余りモノ異世界人の自由生活~勇者じゃないので勝手にやらせてもらいます~

藤森フクロウ

文字の大きさ
225 / 225
連載

エンペラークラブ

「はぁ……焦ったでござるよ~」
「本当です。ビャクヤの剣も私の魔法も全く歯が立たなくて……こんなのがいたなんて」

 情けなく脱力した声を出すカミーユに、レニも頷く。

「この蟹も食材として出しておこうか。食べられるかは知らないけど、珍しいだろうし」

 正直、シンたちが引き取ってもどうすればいいか分からない。
 あんな巨大な蟹の捌き方も分からないし、あのサイズでは茹でるにも鍋も用意が一苦労だ。

(蟹は好きだけど……剣も通らないのをどうやって剥けばいいんだよ)

 あそこまででかいと、食べる段階に辿り着くまでが大変だ。
 食べてみたい好奇心はあるけれど、とりあえずは食材としてお金にしたほうが堅実という判断になった。
 レニたちも似たような考えに至ったらしく、特に反対の声も出なかった。
 蟹との戦いでどっと疲れた四人は、グラスゴーとピコに揺られて王都へ戻る。日が傾くまでまだ時間があったけれど、あの場所に長居する気にはならなかった。
 冒険者ギルドに行くと、シンの顔を見た受付職員がにこりと笑みを浮かべた。
 以前から少し時間が空いたが、シンたちが学生だということを知っているので特別何か言うことはない。どうしてこなかったなんて愚問である。
 学生しつつの兼業冒険者にはよくあることだ。試験が近くなるとぱったり来なくなる。

「お久しぶりです。食材を卸しに来ました」

「シン君、いらっしゃい。こちらへどうぞ」

 受付で三人とは別れ、シンだけは魔物を解体する場所に案内された。

「今日の納品はウォーターマッシュルームと、蟹の魔物です」

「蟹はまずはこの解体台へ。ウォーターマッシュルームは検品が必要です。こちらの台にお願いします」

 ウォーターマッシュルームは解体の必要はないからと解体台とは違う木製テーブルを示された。そこにマッシュルームを出していく。乱暴に置いたら柔らかい傘の部分が欠けたり割れたりしてしまうので、気を付けなくてはいけない。
 テーブルは大きかったけれど、小山になるくらいマッシュルームがあった。
 カミーユが採取した分は籠に入れていたので、そのまま出してしまう。面倒になったのだ。

「大量ですね……! これだけあれば先方も喜びますよ!」

「あとは蟹なんですけど……」

 解体台は天板部分が金属で、下はどっしりとした重厚な木材でできている。ひたすら実用性を重視したシンプルデザインである。
 この上に氷柱入りの巨大な荷を置いたら、天板がへしゃげないだろうか。上が耐えても、下の木製の土台部分が割れる可能性もある。
 そうじゃなくても天井に氷柱がぶつかったり、安定を欠いて転がったら危険極まりない。

「ちょっと形が不安定なので、床に置いても?」

「ええ、蟹でしたら大丈夫ですよ」

 受付職員の許可を得たので蟹を出す。ぱっと見は氷の塊だ。
 ででーんとその場の空気も冷やす質量の蟹の氷漬けに、その場が静まり返る。幸い、床は抜けることはなさそうだ。

「この巨体……鮮やかな紫の甲殻は……もしやエンペラークラブ……?」

「食材にできます?」

「え、ええ! 美食でもあり、珍味でもありこれは珍しい魔物です! ビッグクラブが進化した場合に生まれるのですが……! かなり稀な現象なので!」

 確かにビッグクラブは何度か見たことがあるが、この蟹の魔物は見たことがない。
 受付職員が興奮するくらいには、珍しい魔物なのだろう。ちゃんと食材としてカウントしてもらえそうだし、ジーニーとの約束は十分に果たせそうだ。
(ちょっと食べたかったけれど、またの機会にしよう)
 蟹鍋はちょっと贅沢で、冬にはとても乙な物である。米に続き日本食が恋しいシンである。
 ちらりと先ほどウォーターマッシュルームを置いた場所を見れば、鑑定役らしき職員が必死に目と手を動かして仕分けている。

「……もしかして違うものが混じってました?」

「いえ、今のところ全部本物のウォーターマッシュルームです! ですが大きさと等級を確認しております!」

 変な毒キノコは混ざっていないようだ。

「たまに、小さいベビースライムをウォーターマッシュルームって言い張って出してくる奴がいるんですよ。そうじゃなくても、間違える人もいますし」

 言われてみれば透明ボディのベビースライムとウォーターマッシュルームは似ている。
 ちなみにベビースライムは子供の足でうっかり潰してしまうくらい小さいのもいる。普通に街中の水路を流れに乗ってというより、逆らえず流されているのも見たことがある。
 体は柔らかく動きも鈍い。特筆するスキルもない。非常に無害な魔物だ。
 子供が網ですくって遊んでいるのを見たことがある。捕まえるのは簡単だし、それを高級食材とだますことができればぼろ儲けだろう。
 王都はとても活気のある場所だ。人も多いし、仕事も多い。それだけ多くの経済が回っているのだから、金もうけに来る人もいる。その中には、悪いことを考える人だっているのだ。

(でも僕は堅実がモットーだからな)

 悪いことをしていれば牢屋に入れられ、ジャニスのように死に場所を兼ねた労役送りにされる。
 シンは真面目に学生生活とスローライフを満喫する。そのための第二の人生だ。

この作品は感想を受け付けておりません。

あなたにおすすめの小説

うちのパーティーのリーダーが勇者一行の仲間だと神託が下ったらしい

東稔 雨紗霧
ファンタジー
とある冒険者パーティーのリーダーが神託により勇者一行に指名された。 明日から居なくなる彼を祝ってパーティーメンバー達は送別会を開く事にした。

私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました

放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。 だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。 「彼女は可哀想なんだ」 「この子を跡取りにする」 そして人前で、平然と言い放つ。 ――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」 その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。 「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」

妹が真の聖女だったので、偽りの聖女である私は追放されました。でも、聖女の役目はものすごく退屈だったので、最高に嬉しいです【完結】

小平ニコ
ファンタジー
「お姉様、よくも私から夢を奪ってくれたわね。絶対に許さない」  私の妹――シャノーラはそう言うと、計略を巡らし、私から聖女の座を奪った。……でも、私は最高に良い気分だった。だって私、もともと聖女なんかになりたくなかったから。  退職金を貰い、大喜びで国を出た私は、『真の聖女』として国を守る立場になったシャノーラのことを思った。……あの子、聖女になって、一日の休みもなく国を守るのがどれだけ大変なことか、ちゃんと分かってるのかしら?  案の定、シャノーラはよく理解していなかった。  聖女として役目を果たしていくのが、とてつもなく困難な道であることを……

【完結】転生したら断罪イベントの真っ最中。聖女の嘘を暴いたら、王太子が真っ青になりました

丸顔ちゃん。
恋愛
王太子は私――エリシアに婚約破棄を宣言し、 隣では甘ったるい声の“聖女”が「こわかったんですぅ♡」と泣き真似をしている。 だが私は知っている。 原作では、この聖女こそが禁術で王太子の魔力を吸い取り、 私に冤罪を着せて処刑へ追い込んだ張本人だ。 優しい家族を守るためにも、同じ結末は絶対に許さない。 私は転生者としての知識を武器に、 聖女の嘘と禁術の証拠を次々に暴き、 王太子の依存と愚かさを白日の下に晒す。 「婚約は……こちらから願い下げです」 土下座する王太子も、泣き叫ぶ聖女も、もう関係ない。 私は新しい未来を選ぶ。

神様、辞めました〜竜神の愛し子に冤罪を着せ投獄するような人間なんてもう知らない・完結

まほりろ
恋愛
王太子アビー・シュトースと聖女カーラ・ノルデン公爵令嬢の結婚式当日。二人が教会での誓いの儀式を終え、教会の扉を開け外に一歩踏み出したとき、国中の壁や窓に不吉な文字が浮かび上がった。 【本日付けで神を辞めることにした】 フラワーシャワーを巻き王太子と王太子妃の結婚を祝おうとしていた参列者は、突然現れた文字に驚きを隠せず固まっている。 国境に壁を築きモンスターの侵入を防ぎ、結界を張り国内にいるモンスターは弱体化させ、雨を降らせ大地を潤し、土地を豊かにし豊作をもたらし、人間の体を強化し、生活が便利になるように魔法の力を授けた、竜神ウィルペアトが消えた。 人々は三カ月前に冤罪を着せ、|罵詈雑言《ばりぞうごん》を浴びせ、石を投げつけ投獄した少女が、本物の【竜の愛し子】だと分かり|戦慄《せんりつ》した。 「Copyright(C)2021-九頭竜坂まほろん」 アルファポリスに先行投稿しています。 表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。 2021/12/13、HOTランキング3位、12/14総合ランキング4位、恋愛3位に入りました! ありがとうございます!

公爵令嬢は結婚式当日に死んだ

白雲八鈴
恋愛
 今日はとある公爵令嬢の結婚式だ。幸せいっぱいの公爵令嬢の前に婚約者のレイモンドが現れる。 「今日の結婚式は俺と番であるナタリーの結婚式に変更だ!そのドレスをナタリーに渡せ!」  突然のことに公爵令嬢は何を言われたのか理解できなかった。いや、したくなかった。 婚約者のレイモンドは番という運命に出逢ってしまったという。  そして、真っ白な花嫁衣装を脱がされ、そのドレスは番だという女性に着させられる。周りの者達はめでたいと大喜びだ。  その場所に居ることが出来ず公爵令嬢は外に飛び出し……  生まれ変わった令嬢は復讐を誓ったのだった。  婚約者とその番という女性に 『一発ぐらい思いっきり殴ってもいいですわね?』 そして、つがいという者に囚われた者の存在が現れる。 *タグ注意 *不快であれば閉じてください。

祈りの重さを知るがいい。

久遠
ファンタジー
『地味な聖女の、派手すぎる復讐劇が幕を開ける』 「地味に突っ立って祈るだけの女は、もう不要だ」 そう言って私を捨てた王太子は知らない。 私の祈りが、 彼に降りかかる全ての【不運の確率】を 0%に固定していたことを。 私が祈りをやめた。 ただそれだけで、 彼の世界は「確率通り」の地獄に変わった。 転ぶ、下敷きになる、国が滅ぶ。 積み重なる不幸の果てに、 彼は蒼白になりながら私を引き止めるけれど。 「死ぬ確率は固定してなかったわ」

聖女じゃない私たち

あんど もあ
ファンタジー
異世界転移してしまった女子高生二人。王太子によって、片方は「聖女」として王宮に迎えられ、片方は「ただの異世界人」と地方の男爵に押し付けられた。だが、その判断に納得する二人ではなく……。