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連載
エンペラークラブ
「はぁ……焦ったでござるよ~」
「本当です。ビャクヤの剣も私の魔法も全く歯が立たなくて……こんなのがいたなんて」
情けなく脱力した声を出すカミーユに、レニも頷く。
「この蟹も食材として出しておこうか。食べられるかは知らないけど、珍しいだろうし」
正直、シンたちが引き取ってもどうすればいいか分からない。
あんな巨大な蟹の捌き方も分からないし、あのサイズでは茹でるにも鍋も用意が一苦労だ。
(蟹は好きだけど……剣も通らないのをどうやって剥けばいいんだよ)
あそこまででかいと、食べる段階に辿り着くまでが大変だ。
食べてみたい好奇心はあるけれど、とりあえずは食材としてお金にしたほうが堅実という判断になった。
レニたちも似たような考えに至ったらしく、特に反対の声も出なかった。
蟹との戦いでどっと疲れた四人は、グラスゴーとピコに揺られて王都へ戻る。日が傾くまでまだ時間があったけれど、あの場所に長居する気にはならなかった。
冒険者ギルドに行くと、シンの顔を見た受付職員がにこりと笑みを浮かべた。
以前から少し時間が空いたが、シンたちが学生だということを知っているので特別何か言うことはない。どうしてこなかったなんて愚問である。
学生しつつの兼業冒険者にはよくあることだ。試験が近くなるとぱったり来なくなる。
「お久しぶりです。食材を卸しに来ました」
「シン君、いらっしゃい。こちらへどうぞ」
受付で三人とは別れ、シンだけは魔物を解体する場所に案内された。
「今日の納品はウォーターマッシュルームと、蟹の魔物です」
「蟹はまずはこの解体台へ。ウォーターマッシュルームは検品が必要です。こちらの台にお願いします」
ウォーターマッシュルームは解体の必要はないからと解体台とは違う木製テーブルを示された。そこにマッシュルームを出していく。乱暴に置いたら柔らかい傘の部分が欠けたり割れたりしてしまうので、気を付けなくてはいけない。
テーブルは大きかったけれど、小山になるくらいマッシュルームがあった。
カミーユが採取した分は籠に入れていたので、そのまま出してしまう。面倒になったのだ。
「大量ですね……! これだけあれば先方も喜びますよ!」
「あとは蟹なんですけど……」
解体台は天板部分が金属で、下はどっしりとした重厚な木材でできている。ひたすら実用性を重視したシンプルデザインである。
この上に氷柱入りの巨大な荷を置いたら、天板がへしゃげないだろうか。上が耐えても、下の木製の土台部分が割れる可能性もある。
そうじゃなくても天井に氷柱がぶつかったり、安定を欠いて転がったら危険極まりない。
「ちょっと形が不安定なので、床に置いても?」
「ええ、蟹でしたら大丈夫ですよ」
受付職員の許可を得たので蟹を出す。ぱっと見は氷の塊だ。
ででーんとその場の空気も冷やす質量の蟹の氷漬けに、その場が静まり返る。幸い、床は抜けることはなさそうだ。
「この巨体……鮮やかな紫の甲殻は……もしやエンペラークラブ……?」
「食材にできます?」
「え、ええ! 美食でもあり、珍味でもありこれは珍しい魔物です! ビッグクラブが進化した場合に生まれるのですが……! かなり稀な現象なので!」
確かにビッグクラブは何度か見たことがあるが、この蟹の魔物は見たことがない。
受付職員が興奮するくらいには、珍しい魔物なのだろう。ちゃんと食材としてカウントしてもらえそうだし、ジーニーとの約束は十分に果たせそうだ。
(ちょっと食べたかったけれど、またの機会にしよう)
蟹鍋はちょっと贅沢で、冬にはとても乙な物である。米に続き日本食が恋しいシンである。
ちらりと先ほどウォーターマッシュルームを置いた場所を見れば、鑑定役らしき職員が必死に目と手を動かして仕分けている。
「……もしかして違うものが混じってました?」
「いえ、今のところ全部本物のウォーターマッシュルームです! ですが大きさと等級を確認しております!」
変な毒キノコは混ざっていないようだ。
「たまに、小さいベビースライムをウォーターマッシュルームって言い張って出してくる奴がいるんですよ。そうじゃなくても、間違える人もいますし」
言われてみれば透明ボディのベビースライムとウォーターマッシュルームは似ている。
ちなみにベビースライムは子供の足でうっかり潰してしまうくらい小さいのもいる。普通に街中の水路を流れに乗ってというより、逆らえず流されているのも見たことがある。
体は柔らかく動きも鈍い。特筆するスキルもない。非常に無害な魔物だ。
子供が網ですくって遊んでいるのを見たことがある。捕まえるのは簡単だし、それを高級食材とだますことができればぼろ儲けだろう。
王都はとても活気のある場所だ。人も多いし、仕事も多い。それだけ多くの経済が回っているのだから、金もうけに来る人もいる。その中には、悪いことを考える人だっているのだ。
(でも僕は堅実がモットーだからな)
悪いことをしていれば牢屋に入れられ、ジャニスのように死に場所を兼ねた労役送りにされる。
シンは真面目に学生生活とスローライフを満喫する。そのための第二の人生だ。
「本当です。ビャクヤの剣も私の魔法も全く歯が立たなくて……こんなのがいたなんて」
情けなく脱力した声を出すカミーユに、レニも頷く。
「この蟹も食材として出しておこうか。食べられるかは知らないけど、珍しいだろうし」
正直、シンたちが引き取ってもどうすればいいか分からない。
あんな巨大な蟹の捌き方も分からないし、あのサイズでは茹でるにも鍋も用意が一苦労だ。
(蟹は好きだけど……剣も通らないのをどうやって剥けばいいんだよ)
あそこまででかいと、食べる段階に辿り着くまでが大変だ。
食べてみたい好奇心はあるけれど、とりあえずは食材としてお金にしたほうが堅実という判断になった。
レニたちも似たような考えに至ったらしく、特に反対の声も出なかった。
蟹との戦いでどっと疲れた四人は、グラスゴーとピコに揺られて王都へ戻る。日が傾くまでまだ時間があったけれど、あの場所に長居する気にはならなかった。
冒険者ギルドに行くと、シンの顔を見た受付職員がにこりと笑みを浮かべた。
以前から少し時間が空いたが、シンたちが学生だということを知っているので特別何か言うことはない。どうしてこなかったなんて愚問である。
学生しつつの兼業冒険者にはよくあることだ。試験が近くなるとぱったり来なくなる。
「お久しぶりです。食材を卸しに来ました」
「シン君、いらっしゃい。こちらへどうぞ」
受付で三人とは別れ、シンだけは魔物を解体する場所に案内された。
「今日の納品はウォーターマッシュルームと、蟹の魔物です」
「蟹はまずはこの解体台へ。ウォーターマッシュルームは検品が必要です。こちらの台にお願いします」
ウォーターマッシュルームは解体の必要はないからと解体台とは違う木製テーブルを示された。そこにマッシュルームを出していく。乱暴に置いたら柔らかい傘の部分が欠けたり割れたりしてしまうので、気を付けなくてはいけない。
テーブルは大きかったけれど、小山になるくらいマッシュルームがあった。
カミーユが採取した分は籠に入れていたので、そのまま出してしまう。面倒になったのだ。
「大量ですね……! これだけあれば先方も喜びますよ!」
「あとは蟹なんですけど……」
解体台は天板部分が金属で、下はどっしりとした重厚な木材でできている。ひたすら実用性を重視したシンプルデザインである。
この上に氷柱入りの巨大な荷を置いたら、天板がへしゃげないだろうか。上が耐えても、下の木製の土台部分が割れる可能性もある。
そうじゃなくても天井に氷柱がぶつかったり、安定を欠いて転がったら危険極まりない。
「ちょっと形が不安定なので、床に置いても?」
「ええ、蟹でしたら大丈夫ですよ」
受付職員の許可を得たので蟹を出す。ぱっと見は氷の塊だ。
ででーんとその場の空気も冷やす質量の蟹の氷漬けに、その場が静まり返る。幸い、床は抜けることはなさそうだ。
「この巨体……鮮やかな紫の甲殻は……もしやエンペラークラブ……?」
「食材にできます?」
「え、ええ! 美食でもあり、珍味でもありこれは珍しい魔物です! ビッグクラブが進化した場合に生まれるのですが……! かなり稀な現象なので!」
確かにビッグクラブは何度か見たことがあるが、この蟹の魔物は見たことがない。
受付職員が興奮するくらいには、珍しい魔物なのだろう。ちゃんと食材としてカウントしてもらえそうだし、ジーニーとの約束は十分に果たせそうだ。
(ちょっと食べたかったけれど、またの機会にしよう)
蟹鍋はちょっと贅沢で、冬にはとても乙な物である。米に続き日本食が恋しいシンである。
ちらりと先ほどウォーターマッシュルームを置いた場所を見れば、鑑定役らしき職員が必死に目と手を動かして仕分けている。
「……もしかして違うものが混じってました?」
「いえ、今のところ全部本物のウォーターマッシュルームです! ですが大きさと等級を確認しております!」
変な毒キノコは混ざっていないようだ。
「たまに、小さいベビースライムをウォーターマッシュルームって言い張って出してくる奴がいるんですよ。そうじゃなくても、間違える人もいますし」
言われてみれば透明ボディのベビースライムとウォーターマッシュルームは似ている。
ちなみにベビースライムは子供の足でうっかり潰してしまうくらい小さいのもいる。普通に街中の水路を流れに乗ってというより、逆らえず流されているのも見たことがある。
体は柔らかく動きも鈍い。特筆するスキルもない。非常に無害な魔物だ。
子供が網ですくって遊んでいるのを見たことがある。捕まえるのは簡単だし、それを高級食材とだますことができればぼろ儲けだろう。
王都はとても活気のある場所だ。人も多いし、仕事も多い。それだけ多くの経済が回っているのだから、金もうけに来る人もいる。その中には、悪いことを考える人だっているのだ。
(でも僕は堅実がモットーだからな)
悪いことをしていれば牢屋に入れられ、ジャニスのように死に場所を兼ねた労役送りにされる。
シンは真面目に学生生活とスローライフを満喫する。そのための第二の人生だ。
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