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雨宮健の心霊事件簿 ファイル003
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引越し当日。
僕を見送る為に集まった梨子と、琉花さん……そして駆けつけてくれた間宮さんがいた。
ようやく、大学の仕事も落ち着いてきたんだろうか。
「なんだか寂しくなるね……、雨宮くん。君にもっと今回の事件のことを色々聞きたかったんだけどなぁ。でも、僕も島で研究したい事があるから、何日間か里帰りするつもりなんだ。その時はよろしくね。それから、島に戻ってもいつでも僕を頼ってくれていい」
「はい、間宮さん。今回もありがとうございます。また、なにか島でお役に立てそうならいつでも声をかけて下さい」
間宮さんは、本当に残念そうな表情で僕を見ていた。オカルトマニアにとって身近に聞ける霊能者の一人のような存在なんだろうか。
間宮さんと別れの挨拶をしていると、琉花さんが頬を僕の方をチラチラと様子をうかがっているようだった。
「真砂さん……いや、琉花さん。ソロになるんだってね。レギュラー番組も決まったみたいだし頑張ってね」
「まぁね。今回はありがと。あんたが寂しくないように現役オカルトアイドルが、また連絡してあげるんだから、感謝しなさいよね!」
「はぁ」
琉花さんは相変わらずだが、今回の事件のことを引きずらず、前向きに芸能活動を頑張れるタフさはさすがだ。
素直じゃない子だけど、根は優しい子なんだろうと思う。
「健くん……やっぱり寂しくなるね。もう、雨宮神社に就職するって決めたけど、卒業まで単位落とさないように頑張るよ。また、お休みの日には島に帰るからね。おばさんにも新しい巫女服用意して貰ってるから、冬休みのバイトも頑張ろうかな」
「うん、梨子……いつでも遊びに来てくれよ。いつでも連絡待ってるし!!」
美人な梨子の巫女姿は絶対に綺麗に決まっているので、僕はついつい赤面しつつがっつくように言ってしまった。
ばぁちゃんの呆れた視線に、僕は気まずくなると車に乗り込む。
ここから東京を離れて地元のフェリー乗り場までは孤独の道のりだ。
見送る三人を、バックミラーで見ながら僕は上機嫌になっていた。
「ばぁちゃん、僕も色々と成長したと思わない?」
『なーに言ってるの。ばぁちゃんからすりゃ、あんたは、まだまだ甘ちゃんのヒヨッコだよ。島に帰ったらまた特訓だよ! あとはばぁちゃんとじいちゃんが行ったデートコースを教えてあげるからね』
「あ、あのさぁ」
助手席に座るばぁちゃんに僕は苦笑しつつふと、屋上で杉本さんが言った言葉を思い出した。カフェで呪詛を専門に扱う人の名刺を貰ったと話した時に、ばぁちゃんが以前言っていた言葉を思い出したからだ。
何の話の流れだったか覚えてないが、前回の事件が終わった後くらいだったと思う。
――――もう一人は、呪詛使いの九十九一族の長だよ。昔々、あの島に四国から二つの一族が渡って来たんだ。
「まさかな……」
『なんだい、健』
「ううん、何でもない」
ただの偶然かも知れないし、ばぁちゃんの反応からしても、あまり触れて欲しくない話題だったようだから気にしないようにした。
ともかく、事件は解決し僕は生まれ故郷に返って本格的に修行し、神主の免許を取るために勉強することになるのだ。
そう言えば、島で唯一のコンビニがオープンするそうだから僕もバイトしてみようかな。
もうすでに梨子に会いたくなってきているけど、卒業後が楽しみだ――――。
✤✤✤
闇の中で沢山のモニターが光っている。
僕がコーヒーを飲みながら寛いでいると、部下の一人が遠慮がちに話しかけてきた。
「龍之介様。見逃してよろしいのですか?」
「うん。今回は雨宮くんが頑張っていたからね。それに、杉本貴志は、菊池加奈を自分の手で殺すまでいけなかった。その時点で素材としては失敗だよ」
雨宮くんの実力は、僕が思うより遥かに上かも知れないなぁ。今回は頑張っていた彼に敬意を払って見逃す事にしよう。
まさか、君がこの件に関わってくるとは思わなかったけど、彼の紅眼一族としての実力も垣間見えたし、じつに興味深かった。
僕の言葉から真相に辿り着けたんだからね。
「だけど、雨宮くん。この世界には呪詛を求めている人は沢山いるんだよ。公人や一般人関係なくね」
モニターに映る人々を見ながら、僕は珈琲を飲んだ。その方法も現地で呪詛を行う原始的なものから、ネットを使って行うものと現代では多岐に渡るんだからおもしろい。
さて、次はどんな事件に巻き込まれるんだろうな、雨宮くん。
彼の成長も楽しみだし、僕の知らない心霊現象に出会えるかと思ったら楽しくなってきた。
いつか時が来たら、君と話し合いたいよ。
素晴らしい力を受け継いだ一族同士が、絶縁したままなんて、愚かな事だと思わないかい?
僕は、モニター越しになにかに怯えるような素振りをしながら自分の手首を切る男を眺めながら笑った。
ファイル003 闇からの囁き 完
僕を見送る為に集まった梨子と、琉花さん……そして駆けつけてくれた間宮さんがいた。
ようやく、大学の仕事も落ち着いてきたんだろうか。
「なんだか寂しくなるね……、雨宮くん。君にもっと今回の事件のことを色々聞きたかったんだけどなぁ。でも、僕も島で研究したい事があるから、何日間か里帰りするつもりなんだ。その時はよろしくね。それから、島に戻ってもいつでも僕を頼ってくれていい」
「はい、間宮さん。今回もありがとうございます。また、なにか島でお役に立てそうならいつでも声をかけて下さい」
間宮さんは、本当に残念そうな表情で僕を見ていた。オカルトマニアにとって身近に聞ける霊能者の一人のような存在なんだろうか。
間宮さんと別れの挨拶をしていると、琉花さんが頬を僕の方をチラチラと様子をうかがっているようだった。
「真砂さん……いや、琉花さん。ソロになるんだってね。レギュラー番組も決まったみたいだし頑張ってね」
「まぁね。今回はありがと。あんたが寂しくないように現役オカルトアイドルが、また連絡してあげるんだから、感謝しなさいよね!」
「はぁ」
琉花さんは相変わらずだが、今回の事件のことを引きずらず、前向きに芸能活動を頑張れるタフさはさすがだ。
素直じゃない子だけど、根は優しい子なんだろうと思う。
「健くん……やっぱり寂しくなるね。もう、雨宮神社に就職するって決めたけど、卒業まで単位落とさないように頑張るよ。また、お休みの日には島に帰るからね。おばさんにも新しい巫女服用意して貰ってるから、冬休みのバイトも頑張ろうかな」
「うん、梨子……いつでも遊びに来てくれよ。いつでも連絡待ってるし!!」
美人な梨子の巫女姿は絶対に綺麗に決まっているので、僕はついつい赤面しつつがっつくように言ってしまった。
ばぁちゃんの呆れた視線に、僕は気まずくなると車に乗り込む。
ここから東京を離れて地元のフェリー乗り場までは孤独の道のりだ。
見送る三人を、バックミラーで見ながら僕は上機嫌になっていた。
「ばぁちゃん、僕も色々と成長したと思わない?」
『なーに言ってるの。ばぁちゃんからすりゃ、あんたは、まだまだ甘ちゃんのヒヨッコだよ。島に帰ったらまた特訓だよ! あとはばぁちゃんとじいちゃんが行ったデートコースを教えてあげるからね』
「あ、あのさぁ」
助手席に座るばぁちゃんに僕は苦笑しつつふと、屋上で杉本さんが言った言葉を思い出した。カフェで呪詛を専門に扱う人の名刺を貰ったと話した時に、ばぁちゃんが以前言っていた言葉を思い出したからだ。
何の話の流れだったか覚えてないが、前回の事件が終わった後くらいだったと思う。
――――もう一人は、呪詛使いの九十九一族の長だよ。昔々、あの島に四国から二つの一族が渡って来たんだ。
「まさかな……」
『なんだい、健』
「ううん、何でもない」
ただの偶然かも知れないし、ばぁちゃんの反応からしても、あまり触れて欲しくない話題だったようだから気にしないようにした。
ともかく、事件は解決し僕は生まれ故郷に返って本格的に修行し、神主の免許を取るために勉強することになるのだ。
そう言えば、島で唯一のコンビニがオープンするそうだから僕もバイトしてみようかな。
もうすでに梨子に会いたくなってきているけど、卒業後が楽しみだ――――。
✤✤✤
闇の中で沢山のモニターが光っている。
僕がコーヒーを飲みながら寛いでいると、部下の一人が遠慮がちに話しかけてきた。
「龍之介様。見逃してよろしいのですか?」
「うん。今回は雨宮くんが頑張っていたからね。それに、杉本貴志は、菊池加奈を自分の手で殺すまでいけなかった。その時点で素材としては失敗だよ」
雨宮くんの実力は、僕が思うより遥かに上かも知れないなぁ。今回は頑張っていた彼に敬意を払って見逃す事にしよう。
まさか、君がこの件に関わってくるとは思わなかったけど、彼の紅眼一族としての実力も垣間見えたし、じつに興味深かった。
僕の言葉から真相に辿り着けたんだからね。
「だけど、雨宮くん。この世界には呪詛を求めている人は沢山いるんだよ。公人や一般人関係なくね」
モニターに映る人々を見ながら、僕は珈琲を飲んだ。その方法も現地で呪詛を行う原始的なものから、ネットを使って行うものと現代では多岐に渡るんだからおもしろい。
さて、次はどんな事件に巻き込まれるんだろうな、雨宮くん。
彼の成長も楽しみだし、僕の知らない心霊現象に出会えるかと思ったら楽しくなってきた。
いつか時が来たら、君と話し合いたいよ。
素晴らしい力を受け継いだ一族同士が、絶縁したままなんて、愚かな事だと思わないかい?
僕は、モニター越しになにかに怯えるような素振りをしながら自分の手首を切る男を眺めながら笑った。
ファイル003 闇からの囁き 完
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