巻き添えで異世界召喚されたおれは、最強騎士団に拾われる

こざかな

文字の大きさ
18 / 78
2巻

2-2

「そもそも、おれの恋愛対象は女性だよ? 神竜のせいでそこらへんが分かりづらいことになってるだけ。ダレスティアとロイには魔力供給のために抱いてもらってるけど、恋人になるつもりはないかなぁ」
「二人のことは別に嫌いじゃないんだろ? ならまだ断定はできないんじゃねぇか」
「嫌いどころか大好きだよ。でも、おれがあの二人の恋人だなんて似合わないよ。それこそ、この世界での肩書きなんて『神子みこ様の兄』くらいしかないんだから」
「……そういうとこ意外と冷めてるよな」

 最後にオウカはぼそぼそと呟いていたけど、よく聞き取れなかった。聞き返すとオウカは言い直すことはなく、代わりに「団長とロイには今の話はするなよ」って釘を刺してきた。
 とりあえず頷いておいたけど、どうしてかは分からなかった。

「オウカはさ、好きな人いないの?」
「今はいない」
「え、今はってことは、いたってことだろ!? どんな人!?」
「食いつきが良すぎだろ」
「教えて教えて! ちょっとだけでいいから!」

 ほんのり赤面するオウカに手を合わせて頼んだが、なかなか彼はかつての想い人のことを教えてくれなかった。「お願い!」と「嫌だ」の攻防はクーロがぽてりと完全に寝入るまで続き、おれのしつこさにへきえきしたオウカが、逃げることで終わった。
 さすがにクーロを一人にするわけにはいかないからね。また今度話題に出たら教えてもらおう。
 それにしても、オウカはきっと昔の想い人のことを思い出したのだろう。話している最中に見た切なげな表情を、おれはどうしても忘れることができなかった。


    ◇◇◇◇


「お兄ちゃんはさ、ぶっちゃけダレスティアとロイのどっちが好きなわけ?」

 翌朝からぶっ飛んだ貴音の言葉に思わずおれは目を見張り、固まってしまった。

「あ、ここでの好きは恋人とかの好きね!」

 言い逃れできないように追い打ちをかけてくる貴音は、つい昨日オウカと問答したのと似たような内容が聞きたかったようだ。めっちゃタイムリーじゃん。

「え、急に何?」
「いや、ちょっと気になっただけ。お兄ちゃんはダレスティア推しじゃん。けど、この場合の推しって恋愛対象ってわけではないでしょ?」
「まぁな」
「でも今、不可抗力だとしても推しと深~い仲になってるじゃん。それってどうなのかなって。それに、その状況でロイとも……ってのは、どういう心境なんだろうと思ってね」
「つまり好奇心だろ」
「せいかーい! お兄ちゃん達の三角関係の話で侍女さん達と盛り上がっちゃってさ。で、どうなの?」

 おれは身を乗り出すほど興味津々な貴音のおでこにデコピンをかます。こいつ、恋バナに実の兄を巻き込むなよ。

「どうなのって言われてもな……。ダレスティアのことは今も変わらず推しだよ。そこに恋愛感情があるかって言われると微妙。ロイも……正直よく分からない」
「え、そんな曖昧な感情のままセックスしてたの? 一気にただれた関係になったんだけど」
「あの二人は魔力を供給してくれてるだけだし。おれが、あのダレスティアの恋人なんておこがましすぎるだろ」
「いや、おこがましいとかそういうことではなく……」
「それに、ロイもお前が創造したキャラクターってのがちょっと複雑だけど、すごく良い人だし、ダレスティアの補佐になるくらい優秀だし……おれなんかが釣り合うわけがない」
「……うーん、と?」
「正直、二人をおれの事情に巻き込んで申し訳なく思ってるんだよ。魔力不足になるリスクだってあるから、早いとこ解放してあげたいんだ」
「……マジか」

 貴音の表情が、同じ話をした時のオウカの顔と重なる。時間差で「何言ってんだこいつ」みたいな冷めた視線が追加された。

「お兄ちゃんは、もうちょっと恋愛について学んだほうがいいと思う」
「どうせおれは彼女いない歴イコール年齢ですよ~」
「いや、そんな軽いノリなんかじゃなくて、マジで。かなり重症だよ、お兄ちゃん。JKの頃に戻ったこの身体と心がドン引きしてる」
「えぇ……?」

 ついに、視線だけじゃなく言葉までも冷気をただよわせ始めた。なんで妹に恋愛事情についてそこまで言われねばならんのだ。
 そもそも二人とは恋愛じゃなくて、魔力供給してもらってるだけなんだけどなぁ。

「おれ、ダレスティアとロイとセックスしてるって認識じゃないんだよなぁ」
「は? セックスの意味分かってる?」
「分かってるよ! でも、本当に違うんだよ。あの二人とするのは義務みたいなもんじゃん」
「……お兄ちゃんにとって、ダレスティアとロイとしている行為は魔力供給であって、セックスではないってこと?」
「うん。だってセックスって、恋人同士でやることだろ? おれのは成り行きって感じで、あの二人から告白されたわけでも、告白したわけでもないし」
「お兄ちゃん……どこでこじらせたの?」
「え?」
「あの二人とあったこと、全部話してもらおうか」

 不穏な気配を察知して逃げようとするが、おれが貴音に敵うはずがない。早々に捕まり本当に余すところなくロイとダレスティアとの間であったことを全部喋らされた。
 貴音を止められる人が誰もいなかったせいだ。いや、話した内容を考えると、むしろ誰もいなくてよかったかもしれない。ほんと、とんでもない妹をもったものだ……



    SIDE ロイ


「ダレスティア団長。北の市場でまた暴動です」
「人数は」
「三十人程度です。物を投げつけて回っているらしく、多くの商店や露店に被害が出ている、と」
「そこも一度封鎖すべきかもしれないな……」

 珍しくため息を吐くダレスティア団長。その胸中を想像することは容易たやすい。
 ミレニア地方の主要都市であるアルシャに到着して早一週間。到着早々この暴動を鎮圧し、状況を確認する間に別の場所で暴動が起きる。情報をまとめる暇もなく次々と入ってくる報告に情報部は頭を抱えていた。
 今は暴動が起き始めたあたりの時系列をまとめているところだ。

「ですがダレスティア団長。二日前に東の市場を閉めたばかりです。これでは商人達の間にも不満が広がってしまいます」
「……そもそも、何故この状況で商売をしようとするのか理解できないのだが」
「逆です。こういったときだからこそ、彼らは商売をしたいのですよ。今やどこを歩いても危険地帯となっているアルシャで唯一、人が集まって安心できる場所が市場です。暴動を起こしている者達は、一般人には危害を加えません。ですから、家にいて強盗に襲われるよりは、暴動のそばではあるが命の安全が確保できる市場に人が出てくるのです」

 ダレスティア団長の二度目のため息が聞こえる。
 流石さすがに交易が盛んな商人の街なだけある。ここまで商魂たくましい商人はあまり王都にいない。加えて外国からやってきた商隊も、いつのまにか道に簡易な店を構えて商売を始める始末。
 正直、今回の任務の中で一番やっかいなのが彼らだった。
 暴動をただ武力で鎮圧するだけなら簡単だ。ミレニア地方の領民も、ラディア王国の国民に変わりはない。王の命令で動く騎士団に従わなければ、力で制圧すればいい。それこそ、多少痛い目を見させても。
 しかし、外国の商人達がその暴動のど真ん中にいることは問題だった。
 彼ら商隊は、旅をしながら商いをする。つまり、外国のいろんな噂話を耳にすることができ、さらにはその噂を他の国に広めることもできる。
 彼らは品物を売るときに世間話をするという。我々にとって広められたくない噂でも、彼らにとっては商売をするための道具でしかない。
 もし暴動の鎮圧で外国の商人に死人を出せば、他国へ行った彼らは話を誇張して触れ回るだろう。
 今のところは竜を見せれば大人しくなってくれるが、彼らが竜に攻撃したら制御できなくなるかもしれないい。
 ふむ、と黙り込む団長に私は一つ提案をした。

「街の外に仮設の市場を設けるのはいかがでしょう。街の中よりは我々も動きやすいですし、何名かの班をつくり常駐させれば抑止力にもなるでしょう」
「だが街の外に割ける人数には限界がある。よく魔獣や盗賊が出るらしいが、どう対処するつもりだ」
「生態系の下位にいる魔獣が最上位種である竜の群れに近づくことはありません。もしあったとしても魔獣退治は我々の通常任務ですから、さほど気負わずとも良いのではないでしょうか。盗賊に関しても竜の牙の団旗を見れば襲う気は失せるでしょう。もちろん、巡回は隅々まで行うことが前提です」

 私の提案を聞き考え込む団長は、しかし、すぐに決断を下した。

「仮設の市場を作り、先日閉鎖した東の市場にあった商店の半分と、北の市場にあった商店の半分を移動させる。移動が完了し次第、残った商店の再開を許可する」

 流石さすがは団長だ。一つの市場を丸ごと移動させるのではなく、半分は残すことで住人達が安心できる地帯を残している。
 加えて人の密集を分散させることもできる。これなら地上班と空中班との連携も取りやすくなるはずだ。

「しかし、市場それぞれに決まったルールがあると思うのですが、そちらはいかがされますか。また別の問題を招きかねません」

 報告に来た部下が難色を示した。常に市場を見て回っている彼らは、アルシャの街が誇る商人達の気の強さを、身をもって体感している。面倒事はこりごりなのだろう。

「それは彼らにやってもらえばいい。ここまで事を大きくしたんだ。責任をとってもらおう」
「彼らも一応一般市民ですし、処分に困っていたところです。ちょうどいいですね」
「彼ら……?」

 首をひねる部下に、私は床を指さした。

「今回私達が派遣されることになった元凶達ですよ。あの中にちょうど市場を取りまとめる家の者がいます。彼らにこの暴動のづなを放してしまった責任を取ってもらおう、ということです」

 竜の牙が本部を構えているこの建物には地下牢があり、そこに今回の暴動の主犯達が収容されている。彼らを捕まえ、連行することは簡単だった。しかし彼らに触発された他の市民達が暴動を引き継いでしまっていて、もはや終わりが見えなくなってしまっている。
 それが数日で終わるはずだった鎮圧が上手くいかない原因だ。主導している者を捕縛しても、また新たな人物が暴動を引き継ぐ。まるでイタチごっこだ。

「彼らをここに連れてきてください」
「しかし、彼らが大人しく言うことを聞くとは思えません」
「大丈夫ですよ。ちゃんと交渉材料は用意しているのでご心配なく。むしろ、自分から手伝いを申し出るはずです」

 暴動の主犯を捕まえる時点で、洗い出せる範囲の情報は手に入れている。私の笑みを見て、部下は青くなって足早に退出していった。

「私、そんなに怖い顔してました?」
「タカトが見たらおびえるくらいには」
「それはいけませんね……タカトは大丈夫でしょうか」

 出発の日、朝方まで私とダレスティア団長に酷使された身体にうめきながら、部屋で見送りの言葉をかけてくれたタカトを思い出す。途中でハクロ様が割り込んできてしまったが、快感であえぐタカトはとても可愛らしかった。
 しかしその姿を思い出すほど、切なくなる。
 これほど長い間彼から離れたことはなかった。恋人がいる団員が、長期間の遠征に行きたがらない理由がようやく分かった。これは耐えられない。

「タカトは王宮にあるの宮に滞在しているはずだ。あそこは近衛このえ騎士団が守っているし、オウカもいる。安全だろう」
「そのオウカ副団長が一番の問題なのですが」

 よりにもよって出発当日にやらかしてくれた彼の顔が目に浮かぶ。タカトにも神竜にも気に入られている彼は、タカトに手を出していないだろうか。
 いや、むしろ神竜に襲われているかもしれない。

「オウカは軽い気持ちで身体を合わせることはしない。唇くらいは奪われているかもしれないが、それ以上には進まないだろう」

 普段のオウカ副団長を知っているからこそ、ダレスティア団長の言葉を信じられなかった。

「どうして、そう言い切れるのですか?」
「少しでも好意があれば、あいつは手を出さない。むしろ深い関係になることから逃げる」
「好意を持っている相手なら手も出しますし、より深い関係になりたがるものではないのですか?私や、団長のように」
「オウカの持つあるトラウマが理由だ。サファリファスの姉に植え付けられてな」
「あの宮廷魔術師のお姉さま……ですか?」
「彼女に悪気があったわけではないが、それが逆に問題でな……これ以上は私の口から言うことはできない」

 どうやら、団長が口をつぐむほどのことがあったらしい。そういえばオウカ副団長のご実家はサファリファス殿のご実家に仕える家だった。もしかしたらそれも関係しているのかもしれない。
 だが、私はそれよりも他のことが気になった。

「好意があれば手を出さないことを安心の理由になさっていましたが、それはつまり、オウカ副団長がタカトに好意を抱いていることの証明になりませんか?」
「……タカトに惚れない者がいると思うか?」
「いませんね」

 やはり、さっきゅうに事態を解決して戻る必要がありそうだ。


    ◇◇◇◇


「ここが王室図書館な。俺達が入れるのは四階までで、五階は王家の一族か許可を得た者しか入ることができないから気をつけろよ」
「わかったけど……広くね?」
「そりゃあ王室の図書館だからな」

 貴音に根掘り葉掘りされた次の日。おれはオウカに頼んで王宮の外にある図書館に連れてきてもらっていた。王宮にいたらまた貴音に捕まりそうだったから、クーロを生贄いけにえにして逃げてきたわけ。クーロにはあとでちゃんと謝らないと。

「いいか。絶対に五階には行くんじゃないぞ。あそこは有事の際でも許可が出ないと入れないんだ。俺のためにも四階までで我慢しろよ」
「分かったってば。流石さすがわきまえるよ」

 まったく、おれは貴音じゃないんだからするなと言われたことはしな……いや、一回やったな。王都に来たとき、ロイに外に顔を出すなと言われたのに見ようとしたわ。

「おれはとりあえずぶらぶら見て回るけど、オウカはどうする?」
「俺は子犬用の魔法入門書でも探すわ。本当はお前についていたほうがいいんだが、ずっとついてまわられるのは嫌だろ」
「うーん。できればそのほうが楽かな」
「だろ? じゃあ後でな。五階には行くなよ!」
「分かってるってば!!」

 余計な一言を言い、オウカは手をひらひらさせて子ども用教育本コーナーに向かう。精悍な狼獣人の騎士が可愛らしい表紙が並ぶ子ども用の教育本を真剣に選ぶなんて……ミスマッチすぎて笑えちゃうな。

「一階は子供向けのやつか。二階に行こ」

 豪華な装飾が施されている手すりを触りながら二階に上がる。本の背表紙を見て興味を惹かれたものを手に取りパラパラと流し読みして、と続けながら、本棚の間をぐるぐると往復していく。

「この階は専門書が多いな。意味が分からない単語が多すぎ……」

 誰もいないことをいいことに、独り言を呟く。誰かに見られたら恥ずかしいけど、誰もいないからね。

「あれ、タカトさん?」
「おっふ……」

 おれはフラグ建築士か? 恥ずかしいところを見られてしまうとは。
 しかも普段は滅多にお目にかかれない人に……

「カイウス王子……お久しぶりですね」
「タカトさんも、お元気そうでなによりです」

 ニコニコと笑みを浮かべて話しかけてきたのは、この国の第一王子、カイウスだ。相変わらずキラキラと眩しいくらいの正統派王子顔である。思わず酸っぱいものを食べたみたいな顔になってしまった。この羨むこともおこがましいほどのイケメンめ……

「今日は図書館にご用事ですか?」
「あー、貴音から逃げてきたというか……。もともと王室の図書館にも興味はあったんですけど、なかなか来る機会がなかったので」
「そうですか。ここには多くの書物がありますから、タカトさんの興味を惹くものもあると思います」

 貴音のくだりは小声で言ったからかスルーしてくれた。気遣いもできるとは……流石さすがだ。

「カイウス王子も、図書館で探し物ですか?」
「私、ですか?」
「ええ。この上には王家の方だけが閲覧えつらんできる本があるんですよね? そこから降りてきたということは、重要な調べ物があったのかなって」

 今、カイウスが降りてきた階段の上を見上げる。正直、こんな簡単に行けるような作りにするのはどうかと思うんだけどさ。

「あぁ……重要という程でもないのですが、少々報告書を作成するために調べたいことがありまして」
「あ、仕事中でしたか!? すみません、邪魔してしまって……」

 まさか仕事中だったとは。報告書を作ってるってことは急いでるんじゃないか? うわぁ、申し訳ない……
 俺もこの世界に来る前は報告書をたくさん作ってたし、状況はなんとなくわかってしまう。

「あぁ、いえ。大丈夫ですよ。息抜きも兼ねてるんです。私はリノウと違って事務仕事は苦手なんです。ノルマを課せられているので仕方なく書類仕事をしてますが、どうにも気が進まなくて」

 要はサボりです、と手にしている書類と思しき紙を軽く振って苦笑する王子は恥ずかしそうだ。ちょっと可愛いなんて思ってしまった。
 完璧王子だと思っていたけど、苦手なこともあるんだな。しかもちゃんと苦手なことを自覚して認めている。おれの部署にいた、仕事ができないくせにやたらとプライドが高かった後輩とはえらい違いだ。こんな後輩が欲しかった。カイウスのほうが年上だけどさ。

「人間なんですから、苦手なことの一つや二つありますよ。それに、カイウス王子は剣術が得意だと聞きました。息抜きなら好きなことをしたほうが気分がよくなると思います。何ならうちの問題児でもお貸ししましょうか?」

 すると、カイウスはポカンとした後に口に手を当てて、お腹を抱えて笑い始めた。今度はおれがポカンとする番だ。王子様の笑いのツボが分からんのだが。

「ふふっ……いや、まさかあのカーネリアンを問題児と呼ぶとは思わなかったので」
「……だって問題児ですし。遠征に出発する前日の夜に問題起こして処分食らうって、相当な問題児でしょう? それにカイウス王子だってオウカが問題児だって分かってるじゃないですか。おれ、オウカの名前出さなかったのに」
「あの竜の牙で問題児と言われるのはカーネリアンくらいですからね。ですが、彼とも仲良くしてくれているようで安心しました」
「まぁ……気が置ける友人としては一番仲がいいかもしれないです」
「そうですか。それはダレスティアがくでしょうね。若干カーネリアンへの当たりがキツイのはそのせいもあるのかも」

 確かにダレスティアはオウカに冷たいが、それはいつものことだ。ロイもオウカには当たりがキツイ。でもそこにはちゃんと信頼関係があるし、オウカも文句を言いながらもそれを楽しんでいる節がある。
 それにダレスティアのオウカへの態度がおれ絡みだなんてありえないだろ。

「ダレスティアは私情で部下への態度を変えるような人ではないと思いますが」
「彼も男だということですよ」

 楽しそうに笑いながら彼はそう言うが、おれはやっぱりそうは思えないんだけどな。

「仮にそうだとしても、おれは関係ないと思います。ダレスティアにはおれよりも相応しい友人がいるでしょうし」
「……これはダレスティアも大変だ」

 一体何が大変なのだろうか。聞いても「ダレスティアにとって貴方は大切な人ですよ」としか答えてくれなかった。確かに大切な警護対象だろうけど。なんか納得いかなーい!

「そろそろ行かないとリノウに怒られそうです。息抜きに付き合ってくださりありがとうございました、タカトさん」

 外から聞こえてきた鐘の音を聞いて、カイウスは残念そうな顔で言った。
 彼と顔を合わせたのは貴音との再会以来だが、思ったよりも会話が弾んだことに今更ながら驚いた。流石さすが王子……コミュ力も抜群とは。

「おれのほうこそカイウス王子とお話できて楽しかったです! あの、今更なんですけど……」
「はい?」
「敬語、使わなくてもいいですよ? ほら貴音とは普通に会話してるようですし。それにおれのほうが年下なので」

 王子様に「さん」付けされるなんて、恐れ多すぎてなんか背筋がぞわぞわするんだよね。

「ですが、タカトさんはタカネのお兄さんですし」
「立場的にはおれより貴音のほうが上ですよ。その貴音には普通の態度なのにおれには敬語だなんて、何だか違和感があって」
「いや、あの……そうではなく……」

 何故かカイウスの頬が赤い。あ、耳も赤い。え。今の話のどこに照れる要素があったんだ!?

「カイウス王子?」
「えっと……好きな人の身内には敬語を使ったほうがいいと、アイルが……」
「……え?」

 ――思考停止。
 ……え、待って、今この人なんて言った? 好きな人の身内イコールおれだよな? つまりカイウスは……

「カイウス王子は、貴音のことが好きなんですか?」
「っ……!」

 何も言わないが、王子様の顔は真っ赤だ。手に持つ書類で真っ赤な顔を隠すように振る舞う姿は、貴音の言葉を借りるならこれしかない。

「萌え……っ!」


    ◇◇◇◇


「カ、カイウス王子!?」

 瞬間、司書の人の鋭い視線がオウカに突き刺さった。驚くのは分かるけど、声が大きいよ……

「調べ物してたんだって。おれが五階に行ったわけじゃないからね!」
「いやお前が五階に上がったら今頃無事じゃないからそれはいいんだけどよ」
「え、なにそれ聞いてない!」

 なにがそれはいいんだよ、なにも良くないだろ!!
 おそらく一般人が五階に立ち入った瞬間に仕掛けが作動するようになっているんだろう。王族しか入れない五階に簡単に行けそうだったのは罠なのか。
 でも、なんでそれを先に言っておいてくれないのかな!?

「五階に行かないのなら知る必要はないだろ。それよりも、なんでカイウス王子が真っ赤になってお前と降りてきて、今はこんなに震えてるんだ?」
「前者は王子のために言えないけど、後者なら喜んで答えてやるよ」
「お、おう?」

 おれはオウカに仕返しすることにした。せいぜい恥ずかしい思いをするがいい!! 嫌な予感がするとか言っても遅いからな!!

「お前が子供向けの本持ってるから、笑いを必死に堪えてるんだよ!」
「んんっ……!」
「はっ!」

 思わずと言ったように声が漏れたカイウスは、先ほどとは違う理由で顔を真っ赤にしている。このままでは酸欠になりそうだ。オウカの今気付きましたと言わんばかりの声に、さらに身体を震わせている。

「いや、これはその!」
「と、とりあえず外に、出ようか……ふっ!」

 おれは笑いが限界を越えそうなカイウスと、真っ赤になったり真っ青になったり忙しいオウカを連れて図書館の外に出た。オウカが持っていた本は、とりあえずおれが司書さんにお願いして貸し出し申請してもらった。もちろんオウカの名前で。

「なになに?『家族で学ぶ魔法入門』『絵本で覚える魔法基礎』『獣人向けの魔法教育』……」
「おいこらタカトやめろ!」
「あはははっ!! カーネリアン、きみ竜の牙を辞めて初等教育の教師になったらどうだい?」
「殿下もなに言ってるんですか!」

 勘弁してくれと頭を抱えているオウカに、カイウスは笑いが止まらないようだ。思ったより笑いの沸点が低いのね。

「あーもう、殿下こそ! 顔真っ赤にしてタカトとなにを話してたんですか!?」
「えっ!? いや、私のことはいいんだよ!」
「おいタカト、なに話してたんだ?」

 まさかの反撃に慌てふためくカイウス。揶揄からかいすぎると自分に返ってくるんだよ。言わないでね! って目で訴えてくるカイウスには悪いけど、オウカのさっさと吐けって視線も痛い。うーん、どうするべきか……

「兄上、何を騒いでいらっしゃるのですか?」
「あ、リノウ!」

 天の助けとばかりに後ろを振り返ったカイウスは、一瞬で血の気が引いたように青くなった。オウカも耳を垂らしている。おれはオウカの後ろにこっそり隠れた。

「兄上、サボりとはいい度胸ですね」

 おれ達の視線の先には、リノウが抜き身の刀みたいな冷たい目で仁王立ちしていた。猛吹雪を背負って、身体の芯から凍りそうな笑みを浮かべて。つまるところ、激おこである。

「リ、リノウ?」
「兄上。私が言いたいことは分かりますよね?」
「はい……ごめんなさい」
「違います」

 違うんかい! 完全に謝る雰囲気だったぞ!?
 ほら見ろ、カイウスも予想外の返答に固まっちゃってるじゃん!

「はぁ……。例の資料、見つかりましたか?」
「え。あ、あぁ、うん」
「なら早く戻って続きをやってください。あとは兄上の分だけなんですから」
「はい……。タカト、また今度。カーネリアンも」
「うん……頑張ってね」


感想 111

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢の兄でしたが、追放後は参謀として騎士たちに囲まれています。- 第1巻 - 婚約破棄と一族追放

大の字だい
BL
王国にその名を轟かせる名門・ブラックウッド公爵家。 嫡男レイモンドは比類なき才知と冷徹な眼差しを持つ若き天才であった。 だが妹リディアナが王太子の許嫁でありながら、王太子が心奪われたのは庶民の少女リーシャ・グレイヴェル。 嫉妬と憎悪が社交界を揺るがす愚行へと繋がり、王宮での婚約破棄、王の御前での一族追放へと至る。 混乱の只中、妹を庇おうとするレイモンドの前に立ちはだかったのは、王国騎士団副団長にしてリーシャの異母兄、ヴィンセント・グレイヴェル。 琥珀の瞳に嗜虐を宿した彼は言う―― 「この才を捨てるは惜しい。ゆえに、我が手で飼い馴らそう」 知略と支配欲を秘めた騎士と、没落した宰相家の天才青年。 耽美と背徳の物語が、冷たい鎖と熱い口づけの中で幕を開ける。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました

あと
BL
「お兄ちゃん!一肌脱ぎます!」 完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け 可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…? 攻め:ヴィクター・ローレンツ 受け:リアム・グレイソン 弟:リチャード・グレイソン  pixivにも投稿しています。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。

批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? 表紙は自作です(笑) もっちもっちとセゥスです!(笑)

宰相閣下の執愛は、平民の俺だけに向いている

飛鷹
BL
旧題:平民のはずの俺が、規格外の獣人に絡め取られて番になるまでの話 アホな貴族の両親から生まれた『俺』。色々あって、俺の身分は平民だけど、まぁそんな人生も悪くない。 無事に成長して、仕事に就くこともできたのに。 ここ最近、夢に魘されている。もう一ヶ月もの間、毎晩毎晩………。 朝起きたときには忘れてしまっている夢に疲弊している平民『レイ』と、彼を手に入れたくてウズウズしている獣人のお話。 連載の形にしていますが、攻め視点もUPするためなので、多分全2〜3話で完結予定です。 ※6/20追記。 少しレイの過去と気持ちを追加したくて、『連載中』に戻しました。 今迄のお話で完結はしています。なので以降はレイの心情深堀の形となりますので、章を分けて表示します。 1話目はちょっと暗めですが………。 宜しかったらお付き合い下さいませ。 多分、10話前後で終わる予定。軽く読めるように、私としては1話ずつを短めにしております。 ストックが切れるまで、毎日更新予定です。

義兄の愛が重すぎて、悪役令息できないのですが…!

ずー子
BL
戦争に負けた貴族の子息であるレイナードは、人質として異国のアドラー家に送り込まれる。彼の使命は内情を探り、敗戦国として奪われたものを取り返すこと。アドラー家が更なる力を付けないように監視を託されたレイナード。まずは好かれようと努力した結果は実を結び、新しい家族から絶大な信頼を得て、特に気難しいと言われている長男ヴィルヘルムからは「右腕」と言われるように。だけど、内心罪悪感が募る日々。正直「もう楽になりたい」と思っているのに。 「安心しろ。結婚なんかしない。僕が一番大切なのはお前だよ」 なんだか義兄の様子がおかしいのですが…? このままじゃ、スパイも悪役令息も出来そうにないよ! ファンタジーラブコメBLです。 平日毎日更新を目標に頑張ってます。応援や感想頂けると励みになります。   ※(2025/4/20)第一章終わりました。少しお休みして、プロットが出来上がりましたらまた再開しますね。お付き合い頂き、本当にありがとうございました! えちち話(セルフ二次創作)も反応ありがとうございます。少しお休みするのもあるので、このまま読めるようにしておきますね。   ※♡、ブクマ、エールありがとうございます!すごく嬉しいです! ※表紙作りました!絵は描いた。ロゴをスコシプラス様に作って頂きました。可愛すぎてにこにこです♡ 【登場人物】 攻→ヴィルヘルム 完璧超人。真面目で自信家。良き跡継ぎ、良き兄、良き息子であろうとし続ける、実直な男だが、興味関心がない相手にはどこまでも無関心で辛辣。当初は異国の使者だと思っていたレイナードを警戒していたが… 受→レイナード 和平交渉の一環で異国のアドラー家に人質として出された。主人公。立ち位置をよく理解しており、計算せずとも人から好かれる。常に兄を立てて陰で支える立場にいる。課せられた使命と現状に悩みつつある上に、義兄の様子もおかしくて、いろんな意味で気苦労の絶えない。

希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう

水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」 辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。 ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。 「お前のその特異な力を、帝国のために使え」 強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。 しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。 運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。 偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!