59 / 73
59、忘れられていた復讐(フレア視点)
グランマニエ帝国の栄華の象徴である宮殿。
その一角には吟遊詩人に女神の如くと称される美姫が一人滞在していた。
彼女の名前はフレア・アシュトン――現在、第四皇子に是が非でも皇子妃にと熱望されている話題の令嬢だ。
既にハインリヒの囲い込みは大詰めを迎えており、事実上内定している。
彼女は今、ゆったりとバスタイムを楽しんでいた。乳白色の湯の上には、色鮮やかな花弁が漂っている。それは目で見ても美しいが、美容効果も高く、また何とも言えない芳醇な香りを放っている。
湯船につかりながら新聞を読むという、ややはしたない姿でリラックスしていたフレア。
とある紙面を見て「あら、忘れていたわ」と小さく声を上げた。
その声に、丁寧によく泡立てて髪を洗っていたメイドが顔を上げる。
「如何いたしましたか、皇子妃殿下。かゆいところが? 何か気になることが?」
まだアシュトン公爵への縁談は正式に結んでいないはずだが、既にフレアは妃扱いだった。
誰も彼も、フレアを『皇子妃殿下』と呼ぶ。
トップである皇帝が黙認どころか、積極的にその噂を広めているのだから止めようがない。
フレアは嫌な気持ちになるどころか、少し面映ゆい気持ちになる。
ブランデルではいくら頑張っても、それが当たり前だった。失敗すればフレアのせい。成功すればエンリケやグラニアの功績となった。
足りなさすぎるエンリケの補佐をするために、多くを学んだこともあり、フレアはグランマニエで学ぶことは比較的少なかった。
王宮で王太后ゾエやその肝いりの講師にやたら厳しく叱責され、支離滅裂なグラニアの罵倒に耐える必要もないので勉強も素直に楽しかったほどだ。
グランマニエの王宮図書館や、王立図書館の蔵書は素晴らしかった。
皇子妃教育で気になったことを自分で調べると、様々な視点でも学び、考察するのが楽しかった。時折、本に夢中になり過ぎてハインリヒが嫉妬して取り上げる程に、のめり込んでいた。
ブランデル王国とは違い、グランマニエ帝国は息がしやすくすべての色が新鮮だった。
祖国であるはずのあの場所は、思い返せば返すほど碌な思い出がない。
「いえ、どうやらブランデルでクーデターが起きているそうなの。現ブランデル王族が処刑されるそうよ。代わりに王弟のクラウス・ブランデル殿下が、新たな王となるらしいの。嫌だわ、すっかり忘れていたわ」
フレアの守りたいと思っていた、親身になってくれていた使用人たちは既にグランマニエに揃っている。
母や祖父母もきちんと身辺整理を済ませた後、使用人たちと共に移住しに来るという。
そして、フレアの邪魔者たちは全てブランデルに置いてきた。彼らの希望を潰してから、仕上げてきたのだ。
フレアを使い潰そうとしていたジョージにヘンリー。
スケープゴートにしようとしていたゾエ。
存在自体が足かせだったエンリケ。
頭のおかしい計画をしていたグラニアやケイネス。
彼らは場所が違うが、仲良く塀の中。
特に最後は念入りに潰した。願望達成に必須なフレアはグランマニエ、ユリアはランファン、そしてエンリケは処刑されることとなった。
「随分前から荒れていたと聞きます。これも仕方のない事かと……」
「そうね……その通りだわ」
ヘンリーがベネシーを裏切った時からもう、今のブランデルは終わり始めていた。
クラウスが新たに王となってもいつまで持つか微妙なところだ。ヘンリーを今更追い立てても、今まで民に寄り添わず、真実を偽り続けたのは変わりない。
所詮、クラウスも古い革袋でしかない。
今の民衆は新しい王を欲しがっている――王弟では近すぎる。今まで民の苦境に見向きもしなかったというのに、蜂起した民衆にぐらついた隙に起こした簒奪。
漁夫の利にも見える。
それは民の望んだ指導者ではない。
フレアの歯切れの悪い様子に、祖国の恐慌に憂いているのかとメイドは慌てて話題を変えた。
「ああ、そうですわ。ところでフレア様は『横顔』という本をご存知ですか? 帝国で凄く人気があって、今度舞台化されるそうですわ」
「ハインリヒ様に頂いて、読んだわ。なかなか陰鬱なところもある内容だけれど、大衆向けするかしら?」
「その辺は脚本家や役者の見せどころですよ!」
曖昧に微笑んだフレアに、侍女ははしゃいだように公演される舞台の人気俳優の名を出す。どうやら一番人気の俳優のファンらしく、ルックスは勿論のことで声や演技も抜群に素晴らしいらしい。
フレアは笑顔でその話を聞きながら、今度はオペラや観劇にハインリヒを誘いたいとこっそり心の中で思うのだった。いつも連れて行ってもらっているばかりなので、こちらからお誘いしたい――でもはしたなくはないだろうか。
そっと押さえた胸の下で、トクトクと鼓動がいつもより大きく鳴っていた。
あなたにおすすめの小説
姉の所為で全てを失いそうです。だから、その前に全て終わらせようと思います。もちろん断罪ショーで。
しげむろ ゆうき
恋愛
姉の策略により、なんでも私の所為にされてしまう。そしてみんなからどんどんと信用を失っていくが、唯一、私が得意としてるもので信じてくれなかった人達と姉を断罪する話。
全12話
全てを捨てて、わたしらしく生きていきます。
彩華(あやはな)
恋愛
3年前にリゼッタお姉様が風邪で死んだ後、お姉様の婚約者であるバルト様と結婚したわたし、サリーナ。バルト様はお姉様の事を愛していたため、わたしに愛情を向けることはなかった。じっと耐えた3年間。でも、人との出会いはわたしを変えていく。自由になるために全てを捨てる覚悟を決め、わたしはわたしらしく生きる事を決意する。
【完結】女王と婚約破棄して義妹を選んだ公爵には、痛い目を見てもらいます。女王の私は田舎でのんびりするので、よろしくお願いしますね。
五月ふう
恋愛
「シアラ。お前とは婚約破棄させてもらう。」
オークリィ公爵がシアラ女王に婚約破棄を要求したのは、結婚式の一週間前のことだった。
シアラからオークリィを奪ったのは、妹のボニー。彼女はシアラが苦しんでいる姿を見て、楽しそうに笑う。
ここは南の小国ルカドル国。シアラは御年25歳。
彼女には前世の記憶があった。
(どうなってるのよ?!)
ルカドル国は現在、崩壊の危機にある。女王にも関わらず、彼女に使える使用人は二人だけ。賃金が払えないからと、他のものは皆解雇されていた。
(貧乏女王に転生するなんて、、、。)
婚約破棄された女王シアラは、頭を抱えた。前世で散々な目にあった彼女は、今回こそは幸せになりたいと強く望んでいる。
(ひどすぎるよ、、、神様。金髪碧眼の、誰からも愛されるお姫様に転生させてって言ったじゃないですか、、、。)
幸せになれなかった前世の分を取り返すため、女王シアラは全力でのんびりしようと心に決めた。
最低な元婚約者も、継妹も知ったこっちゃない。
(もう婚約破棄なんてされずに、幸せに過ごすんだーー。)
奪われる人生とはお別れします 婚約破棄の後は幸せな日々が待っていました
水空 葵
恋愛
婚約者だった王太子殿下は、最近聖女様にかかりっきりで私には見向きもしない。
それなのに妃教育と称して仕事を押し付けてくる。
しまいには建国パーティーの時に婚約解消を突き付けられてしまった。
王太子殿下、それから私の両親。今まで尽くしてきたのに、裏切るなんて許せません。
でも、これ以上奪われるのは嫌なので、さっさとお別れしましょう。
◇2024/2/5 HOTランキング1位に掲載されました。
◇第17回 恋愛小説大賞で6位&奨励賞を頂きました。
◇レジーナブックスより書籍発売中です!
本当にありがとうございます!
なんで私だけ我慢しなくちゃならないわけ?
ワールド
恋愛
私、フォン・クラインハートは、由緒正しき家柄に生まれ、常に家族の期待に応えるべく振る舞ってまいりましたわ。恋愛、趣味、さらには私の将来に至るまで、すべては家名と伝統のため。しかし、これ以上、我慢するのは終わりにしようと決意いたしましたわ。
だってなんで私だけ我慢しなくちゃいけないと思ったんですもの。
これからは好き勝手やらせてもらいますわ。
捨てられたなら 〜婚約破棄された私に出来ること〜
ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
長年の婚約者だった王太子殿下から婚約破棄を言い渡されたクリスティン。
彼女は婚約破棄を受け入れ、周りも処理に動き出します。
さて、どうなりますでしょうか……
別作品のボツネタ救済です(ヒロインの名前と設定のみ)。
突然のポイント数増加に驚いています。HOTランキングですか?
自分には縁のないものだと思っていたのでびっくりしました。
私の拙い作品をたくさんの方に読んでいただけて嬉しいです。
それに伴い、たくさんの方から感想をいただくようになりました。
ありがとうございます。
様々なご意見、真摯に受け止めさせていただきたいと思います。
ただ、皆様に楽しんでいただけたらと思いますので、中にはいただいたコメントを非公開とさせていただく場合がございます。
申し訳ありませんが、どうかご了承くださいませ。
もちろん、私は全て読ませていただきますし、削除はいたしません。
7/16 最終部がわかりにくいとのご指摘をいただき、訂正しました。
※この作品は小説家になろうさんでも公開しています。
処刑台の皇妃、回帰して復讐を誓う ~冷酷公爵と偽りの婚約者~ おまえたちは許さない!
秦江湖
ファンタジー
皇妃エリアーナは、夫である皇帝アランと、たった一人の親友イザベラの策略により、無実の罪で処刑される。
民衆に罵られ、アランの冷酷な目とイザベラの嘲笑を「始まりの景色」として目に焼き付けながら絶命した彼女は、しかし、処刑の記憶を持ったまま三年前の過去に回帰する。
「おまえたちは許さない」
二度目の人生。
エリアーナの目的はただ一つ、自分を陥れた二人への完璧な復讐。
彼女はまず、アラン(皇太子)からの婚約内示を拒絶。そして、アラン最大の政敵である「北の冷血公爵」ルシアン・ヴァレリウスに接触する。
1周目で得た「未来の知識」を対価に、エリアーナはルシアンに持ちかける。
「貴方様には帝国の覇権を。わたくしには復讐の舞台を。そのための『契約婚約』を――」
憎悪を糧に生きる皇妃と、氷の瞳を持つ公爵。
二人の偽りの婚約の行く末は……
見捨てられた逆行令嬢は幸せを掴みたい
水空 葵
恋愛
一生大切にすると、次期伯爵のオズワルド様に誓われたはずだった。
それなのに、私が懐妊してからの彼は愛人のリリア様だけを守っている。
リリア様にプレゼントをする余裕はあっても、私は食事さえ満足に食べられない。
そんな状況で弱っていた私は、出産に耐えられなくて死んだ……みたい。
でも、次に目を覚ました時。
どういうわけか結婚する前に巻き戻っていた。
二度目の人生。
今度は苦しんで死にたくないから、オズワルド様との婚約は解消することに決めた。それと、彼には私の苦しみをプレゼントすることにしました。
一度婚約破棄したら良縁なんて望めないから、一人で生きていくことに決めているから、醜聞なんて気にしない。
そう決めて行動したせいで良くない噂が流れたのに、どうして次期侯爵様からの縁談が届いたのでしょうか?
※カクヨム様と小説家になろう様でも連載中・連載予定です。
7/23 女性向けHOTランキング1位になりました。ありがとうございますm(__)m