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18、怒れる国王ヘンリー
しおりを挟むフレアと婚約破棄を宣言したエンリケは、意気揚々と本日の主役としてプロムナードを楽しんだ。日も暮れたところで父王ヘンリーから呼び出され、兵に担がれるようにして、王の私室へと投げ入れられた。
長毛タイプの絨毯であったが、流石にそれだけで投げられた衝撃がなくなるわけがない。受け身も取れず体を強か打ち付け、もんどりうつ。
しかし、その無様なエンリケを心配するどころか、冷水のような叱責が飛んだ。
「この大馬鹿者! フレア・アシュトンと婚約破棄をしただと!? そして男爵令嬢と婚約を結び直す!? お前はそれがどういう意味か分かっているのか!?」
びりびりと響く怒号は、鼓膜をぶち抜くような声量だった。
普段は物静かなヘンリーが、エンリケの言葉など聞く余地はないとばかりに怒鳴り散らす。
大事な一粒種として育てられていたエンリケは、大きなショックを受けた。
散々甘やかされていたエンリケは、ここまで露骨な叱り方を受けることがなかったのである。
だが、涙ぐみながらも言い返す。
「で、ですが父上! フレアは次期王妃として相応しくありません! いつも冷たくて氷のようではないですか! あんなのがブランデルで王妃となるなんて! 母上の様に美しく清廉で心優しい女性が王妃になるべきです!」
公務を任せされないおつむなうえ、噂好きの王宮雀や媚びを売るばかりの貴族しか贔屓しないグラニアではあるが、エンリケにとっては理想にして最高の女性だった。
身内贔屓が激しく、色眼鏡もいいところだった。エンリケはグラニアに、グラニアはエンリケに対して評価が高すぎた。
ヘンリーは落胆と失望のため息をついた。
「エンリケ。お前はいくつの言語を履修できた?」
「ブランデル語ですよ。俺はブランデルの王子なんですから、一つで充分でしょう?」
そのお粗末な答えに、ヘンリーは溜息を止められない。
ブランデルが比類なき大国だったら許されたかもしれないが、現実はぱっとしない小国である。
「余が王太子であった時は、最低三か国語を覚えさせられた。ブランデル語以外で、だ。ブランデル語はかなりマイナーな語学だ。国際的な場所に出る場合は、大陸でもっとも使われているフォトン語が共通言語と規定で決められている。王族の必須教養とされているしな。次に覚えたのは、このあたりで最も勢力のあるグランマニエ帝国と、その周辺で使われるグラン語。そして、隣国のランファン語を履修した」
つまり、ヘンリーは全部で四か国語を学んだということだ。
それに比べてお前は、と言外に滲ませたが空気の読めないエンリケは「流石父上です!」と愚かな賛辞を述べている。
せめて恥を感じて俯くくらいはできないのか。
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