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2巻
2-2
「そもそも、おれの恋愛対象は女性だよ? 神竜のせいでそこらへんが分かりづらいことになってるだけ。ダレスティアとロイには魔力供給のために抱いてもらってるけど、恋人になるつもりはないかなぁ」
「二人のことは別に嫌いじゃないんだろ? ならまだ断定はできないんじゃねぇか」
「嫌いどころか大好きだよ。でも、おれがあの二人の恋人だなんて似合わないよ。それこそ、この世界での肩書きなんて『神子様の兄』くらいしかないんだから」
「……そういうとこ意外と冷めてるよな」
最後にオウカはぼそぼそと呟いていたけど、よく聞き取れなかった。聞き返すとオウカは言い直すことはなく、代わりに「団長とロイには今の話はするなよ」って釘を刺してきた。
とりあえず頷いておいたけど、どうしてかは分からなかった。
「オウカはさ、好きな人いないの?」
「今はいない」
「え、今はってことは、いたってことだろ!? どんな人!?」
「食いつきが良すぎだろ」
「教えて教えて! ちょっとだけでいいから!」
ほんのり赤面するオウカに手を合わせて頼んだが、なかなか彼はかつての想い人のことを教えてくれなかった。「お願い!」と「嫌だ」の攻防はクーロがぽてりと完全に寝入るまで続き、おれのしつこさに辟易したオウカが、逃げることで終わった。
さすがにクーロを一人にするわけにはいかないからね。また今度話題に出たら教えてもらおう。
それにしても、オウカはきっと昔の想い人のことを思い出したのだろう。話している最中に見た切なげな表情を、おれはどうしても忘れることができなかった。
◇◇◇◇
「お兄ちゃんはさ、ぶっちゃけダレスティアとロイのどっちが好きなわけ?」
翌朝からぶっ飛んだ貴音の言葉に思わずおれは目を見張り、固まってしまった。
「あ、ここでの好きは恋人とかの好きね!」
言い逃れできないように追い打ちをかけてくる貴音は、つい昨日オウカと問答したのと似たような内容が聞きたかったようだ。めっちゃタイムリーじゃん。
「え、急に何?」
「いや、ちょっと気になっただけ。お兄ちゃんはダレスティア推しじゃん。けど、この場合の推しって恋愛対象ってわけではないでしょ?」
「まぁな」
「でも今、不可抗力だとしても推しと深~い仲になってるじゃん。それってどうなのかなって。それに、その状況でロイとも……ってのは、どういう心境なんだろうと思ってね」
「つまり好奇心だろ」
「せいかーい! お兄ちゃん達の三角関係の話で侍女さん達と盛り上がっちゃってさ。で、どうなの?」
おれは身を乗り出すほど興味津々な貴音のおでこにデコピンをかます。こいつ、恋バナに実の兄を巻き込むなよ。
「どうなのって言われてもな……。ダレスティアのことは今も変わらず推しだよ。そこに恋愛感情があるかって言われると微妙。ロイも……正直よく分からない」
「え、そんな曖昧な感情のままセックスしてたの? 一気に爛れた関係になったんだけど」
「あの二人は魔力を供給してくれてるだけだし。おれが、あのダレスティアの恋人なんておこがましすぎるだろ」
「いや、おこがましいとかそういうことではなく……」
「それに、ロイもお前が創造したキャラクターってのがちょっと複雑だけど、すごく良い人だし、ダレスティアの補佐になるくらい優秀だし……おれなんかが釣り合うわけがない」
「……うーん、と?」
「正直、二人をおれの事情に巻き込んで申し訳なく思ってるんだよ。魔力不足になるリスクだってあるから、早いとこ解放してあげたいんだ」
「……マジか」
貴音の表情が、同じ話をした時のオウカの顔と重なる。時間差で「何言ってんだこいつ」みたいな冷めた視線が追加された。
「お兄ちゃんは、もうちょっと恋愛について学んだほうがいいと思う」
「どうせおれは彼女いない歴イコール年齢ですよ~」
「いや、そんな軽いノリなんかじゃなくて、マジで。かなり重症だよ、お兄ちゃん。JKの頃に戻ったこの身体と心がドン引きしてる」
「えぇ……?」
ついに、視線だけじゃなく言葉までも冷気を漂わせ始めた。なんで妹に恋愛事情についてそこまで言われねばならんのだ。
そもそも二人とは恋愛じゃなくて、魔力供給してもらってるだけなんだけどなぁ。
「おれ、ダレスティアとロイとセックスしてるって認識じゃないんだよなぁ」
「は? セックスの意味分かってる?」
「分かってるよ! でも、本当に違うんだよ。あの二人とするのは義務みたいなもんじゃん」
「……お兄ちゃんにとって、ダレスティアとロイとしている行為は魔力供給であって、セックスではないってこと?」
「うん。だってセックスって、恋人同士でやることだろ? おれのは成り行きって感じで、あの二人から告白されたわけでも、告白したわけでもないし」
「お兄ちゃん……どこで拗らせたの?」
「え?」
「あの二人とあったこと、全部話してもらおうか」
不穏な気配を察知して逃げようとするが、おれが貴音に敵うはずがない。早々に捕まり本当に余すところなくロイとダレスティアとの間であったことを全部喋らされた。
貴音を止められる人が誰もいなかったせいだ。いや、話した内容を考えると、むしろ誰もいなくてよかったかもしれない。ほんと、とんでもない妹をもったものだ……
SIDE ロイ
「ダレスティア団長。北の市場でまた暴動です」
「人数は」
「三十人程度です。物を投げつけて回っているらしく、多くの商店や露店に被害が出ている、と」
「そこも一度封鎖すべきかもしれないな……」
珍しくため息を吐くダレスティア団長。その胸中を想像することは容易い。
ミレニア地方の主要都市であるアルシャに到着して早一週間。到着早々この暴動を鎮圧し、状況を確認する間に別の場所で暴動が起きる。情報をまとめる暇もなく次々と入ってくる報告に情報部は頭を抱えていた。
今は暴動が起き始めたあたりの時系列をまとめているところだ。
「ですがダレスティア団長。二日前に東の市場を閉めたばかりです。これでは商人達の間にも不満が広がってしまいます」
「……そもそも、何故この状況で商売をしようとするのか理解できないのだが」
「逆です。こういったときだからこそ、彼らは商売をしたいのですよ。今やどこを歩いても危険地帯となっているアルシャで唯一、人が集まって安心できる場所が市場です。暴動を起こしている者達は、一般人には危害を加えません。ですから、家にいて強盗に襲われるよりは、暴動のそばではあるが命の安全が確保できる市場に人が出てくるのです」
ダレスティア団長の二度目のため息が聞こえる。
流石に交易が盛んな商人の街なだけある。ここまで商魂たくましい商人はあまり王都にいない。加えて外国からやってきた商隊も、いつのまにか道に簡易な店を構えて商売を始める始末。
正直、今回の任務の中で一番やっかいなのが彼らだった。
暴動をただ武力で鎮圧するだけなら簡単だ。ミレニア地方の領民も、ラディア王国の国民に変わりはない。王の命令で動く騎士団に従わなければ、力で制圧すればいい。それこそ、多少痛い目を見させても。
しかし、外国の商人達がその暴動のど真ん中にいることは問題だった。
彼ら商隊は、旅をしながら商いをする。つまり、外国のいろんな噂話を耳にすることができ、さらにはその噂を他の国に広めることもできる。
彼らは品物を売るときに世間話をするという。我々にとって広められたくない噂でも、彼らにとっては商売をするための道具でしかない。
もし暴動の鎮圧で外国の商人に死人を出せば、他国へ行った彼らは話を誇張して触れ回るだろう。
今のところは竜を見せれば大人しくなってくれるが、彼らが竜に攻撃したら制御できなくなるかもしれないい。
ふむ、と黙り込む団長に私は一つ提案をした。
「街の外に仮設の市場を設けるのはいかがでしょう。街の中よりは我々も動きやすいですし、何名かの班をつくり常駐させれば抑止力にもなるでしょう」
「だが街の外に割ける人数には限界がある。よく魔獣や盗賊が出るらしいが、どう対処するつもりだ」
「生態系の下位にいる魔獣が最上位種である竜の群れに近づくことはありません。もしあったとしても魔獣退治は我々の通常任務ですから、さほど気負わずとも良いのではないでしょうか。盗賊に関しても竜の牙の団旗を見れば襲う気は失せるでしょう。もちろん、巡回は隅々まで行うことが前提です」
私の提案を聞き考え込む団長は、しかし、すぐに決断を下した。
「仮設の市場を作り、先日閉鎖した東の市場にあった商店の半分と、北の市場にあった商店の半分を移動させる。移動が完了し次第、残った商店の再開を許可する」
流石は団長だ。一つの市場を丸ごと移動させるのではなく、半分は残すことで住人達が安心できる地帯を残している。
加えて人の密集を分散させることもできる。これなら地上班と空中班との連携も取りやすくなるはずだ。
「しかし、市場それぞれに決まったルールがあると思うのですが、そちらはいかがされますか。また別の問題を招きかねません」
報告に来た部下が難色を示した。常に市場を見て回っている彼らは、アルシャの街が誇る商人達の気の強さを、身をもって体感している。面倒事はこりごりなのだろう。
「それは彼らにやってもらえばいい。ここまで事を大きくしたんだ。責任をとってもらおう」
「彼らも一応一般市民ですし、処分に困っていたところです。ちょうどいいですね」
「彼ら……?」
首をひねる部下に、私は床を指さした。
「今回私達が派遣されることになった元凶達ですよ。あの中にちょうど市場を取りまとめる家の者がいます。彼らにこの暴動の手綱を放してしまった責任を取ってもらおう、ということです」
竜の牙が本部を構えているこの建物には地下牢があり、そこに今回の暴動の主犯達が収容されている。彼らを捕まえ、連行することは簡単だった。しかし彼らに触発された他の市民達が暴動を引き継いでしまっていて、もはや終わりが見えなくなってしまっている。
それが数日で終わるはずだった鎮圧が上手くいかない原因だ。主導している者を捕縛しても、また新たな人物が暴動を引き継ぐ。まるでイタチごっこだ。
「彼らをここに連れてきてください」
「しかし、彼らが大人しく言うことを聞くとは思えません」
「大丈夫ですよ。ちゃんと交渉材料は用意しているのでご心配なく。むしろ、自分から手伝いを申し出るはずです」
暴動の主犯を捕まえる時点で、洗い出せる範囲の情報は手に入れている。私の笑みを見て、部下は青くなって足早に退出していった。
「私、そんなに怖い顔してました?」
「タカトが見たら怯えるくらいには」
「それはいけませんね……タカトは大丈夫でしょうか」
出発の日、朝方まで私とダレスティア団長に酷使された身体にうめきながら、部屋で見送りの言葉をかけてくれたタカトを思い出す。途中でハクロ様が割り込んできてしまったが、快感で喘ぐタカトはとても可愛らしかった。
しかしその姿を思い出すほど、切なくなる。
これほど長い間彼から離れたことはなかった。恋人がいる団員が、長期間の遠征に行きたがらない理由がようやく分かった。これは耐えられない。
「タカトは王宮にある神子の宮に滞在しているはずだ。あそこは近衛騎士団が守っているし、オウカもいる。安全だろう」
「そのオウカ副団長が一番の問題なのですが」
よりにもよって出発当日にやらかしてくれた彼の顔が目に浮かぶ。タカトにも神竜にも気に入られている彼は、タカトに手を出していないだろうか。
いや、むしろ神竜に襲われているかもしれない。
「オウカは軽い気持ちで身体を合わせることはしない。唇くらいは奪われているかもしれないが、それ以上には進まないだろう」
普段のオウカ副団長を知っているからこそ、ダレスティア団長の言葉を信じられなかった。
「どうして、そう言い切れるのですか?」
「少しでも好意があれば、あいつは手を出さない。むしろ深い関係になることから逃げる」
「好意を持っている相手なら手も出しますし、より深い関係になりたがるものではないのですか?私や、団長のように」
「オウカの持つあるトラウマが理由だ。サファリファスの姉に植え付けられてな」
「あの宮廷魔術師のお姉さま……ですか?」
「彼女に悪気があったわけではないが、それが逆に問題でな……これ以上は私の口から言うことはできない」
どうやら、団長が口を噤むほどのことがあったらしい。そういえばオウカ副団長のご実家はサファリファス殿のご実家に仕える家だった。もしかしたらそれも関係しているのかもしれない。
だが、私はそれよりも他のことが気になった。
「好意があれば手を出さないことを安心の理由になさっていましたが、それはつまり、オウカ副団長がタカトに好意を抱いていることの証明になりませんか?」
「……タカトに惚れない者がいると思うか?」
「いませんね」
やはり、早急に事態を解決して戻る必要がありそうだ。
◇◇◇◇
「ここが王室図書館な。俺達が入れるのは四階までで、五階は王家の一族か許可を得た者しか入ることができないから気をつけろよ」
「わかったけど……広くね?」
「そりゃあ王室の図書館だからな」
貴音に根掘り葉掘りされた次の日。おれはオウカに頼んで王宮の外にある図書館に連れてきてもらっていた。王宮にいたらまた貴音に捕まりそうだったから、クーロを生贄にして逃げてきたわけ。クーロにはあとでちゃんと謝らないと。
「いいか。絶対に五階には行くんじゃないぞ。あそこは有事の際でも許可が出ないと入れないんだ。俺のためにも四階までで我慢しろよ」
「分かったってば。流石に弁えるよ」
まったく、おれは貴音じゃないんだからするなと言われたことはしな……いや、一回やったな。王都に来たとき、ロイに外に顔を出すなと言われたのに見ようとしたわ。
「おれはとりあえずぶらぶら見て回るけど、オウカはどうする?」
「俺は子犬用の魔法入門書でも探すわ。本当はお前についていたほうがいいんだが、ずっとついてまわられるのは嫌だろ」
「うーん。できればそのほうが楽かな」
「だろ? じゃあ後でな。五階には行くなよ!」
「分かってるってば!!」
余計な一言を言い、オウカは手をひらひらさせて子ども用教育本コーナーに向かう。精悍な狼獣人の騎士が可愛らしい表紙が並ぶ子ども用の教育本を真剣に選ぶなんて……ミスマッチすぎて笑えちゃうな。
「一階は子供向けのやつか。二階に行こ」
豪華な装飾が施されている手すりを触りながら二階に上がる。本の背表紙を見て興味を惹かれたものを手に取りパラパラと流し読みして、と続けながら、本棚の間をぐるぐると往復していく。
「この階は専門書が多いな。意味が分からない単語が多すぎ……」
誰もいないことをいいことに、独り言を呟く。誰かに見られたら恥ずかしいけど、誰もいないからね。
「あれ、タカトさん?」
「おっふ……」
おれはフラグ建築士か? 恥ずかしいところを見られてしまうとは。
しかも普段は滅多にお目にかかれない人に……
「カイウス王子……お久しぶりですね」
「タカトさんも、お元気そうでなによりです」
ニコニコと笑みを浮かべて話しかけてきたのは、この国の第一王子、カイウスだ。相変わらずキラキラと眩しいくらいの正統派王子顔である。思わず酸っぱいものを食べたみたいな顔になってしまった。この羨むこともおこがましいほどのイケメンめ……
「今日は図書館にご用事ですか?」
「あー、貴音から逃げてきたというか……。もともと王室の図書館にも興味はあったんですけど、なかなか来る機会がなかったので」
「そうですか。ここには多くの書物がありますから、タカトさんの興味を惹くものもあると思います」
貴音のくだりは小声で言ったからかスルーしてくれた。気遣いもできるとは……流石だ。
「カイウス王子も、図書館で探し物ですか?」
「私、ですか?」
「ええ。この上には王家の方だけが閲覧できる本があるんですよね? そこから降りてきたということは、重要な調べ物があったのかなって」
今、カイウスが降りてきた階段の上を見上げる。正直、こんな簡単に行けるような作りにするのはどうかと思うんだけどさ。
「あぁ……重要という程でもないのですが、少々報告書を作成するために調べたいことがありまして」
「あ、仕事中でしたか!? すみません、邪魔してしまって……」
まさか仕事中だったとは。報告書を作ってるってことは急いでるんじゃないか? うわぁ、申し訳ない……
俺もこの世界に来る前は報告書をたくさん作ってたし、状況はなんとなくわかってしまう。
「あぁ、いえ。大丈夫ですよ。息抜きも兼ねてるんです。私はリノウと違って事務仕事は苦手なんです。ノルマを課せられているので仕方なく書類仕事をしてますが、どうにも気が進まなくて」
要はサボりです、と手にしている書類と思しき紙を軽く振って苦笑する王子は恥ずかしそうだ。ちょっと可愛いなんて思ってしまった。
完璧王子だと思っていたけど、苦手なこともあるんだな。しかもちゃんと苦手なことを自覚して認めている。おれの部署にいた、仕事ができないくせにやたらとプライドが高かった後輩とはえらい違いだ。こんな後輩が欲しかった。カイウスのほうが年上だけどさ。
「人間なんですから、苦手なことの一つや二つありますよ。それに、カイウス王子は剣術が得意だと聞きました。息抜きなら好きなことをしたほうが気分がよくなると思います。何ならうちの問題児でもお貸ししましょうか?」
すると、カイウスはポカンとした後に口に手を当てて、お腹を抱えて笑い始めた。今度はおれがポカンとする番だ。王子様の笑いのツボが分からんのだが。
「ふふっ……いや、まさかあのカーネリアンを問題児と呼ぶとは思わなかったので」
「……だって問題児ですし。遠征に出発する前日の夜に問題起こして処分食らうって、相当な問題児でしょう? それにカイウス王子だってオウカが問題児だって分かってるじゃないですか。おれ、オウカの名前出さなかったのに」
「あの竜の牙で問題児と言われるのはカーネリアンくらいですからね。ですが、彼とも仲良くしてくれているようで安心しました」
「まぁ……気が置ける友人としては一番仲がいいかもしれないです」
「そうですか。それはダレスティアが妬くでしょうね。若干カーネリアンへの当たりがキツイのはそのせいもあるのかも」
確かにダレスティアはオウカに冷たいが、それはいつものことだ。ロイもオウカには当たりがキツイ。でもそこにはちゃんと信頼関係があるし、オウカも文句を言いながらもそれを楽しんでいる節がある。
それにダレスティアのオウカへの態度がおれ絡みだなんてありえないだろ。
「ダレスティアは私情で部下への態度を変えるような人ではないと思いますが」
「彼も男だということですよ」
楽しそうに笑いながら彼はそう言うが、おれはやっぱりそうは思えないんだけどな。
「仮にそうだとしても、おれは関係ないと思います。ダレスティアにはおれよりも相応しい友人がいるでしょうし」
「……これはダレスティアも大変だ」
一体何が大変なのだろうか。聞いても「ダレスティアにとって貴方は大切な人ですよ」としか答えてくれなかった。確かに大切な警護対象だろうけど。なんか納得いかなーい!
「そろそろ行かないとリノウに怒られそうです。息抜きに付き合ってくださりありがとうございました、タカトさん」
外から聞こえてきた鐘の音を聞いて、カイウスは残念そうな顔で言った。
彼と顔を合わせたのは貴音との再会以来だが、思ったよりも会話が弾んだことに今更ながら驚いた。流石王子……コミュ力も抜群とは。
「おれのほうこそカイウス王子とお話できて楽しかったです! あの、今更なんですけど……」
「はい?」
「敬語、使わなくてもいいですよ? ほら貴音とは普通に会話してるようですし。それにおれのほうが年下なので」
王子様に「さん」付けされるなんて、恐れ多すぎてなんか背筋がぞわぞわするんだよね。
「ですが、タカトさんはタカネのお兄さんですし」
「立場的にはおれより貴音のほうが上ですよ。その貴音には普通の態度なのにおれには敬語だなんて、何だか違和感があって」
「いや、あの……そうではなく……」
何故かカイウスの頬が赤い。あ、耳も赤い。え。今の話のどこに照れる要素があったんだ!?
「カイウス王子?」
「えっと……好きな人の身内には敬語を使ったほうがいいと、アイルが……」
「……え?」
――思考停止。
……え、待って、今この人なんて言った? 好きな人の身内イコールおれだよな? つまりカイウスは……
「カイウス王子は、貴音のことが好きなんですか?」
「っ……!」
何も言わないが、王子様の顔は真っ赤だ。手に持つ書類で真っ赤な顔を隠すように振る舞う姿は、貴音の言葉を借りるならこれしかない。
「萌え……っ!」
◇◇◇◇
「カ、カイウス王子!?」
瞬間、司書の人の鋭い視線がオウカに突き刺さった。驚くのは分かるけど、声が大きいよ……
「調べ物してたんだって。おれが五階に行ったわけじゃないからね!」
「いやお前が五階に上がったら今頃無事じゃないからそれはいいんだけどよ」
「え、なにそれ聞いてない!」
なにがそれはいいんだよ、なにも良くないだろ!!
おそらく一般人が五階に立ち入った瞬間に仕掛けが作動するようになっているんだろう。王族しか入れない五階に簡単に行けそうだったのは罠なのか。
でも、なんでそれを先に言っておいてくれないのかな!?
「五階に行かないのなら知る必要はないだろ。それよりも、なんでカイウス王子が真っ赤になってお前と降りてきて、今はこんなに震えてるんだ?」
「前者は王子のために言えないけど、後者なら喜んで答えてやるよ」
「お、おう?」
おれはオウカに仕返しすることにした。せいぜい恥ずかしい思いをするがいい!! 嫌な予感がするとか言っても遅いからな!!
「お前が子供向けの本持ってるから、笑いを必死に堪えてるんだよ!」
「んんっ……!」
「はっ!」
思わずと言ったように声が漏れたカイウスは、先ほどとは違う理由で顔を真っ赤にしている。このままでは酸欠になりそうだ。オウカの今気付きましたと言わんばかりの声に、さらに身体を震わせている。
「いや、これはその!」
「と、とりあえず外に、出ようか……ふっ!」
おれは笑いが限界を越えそうなカイウスと、真っ赤になったり真っ青になったり忙しいオウカを連れて図書館の外に出た。オウカが持っていた本は、とりあえずおれが司書さんにお願いして貸し出し申請してもらった。もちろんオウカの名前で。
「なになに?『家族で学ぶ魔法入門』『絵本で覚える魔法基礎』『獣人向けの魔法教育』……」
「おいこらタカトやめろ!」
「あはははっ!! カーネリアン、きみ竜の牙を辞めて初等教育の教師になったらどうだい?」
「殿下もなに言ってるんですか!」
勘弁してくれと頭を抱えているオウカに、カイウスは笑いが止まらないようだ。思ったより笑いの沸点が低いのね。
「あーもう、殿下こそ! 顔真っ赤にしてタカトとなにを話してたんですか!?」
「えっ!? いや、私のことはいいんだよ!」
「おいタカト、なに話してたんだ?」
まさかの反撃に慌てふためくカイウス。揶揄いすぎると自分に返ってくるんだよ。言わないでね! って目で訴えてくるカイウスには悪いけど、オウカのさっさと吐けって視線も痛い。うーん、どうするべきか……
「兄上、何を騒いでいらっしゃるのですか?」
「あ、リノウ!」
天の助けとばかりに後ろを振り返ったカイウスは、一瞬で血の気が引いたように青くなった。オウカも耳を垂らしている。おれはオウカの後ろにこっそり隠れた。
「兄上、サボりとはいい度胸ですね」
おれ達の視線の先には、リノウが抜き身の刀みたいな冷たい目で仁王立ちしていた。猛吹雪を背負って、身体の芯から凍りそうな笑みを浮かべて。つまるところ、激おこである。
「リ、リノウ?」
「兄上。私が言いたいことは分かりますよね?」
「はい……ごめんなさい」
「違います」
違うんかい! 完全に謝る雰囲気だったぞ!?
ほら見ろ、カイウスも予想外の返答に固まっちゃってるじゃん!
「はぁ……。例の資料、見つかりましたか?」
「え。あ、あぁ、うん」
「なら早く戻って続きをやってください。あとは兄上の分だけなんですから」
「はい……。タカト、また今度。カーネリアンも」
「うん……頑張ってね」
「二人のことは別に嫌いじゃないんだろ? ならまだ断定はできないんじゃねぇか」
「嫌いどころか大好きだよ。でも、おれがあの二人の恋人だなんて似合わないよ。それこそ、この世界での肩書きなんて『神子様の兄』くらいしかないんだから」
「……そういうとこ意外と冷めてるよな」
最後にオウカはぼそぼそと呟いていたけど、よく聞き取れなかった。聞き返すとオウカは言い直すことはなく、代わりに「団長とロイには今の話はするなよ」って釘を刺してきた。
とりあえず頷いておいたけど、どうしてかは分からなかった。
「オウカはさ、好きな人いないの?」
「今はいない」
「え、今はってことは、いたってことだろ!? どんな人!?」
「食いつきが良すぎだろ」
「教えて教えて! ちょっとだけでいいから!」
ほんのり赤面するオウカに手を合わせて頼んだが、なかなか彼はかつての想い人のことを教えてくれなかった。「お願い!」と「嫌だ」の攻防はクーロがぽてりと完全に寝入るまで続き、おれのしつこさに辟易したオウカが、逃げることで終わった。
さすがにクーロを一人にするわけにはいかないからね。また今度話題に出たら教えてもらおう。
それにしても、オウカはきっと昔の想い人のことを思い出したのだろう。話している最中に見た切なげな表情を、おれはどうしても忘れることができなかった。
◇◇◇◇
「お兄ちゃんはさ、ぶっちゃけダレスティアとロイのどっちが好きなわけ?」
翌朝からぶっ飛んだ貴音の言葉に思わずおれは目を見張り、固まってしまった。
「あ、ここでの好きは恋人とかの好きね!」
言い逃れできないように追い打ちをかけてくる貴音は、つい昨日オウカと問答したのと似たような内容が聞きたかったようだ。めっちゃタイムリーじゃん。
「え、急に何?」
「いや、ちょっと気になっただけ。お兄ちゃんはダレスティア推しじゃん。けど、この場合の推しって恋愛対象ってわけではないでしょ?」
「まぁな」
「でも今、不可抗力だとしても推しと深~い仲になってるじゃん。それってどうなのかなって。それに、その状況でロイとも……ってのは、どういう心境なんだろうと思ってね」
「つまり好奇心だろ」
「せいかーい! お兄ちゃん達の三角関係の話で侍女さん達と盛り上がっちゃってさ。で、どうなの?」
おれは身を乗り出すほど興味津々な貴音のおでこにデコピンをかます。こいつ、恋バナに実の兄を巻き込むなよ。
「どうなのって言われてもな……。ダレスティアのことは今も変わらず推しだよ。そこに恋愛感情があるかって言われると微妙。ロイも……正直よく分からない」
「え、そんな曖昧な感情のままセックスしてたの? 一気に爛れた関係になったんだけど」
「あの二人は魔力を供給してくれてるだけだし。おれが、あのダレスティアの恋人なんておこがましすぎるだろ」
「いや、おこがましいとかそういうことではなく……」
「それに、ロイもお前が創造したキャラクターってのがちょっと複雑だけど、すごく良い人だし、ダレスティアの補佐になるくらい優秀だし……おれなんかが釣り合うわけがない」
「……うーん、と?」
「正直、二人をおれの事情に巻き込んで申し訳なく思ってるんだよ。魔力不足になるリスクだってあるから、早いとこ解放してあげたいんだ」
「……マジか」
貴音の表情が、同じ話をした時のオウカの顔と重なる。時間差で「何言ってんだこいつ」みたいな冷めた視線が追加された。
「お兄ちゃんは、もうちょっと恋愛について学んだほうがいいと思う」
「どうせおれは彼女いない歴イコール年齢ですよ~」
「いや、そんな軽いノリなんかじゃなくて、マジで。かなり重症だよ、お兄ちゃん。JKの頃に戻ったこの身体と心がドン引きしてる」
「えぇ……?」
ついに、視線だけじゃなく言葉までも冷気を漂わせ始めた。なんで妹に恋愛事情についてそこまで言われねばならんのだ。
そもそも二人とは恋愛じゃなくて、魔力供給してもらってるだけなんだけどなぁ。
「おれ、ダレスティアとロイとセックスしてるって認識じゃないんだよなぁ」
「は? セックスの意味分かってる?」
「分かってるよ! でも、本当に違うんだよ。あの二人とするのは義務みたいなもんじゃん」
「……お兄ちゃんにとって、ダレスティアとロイとしている行為は魔力供給であって、セックスではないってこと?」
「うん。だってセックスって、恋人同士でやることだろ? おれのは成り行きって感じで、あの二人から告白されたわけでも、告白したわけでもないし」
「お兄ちゃん……どこで拗らせたの?」
「え?」
「あの二人とあったこと、全部話してもらおうか」
不穏な気配を察知して逃げようとするが、おれが貴音に敵うはずがない。早々に捕まり本当に余すところなくロイとダレスティアとの間であったことを全部喋らされた。
貴音を止められる人が誰もいなかったせいだ。いや、話した内容を考えると、むしろ誰もいなくてよかったかもしれない。ほんと、とんでもない妹をもったものだ……
SIDE ロイ
「ダレスティア団長。北の市場でまた暴動です」
「人数は」
「三十人程度です。物を投げつけて回っているらしく、多くの商店や露店に被害が出ている、と」
「そこも一度封鎖すべきかもしれないな……」
珍しくため息を吐くダレスティア団長。その胸中を想像することは容易い。
ミレニア地方の主要都市であるアルシャに到着して早一週間。到着早々この暴動を鎮圧し、状況を確認する間に別の場所で暴動が起きる。情報をまとめる暇もなく次々と入ってくる報告に情報部は頭を抱えていた。
今は暴動が起き始めたあたりの時系列をまとめているところだ。
「ですがダレスティア団長。二日前に東の市場を閉めたばかりです。これでは商人達の間にも不満が広がってしまいます」
「……そもそも、何故この状況で商売をしようとするのか理解できないのだが」
「逆です。こういったときだからこそ、彼らは商売をしたいのですよ。今やどこを歩いても危険地帯となっているアルシャで唯一、人が集まって安心できる場所が市場です。暴動を起こしている者達は、一般人には危害を加えません。ですから、家にいて強盗に襲われるよりは、暴動のそばではあるが命の安全が確保できる市場に人が出てくるのです」
ダレスティア団長の二度目のため息が聞こえる。
流石に交易が盛んな商人の街なだけある。ここまで商魂たくましい商人はあまり王都にいない。加えて外国からやってきた商隊も、いつのまにか道に簡易な店を構えて商売を始める始末。
正直、今回の任務の中で一番やっかいなのが彼らだった。
暴動をただ武力で鎮圧するだけなら簡単だ。ミレニア地方の領民も、ラディア王国の国民に変わりはない。王の命令で動く騎士団に従わなければ、力で制圧すればいい。それこそ、多少痛い目を見させても。
しかし、外国の商人達がその暴動のど真ん中にいることは問題だった。
彼ら商隊は、旅をしながら商いをする。つまり、外国のいろんな噂話を耳にすることができ、さらにはその噂を他の国に広めることもできる。
彼らは品物を売るときに世間話をするという。我々にとって広められたくない噂でも、彼らにとっては商売をするための道具でしかない。
もし暴動の鎮圧で外国の商人に死人を出せば、他国へ行った彼らは話を誇張して触れ回るだろう。
今のところは竜を見せれば大人しくなってくれるが、彼らが竜に攻撃したら制御できなくなるかもしれないい。
ふむ、と黙り込む団長に私は一つ提案をした。
「街の外に仮設の市場を設けるのはいかがでしょう。街の中よりは我々も動きやすいですし、何名かの班をつくり常駐させれば抑止力にもなるでしょう」
「だが街の外に割ける人数には限界がある。よく魔獣や盗賊が出るらしいが、どう対処するつもりだ」
「生態系の下位にいる魔獣が最上位種である竜の群れに近づくことはありません。もしあったとしても魔獣退治は我々の通常任務ですから、さほど気負わずとも良いのではないでしょうか。盗賊に関しても竜の牙の団旗を見れば襲う気は失せるでしょう。もちろん、巡回は隅々まで行うことが前提です」
私の提案を聞き考え込む団長は、しかし、すぐに決断を下した。
「仮設の市場を作り、先日閉鎖した東の市場にあった商店の半分と、北の市場にあった商店の半分を移動させる。移動が完了し次第、残った商店の再開を許可する」
流石は団長だ。一つの市場を丸ごと移動させるのではなく、半分は残すことで住人達が安心できる地帯を残している。
加えて人の密集を分散させることもできる。これなら地上班と空中班との連携も取りやすくなるはずだ。
「しかし、市場それぞれに決まったルールがあると思うのですが、そちらはいかがされますか。また別の問題を招きかねません」
報告に来た部下が難色を示した。常に市場を見て回っている彼らは、アルシャの街が誇る商人達の気の強さを、身をもって体感している。面倒事はこりごりなのだろう。
「それは彼らにやってもらえばいい。ここまで事を大きくしたんだ。責任をとってもらおう」
「彼らも一応一般市民ですし、処分に困っていたところです。ちょうどいいですね」
「彼ら……?」
首をひねる部下に、私は床を指さした。
「今回私達が派遣されることになった元凶達ですよ。あの中にちょうど市場を取りまとめる家の者がいます。彼らにこの暴動の手綱を放してしまった責任を取ってもらおう、ということです」
竜の牙が本部を構えているこの建物には地下牢があり、そこに今回の暴動の主犯達が収容されている。彼らを捕まえ、連行することは簡単だった。しかし彼らに触発された他の市民達が暴動を引き継いでしまっていて、もはや終わりが見えなくなってしまっている。
それが数日で終わるはずだった鎮圧が上手くいかない原因だ。主導している者を捕縛しても、また新たな人物が暴動を引き継ぐ。まるでイタチごっこだ。
「彼らをここに連れてきてください」
「しかし、彼らが大人しく言うことを聞くとは思えません」
「大丈夫ですよ。ちゃんと交渉材料は用意しているのでご心配なく。むしろ、自分から手伝いを申し出るはずです」
暴動の主犯を捕まえる時点で、洗い出せる範囲の情報は手に入れている。私の笑みを見て、部下は青くなって足早に退出していった。
「私、そんなに怖い顔してました?」
「タカトが見たら怯えるくらいには」
「それはいけませんね……タカトは大丈夫でしょうか」
出発の日、朝方まで私とダレスティア団長に酷使された身体にうめきながら、部屋で見送りの言葉をかけてくれたタカトを思い出す。途中でハクロ様が割り込んできてしまったが、快感で喘ぐタカトはとても可愛らしかった。
しかしその姿を思い出すほど、切なくなる。
これほど長い間彼から離れたことはなかった。恋人がいる団員が、長期間の遠征に行きたがらない理由がようやく分かった。これは耐えられない。
「タカトは王宮にある神子の宮に滞在しているはずだ。あそこは近衛騎士団が守っているし、オウカもいる。安全だろう」
「そのオウカ副団長が一番の問題なのですが」
よりにもよって出発当日にやらかしてくれた彼の顔が目に浮かぶ。タカトにも神竜にも気に入られている彼は、タカトに手を出していないだろうか。
いや、むしろ神竜に襲われているかもしれない。
「オウカは軽い気持ちで身体を合わせることはしない。唇くらいは奪われているかもしれないが、それ以上には進まないだろう」
普段のオウカ副団長を知っているからこそ、ダレスティア団長の言葉を信じられなかった。
「どうして、そう言い切れるのですか?」
「少しでも好意があれば、あいつは手を出さない。むしろ深い関係になることから逃げる」
「好意を持っている相手なら手も出しますし、より深い関係になりたがるものではないのですか?私や、団長のように」
「オウカの持つあるトラウマが理由だ。サファリファスの姉に植え付けられてな」
「あの宮廷魔術師のお姉さま……ですか?」
「彼女に悪気があったわけではないが、それが逆に問題でな……これ以上は私の口から言うことはできない」
どうやら、団長が口を噤むほどのことがあったらしい。そういえばオウカ副団長のご実家はサファリファス殿のご実家に仕える家だった。もしかしたらそれも関係しているのかもしれない。
だが、私はそれよりも他のことが気になった。
「好意があれば手を出さないことを安心の理由になさっていましたが、それはつまり、オウカ副団長がタカトに好意を抱いていることの証明になりませんか?」
「……タカトに惚れない者がいると思うか?」
「いませんね」
やはり、早急に事態を解決して戻る必要がありそうだ。
◇◇◇◇
「ここが王室図書館な。俺達が入れるのは四階までで、五階は王家の一族か許可を得た者しか入ることができないから気をつけろよ」
「わかったけど……広くね?」
「そりゃあ王室の図書館だからな」
貴音に根掘り葉掘りされた次の日。おれはオウカに頼んで王宮の外にある図書館に連れてきてもらっていた。王宮にいたらまた貴音に捕まりそうだったから、クーロを生贄にして逃げてきたわけ。クーロにはあとでちゃんと謝らないと。
「いいか。絶対に五階には行くんじゃないぞ。あそこは有事の際でも許可が出ないと入れないんだ。俺のためにも四階までで我慢しろよ」
「分かったってば。流石に弁えるよ」
まったく、おれは貴音じゃないんだからするなと言われたことはしな……いや、一回やったな。王都に来たとき、ロイに外に顔を出すなと言われたのに見ようとしたわ。
「おれはとりあえずぶらぶら見て回るけど、オウカはどうする?」
「俺は子犬用の魔法入門書でも探すわ。本当はお前についていたほうがいいんだが、ずっとついてまわられるのは嫌だろ」
「うーん。できればそのほうが楽かな」
「だろ? じゃあ後でな。五階には行くなよ!」
「分かってるってば!!」
余計な一言を言い、オウカは手をひらひらさせて子ども用教育本コーナーに向かう。精悍な狼獣人の騎士が可愛らしい表紙が並ぶ子ども用の教育本を真剣に選ぶなんて……ミスマッチすぎて笑えちゃうな。
「一階は子供向けのやつか。二階に行こ」
豪華な装飾が施されている手すりを触りながら二階に上がる。本の背表紙を見て興味を惹かれたものを手に取りパラパラと流し読みして、と続けながら、本棚の間をぐるぐると往復していく。
「この階は専門書が多いな。意味が分からない単語が多すぎ……」
誰もいないことをいいことに、独り言を呟く。誰かに見られたら恥ずかしいけど、誰もいないからね。
「あれ、タカトさん?」
「おっふ……」
おれはフラグ建築士か? 恥ずかしいところを見られてしまうとは。
しかも普段は滅多にお目にかかれない人に……
「カイウス王子……お久しぶりですね」
「タカトさんも、お元気そうでなによりです」
ニコニコと笑みを浮かべて話しかけてきたのは、この国の第一王子、カイウスだ。相変わらずキラキラと眩しいくらいの正統派王子顔である。思わず酸っぱいものを食べたみたいな顔になってしまった。この羨むこともおこがましいほどのイケメンめ……
「今日は図書館にご用事ですか?」
「あー、貴音から逃げてきたというか……。もともと王室の図書館にも興味はあったんですけど、なかなか来る機会がなかったので」
「そうですか。ここには多くの書物がありますから、タカトさんの興味を惹くものもあると思います」
貴音のくだりは小声で言ったからかスルーしてくれた。気遣いもできるとは……流石だ。
「カイウス王子も、図書館で探し物ですか?」
「私、ですか?」
「ええ。この上には王家の方だけが閲覧できる本があるんですよね? そこから降りてきたということは、重要な調べ物があったのかなって」
今、カイウスが降りてきた階段の上を見上げる。正直、こんな簡単に行けるような作りにするのはどうかと思うんだけどさ。
「あぁ……重要という程でもないのですが、少々報告書を作成するために調べたいことがありまして」
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すると、カイウスはポカンとした後に口に手を当てて、お腹を抱えて笑い始めた。今度はおれがポカンとする番だ。王子様の笑いのツボが分からんのだが。
「ふふっ……いや、まさかあのカーネリアンを問題児と呼ぶとは思わなかったので」
「……だって問題児ですし。遠征に出発する前日の夜に問題起こして処分食らうって、相当な問題児でしょう? それにカイウス王子だってオウカが問題児だって分かってるじゃないですか。おれ、オウカの名前出さなかったのに」
「あの竜の牙で問題児と言われるのはカーネリアンくらいですからね。ですが、彼とも仲良くしてくれているようで安心しました」
「まぁ……気が置ける友人としては一番仲がいいかもしれないです」
「そうですか。それはダレスティアが妬くでしょうね。若干カーネリアンへの当たりがキツイのはそのせいもあるのかも」
確かにダレスティアはオウカに冷たいが、それはいつものことだ。ロイもオウカには当たりがキツイ。でもそこにはちゃんと信頼関係があるし、オウカも文句を言いながらもそれを楽しんでいる節がある。
それにダレスティアのオウカへの態度がおれ絡みだなんてありえないだろ。
「ダレスティアは私情で部下への態度を変えるような人ではないと思いますが」
「彼も男だということですよ」
楽しそうに笑いながら彼はそう言うが、おれはやっぱりそうは思えないんだけどな。
「仮にそうだとしても、おれは関係ないと思います。ダレスティアにはおれよりも相応しい友人がいるでしょうし」
「……これはダレスティアも大変だ」
一体何が大変なのだろうか。聞いても「ダレスティアにとって貴方は大切な人ですよ」としか答えてくれなかった。確かに大切な警護対象だろうけど。なんか納得いかなーい!
「そろそろ行かないとリノウに怒られそうです。息抜きに付き合ってくださりありがとうございました、タカトさん」
外から聞こえてきた鐘の音を聞いて、カイウスは残念そうな顔で言った。
彼と顔を合わせたのは貴音との再会以来だが、思ったよりも会話が弾んだことに今更ながら驚いた。流石王子……コミュ力も抜群とは。
「おれのほうこそカイウス王子とお話できて楽しかったです! あの、今更なんですけど……」
「はい?」
「敬語、使わなくてもいいですよ? ほら貴音とは普通に会話してるようですし。それにおれのほうが年下なので」
王子様に「さん」付けされるなんて、恐れ多すぎてなんか背筋がぞわぞわするんだよね。
「ですが、タカトさんはタカネのお兄さんですし」
「立場的にはおれより貴音のほうが上ですよ。その貴音には普通の態度なのにおれには敬語だなんて、何だか違和感があって」
「いや、あの……そうではなく……」
何故かカイウスの頬が赤い。あ、耳も赤い。え。今の話のどこに照れる要素があったんだ!?
「カイウス王子?」
「えっと……好きな人の身内には敬語を使ったほうがいいと、アイルが……」
「……え?」
――思考停止。
……え、待って、今この人なんて言った? 好きな人の身内イコールおれだよな? つまりカイウスは……
「カイウス王子は、貴音のことが好きなんですか?」
「っ……!」
何も言わないが、王子様の顔は真っ赤だ。手に持つ書類で真っ赤な顔を隠すように振る舞う姿は、貴音の言葉を借りるならこれしかない。
「萌え……っ!」
◇◇◇◇
「カ、カイウス王子!?」
瞬間、司書の人の鋭い視線がオウカに突き刺さった。驚くのは分かるけど、声が大きいよ……
「調べ物してたんだって。おれが五階に行ったわけじゃないからね!」
「いやお前が五階に上がったら今頃無事じゃないからそれはいいんだけどよ」
「え、なにそれ聞いてない!」
なにがそれはいいんだよ、なにも良くないだろ!!
おそらく一般人が五階に立ち入った瞬間に仕掛けが作動するようになっているんだろう。王族しか入れない五階に簡単に行けそうだったのは罠なのか。
でも、なんでそれを先に言っておいてくれないのかな!?
「五階に行かないのなら知る必要はないだろ。それよりも、なんでカイウス王子が真っ赤になってお前と降りてきて、今はこんなに震えてるんだ?」
「前者は王子のために言えないけど、後者なら喜んで答えてやるよ」
「お、おう?」
おれはオウカに仕返しすることにした。せいぜい恥ずかしい思いをするがいい!! 嫌な予感がするとか言っても遅いからな!!
「お前が子供向けの本持ってるから、笑いを必死に堪えてるんだよ!」
「んんっ……!」
「はっ!」
思わずと言ったように声が漏れたカイウスは、先ほどとは違う理由で顔を真っ赤にしている。このままでは酸欠になりそうだ。オウカの今気付きましたと言わんばかりの声に、さらに身体を震わせている。
「いや、これはその!」
「と、とりあえず外に、出ようか……ふっ!」
おれは笑いが限界を越えそうなカイウスと、真っ赤になったり真っ青になったり忙しいオウカを連れて図書館の外に出た。オウカが持っていた本は、とりあえずおれが司書さんにお願いして貸し出し申請してもらった。もちろんオウカの名前で。
「なになに?『家族で学ぶ魔法入門』『絵本で覚える魔法基礎』『獣人向けの魔法教育』……」
「おいこらタカトやめろ!」
「あはははっ!! カーネリアン、きみ竜の牙を辞めて初等教育の教師になったらどうだい?」
「殿下もなに言ってるんですか!」
勘弁してくれと頭を抱えているオウカに、カイウスは笑いが止まらないようだ。思ったより笑いの沸点が低いのね。
「あーもう、殿下こそ! 顔真っ赤にしてタカトとなにを話してたんですか!?」
「えっ!? いや、私のことはいいんだよ!」
「おいタカト、なに話してたんだ?」
まさかの反撃に慌てふためくカイウス。揶揄いすぎると自分に返ってくるんだよ。言わないでね! って目で訴えてくるカイウスには悪いけど、オウカのさっさと吐けって視線も痛い。うーん、どうするべきか……
「兄上、何を騒いでいらっしゃるのですか?」
「あ、リノウ!」
天の助けとばかりに後ろを振り返ったカイウスは、一瞬で血の気が引いたように青くなった。オウカも耳を垂らしている。おれはオウカの後ろにこっそり隠れた。
「兄上、サボりとはいい度胸ですね」
おれ達の視線の先には、リノウが抜き身の刀みたいな冷たい目で仁王立ちしていた。猛吹雪を背負って、身体の芯から凍りそうな笑みを浮かべて。つまるところ、激おこである。
「リ、リノウ?」
「兄上。私が言いたいことは分かりますよね?」
「はい……ごめんなさい」
「違います」
違うんかい! 完全に謝る雰囲気だったぞ!?
ほら見ろ、カイウスも予想外の返答に固まっちゃってるじゃん!
「はぁ……。例の資料、見つかりましたか?」
「え。あ、あぁ、うん」
「なら早く戻って続きをやってください。あとは兄上の分だけなんですから」
「はい……。タカト、また今度。カーネリアンも」
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