巻き添えで異世界召喚されたおれは、最強騎士団に拾われる

こざかな

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2巻

2-3

 しょぼんとしたままカイウスはおれ達に軽く会釈して、歩いていった。その足取りは重い。その後ろ姿に親近感が湧いてしまう。弟に逆らえないカイウスと妹に逆らえないおれ。

「……兄上があんな話し方をなさるなんて、随分親しくなられたようですね、タカトさん」
「え、まぁ、はい。……やっぱり敬語のほうがいいです、か?」

 話しかけられてしまったので、仕方なくオウカの後ろから出て隣に並ぶ。何故リノウはカイウスに付いて行かずにこの場に残ったのか。
 ゲームをプレイしていたときから思ってたんだけど、彼は考えてることが分かりにくい。たしかリノウは感情表現が苦手なんだよな。だから攻略にも苦労した記憶が……。ダレスティアより難しかったよ。

「いえ。カイウス兄上が許しているのであれば構いません。ですが、周囲に貴族がいるときは公私を分けたほうが得策です。兄上のためにも、貴方のためにも」
「分かりました……。では、リノウ王子もおれのことはタカトと呼んでください。年齢も身分も年上なのに、敬称をつけられるのは落ち着かないので。できれば敬語も」
「……いいでしょう。ですが敬語は癖のようなものです。それは諦めてください」
「あ、はい」

 うーん、やっぱり心の壁をひしひしと感じる……。カイウスはおれにもフランクに話してくれと言ってくれたからだいぶ仲良くなれた気がしたけど、リノウは生真面目だからすぐに近づくのは難しそうだな。

「オウカ。彼のことは頼みましたよ」
「分かってるって。それよりお前は気を張りすぎなんじゃないか? 時には気晴らしも必要だぞ」
「私にとってそれが一番苦手であることは知っているでしょう……。私のことを気遣ってくれるなら、お前の主人をどうにかしなさい」
「サファリファスの坊ちゃんが俺の言うことを真面目に聞いた試しはない」
「言うだけ無駄でしたね……。では私も失礼します。兄上を見張らないといけないので」
「ほどほどにな」
「分かってますよ。……あぁ、タカト」
「は、はい!?」

 接点が少ないと思っていた二人の親密な会話に驚きすぎて呆然としていたら、急に自分の名前を呼ばれて変な反応をしてしまった。隣からは、ぷっと笑いを堪えきれなかったような声が聞こえ、リノウはなんだか呆れているように見える。

「……カイウス兄上の話し相手になっていただきありがとうございました。兄上のいい気晴らしになったと思います」
「え、あ、いえ」
「では失礼します」

 首の後ろで一つに束ねた髪をひるがえして、さっそうと去って行ったリノウを見送る。兄のフォローもできるとか、完璧な弟だな……

「アイツ、ああいうところ素直じゃないよなぁ」

 苦笑しながらそう言うオウカ。その様子を見る限り、すごく近しい間柄みたいだ。

「ねえ、オウカとリノウ王子って仲良いの? 結構親しげだったけど」
「リノウと俺は幼馴染みたいなもんだ。生まれた年が一緒でな」
「サファリファスさんが幼馴染なんじゃないの?」
「一応坊ちゃんも幼馴染ではあるが親戚の子って感じだな。俺の家と坊ちゃんの家は主従関係にあるってこともあって、幼馴染なんて言う単純な関係じゃないんだよ」
「ふーん……」

 の宮に戻りながら、オウカとリノウの関係について聞く。適当なオウカと真面目すぎるリノウの仲が良かったとは……今手にしてる子供向け教材と同じくらいミスマッチだ。

「王族と獣人だから乳兄弟にはなれなかったが、それ以外はダレスティアとアイル王子と同じような関係で過ごしてきたんだ。仲が良くなるのは当たり前だろ」
「あー、なるほどね」

 ダレスティアとアイル。あの二人は乳兄弟だ。
 この世界で乳兄弟というのは結構重要な関係らしい。ある意味本当の兄弟よりも兄弟らしい間柄になるのだとか。王族であればなおさらだ。

「でも、オウカとリノウ王子の性格はまったく合わなそうだけど」
「むしろ相性抜群だぜ? あいつくらい真面目な奴には、俺みたいに適当な奴が友人にいたほうがいいんだよ。ダレスティアとアイル王子もそうだろ?」
「それはまぁ、なんとなく分かるけどさ。あ、じゃあカイウス王子にも乳兄弟っているの?」
「カイウス王子の乳兄弟はウィリアムだ」

 なるほど……それはなんというか……

「……なんか、他の二組と違ってヤバそうな組み合わせだけど。真面目と真面目。しかも片方は王族第一主義」
「そこはカイウス王子がちゃんとづなを握ってるから大丈夫だ。いざとなったらリノウもアイル王子もいるしな」

 ウィリアム、暴れ馬みたいな扱いじゃん。
 ゲームでは主人公に寄り添う物腰柔らかで落ち着いた騎士様だったのに、現実になると印象が違うものだね。

「そういえばさっきカイウス王子と話してたんだけどさ。王子達に婚約者がいないって本当?」
「は? なんだよ急に。てか、なんでそんな話になったんだ?」

 げんな顔をするオウカには悪いが、カイウス王子と約束してしまったから、そのあたりは言えない。
 カイウスが貴音のことを好きだと言ったあとに聞いたのだ。婚約者とかいるだろうに、どうするつもりなのかと。貴音が悪役令嬢とかになっても困るし、単純にお相手の令嬢が可哀想だとも思ったからだったが、返ってきたのは婚約者はいないという意外な言葉だった。

「いや、カイウス王子のことだから、さぞおモテになるんでしょうね。それでは婚約者様がいてしまわれるのでは? みたいなことを言ったの」
「アイル王子ならともかく、カイウス王子にその手の話題はないだろ……。それで顔が赤かったのか」
「まぁそんなところ。そしたらカイウス王子どころかリノウ王子もアイル王子も婚約者はいないって言うし、その理由がだっていうから驚いちゃって」

 ゲームでは純粋な恋愛を楽しむために、そういった『大人の事情』に関しての情報はなかった。だけどカイウスもリノウもアイルも、本当なら婚約者がいて結婚していてもいいくらいの歳だ。
 貴族の結婚、とりわけ王族となるとより早いだろうし、跡継ぎ問題とかもあるだろう。
 それでも第一王子のカイウスはまだ立太子すらしていない。弟達もその辺りはふわっとしている。

「まぁ、本当かどうかって言われたら本当だ。竜の神子みこは竜王との儀式を終えた後、王族と結婚することが多かった。その相手となる王族に婚約者がいれば、神子みこと令嬢の双方に軋轢あつれきが生じることになる」

 よくある悪役令嬢物の展開がそうだよね。元の世界で悪役令嬢ブームが来た時にたくさん読んだから、知識ならある。

「だから新しい神子みこの召喚が近くなると、その代の可能性がある男の王族達は婚約者を作らないようにしている。ついでに言うなら、王族以外が選ばれることも考えて、神子みこと関わる男達も皆、婚約者は作らない」

 すごく徹底している。もしかしたら、過去に神子みこと令嬢の間で何か問題が起きていたりしているのかもしれないな。

「どうしてもというなら仕方がないけどな。できるだけ神子みことの関わりを避けたりするのさ。流石さすがに三十を超えたり国王陛下に何かあったりすれば、事前に目をつけておいた令嬢と婚約するがな」

 神子みこのためにそこまでするのかと少し引いてしまった。神子みこの伴侶に選ばれる可能性があるからと婚約・結婚ができない男達と、神子みこのために良いところの男達を射止める機会すら与えられない令嬢達。いくら問題が起きないためだとしても、あまりにも贔屓びいきな気もする。
 そう言うと、オウカは肩をすくめた。

「そりゃそうだろ。この世界は竜王と神子みこによって守られているんだ。何よりも神子みこを優先するのは当たり前だ」
「そうなんだろうけどさ。なんだかなぁって……」
「気にするな。俺達が当たり前だと思って納得していることに、お前が罪悪感を抱く必要はない。世界の違いによる感じ方はあるだろうが、この件に関してはどうなるものでもない」
「……わかった」

 この世界の住人にそう言われてしまったら、異世界人の俺は受け入れるしかない。

「なんか、不思議な常識だね。価値観の違いを初めて感じた気がするよ」
「そのうち慣れる。そもそもこれはお前の妹の問題だからな。兄貴だからってあまり首を突っ込まないほうがいいぞ」
「兄としては妹の結婚相手は気になるんですけど」
「ははっ、そりゃそうだ!」

 大声で笑うオウカをじとっとにらみつけた。笑い事じゃないんですけどー?


    ◇◇◇◇


 貴音に全てを暴露させられた日から数日が経過した。
 あれから貴音がオウカと何やら話しているのをよく見かけるようになった。オウカに何を話しているのか聞いてもはぐらかされるし、貴音に関しては秘密としか言わない。
 なんかこう疎外感がすごい。
 だから、ここ最近のおれはラーニャの部屋の前でひたすら独り言を呟く日々を過ごしていた。

「ラーニャさんはミレニア地方のアルシャ出身って聞いたけど、本当?」
「……」
「今、おれがお世話になってる竜の牙がアルシャに任務で派遣されてるんだけど、どんなところ?」
「……」
「オウカが言うには、すごく交易が盛んで色んな国の珍しい物が集まる場所なんでしょ? 紛争の回避じゃなければついて行ったのになぁ」
「……紛争?」

 お、反応があった。

「今、アルシャで紛争が起きそうになってるんだって。今はまだ一般人の暴動だけだからできるだけ傷つけずに鎮圧しなきゃいけないらしくて大変なんだ、って言ってた」
「何故、暴動が……もしかして奴らが……」
「ん? ラーニャさん何か言った?」
「……甘いお菓子が食べたい」
「はーい」

 ラーニャの要望に応えて、厨房にお菓子を貰いに行く。おれの独り言という騒音被害のお詫びに、おれはラーニャのお使い役をしているのだ。
 これぞ、猫様のぼく。おれは犬派だけども。
 ちなみに、今はオウカもクーロもいない。二人して竜の牙の宿舎に戻っているのだ。オウカのお手伝いにクーロが駆り出された形だ。仮にもおれの護衛だというのに、気を抜きすぎでは?

「ラーニャさんー。お菓子貰ってきましたよー」

 料理長手作りのクッキーが入った紙袋を抱えながら、ラーニャの部屋の扉をノックした。

「ラーニャさんー?」

 ノックをしても反応がない。

「ラーニャさっ!? ……うわぁッ!!」

 逃げられたか、と思った瞬間、突然開いたドアの向こうから伸びてきた手に、もう一度ノックしようとした手を掴まれる。そのまま部屋の中に引き込まれてしまった。
 部屋の中はカーテンで閉め切られていて暗い。目が暗さに慣れず何も見えない中、両手首を掴まれて壁に押しつけられ、その衝撃でクッキーの入った紙袋が床に落ちた。
 一体何が起きているのか。

「ラ、ラーニャ、さん?」
「……」

 おれは、唯一見える爛々らんらんとおれを見つめる眼に訊ねる。しかし彼は無言のまま。静かな時間が数秒流れた。

「っ!?」

 ふと、首元に顔が近づく気配を感じた。スンッと鼻を鳴らす音に、うなじの毛が逆立った。

「……美味しそうな匂いだ」
「ひぅ……!?」

 不穏な台詞と共に、首筋を舐められた。感じたのは、不快感ではなくただの快感。
 これは、ちょっとヤバいかも……!!

「ちょっ! ちょっとラーニャさっ……! ひゃあっ!?」

 ざらっとした感触のラーニャの舌が首筋を行ったり来たりと舐め回され、時々軽く牙を立てられる。その度に背筋を走る甘い痺れに自分自身が一番驚いていた。
 ラーニャに対して、おれはそういった感情を抱いたことはない。『竜の神子みこ』の攻略対象ってこともありイケメンではあるのだが、おれにとってはそこまでだ。
 いくら魔力供給が必要な身体と言っても、ラーニャと肉体関係を持つつもりはない。
 そういったことは、ダレスティアとロイにだけお願いしたいと思っていた。だから、あの二人以外に性的に触れられても嫌悪感しか抱かないものだと……そう、思い込んでいた。
 どうやらおれは、神竜の特性に対する認識が甘かったようだ。
 おれの気持ちは無視して、身体は小さな快楽にも反応してしまう。相手の魔力が潤沢であれば、神竜はおれの意識を無理やりにでも沈めて魔力をむさぼろうとするだろう。それが誰であろうと、神竜には関係のない話。
 そもそも神竜は、竜王というつがいがいながらも他の雄とも肉体関係を持っていた、きっすいのビッチだ。不特定多数と関係性を持つなど、今更気にもしないはずだ。
 あぁ、おれどれだけ神竜に毒されてたんだ!! 女性が恋愛対象だと言いながら、ダレスティアとロイに『抱いてもらってる』なんて言っちゃって……!
 いや、この場合どうなんだ……
 おれから誘ったことはない。気が付いたら二人に魔力供給と称して抱かれている。
 ……抱いて、もらってるのか? 魔力供給のために?
 ……なんか、モヤッとするな。

「いたっ!?」
「この状況で、随分と長い間、よく考え事できるね」

 自分の貞操観念の変わりようにショックを受けている間にも、ラーニャはおれの首を舐めてはかじりを繰り返していた。まるで大きな猫にじゃれつかれている気分になっていたというのに、耳たぶを少しキツめに噛まれたことで現実に戻ってきてしまった。

「ねぇ、君さ。魔力供給とかいって、竜の牙の団長とその補佐とヤッてるんでしょ? なら、こういうこと、慣れてるよね?」

 そう言っておれの下半身に押しつけられたのは、布越しの熱くたぎったソレ。途端に、おれとラーニャの間に性的な雰囲気が立ちのぼった。
 嫌だ。だけど、おれの身体は動かない。
 あざわらうように言われた言葉がショックだったからだろうか。『愛しさ』の欠片かけらもない言葉が胸に刺さって痛い。
 でもそれ以上に、おれは自分の立ち位置の危うさに恐れが込み上げていた。
 おれの魂は神竜の魂と同化している。神竜に魔力を供給するためにダレスティアとロイと肉体関係を持っているというのは、公表されていないはずだ。
 だが見目麗しい最強の騎士団長とその優秀な補佐が神子みこの兄の側にずっといるのだから、神子みこの兄が彼らを誘惑してめにしている……などという噂がたつのは時間の問題。
 そしておれがあの二人以外の男と関係をもった瞬間から、おれが節操なしという悪評が広がり、同時におれの身を預かる竜の牙への信頼にも影響を及ぼすだろう。
 これはまさに――

「……あ」
「あ?」
「ざまぁ系悪役令嬢物の主人公にはなりたくないーー!!」
「……はぁ?」

 ちまたりの「ざまぁ!」するたくましい悪役令嬢物のビッチ系主人公ポジじゃないか!!
 そんなおれの内心をよそに、シーン、という沈黙がおれ達の間に下りた。

「……何言ってんの?」
「お、おれは! 誰だっていいわけじゃない!!」
「……なら、誰とならいいわけ? 君は神竜に魔力を供給するために男に抱かれないといけないって聞いたんだけど」
「誰だ、人のセンシティブな機密情報を漏らしたのは!?」
「君の妹」
「ちょっとあいつ何バラしてんの!?」
「うぇっ、ちょっ!? そ、それは言わないって計画じゃ――」

 ラーニャには言っていないはずの情報を何故知っているのかと思ったら、犯人は妹でした……
 それで貴音さんよ、何でお前はクローゼットの中から出てくるの?

「貴音、お前そこでなにしてんの? オウカも、クーロと一緒に宿舎に戻ったんじゃ……」
「あー……実はな」

 貴音に続いてクローゼットから出てきたオウカ。ラーニャはやる気をなくしたようにベッドに座り込んでるし……え、もしかしてドッキリだった?

「お前の貞操観念が神竜に引っ張られてるっていう話を神子みこさんとしてたんだが、神子みこさんがお前にはちょっと過激にしないと伝わらないって言われて……な」
「おれの妹となんて会話してんだよ! 貴音もちゃんと説明しなさい!」
「え~」

 貴音とオウカが言うには、おれの貞操観念が神竜に引っ張られてゆるゆるになってきているのが心配だったらしい。そしてその状況を気付かせるべく、ラーニャに協力してもらったとのこと。
 ラーニャに、おれを襲うフリをしてもらって、おれがラーニャを受け入れるかどうかを確認したかったのだとか。万が一ラーニャと致そうとした場合には、おれを取り押さえるためにクローゼットに隠れていたらしい。
 このよく分からない作戦に巻き込まれたラーニャには同情するよ……。で、貴音は何度おれの秘密を暴露すれば気が済むわけ!?

「ごめんなさい、ラーニャさん。うちの妹と馬鹿犬がご迷惑をおかけしてしまい……」
「あぁ……気にしなくていいよ。実は俺、途中から演技じゃなくて本気で君とシたくなっちゃってたし」
「……はい?」
「神竜の魅了ってすごいんだね。王宮の奴らが言ってた意味が分かったよ」
「ラーニャ、王宮の人達が何を言ってたの?」

 真剣な顔をした貴音が、ラーニャに質問する。それ、おれの台詞。

「さっき俺が言ったことだよ。『神子みこ様の兄は、竜の牙の団長とその補佐に抱かれているらしい。魔力供給しないと死んでしまうそうだ。なら、俺の相手もしてくれねぇかな。あの人達がハマるくらいなんだ。そういうことに慣れてるだろ』って。王宮の中にもああいうのがいるんだなって呆れたよ」

 ラーニャにさっき言われた言葉にプラスして、不愉快な噂に絶句しているおれ達に、ラーニャは他にもあったと次々に爆弾を投下していく。
 彼が王宮で聞いた気持ち悪い噂の数々に、気分が悪くなる。おれ、一部からダレスティアとロイをたぶらかすビッチだと本当に思われてたのか……

「そうそう。副団長ともヤッてるっていう噂もあったけど、君達そうなの?」
「ち、違う! オウカとは本当に何にもない! な? オウ、カ……?」

 ありもしないオウカとの関係まで噂されているとは。おれは否定し、オウカにも同意してもらおうと振り返ると、オウカは黙ってどこか遠くを見ていた。
 静かながらも、ピリピリした空気を纏っている。怒っているのだろうか。きっとそうだ。

「ごめんな、オウカ。おれとのそんな噂があるなんて知らなくて……しばらくは距離を取ろう」
「……いや、これは俺達の責任だ。まさかそんな風に噂が一人歩きしているとはな」

 オウカはため息を吐いて、これに関してはダレスティアにも王子達にも報告をあげると告げた。
 おれのことは機密事項扱いになっている。存在まではとくできないが、その実情などはトップシークレットなのだ。
 それなのに、おれに関する良くない噂が流れているのは、城内の情報漏洩防止の観点からも緊急なこと。だから報告するのだと、おれが責任を感じることがないようにと気遣ってくれる気持ちが、ありがたいと同時に申し訳なかった。


    ◇◇◇◇


「ロイ!」
「タカト、元気でしたか? オウカ副団長に襲われてませんか?」
「お前の中で俺はどんだけ節操なしになってんだ」

 竜の牙がアルシャに向かって二週間。ロイが現況報告のために王都に戻ってきた。王様への報告を終えた後、の宮にやってきたロイにおれは思わず駆け寄った。

「おれは元気だよ! ロイは……ちょっと痩せた?」
「私は大丈夫ですよ。どちらかというと、ダレスティア団長のほうが大変と言いますか……」
「ダレスティアが!?」

 疲れたようなため息をつきながらロイが話してくれたアルシャの状況は、思っていたよりも酷かった。最強騎士団である竜の牙のことだから、暴動なんて簡単に鎮められると思っていたけど、一般人相手だからこその事情があるんだな……

「捕まえたと思ったらまた別の主導者が現れて、の繰り返しです。治安も悪くなる一方ですし、他国の商隊の苦情も後を絶ちません。最初の暴動の首謀者達に責任を取らせたことで、市場の管理はなんとかなったのですが」
「そもそも何故市民達は暴動を繰り返しているんだ? それ相応の理由があるんだろ?」

 オウカが眉をひそめる。

「もとは、アルシャで広まった噂が原因だそうです」
「噂?」
「はい。なんでも今のアルシャを統治しているアビアン一族の嫡男ちゃくなんが策略によって街を追放され、愛人の息子が次期当主の座を乗っ取った、と。ここ数年税が上がり続けていて市民達の不満が高まっていたところにこの噂。追放された嫡男ちゃくなんは市民に慕われていたようですが、対して現当主と愛人、その息子はぜいたくざんまいで嫌われていたのだとか」

 なるほど。次期当主になる嫡男ちゃくなんに期待していたのに、その人が追放された挙句、嫌っていた奴が次期当主になるっていうなら確かに暴動が起きてもおかしくない。

「最初に暴動を起こした者達からこの話を聞き一族に事情聴取しようとしたのですが、暴動を治めに来ただけなのに街の内情にまで口を出されるいわれはないと取り付く島もない感じで……」
「うわぁ……」
「市民達の気持ちも分かるのですが、流石さすがに国内で暴動が続くなどあってはならないことですので、起爆剤になった者達に治安回復という責任を負わせることにした次第です」
「でも、その噂の真実が分からないなら、ずっと暴動は続くんじゃないの?」
「おそらくそうだろうな。その追放された嫡男ちゃくなんって奴の足取りは?」
「それが、アルシャから少し離れた地区を治める親戚を頼ったことまでは分かったのですが、その親戚達がどうもきな臭くて。彼が来たことは認めたのですが、突然消えたと」
「消えたぁ?」

 泥沼の展開だな。火曜日にやってたドロドロサスペンスなアレ。

「結局、足取りはそこで途絶えていました。アルシャの当主達は親戚のところに行くと言って出ていったと言い、親戚筋は来たけれども突然消えたと言い……ただの暴動がまさかこんな案件だとは思いませんでした」
「ロイ、おつかれ」

 重いため息を吐いてうなれるロイの背中をさする。めちゃくちゃ大変そうだ。明後日にはアルシャに戻るらしいから、せめて今日と明日はゆっくり休んでほしい。
 向こうに残るダレスティアも心配だな……

「しかもですね」
「まだあるのかよ」

 引き気味のオウカをロイがじっとりとにらみつける。お前がいないせいで余計に大変なんだと言いたげだ。

「暴動の数が増えてきて、このままだと当主一族の治安部隊と住民とで紛争に発展しそうなんですよ」
「……そいつは、やべぇな」
「やばいですよ」

 ハイライトが消えた目のロイとさらにドン引きしているオウカをに、おれは一人、新たな事実に混乱していた。もしかしてゲーム本編にあるミレニア地方の紛争って、これからだったのか……?
 ということは、ロイやダレスティアはここからさらに忙しくなるのかもしれない。

「大変なんだね、ロイ……。お疲れ様」
「タカト……!」
「うわぁっ!?」

 ロイがガバッと飛び掛かるように抱きついてきた。歳上のおれ以上に大人びている彼が、こんな風に甘えてくるのはとても珍しい。それだけ大変な任務だということだろう。
 ゲーム本編では、竜の牙はアルシャにおもむき既に起きてしまった紛争を終わらせに行くだけ。けれど今回は紛争が起こらないようにするところから始まっている。難易度はだいぶ違うはず。

「おれも何か手伝えたらいいんだけど……」
「お前を紛争地なんかに連れていけるわけがないだろ? 戦えるわけでもないんだし、お荷物になるだけだ」
「そんなことは分かってる。ならおれの代わりにオウカが手助けしてきてよ。元々オウカも行く予定だったんだからさ」
「今の俺はお前の護衛だから無理だ。それに王宮で噂が広まっている今の状態で、お前を放置して行けるわけがないだろ」
「噂? 噂って何のことですか」
「……あ」

 そうだった。ロイはおれに対する噂があることを知らなかったんだ。オウカもこのタイミングでその話をしなくてもいいのに!

「な、何でもないよ! いま忙しいロイをわずらわせることじゃ――」
「コイツの体質に関する情報の一部が漏れた。ダレスティアとお前の二人と身体の関係があることも、噂の段階だが広まっている。タカトが魔力供給のためにお前らをたぶらかしたなんていう不名誉極まりない噂が、な」
「ちょっ、オウカ! なんで言うの!?」

 こんな嫌な話をわざわざ聞かせる必要ないと思ったけれど、オウカとロイの表情をうかがうと、彼らはどうやら違う考えらしい。

「隠してもどうせバレる。ロイは『りゅう』を抜けた後も周囲の会話から情報を抜こうとするへきがあるんだよ。それなら今言ったほうがロイもタカトも余計な心配をしなくてすむだろうが」
「私も、今聞いておいてよかったと思います。もしその噂を実際に聞いていたら、手が出ていたかもしれません」

 笑いながら言っているが、ロイの目は笑ってない。これは、相当お怒りのようだ。

「だ、駄目だよ、ロイ。ロイまで問題を起こしちゃったらダレスティアが一人になっちゃう」
「……そうですね。そうなったら団長に恨まれてしまいますから、穏便に話し合いで解決することにします」
「う、うん。穏便に、ね?」
「はい、穏便に」

 思ってもいなかった方向のロイの反応にたじろいでいるおれとは違って、オウカは動じることもなく、それどころか新しい火種を投下した。

「いや、一足先に神子みこさんがギリ穏便に話し合いしてるぜ」
神子みこ様が?」
「貴音が?」

 ロイとおれが同時に口にしたのは同じ人物。でもおれは驚きから、ロイは疑問からその名を口にした。そして、オウカはおれから目を逸らした。
 ……これは、おれに対してやましいことがあるということでは?

「オウカ、またあいつがなんかやったのか?」

 思ったより低い声が出たが、効果はあったようだ。目を逸らしたままのオウカは、その可愛い耳を忙しなくピルッと動かし、尾を力なくパタッと一振りした。

「あれから貴音もラーニャも見ないし、ウィリアムさん達も忙しそうで不思議に思ってたんだよね」
「そういえば、王宮も何やら忙しない雰囲気でした。国王陛下に変わったところはないようでしたが……神子みこ様の可能性がありますね」
「はぁーん? また王様に迷惑かけてるのかあいつは!」
「まさか副団長も一緒に悪巧みしているわけじゃないですよね?」
「思い出した。この前も貴音と一緒にやってくれたねぇ?」
「あぁぁぁぁ!! もう!!」

 ロイと一緒になって笑顔で責めたててやると、オウカはわりとあっさり自白してくれた。オウカは本当に少ししか関わっていなかったようだけど、それでも貴音の企みの内容はちゃんと知っていた。
 最近、おれだけ除け者にされること多くね?


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「君は、今日から俺のものだ」 辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。 ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。 「お前のその特異な力を、帝国のために使え」 強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。 しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。 運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。 偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!

義兄の愛が重すぎて、悪役令息できないのですが…!

ずー子
BL
戦争に負けた貴族の子息であるレイナードは、人質として異国のアドラー家に送り込まれる。彼の使命は内情を探り、敗戦国として奪われたものを取り返すこと。アドラー家が更なる力を付けないように監視を託されたレイナード。まずは好かれようと努力した結果は実を結び、新しい家族から絶大な信頼を得て、特に気難しいと言われている長男ヴィルヘルムからは「右腕」と言われるように。だけど、内心罪悪感が募る日々。正直「もう楽になりたい」と思っているのに。 「安心しろ。結婚なんかしない。僕が一番大切なのはお前だよ」 なんだか義兄の様子がおかしいのですが…? このままじゃ、スパイも悪役令息も出来そうにないよ! ファンタジーラブコメBLです。 平日毎日更新を目標に頑張ってます。応援や感想頂けると励みになります。   ※(2025/4/20)第一章終わりました。少しお休みして、プロットが出来上がりましたらまた再開しますね。お付き合い頂き、本当にありがとうございました! えちち話(セルフ二次創作)も反応ありがとうございます。少しお休みするのもあるので、このまま読めるようにしておきますね。   ※♡、ブクマ、エールありがとうございます!すごく嬉しいです! ※表紙作りました!絵は描いた。ロゴをスコシプラス様に作って頂きました。可愛すぎてにこにこです♡ 【登場人物】 攻→ヴィルヘルム 完璧超人。真面目で自信家。良き跡継ぎ、良き兄、良き息子であろうとし続ける、実直な男だが、興味関心がない相手にはどこまでも無関心で辛辣。当初は異国の使者だと思っていたレイナードを警戒していたが… 受→レイナード 和平交渉の一環で異国のアドラー家に人質として出された。主人公。立ち位置をよく理解しており、計算せずとも人から好かれる。常に兄を立てて陰で支える立場にいる。課せられた使命と現状に悩みつつある上に、義兄の様子もおかしくて、いろんな意味で気苦労の絶えない。