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番外編
その狼の愛は止まることを知らない 8
ミシュラさんの背中を睨みつけるように見つめながら、その後ろを緊張しながらついていく。
この緊張はこの庭園に入る前までのものとは別物。まさか、カーネリアン夫人に会う前にこんな試練が待っているとは思わなかった。三歩の距離から離れるなと言われたけれど、三歩どころかその背中に縋りつきたいくらいだ。
「タカト様にこんなに見つめられてしまっては、坊ちゃんにヤキモチを焼かれてしまいそうですなぁ。あっはっは!」
「いや、笑いごとじゃないですよ!」
こっちは必死になってついて行っているのに、どうしてこの人はこんなに呑気に会話できるんだ⁉
おれがこれほどまでにビビっている理由は、この庭園にかけられている魔法にあった。
「三代前のサファリファス家ご当主様がこの中庭に様々な魔法をかけて実験をされていたと聞いております。何でも密談に適した庭園を造ろうとされていらっしゃったとか」
サファリファス家の気質って昔から変わらないんだなぁ。
ミシュラさんが言うには、認識阻害に防音防御、様々な魔法をかけていたらしい。いくら臣下の家だからって好き勝手にやりすぎだと思うんだ……
「加えて至る所に様々な魔導具を設置していかれたらしいのですが、認識阻害の魔法が邪魔をして撤去することができずこのような混沌とした庭園になっております。しかし、辛うじてガゼポまでの道は確保されておりますので、密談や要人の保護という点では最適な場なのですよ」
三歩の距離を進むごとに空間が歪むように周りの景色が変わっていくこの庭園は、もう魔境といってもいい。もし決められたルートから外れてしまったら別世界に飛ばされてしまうかもしれないという想像にゾッとして、ミシュラさんとの距離を更に縮めて足を進めた。
「あちらが、奥様がお待ちになっておられるガゼポです。あの中はこの庭園内の魔法の影響を受けませんのでご安心くださいませ」
ミシュラさんが指し示した先には、大きなガゼポがある。ちょっとした小屋と変わらないくらいの大きさ。中は広々としていそうだ。そして珍しく柱の間はガラス張りで解放されていない。
「この庭園を使った実験の元々の計画が立ち消えてからは、あのガゼポで珍しい薬草などを育てていたそうです。機密性を高めるためにあのような形にしていたのですが温室としても有用的でして、今では奥様お気に入りの場所になっています」
ミシュラさんの言葉で思い出した。サファリファスのお父さんは確か、薬草の研究をしていたはず。もしかしたら昔はこの庭園で危ない薬草を育てていたかも。
「テラスに出てからここまで少し歩きましたけれど、それも理由があるんですか?」
中庭に出てからガゼポまで少し距離があった。貴音とお茶会をした神子の宮にもガゼポはあったが宮からそこまで離れていなかった。けれどここは、振り返れば見えるはずのテラスの入口は遠くにポツンと見えるほど。理由があって離れたところに建てたとしか思えなかった。
「鋭いですねぇ。もしこの庭園の道を知る侵入者が現れたとしても、ガゼポまでたどり着く時間を長くするためにあえて屋敷から離して建てられています。入口には人が通ると私が持つ端末に報せが来る魔導具が設置されていますから、すぐに守衛が駆け付けます。なにより、テラスからガゼポまでは実質一本道ですから隠れることはできません」
この前おれがゼナード伯爵の部下に攫われた場所、神子の宮までの道がこうなっていれば、おれが攫われることもなかったかもしれないのになぁ……
そう思わずにはいられないほど、完璧なセキュリティ対策。サファリファスの御先祖様が好き勝手に弄ったからできた産物だという点を除けば、今すぐ王宮にも導入してもらいたいくらいだ。
「奥様。タカト様をお連れしました」
「入りなさい」
少しだけ開けた扉から聞こえてきたのは、想像していたよりも柔らかい声だった。
ミシュラさんが扉を大きく開いて、おれに目配せをする。今更ながらぶり返してきた緊張で乾いてきた喉で唾を飲みこんで、おれはガゼポの中に足を踏み入れた。
この緊張はこの庭園に入る前までのものとは別物。まさか、カーネリアン夫人に会う前にこんな試練が待っているとは思わなかった。三歩の距離から離れるなと言われたけれど、三歩どころかその背中に縋りつきたいくらいだ。
「タカト様にこんなに見つめられてしまっては、坊ちゃんにヤキモチを焼かれてしまいそうですなぁ。あっはっは!」
「いや、笑いごとじゃないですよ!」
こっちは必死になってついて行っているのに、どうしてこの人はこんなに呑気に会話できるんだ⁉
おれがこれほどまでにビビっている理由は、この庭園にかけられている魔法にあった。
「三代前のサファリファス家ご当主様がこの中庭に様々な魔法をかけて実験をされていたと聞いております。何でも密談に適した庭園を造ろうとされていらっしゃったとか」
サファリファス家の気質って昔から変わらないんだなぁ。
ミシュラさんが言うには、認識阻害に防音防御、様々な魔法をかけていたらしい。いくら臣下の家だからって好き勝手にやりすぎだと思うんだ……
「加えて至る所に様々な魔導具を設置していかれたらしいのですが、認識阻害の魔法が邪魔をして撤去することができずこのような混沌とした庭園になっております。しかし、辛うじてガゼポまでの道は確保されておりますので、密談や要人の保護という点では最適な場なのですよ」
三歩の距離を進むごとに空間が歪むように周りの景色が変わっていくこの庭園は、もう魔境といってもいい。もし決められたルートから外れてしまったら別世界に飛ばされてしまうかもしれないという想像にゾッとして、ミシュラさんとの距離を更に縮めて足を進めた。
「あちらが、奥様がお待ちになっておられるガゼポです。あの中はこの庭園内の魔法の影響を受けませんのでご安心くださいませ」
ミシュラさんが指し示した先には、大きなガゼポがある。ちょっとした小屋と変わらないくらいの大きさ。中は広々としていそうだ。そして珍しく柱の間はガラス張りで解放されていない。
「この庭園を使った実験の元々の計画が立ち消えてからは、あのガゼポで珍しい薬草などを育てていたそうです。機密性を高めるためにあのような形にしていたのですが温室としても有用的でして、今では奥様お気に入りの場所になっています」
ミシュラさんの言葉で思い出した。サファリファスのお父さんは確か、薬草の研究をしていたはず。もしかしたら昔はこの庭園で危ない薬草を育てていたかも。
「テラスに出てからここまで少し歩きましたけれど、それも理由があるんですか?」
中庭に出てからガゼポまで少し距離があった。貴音とお茶会をした神子の宮にもガゼポはあったが宮からそこまで離れていなかった。けれどここは、振り返れば見えるはずのテラスの入口は遠くにポツンと見えるほど。理由があって離れたところに建てたとしか思えなかった。
「鋭いですねぇ。もしこの庭園の道を知る侵入者が現れたとしても、ガゼポまでたどり着く時間を長くするためにあえて屋敷から離して建てられています。入口には人が通ると私が持つ端末に報せが来る魔導具が設置されていますから、すぐに守衛が駆け付けます。なにより、テラスからガゼポまでは実質一本道ですから隠れることはできません」
この前おれがゼナード伯爵の部下に攫われた場所、神子の宮までの道がこうなっていれば、おれが攫われることもなかったかもしれないのになぁ……
そう思わずにはいられないほど、完璧なセキュリティ対策。サファリファスの御先祖様が好き勝手に弄ったからできた産物だという点を除けば、今すぐ王宮にも導入してもらいたいくらいだ。
「奥様。タカト様をお連れしました」
「入りなさい」
少しだけ開けた扉から聞こえてきたのは、想像していたよりも柔らかい声だった。
ミシュラさんが扉を大きく開いて、おれに目配せをする。今更ながらぶり返してきた緊張で乾いてきた喉で唾を飲みこんで、おれはガゼポの中に足を踏み入れた。
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