復讐も忘れて幸せになりますが、何がいけませんの?

藤森フクロウ

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64、リスト辺境伯夫妻は新婚(ユリア視点)

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 臨月のお腹をさすりながら、ユリアは大きなソファでゆったりと座っていた。
 傍のテーブルにはマーガレットの花束が、美しい硝子の花瓶に活けられている。
 可愛らしいピンクのマーガレットはユリアの大好きな花であり、夫が温室まで作って育ててくれた愛の証でもある。
 目に映るたびに、ユリアはとても幸せな気持ちになり、ますますこの花が好きになった。
 夫はそんな妻の腹に耳を付けて「動いた! 動いたぞ!」とそわそわしている。第一子が楽しみで仕方がないらしい。
 結婚式の予定だったが、ハネムーンベイビーにより延期になってしまった。結婚式は後回しで書類だけの婚姻が申し訳なかったのか、夫のリスト辺境伯はユリアに言葉や行動を惜しまなかった。プチ新婚旅行として小旅行をちょっとした休みのたびに企画してくれて、ユリアも喜んで一緒に行った。
 結果、おめでたである。
 旅行のたびにそりゃあ盛り上がった。昼のデートも夜のほにゃららも。
 法律上も問題ないことだ。結婚後の懐妊なので、この子供は私生児ではない。
 ユリアの母は、通いで屋敷に来ている。ランファンに来てしばらく経つと、新しい恋人ができたのだ。相手はリスト辺境伯に仕える準男爵。将来を考える程良い関係になっていたので、同居しているのだ。
 元は娼婦で若くしてユリアを生んだ――実際は当時の入れあげていた客から預かったことをユリアは知らない――母は三十代だが美しい。良い恋をしているのが、目で見て分かる。見るからに溌溂とした、内側から輝くはっとしたものを感じるのだ。
 公爵邸にいた時は、裕福な暮らしでもどこか鬱々としていた。ずっと寂しく苦しそうだった。その母が楽しそうなのはユリアも嬉しかった。
 もしかしたら、我が子には年下の叔父か叔母ができるかもしれない。

(お母様も、漸く再婚するのね。アシュトン公爵家はなくなってしまったけれど……)

 アシュトン公爵家は崩壊した。ジョージは悪魔公爵と、王族と一緒くたに憎悪の槍玉にあげられて、武装した平民に屋敷に押し入られ惨殺されたと報告を受けてびっくりしたものだ。
 少し前に起こった事件だったのだが、ブランデルの情勢悪化と妊娠初期のユリアを慮って夫たちも言えなかったのだとあとで謝罪された。
 リスト辺境伯家で、ユリアはとても可愛がられていた。
 莫大な持参金をはじめとする心付けは、かなり急な婚姻に配慮したものでもあったが、それだけフレアがユリアを気にかけていると印象付けた。
 ユリアは都会育ちだと最初は心配されたが、楽しんでリスト辺境伯家に馴染んでいったのが好感触だったのだろう。馬、豚、鳥、牛等とたくさんいる家畜を嫌がらず、農作業があっても元気よく参加していた。
 正直、ユリアとしては公爵令嬢は窮屈だったので、のびのびした牧歌的なリスト辺境伯領は肌に合った。
 あと旦那を始め、この辺りの男たちは筋肉がいい。剣術、馬術、農業労働の合間に滴る汗が最&高であった。ブランデルより薄着の傾向があり、『ウホッいい男!!』とウォッチングしていた。
 一切の虚偽なく馴染んだユリアを、リスト辺境伯一家は手放したくなかった。
 そのころのブランデルは酷く治安が悪く、身重のユリアが行くと言い出すのを恐れたのだ。ジョージを弔うために帰郷する危険性を考えると言えなかったのは理解できた。
 青ざめていたユリアは、父の死より異母姉の頭の良さと恐ろしさに震えていた。
 もしフレアに勧められた縁談に逆らい、ブランデルに居座り続けたらと思うとぞっとする。

(フレアお姉様のお陰で困らないわ~。公爵家より皇族の方が凄いもん。今では捨てられ令嬢から、グランマニエのお妃様に大出世ですもの)

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