうもない苛めをしてるのかい。そんなんだから呪詛の一部にされちまうんだよ!!
ここは、ばぁちゃんが浄霊するから、あんたは優里さんを救うんだよ』
「ばぁちゃん、任せたよ!」
ついにばぁちゃんの堪忍袋の緒が切れた。曲がった事が大嫌いなばぁちゃんの怒りも、さすがに頂点に達したらしい。
化け物じみた咆哮をあげて、坂裏さんの悪霊がばぁちゃんに襲いかかっていく。
僕は屋上のドアノブに手を掛けると、内側からの抵抗感を感じて、歯を食いしばりやながら無理矢理扉を開けた。
ブチブチと、髪の毛が千切れるような音がして僕の体は扉の奥へと導かれる。
「くっ、うぁ……!」
僕を待っていたのは、沢山の悪霊達の暴言。
僕は思わず耳を塞ぐ。
屋上であるはずなのに、まるで誰かの体内の中にいるような、気味の悪い湿気とせまくるしい圧迫感。それが、ひしめきあった悪霊達の肉絨毯であるという事に気付いた時には、発狂しそうになってしまった。
そして呪詛と思われるような古い言葉の羅列が、まるで鎖のようにそこら中のに書かれていて、僕は思わず膝をついてしまった。
これが、人を呪う呪術の内部なのだろうか。
「優里……さんっ……」
僕は思わず嘔吐してしまったが、額に意識を集中させる。抵抗感を感じながらもゆっくりと立ち上がり、体を引きずるようにして奥へと向かう。
龍神に祈りを捧げながら、悪霊の体を押しのけるようにして前に進むと、髪の毛で出来たおぞましい繭の前に、門番のように杉本さんの生霊らしき人が立っていた。
般若の面のような怒りの形相をした杉本さんの生霊に、僕は声をかける。
「杉本さん。僕には兄弟がいないから、貴方の気持ちは分からないけど、家族を突然奪われる悲しみは人並みに経験してるよ。
加奈さん達のやったことは僕も許せないし、杉本さんの、復讐心に綺麗事を言うつもりは無いよ、あの人達は最低だ。
だけど、これ以上お姉さんを苦しませちゃいけない」
『うるさい! だまれ! 俺も両親も、必死で姉さんの為に働いて面倒を見てるんだ。あいつらさえ、あんなことをしなければ……姉さんだって元気で、みんな幸せになれたのに……ここから立ち去れよ! お前は部外者だろ』
「そうだね。彼女たちは取り返しのつかない事をしたよ。杉本さん、貴方はわらも掴む思いだったんだと思う。その危険性も知らないで呪詛を使ったのかも知れない。
だけど、そのおかげで優里さんは、ずっと目覚めない悪夢の中で、彼女たちにいじめられ続けてるんだぞ。それでもいいのか……!」
僕が怒りに任せて言葉を放つと、悪霊たちがざわついて離れていく。
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