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3巻
3-3
◇◇◇◇
「アイル。お前は迎えに行くこともまともにできないのですか。子どもですか? いえ、子どものほうがまだまともに言いつけられたことを実行できますよ。常々考えていましたが、幼児教育からやり直しますか?」
「ごめんなさい」
いつまで経ってもやってこないおれ達に痺れを切らして迎えに来たリノウは、アイルをずっと叱り続けている。アイルはキノコでも生えそうなくらい落ち込んでいる。
「でも兄上。俺もそろそろ休憩が欲しかった、っていうか……」
「忙しい私の時間をこうして奪っておいて、自分の時間が欲しいと?」
「ごめんなさい」
まるで貴音とおれを見ているようだ……。リノウにはカイウスも弱いみたいだけど、それでも兄弟仲がいいのは良いことだと思う。
「さぁ、着きましたよ。アイル、お前はまたあとで話があります」
「う……はぁい」
まだまだお説教から解放されない様子に、アイルのいつもの遊び具合が察せられる。まぁ、それがアイルらしさというものなのだけど。
「私達を呼んでいるのは神子様なのですよね?」
「正確には、竜王です。それのことで、話があると」
そう言われ目を向けられたのは、おれの腕の中にある神竜の卵。
サファリファスお手製の魔道具の中に収められている卵は、落とさないように抱っこ紐のようなものでおれの身体に固定されている。
更に周りから見えないように魔道具ごと布で覆われている卵は、傍から見れば本当に赤ちゃんを抱えているようにも見え――いや、そんなことはないはず。
ここに来るまでにすれ違った顔見知りの近衛騎士達の視線がもの言いたげだったのも気のせいだよね?
「神竜が何故か目覚めない今、卵のことを聞けるのは竜王だけと思ってはいたが、まさか向こうから情報をくれるとは。嬉しい誤算だ」
「しかし、アルシャから戻ってすぐとは、些か急では?」
「竜王ができるだけ早くということだったので。『情報は早く手に入れるが勝ち』というのはロイ、貴方のほうがよく知っているのでは?」
「……えぇ。身に染みて存じております」
情報収集を主に行う騎士団、竜の眼に元々所属していたロイに情報について語るとは。流石リノウ、煽りスキルが高いなぁ。でもあんまりロイを虐めないでほしい。
何とも言えない少しの苛立ちを感じているだろうロイの背を撫でて慰める。振り返って微笑んでくれたので良しとしよう。
「いちゃつくのは後にしろ。行くぞ」
サファリファスにとってはもはや見慣れた光景となったらしく、おれ達のいちゃつきに目を向けることもなく、彼はたどり着いた部屋の扉をノックせずに開けた。
扉を開けると、そこは奥行きのある部屋だった。
横幅はそれほど広くはないが、部屋の向こうは結構遠く。
隠し部屋というほどでもないが、あまり使われていないことは部屋の隅に見える埃から察せられた。
窓がないせいか薄暗い部屋には貴音とカイウスがいたが、こちらを向いた二人はアイル以上に疲れた顔をしていた。
なにやら書類を確認していたようで、部屋の真ん中には長い机が置かれているが、その上にはかなりの量の書類が積み上げられ、側にあるサイドデスクの上にも書類が散らばっている。
「お兄ちゃん、おかえり~! で、それ誰の子?」
「神竜の卵だから!!」
言うと思った!!
本当に期待を裏切らない奴だな。
「まったく。そんなこと言う奴にはお土産あげないぞ」
「うそうそうそ! お土産欲しいです!」
「ははっ、タカネはタカトと一緒の時が一番元気だね」
貴音が「お土産欲しいだけだから!」とツンデレを発動している隣で、カイウスが笑いながら手に持っていた書類を置いた。
貴音を見るカイウスの目が優しい。
アルシャに行く前も優しい眼差しで貴音を見ていたが、今はその眼差しの中に前より甘さが増しているように思える。
おれがいない間にどこまでストーリーが進んだんだ。
「カイウス王子にもお土産ありますよ。もちろんリノウ王子とアイル王子にも」
「ありがとう。お土産なんて貰えることは少ないから、嬉しいよ」
「そうなんですか?」
「贈り物ならたくさん貰えるけどね。それに、王都の外に行ける誰かさん達はみんなお土産をくれないんだよ」
カイウスの後ろからヒョコっと現れたアイルがわざとらしく肩を竦めた。誰かさんって、絶対ダレスティア達のことじゃん。
荷物を置いて、サイドデスクに散らばる書類を片付けているロイの手が一瞬止まったよ。
「こら、アイル。ダレスティア達は任務で出かけているのだから、そんなことを言うな」
「はーい。でも俺、ダレスティアって言ってないよ? それってカイウス兄上もそう思ってるってことだよねー」
「い、いや! そんなことはないぞ!」
「アイル、兄上で遊ばないように。兄上もすぐに乗せられないでください」
「はーい」
「ごめんなさい」
「三兄弟、尊い……」
相変わらずの三兄弟の様子を見ていたら、最後にオタクの鳴き声が聞こえてきた。
思わず横にいた貴音の頭を軽くはたく。
静かだなと思ってたら、ただオタク感情が溢れていただけのようだった。相変わらず貴音もちゃんとオタクしてて安心したよ。
「それで、アルシャから戻った我々を、荷物を下ろす間もなく連れてきた理由を早くお聞かせ願えますか?」
ちゃっかり椅子に座り、どこからか取り出したティーセットで紅茶を飲みながらくつろぐサファリファスに、リノウがため息を吐いた。
サファリファスの苦言にシュンとしたのはカイウスだけだったが、怒られた子犬になっている彼を見て、貴音は「きゃわいい……」と手を合わせていた。
ただのオタクになっている貴音の頬を突いて意識を呼び戻す。拝むのはあとにしなさい。
「貴音。おれ達を呼んだのは竜王なんだろ? お前が間に入らないと話ができないじゃん」
「はっ……! そうだった! えーと、ちょっと待ってね」
まったく。感情が昂りすぎるとポンコツになるんだよなぁ。
貴音は慌てて竜王の宝玉を自身の体から出現させて、机にセッティングしていく。そんな貴音を見ながら、おれもダレスティアに萌えてる時とかあんな醜態を晒さないようにしよう、と誓いを立てた。
「ヴァルシュ。起きて」
貴音が竜王の宝玉に手を触れそう呼びかけると、宝玉が淡く輝き始めた。
貴音が言うには、神竜と一緒で竜王は基本的に宝玉の中で寝ているらしい。大昔にあった大天災からこの大陸を守る時に負った傷を治すためだという。
しかし貴音はその竜王を起こすために大声で宝玉に呼びかけている。
「おーい。神竜の卵でなんか言いたいことがあるんでしょ? 呼び出しといて寝てるとか何様よ」
「竜王様だろ」
「お兄ちゃんは黙ってて」
ラディア王国で敬われる竜王に対してはとても不敬な扱いに、王子達とロイはそわそわと落ち着かない様子だ。サファリファスだけは面白そうに紅茶を飲んでいる。
しかし竜王、なかなか返事がない。
ちょっとせっかちな貴音は、とうとう宝玉をぺちぺちと叩き始めてしまった。
カイウスとロイは心なしか少し青褪めている。おれは漆黒の宝玉から放たれる光が強くなったり弱くなったりしている様子が綺麗だなぁと癒されていた。
「おーい! おーい!」
『……うるさいぞ』
貴音が宝玉を叩いていると、腹の底に響くような低い声が脳裏に響く。
「やっと起きた! お待ちかねの神竜の卵だよ!」
『む。やっとか』
人を呼び出しておいて寝坊して、更に謝る気すらない傲岸不遜なところは神様だなって思う。
おれは竜王に指示されて、机の上に移動用の魔道具に入ったままの神竜の卵を置いた。
『何に入れている?』
「転移魔法陣の魔力から守るための魔道具です」
ふむ……と言う声が聞こえ、ふいに魔道具の側に何かを感じた。
竜王の姿は見えないが、彼がそこにいる気配のようなものを感じる。
『魔道具から出せ。もともとコレが入っていた器に入れたほうがコレもより安定する』
「ヴァルシュ。貴方やっぱり神竜の卵のこと知ってたのね?」
『知らないとは言っていない。それに何度もいちいち説明するのは面倒だ。どうせならまとめて話すほうが効率がいいだろう』
「……はぁ?」
確かにそのほうが効率はいい。でもせめて貴音には言っておいてほしかった。見るからにご機嫌斜めになっちゃったよ。
『セフィはずっと寝ているのか?』
「……え?」
「神竜のことだよ、お兄ちゃん」
「あぁ、神竜のこと……。神殿の遺跡から卵を持ち帰ってからはほとんど寝てますね」
聞き馴染みのない名前に、質問に答えるのが遅れてしまった。そういえば神竜は、竜王には『ハクロ』じゃなくて『セフィ』って呼ばれてたんだったな。
親しい相手だと呼び方も変わるのは分かる。おれもクーロをクーって呼んでるし。でもなんでハクロとセフィだなんていう関係性が全然ない呼び方なんだ?
『セフィが寝ているのは魔力をできるだけ貯めておくためだろう。今、この卵には、お前の体内にいるセフィから魔力が流し込まれている』
「卵に、魔力を?」
サファリファスの目が魔力の流れを見ようとしているかのように、おれと卵の間を行ったり来たりしている。
おれも神竜の魔力が注ぎ込まれているという卵を見る。
ロイによって慎重に魔道具から取り出された神竜の卵は、薄暗い室内を照らすランプの灯りを反射して、煌めいているだけだ。
竜王の宝玉のように自ら光を発することはない。
『卵に注ぐ魔力と自身の生命活動のための魔力を確保するのに精一杯で、お前達で遊ぶ余裕もないのだろうな』
「おれ達で遊ぶって……。いや、それって頭の中で会話することができないほど魔力が足りてないってことですか?」
『それくらいならできると思うが、おそらく卵に魔力を注ぐことに集中しているのだろう。儀式の失敗は許されないからな』
なんだか不穏な言葉が聞こえてきた。
「神竜……ハクロ様が行おうとしていることは、タカトに影響があることなのでしょうか」
見上げたロイの表情は穏やかながらも、その目は心配そうにおれを見ていた。神竜が何かをしようとしているのなら、おれにも関係があると考えるのは妥当だ。
『もし仮にセフィが失敗した場合、何が起こるか分からぬ。しかし、宿主にも相応の影響があることは間違いない』
「神竜がしようとしていることは、それだけ危険なことなんでしょ? お兄ちゃんの承諾なしにそんなことしないでほしいんだけど」
竜王の宝玉を睨みつけて指先で弾いている貴音の言葉が、どこか他人事のように思っていた自分に突き刺さった。
『承諾の有無は必要ない。セフィにはしないという選択肢がないだけだ。これほどの絶好の機会はないのだからな』
「もし……もし失敗したら何が起きるんですか」
心臓が痛いくらい速く鼓動を打つ。
『安心するがいい。お前が死ぬことはない。精々、ほんの少し寿命が縮まるくらいだ』
「なら、ハクロは?」
竜王の返答には、一拍の間があった。
『良くて再び長い眠りにつく。最悪の場合は今度こそ二度と蘇らない死を迎える』
誰も声を上げることができなかった。
おれと神竜、どちらのリスクのほうが高いかと言われれば、神竜が負うリスクのほうが高いけれど、神竜にやらない選択肢はないという。
そもそもおれには神竜を止めることはできないのだけれど、それでも何をするのかくらいは教えてくれてもいいじゃないかと怒りが込み上げてくる。
おれと神竜は一心同体なんだから。
『お前達はセフィが何をしようとしているのかを知りたいのだろうが、それも含めて後で説明してやる。今日はセフィとコレの様子を確かめたかっただけだからな。戻っていいぞ』
「……だから何様よ」
貴音の弄りも覇気がない。それもそうだ。貴音は死ネタバッドエンドが地雷だからな。おれも苦手だけど。
だからこそ神竜の手伝いをしたいのだけど、神竜はやっぱり返事をしてくれないし、竜王はまた寝てしまったようだ。
おれにできることは心身を健康に保つことと、体内の魔力を減らさないようにすることだけ。
「気になることはたくさんあるけれど、タカト達は各々やらなければならないことがあるだろう? ゆっくり気持ちを整理しながら荷解きでもするといい」
カイウスの柔らかい微笑みと温かい言葉が、じんわりと凝り固まっていた思考を柔らかくしてくれる。
「陛下やガレイダスには私が報告しておきましょう。そのほうが話し合いも進みやすいでしょうから」
「じゃあ俺はこれから頑張るために女の子達に癒されてもらいに行ってくるよ」
「アイル。お前の仕事はここの報告書の整理です。仕事が捗るようにウィリアムをつけます」
「リノウ兄上! それは酷すぎるよ!!」
王子達が作ってくれたほのぼのとした明るさが、重苦しかった部屋の雰囲気を和らげてくれた。貴音の口元にも笑みが浮かんでいる。
おれは静かにホッと息を吐いた。
「タカト……」
「ロイ、大丈夫だよ。とりあえず詳しいことが分かるまでは一旦忘れよう。急に死ぬとかじゃないみたいだし。ね?」
「そんな可愛らしい顔で縁起でもないこと言わないでください」
クーロがお願いしてくるときみたいに首を傾げて上目遣いで見たけれど、ロイに効果はなかったみたいだ。真面目な顔で怒られてしまった。
「どちらにしろ、今分からないことを考え続けるのは時間的にも体力的にも損でしかない。ボクは工房に戻る。調べることも増えたことだしな」
サファリファスは呪文一つで紅茶セットを片付けると、さっさと部屋を出て行ってしまった。ほんと、興味のあること以外は塩対応だよなぁ。
「私達も、部屋に戻りましょうか」
「そうだね」
「あ、お兄ちゃんの部屋はまだ神子の宮だから。ゼナード伯爵に狙われてること、忘れてないでしょうね」
「あ……」
あぁ、そうだった。ゼナード伯爵の件もあったんだった! 気が休まる時がないな……
「まったく。お兄ちゃんはもっと自分が狙われてる自覚を持って。あの蛇男。なかなか尻尾を出さないから調査も大変なんだよ! 抜け殻の一つくらい落としてくれてもいいと思わない!?」
おれは今にも手に持った書類を破きそうな貴音の肩を宥めるように叩く。
しかし後ろに立つおれの顔を見上げた貴音の目力の強さと手首を掴む力の強さに、思わずビクついた。頬までひくついてしまう。
「お兄ちゃん。今夜は寝かさないからね」
「いや、あの、お兄ちゃんは神竜のために早めに寝ようかなぁって……」
「妹がお兄ちゃんのために頑張ってるのに、愚痴の一つも聞いてくれないわけ? ひどーい」
「う……」
縋るようにおれは視線だけでロイに助けを求める。
が、ロイは苦笑しておれから目を逸らした。ガーンという効果音が頭の中で鳴った気がした。
◇◇◇◇
「タカト! おかえり~!」
「クー! ただいま!」
ぴょんと飛びついてきたクーロを抱きしめた。
クーロはもふもふな尻尾をぱたぱたと左右に振っている。おれはわしゃわしゃと彼の頭を撫でて、さりげなくお耳をもふった。
あぁ、癒される……!!
「リノウ王子に魔法いっぱい教えてもらえた?」
「うん! 今は基礎をちゃんとやる時なんだって! だから色んな魔法の基礎を教えてもらったんだけど、すごい分かりやすかったよ!」
流石、インテリなリノウというわけか。
クーロはオウカにも魔法を教わっていたが、天才肌なせいかオウカの場合いくら教育本を参考にしたところで微妙に伝わってない部分があった。
けれどリノウならクーロに合わせて分かりやすく教えてくれるはずだ、と勝手に期待してたけど、上手くやってくれたようで安心した。
「魔法は大人になるほど感覚で使うものです。だからこそ大人が子どもに教えるのは難しいのですが、流石はリノウ王子ですね」
「うん。頼んで良かったよ。これがアイル王子だったら、基礎を無視してすごい魔法ばかり教えそうだしね」
「実際、リノウの隙をついて変な魔法を教えようとしてたよ。すぐに見つかってお仕置きされてたけど」
アイルの悪戯癖はなかなか治りそうにないな。同じ感想を抱いたのか、ロイも呆れたように笑んだ。
「しかしクーロ、本当によく頑張りましたね。魔力量が大幅に上がってますよ」
「ほんと!? どれくらい? どれくらい増えてますか!?」
ロイに魔力量が増えたことを褒められたのが本当に嬉しいらしい。目をキラキラさせて今にも飛び跳ねそうだ。
クーロは嬉しくなると何度もジャンプする癖がある。いわゆる、わーいわーい、というやつだ。とても可愛い。
「詳しくは検査しないと分かりませんが、ダレスティア団長の三分の一くらいでしょうか……」
「団長さんの三分の一! ……ってどれくらいですか?」
少し分かりづらい例えに首を傾げているクーロの横で、おれは別のことで首を傾げていた。
ダレスティアの魔力量は多くはないと聞いたことがある。
でも、いくら才能があるといってもまだ子どものクーロに、三分の一も追いつかれるほど少ないのか?
おれの疑問を察したのか、ロイが先手を打って答えた。
「ダレスティア団長の家系は少し特殊なのです。団長が戻られたら、直接聞いてみてください。私が知る以上のことを教えてくださると思いますよ」
確かに、そういったことは本人のいないところであれこれ話すことでもないか。
「それでは私は宿舎に戻ります。夕方に一度こちらにお邪魔しますね」
「うん。クーはどうする?」
「タカトと一緒にいたいけど、僕も今お手伝い中なんだぁ……。宿舎のお掃除してるの」
「そっか。偉いな、クーは」
「えへへ」
おそらく竜の牙の団員達が戻ってくるから、宿舎中の大掃除をしているのだろう。部屋数も多いから、宿屋で働いていたクーロは大きな戦力になっているはず。
あとでいっぱい甘やかしてあげよう。
「では、私と一緒に行きましょうか」
「はい!」
「ガイヤ卿、よろしくお願いいたします」
「あぁ」
いつの間にか側にいたウィリアムに驚いたのはおれだけだった。貴音はおれが驚いたことに気が付いたのか、笑いを堪えようとしている。
お前、分かってたなら教えろよ……!
「タカト、あとで」
「あ、うん! またあとで」
「お部屋綺麗にするからね!」
「うん。頑張って!」
時々振り返っては手を振ってくるクーロに手を振り返す。花壇の先を曲がって二人の姿が見えなくなってから、手を下ろした。
「あの二人、髪色が似てるからか、犬属性だからか、親子に見えなくもないよね」
「ロイとクーなら年齢的に親子じゃなくて兄弟だと思う。親子ならオウカじゃない?」
「じゃあダレスティアとだったら?」
ダレスティアとクーロが並んでいる姿を思い出す。ダレスティアは初めてクーロに会った時よりも態度や雰囲気は柔らかくなっているが、クーロのほうはまだ少し緊張気味だ。
「うーん……それこそ飼い主と迎えられたばかりの子犬じゃない?」
「それってダレスティアはクーロに懐かれてないってこと?」
「いや、クーは密かに懐いてる感じ」
クーロの憧れはダレスティアだと思うんだよね。なんかダレスティアを見てる時だけ一段と目がきらきらしてるんだよなぁ。
ダレスティアはそんな視線に慣れてるせいか、まったく気が付いてないけど。
「じゃあ王子達とだったら?」
「従兄弟」
「分かる~」
きゃっきゃと楽しそうな貴音と一緒に、久々の神子の宮に入る。相変わらず真っ白な建物は汚れの一つも見当たらない。
ぐるっと床から壁、天井を見てからなんとなしに今通って来た扉を振り返ると、ウィリアムがおれ達の後ろで何かしているのが目に入った。扉に何やら魔法をかけているように見える。
「あぁ、あれ? 結界張ってるの。神子の宮全体にね」
「結界? そんなのおれがいた時にもあったっけ?」
「一応あったのよ。だけど突然アイルが夜中に来たときに結界を突破されちゃってね。まぁ、アイルにあの程度の結界なんて意味がなかったってだけなんだけど、それからウィリアムが結界の重ねがけをするようになったの……って、お兄ちゃん? 顔色が悪いよ? 疲れた?」
おれは貴音の肩に手を置いた。
「貴音。その話、詳しく聞かせなさい」
貴音の部屋に入ったおれは、すぐに椅子に腰を落ち着かせて、貴音に事の顛末を聞いていた。
「アイルのあれは王族ルートに入ると絶対あるイベントなんだよ。三つの選択肢があって、恋愛ルート、友情ルート、バッドエンドになるやつ。カイウスとリノウのルートに行きたい人はここで友情ルートを選ぶ必要があるわけ」
「何でアイルだけ強制イベントになってるの?」
「有志の考察では、アイルが王族ルートの鍵になってるんじゃないかって。ほら、王子兄弟仲良しじゃん」
つまり、末っ子がおれ達のことを認めてくれないと、兄王子とはお付き合いできないってこと? アイルってそんなブラコン仕様だったっけ?
「色々とストーリーが変わってるから、いくら強制イベントって言っても流石に起こらないと思ってたんだけど……。ここでは強制力が働いたみたいなんだよね。でも私は正直に伝えたよ。アイルのことは友達として好きだけど、それ以上の関係になるつもりはないって」
「……それって、主人公の台詞?」
「ちゃんと私自身の言葉だよ。ゲームだともっと思わせぶりだけど、そんな気持ちもないのに希望持たせたらダメじゃん」
私はそういう恋の駆け引きみたいなのあんまり好きじゃないんだよねー、だなんて笑っている貴音の様子を見て、おれは肩の力を抜いた。
「そっか。でもほんとに何もなかったんだよね?」
「ないない! 恋愛ルートの夜這いもキスくらいだったから大丈夫。お兄ちゃんが心配するようなことは何もなし! むしろ珍しく怒ったウィリアムさんに引きずられてくアイルをお兄ちゃんにも見てほしかったなぁ」
王族第一主義のようなウィリアムがアイルに怒ったというのも珍しいことだ。そこはゲームでは表現されてなかった気がする。
それにしても、強制力か……
「お兄ちゃん、どうかした?」
「ん? いや、なんでもない」
「そう?」
貴音は知らないけど、カイウスは貴音のことが好きだ。そしてそれを、アイルも知っているはず。
それなのにあのイベントは起きてしまった。
もしかしてカイウスに発破をかけるため?
でもさっきのカイウスとアイルの様子を見るに、そういった様子は見られなかった。
ということは、アイルの感情も無視した強制力なのか? でもこれは王族ルートに入らないと起きないイベントだって言って――あ。
「なぁ、貴音」
「なに?」
「アイルが来る前、カイウスと何かあった?」
「カイウス?」
貴音のキョトンとした顔を見て、おれは確信した。
もしや無意識下でカイウスルートを選んだな?
「なにか誘われたとか」
「あ、そういえば。今度一緒にお茶を飲もうって誘われたけど」
それだー!!
確か王子との二人きりのお茶会には特別な意味があるって設定があったはず。ダレスティアが報告のためにそのお茶会に現れるシーンがあったから覚えてるぞ!
「でも、これまでにもお茶会は何度もやってるから特別なことじゃないよ。リノウとアイルも一緒だったから二人きりではないし」
いや、確実にそのお誘いは二人きりのやつだろう。
アイルのイベントが起きたってことは、カイウスかリノウのルートに入っていることは確実。それでいてカイウスの貴音を見るあの眼差し。
……間違いない、貴音はカイウスルートに入っている。
「……まぁ。貴音の自由にしたらいいけど、気を付けてね、色々と。お兄ちゃんは心配です」
「なにそれー。この見た目だけど中身はちゃんと成人済みなんだからね! それに、トラブルメーカーのお兄ちゃんに心配されてもねぇ?」
「う……それは否定できない」
おそらく貴音は、アイルのイベントは単にこの世界の決められたストーリーを進めるための強制力で起きたものだと思っていて、何か特別な意味があって起きたとは認識していない。
別に貴音の恋愛事情に踏み込もうとは考えていないけど、カイウスが貴音に惹かれている以上、このままカイウスルートのストーリーが進んでもおかしくはない。
さて、カイウスの気持ちが貴音にバレないようにこの事実を伝えるにはどうすればいいのか。
おれは新たな問題に心の中で頭を抱えてしまう。
しかしおれのそんな気持ちさえ知らず、貴音は「そういえば」と話題を変えた。
「ところでお兄ちゃん、お土産は?」
「あ、そうだった! えーっと……これ!」
貴音の声に急かされつつ、おれは魔道具の中に収納していた小箱を取り出し、貴音に手渡した。小箱に描かれている模様に目を輝かせ、開けて良いかと聞いてくる貴音に頷く。
いくつになっても嬉しそうな顔を見せるから、買ってあげたくなるんだよなぁ。
「これなーに?」
「アルシャの赤土で作られた顔料で、泥パックみたいに使うんだってさ。アルシャの女性にとっては必需品らしいよ。お前、そういうの好きだろ?」
「流石お兄ちゃん! よく分かってるじゃん! ねぇ、アルシャってこの赤土みたいに赤い街だった?」
「うん。夕日に照らされるとほんとに真っ赤になるんだ。すごく綺麗だったよ」
沈みゆく夕陽によってさらに赤く染まった街の景色を思い出す。
「アイル。お前は迎えに行くこともまともにできないのですか。子どもですか? いえ、子どものほうがまだまともに言いつけられたことを実行できますよ。常々考えていましたが、幼児教育からやり直しますか?」
「ごめんなさい」
いつまで経ってもやってこないおれ達に痺れを切らして迎えに来たリノウは、アイルをずっと叱り続けている。アイルはキノコでも生えそうなくらい落ち込んでいる。
「でも兄上。俺もそろそろ休憩が欲しかった、っていうか……」
「忙しい私の時間をこうして奪っておいて、自分の時間が欲しいと?」
「ごめんなさい」
まるで貴音とおれを見ているようだ……。リノウにはカイウスも弱いみたいだけど、それでも兄弟仲がいいのは良いことだと思う。
「さぁ、着きましたよ。アイル、お前はまたあとで話があります」
「う……はぁい」
まだまだお説教から解放されない様子に、アイルのいつもの遊び具合が察せられる。まぁ、それがアイルらしさというものなのだけど。
「私達を呼んでいるのは神子様なのですよね?」
「正確には、竜王です。それのことで、話があると」
そう言われ目を向けられたのは、おれの腕の中にある神竜の卵。
サファリファスお手製の魔道具の中に収められている卵は、落とさないように抱っこ紐のようなものでおれの身体に固定されている。
更に周りから見えないように魔道具ごと布で覆われている卵は、傍から見れば本当に赤ちゃんを抱えているようにも見え――いや、そんなことはないはず。
ここに来るまでにすれ違った顔見知りの近衛騎士達の視線がもの言いたげだったのも気のせいだよね?
「神竜が何故か目覚めない今、卵のことを聞けるのは竜王だけと思ってはいたが、まさか向こうから情報をくれるとは。嬉しい誤算だ」
「しかし、アルシャから戻ってすぐとは、些か急では?」
「竜王ができるだけ早くということだったので。『情報は早く手に入れるが勝ち』というのはロイ、貴方のほうがよく知っているのでは?」
「……えぇ。身に染みて存じております」
情報収集を主に行う騎士団、竜の眼に元々所属していたロイに情報について語るとは。流石リノウ、煽りスキルが高いなぁ。でもあんまりロイを虐めないでほしい。
何とも言えない少しの苛立ちを感じているだろうロイの背を撫でて慰める。振り返って微笑んでくれたので良しとしよう。
「いちゃつくのは後にしろ。行くぞ」
サファリファスにとってはもはや見慣れた光景となったらしく、おれ達のいちゃつきに目を向けることもなく、彼はたどり着いた部屋の扉をノックせずに開けた。
扉を開けると、そこは奥行きのある部屋だった。
横幅はそれほど広くはないが、部屋の向こうは結構遠く。
隠し部屋というほどでもないが、あまり使われていないことは部屋の隅に見える埃から察せられた。
窓がないせいか薄暗い部屋には貴音とカイウスがいたが、こちらを向いた二人はアイル以上に疲れた顔をしていた。
なにやら書類を確認していたようで、部屋の真ん中には長い机が置かれているが、その上にはかなりの量の書類が積み上げられ、側にあるサイドデスクの上にも書類が散らばっている。
「お兄ちゃん、おかえり~! で、それ誰の子?」
「神竜の卵だから!!」
言うと思った!!
本当に期待を裏切らない奴だな。
「まったく。そんなこと言う奴にはお土産あげないぞ」
「うそうそうそ! お土産欲しいです!」
「ははっ、タカネはタカトと一緒の時が一番元気だね」
貴音が「お土産欲しいだけだから!」とツンデレを発動している隣で、カイウスが笑いながら手に持っていた書類を置いた。
貴音を見るカイウスの目が優しい。
アルシャに行く前も優しい眼差しで貴音を見ていたが、今はその眼差しの中に前より甘さが増しているように思える。
おれがいない間にどこまでストーリーが進んだんだ。
「カイウス王子にもお土産ありますよ。もちろんリノウ王子とアイル王子にも」
「ありがとう。お土産なんて貰えることは少ないから、嬉しいよ」
「そうなんですか?」
「贈り物ならたくさん貰えるけどね。それに、王都の外に行ける誰かさん達はみんなお土産をくれないんだよ」
カイウスの後ろからヒョコっと現れたアイルがわざとらしく肩を竦めた。誰かさんって、絶対ダレスティア達のことじゃん。
荷物を置いて、サイドデスクに散らばる書類を片付けているロイの手が一瞬止まったよ。
「こら、アイル。ダレスティア達は任務で出かけているのだから、そんなことを言うな」
「はーい。でも俺、ダレスティアって言ってないよ? それってカイウス兄上もそう思ってるってことだよねー」
「い、いや! そんなことはないぞ!」
「アイル、兄上で遊ばないように。兄上もすぐに乗せられないでください」
「はーい」
「ごめんなさい」
「三兄弟、尊い……」
相変わらずの三兄弟の様子を見ていたら、最後にオタクの鳴き声が聞こえてきた。
思わず横にいた貴音の頭を軽くはたく。
静かだなと思ってたら、ただオタク感情が溢れていただけのようだった。相変わらず貴音もちゃんとオタクしてて安心したよ。
「それで、アルシャから戻った我々を、荷物を下ろす間もなく連れてきた理由を早くお聞かせ願えますか?」
ちゃっかり椅子に座り、どこからか取り出したティーセットで紅茶を飲みながらくつろぐサファリファスに、リノウがため息を吐いた。
サファリファスの苦言にシュンとしたのはカイウスだけだったが、怒られた子犬になっている彼を見て、貴音は「きゃわいい……」と手を合わせていた。
ただのオタクになっている貴音の頬を突いて意識を呼び戻す。拝むのはあとにしなさい。
「貴音。おれ達を呼んだのは竜王なんだろ? お前が間に入らないと話ができないじゃん」
「はっ……! そうだった! えーと、ちょっと待ってね」
まったく。感情が昂りすぎるとポンコツになるんだよなぁ。
貴音は慌てて竜王の宝玉を自身の体から出現させて、机にセッティングしていく。そんな貴音を見ながら、おれもダレスティアに萌えてる時とかあんな醜態を晒さないようにしよう、と誓いを立てた。
「ヴァルシュ。起きて」
貴音が竜王の宝玉に手を触れそう呼びかけると、宝玉が淡く輝き始めた。
貴音が言うには、神竜と一緒で竜王は基本的に宝玉の中で寝ているらしい。大昔にあった大天災からこの大陸を守る時に負った傷を治すためだという。
しかし貴音はその竜王を起こすために大声で宝玉に呼びかけている。
「おーい。神竜の卵でなんか言いたいことがあるんでしょ? 呼び出しといて寝てるとか何様よ」
「竜王様だろ」
「お兄ちゃんは黙ってて」
ラディア王国で敬われる竜王に対してはとても不敬な扱いに、王子達とロイはそわそわと落ち着かない様子だ。サファリファスだけは面白そうに紅茶を飲んでいる。
しかし竜王、なかなか返事がない。
ちょっとせっかちな貴音は、とうとう宝玉をぺちぺちと叩き始めてしまった。
カイウスとロイは心なしか少し青褪めている。おれは漆黒の宝玉から放たれる光が強くなったり弱くなったりしている様子が綺麗だなぁと癒されていた。
「おーい! おーい!」
『……うるさいぞ』
貴音が宝玉を叩いていると、腹の底に響くような低い声が脳裏に響く。
「やっと起きた! お待ちかねの神竜の卵だよ!」
『む。やっとか』
人を呼び出しておいて寝坊して、更に謝る気すらない傲岸不遜なところは神様だなって思う。
おれは竜王に指示されて、机の上に移動用の魔道具に入ったままの神竜の卵を置いた。
『何に入れている?』
「転移魔法陣の魔力から守るための魔道具です」
ふむ……と言う声が聞こえ、ふいに魔道具の側に何かを感じた。
竜王の姿は見えないが、彼がそこにいる気配のようなものを感じる。
『魔道具から出せ。もともとコレが入っていた器に入れたほうがコレもより安定する』
「ヴァルシュ。貴方やっぱり神竜の卵のこと知ってたのね?」
『知らないとは言っていない。それに何度もいちいち説明するのは面倒だ。どうせならまとめて話すほうが効率がいいだろう』
「……はぁ?」
確かにそのほうが効率はいい。でもせめて貴音には言っておいてほしかった。見るからにご機嫌斜めになっちゃったよ。
『セフィはずっと寝ているのか?』
「……え?」
「神竜のことだよ、お兄ちゃん」
「あぁ、神竜のこと……。神殿の遺跡から卵を持ち帰ってからはほとんど寝てますね」
聞き馴染みのない名前に、質問に答えるのが遅れてしまった。そういえば神竜は、竜王には『ハクロ』じゃなくて『セフィ』って呼ばれてたんだったな。
親しい相手だと呼び方も変わるのは分かる。おれもクーロをクーって呼んでるし。でもなんでハクロとセフィだなんていう関係性が全然ない呼び方なんだ?
『セフィが寝ているのは魔力をできるだけ貯めておくためだろう。今、この卵には、お前の体内にいるセフィから魔力が流し込まれている』
「卵に、魔力を?」
サファリファスの目が魔力の流れを見ようとしているかのように、おれと卵の間を行ったり来たりしている。
おれも神竜の魔力が注ぎ込まれているという卵を見る。
ロイによって慎重に魔道具から取り出された神竜の卵は、薄暗い室内を照らすランプの灯りを反射して、煌めいているだけだ。
竜王の宝玉のように自ら光を発することはない。
『卵に注ぐ魔力と自身の生命活動のための魔力を確保するのに精一杯で、お前達で遊ぶ余裕もないのだろうな』
「おれ達で遊ぶって……。いや、それって頭の中で会話することができないほど魔力が足りてないってことですか?」
『それくらいならできると思うが、おそらく卵に魔力を注ぐことに集中しているのだろう。儀式の失敗は許されないからな』
なんだか不穏な言葉が聞こえてきた。
「神竜……ハクロ様が行おうとしていることは、タカトに影響があることなのでしょうか」
見上げたロイの表情は穏やかながらも、その目は心配そうにおれを見ていた。神竜が何かをしようとしているのなら、おれにも関係があると考えるのは妥当だ。
『もし仮にセフィが失敗した場合、何が起こるか分からぬ。しかし、宿主にも相応の影響があることは間違いない』
「神竜がしようとしていることは、それだけ危険なことなんでしょ? お兄ちゃんの承諾なしにそんなことしないでほしいんだけど」
竜王の宝玉を睨みつけて指先で弾いている貴音の言葉が、どこか他人事のように思っていた自分に突き刺さった。
『承諾の有無は必要ない。セフィにはしないという選択肢がないだけだ。これほどの絶好の機会はないのだからな』
「もし……もし失敗したら何が起きるんですか」
心臓が痛いくらい速く鼓動を打つ。
『安心するがいい。お前が死ぬことはない。精々、ほんの少し寿命が縮まるくらいだ』
「なら、ハクロは?」
竜王の返答には、一拍の間があった。
『良くて再び長い眠りにつく。最悪の場合は今度こそ二度と蘇らない死を迎える』
誰も声を上げることができなかった。
おれと神竜、どちらのリスクのほうが高いかと言われれば、神竜が負うリスクのほうが高いけれど、神竜にやらない選択肢はないという。
そもそもおれには神竜を止めることはできないのだけれど、それでも何をするのかくらいは教えてくれてもいいじゃないかと怒りが込み上げてくる。
おれと神竜は一心同体なんだから。
『お前達はセフィが何をしようとしているのかを知りたいのだろうが、それも含めて後で説明してやる。今日はセフィとコレの様子を確かめたかっただけだからな。戻っていいぞ』
「……だから何様よ」
貴音の弄りも覇気がない。それもそうだ。貴音は死ネタバッドエンドが地雷だからな。おれも苦手だけど。
だからこそ神竜の手伝いをしたいのだけど、神竜はやっぱり返事をしてくれないし、竜王はまた寝てしまったようだ。
おれにできることは心身を健康に保つことと、体内の魔力を減らさないようにすることだけ。
「気になることはたくさんあるけれど、タカト達は各々やらなければならないことがあるだろう? ゆっくり気持ちを整理しながら荷解きでもするといい」
カイウスの柔らかい微笑みと温かい言葉が、じんわりと凝り固まっていた思考を柔らかくしてくれる。
「陛下やガレイダスには私が報告しておきましょう。そのほうが話し合いも進みやすいでしょうから」
「じゃあ俺はこれから頑張るために女の子達に癒されてもらいに行ってくるよ」
「アイル。お前の仕事はここの報告書の整理です。仕事が捗るようにウィリアムをつけます」
「リノウ兄上! それは酷すぎるよ!!」
王子達が作ってくれたほのぼのとした明るさが、重苦しかった部屋の雰囲気を和らげてくれた。貴音の口元にも笑みが浮かんでいる。
おれは静かにホッと息を吐いた。
「タカト……」
「ロイ、大丈夫だよ。とりあえず詳しいことが分かるまでは一旦忘れよう。急に死ぬとかじゃないみたいだし。ね?」
「そんな可愛らしい顔で縁起でもないこと言わないでください」
クーロがお願いしてくるときみたいに首を傾げて上目遣いで見たけれど、ロイに効果はなかったみたいだ。真面目な顔で怒られてしまった。
「どちらにしろ、今分からないことを考え続けるのは時間的にも体力的にも損でしかない。ボクは工房に戻る。調べることも増えたことだしな」
サファリファスは呪文一つで紅茶セットを片付けると、さっさと部屋を出て行ってしまった。ほんと、興味のあること以外は塩対応だよなぁ。
「私達も、部屋に戻りましょうか」
「そうだね」
「あ、お兄ちゃんの部屋はまだ神子の宮だから。ゼナード伯爵に狙われてること、忘れてないでしょうね」
「あ……」
あぁ、そうだった。ゼナード伯爵の件もあったんだった! 気が休まる時がないな……
「まったく。お兄ちゃんはもっと自分が狙われてる自覚を持って。あの蛇男。なかなか尻尾を出さないから調査も大変なんだよ! 抜け殻の一つくらい落としてくれてもいいと思わない!?」
おれは今にも手に持った書類を破きそうな貴音の肩を宥めるように叩く。
しかし後ろに立つおれの顔を見上げた貴音の目力の強さと手首を掴む力の強さに、思わずビクついた。頬までひくついてしまう。
「お兄ちゃん。今夜は寝かさないからね」
「いや、あの、お兄ちゃんは神竜のために早めに寝ようかなぁって……」
「妹がお兄ちゃんのために頑張ってるのに、愚痴の一つも聞いてくれないわけ? ひどーい」
「う……」
縋るようにおれは視線だけでロイに助けを求める。
が、ロイは苦笑しておれから目を逸らした。ガーンという効果音が頭の中で鳴った気がした。
◇◇◇◇
「タカト! おかえり~!」
「クー! ただいま!」
ぴょんと飛びついてきたクーロを抱きしめた。
クーロはもふもふな尻尾をぱたぱたと左右に振っている。おれはわしゃわしゃと彼の頭を撫でて、さりげなくお耳をもふった。
あぁ、癒される……!!
「リノウ王子に魔法いっぱい教えてもらえた?」
「うん! 今は基礎をちゃんとやる時なんだって! だから色んな魔法の基礎を教えてもらったんだけど、すごい分かりやすかったよ!」
流石、インテリなリノウというわけか。
クーロはオウカにも魔法を教わっていたが、天才肌なせいかオウカの場合いくら教育本を参考にしたところで微妙に伝わってない部分があった。
けれどリノウならクーロに合わせて分かりやすく教えてくれるはずだ、と勝手に期待してたけど、上手くやってくれたようで安心した。
「魔法は大人になるほど感覚で使うものです。だからこそ大人が子どもに教えるのは難しいのですが、流石はリノウ王子ですね」
「うん。頼んで良かったよ。これがアイル王子だったら、基礎を無視してすごい魔法ばかり教えそうだしね」
「実際、リノウの隙をついて変な魔法を教えようとしてたよ。すぐに見つかってお仕置きされてたけど」
アイルの悪戯癖はなかなか治りそうにないな。同じ感想を抱いたのか、ロイも呆れたように笑んだ。
「しかしクーロ、本当によく頑張りましたね。魔力量が大幅に上がってますよ」
「ほんと!? どれくらい? どれくらい増えてますか!?」
ロイに魔力量が増えたことを褒められたのが本当に嬉しいらしい。目をキラキラさせて今にも飛び跳ねそうだ。
クーロは嬉しくなると何度もジャンプする癖がある。いわゆる、わーいわーい、というやつだ。とても可愛い。
「詳しくは検査しないと分かりませんが、ダレスティア団長の三分の一くらいでしょうか……」
「団長さんの三分の一! ……ってどれくらいですか?」
少し分かりづらい例えに首を傾げているクーロの横で、おれは別のことで首を傾げていた。
ダレスティアの魔力量は多くはないと聞いたことがある。
でも、いくら才能があるといってもまだ子どものクーロに、三分の一も追いつかれるほど少ないのか?
おれの疑問を察したのか、ロイが先手を打って答えた。
「ダレスティア団長の家系は少し特殊なのです。団長が戻られたら、直接聞いてみてください。私が知る以上のことを教えてくださると思いますよ」
確かに、そういったことは本人のいないところであれこれ話すことでもないか。
「それでは私は宿舎に戻ります。夕方に一度こちらにお邪魔しますね」
「うん。クーはどうする?」
「タカトと一緒にいたいけど、僕も今お手伝い中なんだぁ……。宿舎のお掃除してるの」
「そっか。偉いな、クーは」
「えへへ」
おそらく竜の牙の団員達が戻ってくるから、宿舎中の大掃除をしているのだろう。部屋数も多いから、宿屋で働いていたクーロは大きな戦力になっているはず。
あとでいっぱい甘やかしてあげよう。
「では、私と一緒に行きましょうか」
「はい!」
「ガイヤ卿、よろしくお願いいたします」
「あぁ」
いつの間にか側にいたウィリアムに驚いたのはおれだけだった。貴音はおれが驚いたことに気が付いたのか、笑いを堪えようとしている。
お前、分かってたなら教えろよ……!
「タカト、あとで」
「あ、うん! またあとで」
「お部屋綺麗にするからね!」
「うん。頑張って!」
時々振り返っては手を振ってくるクーロに手を振り返す。花壇の先を曲がって二人の姿が見えなくなってから、手を下ろした。
「あの二人、髪色が似てるからか、犬属性だからか、親子に見えなくもないよね」
「ロイとクーなら年齢的に親子じゃなくて兄弟だと思う。親子ならオウカじゃない?」
「じゃあダレスティアとだったら?」
ダレスティアとクーロが並んでいる姿を思い出す。ダレスティアは初めてクーロに会った時よりも態度や雰囲気は柔らかくなっているが、クーロのほうはまだ少し緊張気味だ。
「うーん……それこそ飼い主と迎えられたばかりの子犬じゃない?」
「それってダレスティアはクーロに懐かれてないってこと?」
「いや、クーは密かに懐いてる感じ」
クーロの憧れはダレスティアだと思うんだよね。なんかダレスティアを見てる時だけ一段と目がきらきらしてるんだよなぁ。
ダレスティアはそんな視線に慣れてるせいか、まったく気が付いてないけど。
「じゃあ王子達とだったら?」
「従兄弟」
「分かる~」
きゃっきゃと楽しそうな貴音と一緒に、久々の神子の宮に入る。相変わらず真っ白な建物は汚れの一つも見当たらない。
ぐるっと床から壁、天井を見てからなんとなしに今通って来た扉を振り返ると、ウィリアムがおれ達の後ろで何かしているのが目に入った。扉に何やら魔法をかけているように見える。
「あぁ、あれ? 結界張ってるの。神子の宮全体にね」
「結界? そんなのおれがいた時にもあったっけ?」
「一応あったのよ。だけど突然アイルが夜中に来たときに結界を突破されちゃってね。まぁ、アイルにあの程度の結界なんて意味がなかったってだけなんだけど、それからウィリアムが結界の重ねがけをするようになったの……って、お兄ちゃん? 顔色が悪いよ? 疲れた?」
おれは貴音の肩に手を置いた。
「貴音。その話、詳しく聞かせなさい」
貴音の部屋に入ったおれは、すぐに椅子に腰を落ち着かせて、貴音に事の顛末を聞いていた。
「アイルのあれは王族ルートに入ると絶対あるイベントなんだよ。三つの選択肢があって、恋愛ルート、友情ルート、バッドエンドになるやつ。カイウスとリノウのルートに行きたい人はここで友情ルートを選ぶ必要があるわけ」
「何でアイルだけ強制イベントになってるの?」
「有志の考察では、アイルが王族ルートの鍵になってるんじゃないかって。ほら、王子兄弟仲良しじゃん」
つまり、末っ子がおれ達のことを認めてくれないと、兄王子とはお付き合いできないってこと? アイルってそんなブラコン仕様だったっけ?
「色々とストーリーが変わってるから、いくら強制イベントって言っても流石に起こらないと思ってたんだけど……。ここでは強制力が働いたみたいなんだよね。でも私は正直に伝えたよ。アイルのことは友達として好きだけど、それ以上の関係になるつもりはないって」
「……それって、主人公の台詞?」
「ちゃんと私自身の言葉だよ。ゲームだともっと思わせぶりだけど、そんな気持ちもないのに希望持たせたらダメじゃん」
私はそういう恋の駆け引きみたいなのあんまり好きじゃないんだよねー、だなんて笑っている貴音の様子を見て、おれは肩の力を抜いた。
「そっか。でもほんとに何もなかったんだよね?」
「ないない! 恋愛ルートの夜這いもキスくらいだったから大丈夫。お兄ちゃんが心配するようなことは何もなし! むしろ珍しく怒ったウィリアムさんに引きずられてくアイルをお兄ちゃんにも見てほしかったなぁ」
王族第一主義のようなウィリアムがアイルに怒ったというのも珍しいことだ。そこはゲームでは表現されてなかった気がする。
それにしても、強制力か……
「お兄ちゃん、どうかした?」
「ん? いや、なんでもない」
「そう?」
貴音は知らないけど、カイウスは貴音のことが好きだ。そしてそれを、アイルも知っているはず。
それなのにあのイベントは起きてしまった。
もしかしてカイウスに発破をかけるため?
でもさっきのカイウスとアイルの様子を見るに、そういった様子は見られなかった。
ということは、アイルの感情も無視した強制力なのか? でもこれは王族ルートに入らないと起きないイベントだって言って――あ。
「なぁ、貴音」
「なに?」
「アイルが来る前、カイウスと何かあった?」
「カイウス?」
貴音のキョトンとした顔を見て、おれは確信した。
もしや無意識下でカイウスルートを選んだな?
「なにか誘われたとか」
「あ、そういえば。今度一緒にお茶を飲もうって誘われたけど」
それだー!!
確か王子との二人きりのお茶会には特別な意味があるって設定があったはず。ダレスティアが報告のためにそのお茶会に現れるシーンがあったから覚えてるぞ!
「でも、これまでにもお茶会は何度もやってるから特別なことじゃないよ。リノウとアイルも一緒だったから二人きりではないし」
いや、確実にそのお誘いは二人きりのやつだろう。
アイルのイベントが起きたってことは、カイウスかリノウのルートに入っていることは確実。それでいてカイウスの貴音を見るあの眼差し。
……間違いない、貴音はカイウスルートに入っている。
「……まぁ。貴音の自由にしたらいいけど、気を付けてね、色々と。お兄ちゃんは心配です」
「なにそれー。この見た目だけど中身はちゃんと成人済みなんだからね! それに、トラブルメーカーのお兄ちゃんに心配されてもねぇ?」
「う……それは否定できない」
おそらく貴音は、アイルのイベントは単にこの世界の決められたストーリーを進めるための強制力で起きたものだと思っていて、何か特別な意味があって起きたとは認識していない。
別に貴音の恋愛事情に踏み込もうとは考えていないけど、カイウスが貴音に惹かれている以上、このままカイウスルートのストーリーが進んでもおかしくはない。
さて、カイウスの気持ちが貴音にバレないようにこの事実を伝えるにはどうすればいいのか。
おれは新たな問題に心の中で頭を抱えてしまう。
しかしおれのそんな気持ちさえ知らず、貴音は「そういえば」と話題を変えた。
「ところでお兄ちゃん、お土産は?」
「あ、そうだった! えーっと……これ!」
貴音の声に急かされつつ、おれは魔道具の中に収納していた小箱を取り出し、貴音に手渡した。小箱に描かれている模様に目を輝かせ、開けて良いかと聞いてくる貴音に頷く。
いくつになっても嬉しそうな顔を見せるから、買ってあげたくなるんだよなぁ。
「これなーに?」
「アルシャの赤土で作られた顔料で、泥パックみたいに使うんだってさ。アルシャの女性にとっては必需品らしいよ。お前、そういうの好きだろ?」
「流石お兄ちゃん! よく分かってるじゃん! ねぇ、アルシャってこの赤土みたいに赤い街だった?」
「うん。夕日に照らされるとほんとに真っ赤になるんだ。すごく綺麗だったよ」
沈みゆく夕陽によってさらに赤く染まった街の景色を思い出す。
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※♡、ブクマ、エールありがとうございます!すごく嬉しいです!
※表紙作りました!絵は描いた。ロゴをスコシプラス様に作って頂きました。可愛すぎてにこにこです♡
【登場人物】
攻→ヴィルヘルム
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