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40、ケイネス・アシュトン
しおりを挟む「聞きたいことが有る。エンリケ殿下との婚約が無くなったのは事実か?」
「あら、流石に田舎にも届きまして?」
否定しないフレアに、ケイネスは怒鳴りつけてきた。こういう嫌なところはジョージにそっくりである。
「何を考えている!? 相手は王族だぞ?」
「敬うべきモノもないハリボテに尽くすのは飽きましたの」
「王家を何だと思っている!?」
「わたくしに流れる薄いシェリダン公国王族の血を盾にすることでしか、国交すらできない無能。自国語しか使えない王妃と王子は、国内の公務すらまともにできてはいないではないですか」
「それを支えるのがお前だろう!」
フレアの言葉に被せるようなケイネスの怒号。その上から目線に呆れる。
少しだけ、貴族当主の座を間借りしているだけで随分偉そうになったものだ。子爵風情が、王家と公爵家の婚約破棄について何か言える立場ではない。
そもそも、フレアは精一杯尽力したが、それに調子づいて放蕩をしたのはエンリケだ。そして、イビリの一環でそれを助長させたのはグラニアだ。
そして真実の愛だのと言う、くだらない妄言でフレアとの関係を断ち切った。
マザコン殿下のことなので、プロムナードで婚約破棄をした理由に予想がつく。かつてのヘンリーとグラニアの真似をしたかっただけだ。そして、ミニスはその時の一番のお気に入りの女だっただけ。
だから、フレアにとってこの婚約破棄は想定内というか、計画通りなのである。
エンリケに複数の女性との関係があることは知っていた。中には一線を超えた女性もいることだって知っていた。あれほど口を酸っぱくして注意したのに、どうやら右から左へ素通りしていたようだ。
エンリケの女癖の悪さはずっと前から問題視されているし、当然ケイネスだって知っているはずだ。それを知っていて、よく言うものである。
「あら嫌ですわ。ケイネス伯父様ったら、何をそんなに怒っていらっしゃるの? わたくし、アシュトン公爵家の品格を保つために手を尽くしましたのよ? この婚約が流れようとも、我が家は名誉も財も傷つかず、失わないように準備は整えていましたの」
貴族たちも、市井の民たちもフレアに同情している。
ザルのように女にだらしないエンリケの過去の所業は、裁判の時に読み上げられている。
婚約破棄を発端に起こった浮気の清算は、王家の最大のスキャンダルと化していた。フレアは周囲に口止めをしていないし、フレアを思って口をつぐんでいた貴族たちは少なくない。ここぞとばかりにエンリケの酷さをあちこちで囀っている。
裁判所の傍聴席は常に満員で、その席を取ろうと貴賤や老若男女問わず画策をしていると聞く。
皆が王家の特大の醜聞を、娯楽として、あるものは燻った復讐心を満たすために来ている。
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