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60、新王クラウス・ブランデル
ヘンリーを玉座から払落し、牢屋に追いやったクラウス。
クラウスが真っ先にやったことは、王としての宣誓や側近となる貴族を選び直す事ではなかった。
真っ先に北の塔へ行き、そこへ閉じ込められているグラニアを救いに行った。
兄に奪われた愛しい恋人を助けにいくクラウスは、長年叶わなかった恋に浮足経っていた。
たどり着いた北の塔にいたのは、老いさらばえた嗄れ声の老婆と体中に赤黒い瘢痕が広がり、顔が崩れかけた奇怪な人型のなにかだった。
たった二人しか収容されていなかったので並ばせたのだが、見覚えのない顔だ。
「な……どこだ!? グラニアはどこにいる!」
「あ……くあ、くらぅす? ここ、ここよぉ」
やせ細った枯れ木のような手が伸ばされ、とっさにクラウスは身を捩って避けた。
ぼさぼさの白髪の間から、落ちくぼんで濁った眼窩が見える。
ニチャァと笑うと、黄ばんだ不揃いの歯とカサカサの唇が不気味だった。より一層深くなるほうれい線が、醜悪に見えて仕方がない。
「目の前にいる老婆がグラニア妃ですよ。グラニア妃はかつて聖女候補であったので、魔力吸引の強い牢に入れられることになったんです。本人も散々抵抗して魔力で牢の破壊を試みて、魔力枯渇に陥ったようで……」
その言葉に、クラウスは狼狽しながらも言い返した。
納得できなかった。ここまでやって王となったのに、妃として求めた女性がこんな醜女と認めたくなかったのだ。
「馬鹿な、この醜い化け物がグラニアだと? 十年ほど前はまだ乙女のように美しかったではないか!」
その頃の時点でグラニアは二十代後半から三十代である。
確かにその頃のグラニアは、玉のような肌と痛み知らずの天使の輪が眩いブロンドが美しかった。天真爛漫な笑みに、紅を引かずとも淡く色づいた唇から少しみえる白い歯。
それが眩しくもあり、兄の妻であるのが苦しくてしばらく距離を取っていた。
だが、この好機に奪い取りに来たのだ――が、それはこんな得体の知れない老婆ではない。
老婆はその間にも、手を伸ばしている。ふがふがと歯の揃わない口では呂律が回らないらしい。
「あと隣のコレは?」
「エンリケ殿下です。性病を患っておいででしたが、処方されていた薬を不味いからといって捨て続け、こうなりました」
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皮膚が爛れ、髪は抜け落ちているうえ、顔はおかしく窪んで変形している。
とにかく気持ち悪い。以前あった時は、鼻持ちならない傲慢さがあったが、今は訳の分からない譫言を繰り返すだけだ。生きているのに、既に亡霊のようだった。
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