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第四話 ヤクモの災難

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「……てわけで、先輩達の邪魔をせずに真っ直ぐ家に帰ること。明日は部活動見学があるからそのつもりで」
そう言い終えると、先生は号令をかけた。

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終礼が終わると、みんなはなだれるように教室から出て行った。俺も教室から出ようとすると、ナツミ先生に呼び止められた。
「あ、米俵。話があるから少し残れ。ルナもこっち来い」
「え?あ、はい」
何の話だろうか?初日からやらかしてはいない筈だ。
「そこの前の席に座れ」
そう言われて、俺達は教卓の前の席に並んで座った。ルナさん…じゃなくて、ルナも呼ばれている。本当に何の話だろう?
「まず米俵、君に頼みたい事がある」
「た、頼みたいこと…ですか?」
「ああ、君の横にいる固有種アンノウン…ルナの面倒を見ていて欲しいんだ」
「え?ルナの面倒…を、俺が、ですか?」
ちょっと何言ってるか分からない
「うん。面倒といっても、一緒に暮らせという事じゃない。この学園にいる間、ルナとの話相手になって欲しいんだ。まぁ、友達になってあげてくれ」
「そうゆうことなら…でもルナならさっきすぐに友達出来ましたよ?」
この子は以外とコミュ力が高い。実際初対面の俺にも「おにぎり」という素敵なあだ名を付けられた。
「本当か?ルナ?」
「はい、マイちゃんと友達になれました。おむすび君ともすでに友達です」
「…へぇ、変わったなお前も。昔は」
「それ以上は言わないで下さい」
ルナは早口で先生の言葉を遮った。
「はは、悪かったよ」
ふうむ、見ていて思ったのだが、この二人は仲が良さそうだ。知り合いなのだろうか?
「あのー、先生とルナって知り合いなんですか?」
「ん、そうだぞ。私達は元戦乙女ヴァルキリー部隊の同じ隊だったからな」
「え?戦乙女?」
戦乙女部隊って、確か曽祖母が昔指揮官を担っていた「終末の薔薇」を掃討する為の部隊の名称だよな?この二人が戦乙女だった人だとすると、二人は1世紀前を生きていたことになる。
「なんだ、言ってなかったのかルナ?握子に説明しておけよと言われただろう」
「すみません、話すタイミングが見つからなかったので」
「…ルナ、いくつなの?」
「女性に歳を聞くのはナンセンスですよおむすびくん」
そう言われたらぐうの音もでない。そういえば、初めて会った時、ルナは俺に対して「大きくなりましたね」と言っていた。それってつまり…
「ルナって、俺のオギャった瞬間を目撃してたり…?」
「はい。いいオギャっぷりでしたよ」
まことにーーーーーーーーーー???
「え、本当?」
「ええ、元気な赤ちゃんでした。よくおむつを変えてあげたり、たかいたかいをして一緒に遊んだりもしました」
「……ふぅ」
待ってください、ということは、僕の隣にいるこの固有種ひとは、もう一人の母さん的な存在なのでは…?
「他にも、母乳も出ないのによく私のおっぱいを吸ったりもしていましたね」
「すみませんッ許しくださいッごめんなさいィィッ」
「嘘ですよ」
俺は思いきりルナの尻尾の付け根を握った。
「ひゃいん!?」
ふむ、内側は結構やわらかいんだな…
「こーら、私の目の前でイチャつき始めるなー。話はそれだけだから米俵は帰っていいぞ」
「あ…あの、そろそろ、離し…んぅ、下さい…」
「詫びろ」
「sorry…」
発音がグー○ル先生並だった。

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俺達は廊下に出ると、ナツミ先生が慌てた様子で言った
「あー待った。ルナ、握子がお前に伝えておきたい事があるそうだから、先に理事長室に寄れ」
「分かりました」
ふむ、ルナは用事があるらしい
「では私はこれで。さようなら」
「そっか。さよなら」
まさか入学初日にもう一人のお母さん(?)と同じクラスメイトになるとは、人生分からないものだ
「ママって呼んでも良いんですよ?」
「嫌だねッ」
「!…そんな、私は貴方をそんな親不孝に育てた覚えはありませんよ、よよよ…」
そう棒読みで言い放った。
だんだん分かってきたぞ…この子、冷静沈着に見えて実は真顔でボケをかましてくるお茶目さんだな
「母親は一人で充分だよ…それより呼ばれてるんだろ?早く行きなよ」
「そうですね。では今度こそ、さようなら」
「さようなら」
そう言ってルナは理事長室の方向へ去って行った。俺はさっさと帰るかな

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「……っテメー待ちやがれーー!」
「ハァ、ハァ…ッふん!やっだねーーだッ!廊下は走っちゃいけないんだよー!」
「今のおめーに言われたかねぇなぁ!」
俺は下校のために靴を履き替えていると、そんな声が聞こえてきた。ん?近づいて来て…
「おっと悪いそこの君!ちょっと、これっ、持ってて!」
「は?え、うわぁ!」
いきなりホウキとちりとりを投げ渡された!
「待てゴラ…ってユウキ!?やば、どぅわ!」
俺はそのまま八雲先輩に抱き合う形でコケた

「ナイスゥ!じゃあ私の代わりに掃除、ヨロシク!」
そう言って名もしれぬ先輩は走り去った…
「いっつつ…」
「先輩、重い…」
「え?…あぁワリィ」
なんだったんだ、今の
「ったくあのヤロー逃げやがって…」
「あのー、さっきの誰ですか?」
「俺と同じ2年のわたりって奴だ…茶道部の癖に逃げ足がとんでもなく速ぇ奴でな、明日ただじゃおかねぇぞ…」
「ハハ…程々に」
茶道部か…明日の部活動見学で覗いてみよう
「はーあ…、ほらユウキ、それ持って着いてこい」
「え?それ、って…」
俺が持っているのはホウキとちりとり。まさか、掃除?
「仕方ねーだろ、後でジュース奢ってやるからさ」
「…ちゃんとジュース奢って下さいよー?」
「わーってるって」
仕方なく俺は八雲先輩について行った

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ついて行った先は体育館だった。先輩方がブルーシートを片付けたり飾りの後片付けをしている
「んじゃ俺達はステージの掃除でもすっか」
「はい」
そう言って体育館のステージへ上がった。ステージでは先輩方がホウキを使って掃き掃除をしている。
「あ、おかえり~。渡ちゃんどうやった?」
「逃しちまった、ホント逃げ足だけははえーよアイツ…」
「ありゃりゃ、残念やね。そんなに掃除やりたくなかったんかいな…あれ、君は…」
「あ、渡先輩の身代わりの米俵結貴です」
「ありゃー災難やね、うちはクレア・イウヴァルト。男の子なんて八雲くん以来やんね!よろしくね」

クレアさんか…言葉が訛っているので地方の出身だろうか。ん?イウヴァルトって事は…
「クレア先輩ってもしかして、ナツミ先生の娘さん?」
「ん、娘やなくてひ孫やね。同じ家族よ~」
ひ孫さんか。角とか髪色もナツミ先生と同じだ。優しそうな人で良かった。
「あ!どうやった?うちらの劇は?」
「劇…あ、聖美戦隊?」
「そうそう!あの中にうちと八雲くん居たんよ?」
「おう!」
「そうだったんですか!めちゃくちゃ興奮しました!特に俺達のスレスレを低空飛行したのはドキドキしましたよ!決め台詞もカッコ良かった(?)です!」
若干のポンコツ感が否めなかったのは黙っておこう
「そうかそうか!こりゃ頑張って練習した甲斐もあったぜ!」
「そうやんね!こうやってじかで感想聞けて良かったね~」
その後は掃除をしながらセイレンジャーの事や明日の部活動見学について聞いてみた。クレア先輩は剣道部に入っているようなので明日覗いてみよう。

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『ーーー完全下校時刻まで十分となりました。掃除をしている生徒は道具を片付けて、速やかに下校しましょう』
掃除の終わりを告げる放送が流れた。
「お、終わったっぽいな」
「お疲れ様~!やっと帰れるね」
「そうですね」
体育館を見渡すと、道具も綺麗に片付けられていた。
「お、そーだ!ユウキ、この後ゲーセン行こうぜ?」
「いいんすか?」
「おう、ついでにジュースも奢ってやるよ」
面白そうだし行ってみよう。ゲーセンか、ここ何年も入ってないなぁ…
「私も行く!って言いたいとこなんやけど、うち門限あるから真っ直ぐ帰らんといけないんよね…」
「そっかー、また休みの日に誘うわ!」
「わかった!その時はよろしくね!結貴くんも!」
「はい!」
女の子にユウキとちゃんと呼んでもらえた事が久しぶりな気がする。
クレア先輩はまっすぐと家に帰って、俺と八雲先輩は近くにあるという「メイプルパンプキン」というゲーセンに向かった。
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