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65、妹は姉の幸せを願う
しおりを挟むグランマニエの皇室は少々特殊だ。
実力方式なので、必ずしも子が受け継ぐとは限らない。
ある一定年齢層で玉座を競い合い、一度皇位継承争いを辞退したり、参加して負けると、次の争いには当事者としての参加は出来ない。
皇位継承権を持つ皇帝の弟妹が次の玉座を望む場合、皇帝の養子となり、実子同様に厳しく審査される。
だから皇帝の次が皇帝の弟妹や甥姪、はたまた孫が継ぐことが珍しくない。
かなり争いが激しいが、よりクリーンにそつなくこなした皇子が皇帝になる傾向が多く、逆に血生臭い皇子はいつの間にか不慮の事故で亡くなっていることが多いという。
後継者を選別する皇帝は、自分の評価に関わるので実子だろうが容赦しない。暴君を選んでしまえば、選んだ皇帝は人を見る目がない暗愚扱いされるのだ。
歴代皇帝の中では、後継者の選別に失敗して暗君扱いされた皇帝は少なからずいる。一生どころか、後世の恥として残るのだ。
トルハーン皇帝の次は、皇弟で義息子のハインリヒが有力視されている。
そして、そのたった一人の皇子妃がフレアである。
大国グランマニエの次期皇后と目されているフレア。そして、そのたった一人の妹のユリアは当然ランファンでも特別な待遇だ。
義息子が皇帝になることに、皇后ベネシーは微妙なのかと思いつつ、そうでもなかった。
ランファンは特別強い国ではない。そこから嫁いだベネシーは大国の皇后という重責からやっと解放されると喜んでいるらしい。今からトルハーンとの楽しい隠居生活や旅行先を見繕っており、長い里帰りもできそうだと周囲に漏らしているそうだ。
(そーよねー。あたしも平民から公爵家に行ったとき、最初はご飯やお菓子がお腹いっぱい食べれて、服も綺麗でお布団もふわふわで~って思ってたけど……お勉強や礼儀作法は地獄だったわ)
立ち方、歩き方、笑い方、喋り方――すべてにおいて制限が掛けられた。
なまじ、近くに完璧な淑女の姉がいたので余計に。
だからこそ今の暮らしは居心地がいい。
はっきり言って、フレアが選んだ嫁ぎ先はそこそこ田舎で緩さもある。多少のはしたなさも、愛嬌になった。
ユリアにしてみれば、なんでこんな素敵な場所で、素敵な筋肉の旦那様がいるのに、縁談が纏まらなかったか不思議であった。
リスト辺境伯家は代々国境防衛に尽力し、堅実な地位にいるので軽んじられることはない。王家からの信頼も厚いのだ。
しかし、その『ちょっと田舎』で『マッチョな旦那様』というのが、プライドの高い貴族令嬢としては論外だったらしい。何処でも、若者は都会を羨む傾向が強く、特にここ最近の辺境出身者は伴侶探しに苦境を強いられていた。
――つまり
ちょっとごつい夫は、都会のレディの好むようなシュッとした美形ではないため、田舎領地ということもありなかなか縁談に恵まれなかった――それもあり、若く健康な公爵令嬢のユリアが嫁いできた時は奇跡だと沸いた。
ブランデル貴族には良い印象はなかったものの、フレアの才女ぶりはランファン中枢にも轟いていた。そして、その才女を振ったエンリケの愚行も。
今まで不遇を強いられていたフレアを最後の最後まで愚弄していたエンリケは、ベネシー王女への侮辱を思い出させるものであり、一層同情が集まった。
そんな不遇の才女の異母妹は、肝いりと言えるほど丁重に輿入れとなった。
急転直下のスピード婚だったが、フレアの手腕は素晴らしく、見事に問題なく済んだ。妹にはどうか良縁をと姉が尽力したという噂もあり、涙を誘われた人たちもいた。
(良かったわ。お姉ちゃんも幸せそう)
異母姉も良い旦那と巡り会えたようだし良かったとユリアは一人頷いていた。
エンリケと婚約させられていた時のフレアは、常に神経を張り詰めさせていて、優雅な所作と傾国の笑みで完全武装していた。
美しく、恐ろしく、それでいてどこまでも輝いていた。細く鋭い一振りの剣のように。
あの鋼より硬そうな氷の武装を解いた人間がでたことに、ユリアは驚いたが、安堵もした。
そのとき、ユリアは「ん?」と首を傾げた。
「え? なんかちょっとヌルっと? お腹痛い? え? ええ? 破水!?」
己の身に起きた違和感の正体に気付き、騒がしくなったユリア。
丁度、夫のリスト辺境伯は少し席を外していた。妻の膝に暖かい飲み物とひざ掛けを用意していた夫は大パニックだ。
「医者! 医者あああ! ユリアー! 死ぬなー!」
「死なないわよ!! 絶対一姫二太郎を目指すんだから! いったー! キタキタキター! やっばいのきたわー!」
妻の陣痛と破水に驚いたリスト辺境伯が、ガラス戸を突き破ってバルコニーから飛び降りたという騒動は起きたものの、ユリアは無事に珠のような男の子を出産した。
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