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ラスの部屋に移動してから数日。感想は暇の一言に尽きる。
これまでラスはほぼ毎日、王城内にあった僕が滞在していた部屋までわざわざ来ていた。そのせいで騎士団の訓練にほぼ参加できていない状態だったらしい。ラスは自室に繋がっている団長室に籠って僕を構いながら事務作業をする気満々だったけど、彼の部下達が黙っていなかった。

『団長! 婚約者様が大切なのは分かりますが、そろそろ訓練に参加してください!』
『お前たちは私がいないと何もできない間抜けではないでしょう?』
『お前こそいい加減団長としての仕事をしろ。正式に結婚する前に無職になるつもりか?』
『だから溜まった書類を片付けようとしてる』
『もう俺が終わらせた。だからお前は訓練に行け。勇者様方もお待ちだぞ』

先日の恨みか、シャールが事務仕事を事前にほとんど片付けてしまっていたらしく、特別他に仕事がない状態になったラスは、騎士たちに連れて行かれてしまった。勇者様方がお待ちだという言葉は、ラスへの嫌がらせだろう。

人には見せられないような表情をしたラスは抵抗空しく連行され、僕は一人寂しくお留守番だ。することもないから、ラスのベッドでごろ寝中。

最初はふわふわすぎて寝れなかった、このご立派なベッドにも段々慣れてきた。寝れないとラスが悪戯してくるから、さっさと寝るようになったっていうのもあるけど。

「ん?」

団長室の扉がノックされた。部屋の主は今頃部下達を扱き倒していることだろう。訓練場があると教えてもらった方からは騒がしい声が聞こえる。つまりラスが団長室にいないことは、騎士団員達の誰もが知っていること。明らかに不在が分かり切っている部屋をノックすることに意味はない。それでもノックしたということは、団長室にいるだろう他の誰か―つまり僕に用があるということだ。

「…………」

もう一度、ノックされた。今度は先ほどよりも雑な感じだ。この時点で、騎士団員ではないことが確定した。それが分かった時点で、僕は絶対に返事をしないことに決めた。そもそも、僕は団長室じゃなくて、ラスの部屋にいる。いくら扉で繋がっているとはいえ、ここはプライベート空間。わざわざ僕が返事をする理由はない。

「……お~い。那智く~ん」
「おい、深山いるんだろ。居留守なんて使わずに出て来いよ」

……こいつら、ラスと一緒に訓練してるんじゃなかったのか?

扉が開く音と同時に聞こえてきた声。神尾くんの今カノの姫川さんと、神尾くんを神聖視している坂元くん。僕を殊更嫌っている二人だ。
僕が騎士団の宿舎に移ったことは知っていただろうが、いつまで経っても宿舎内で見かけないから焦れて乗り込んできたのか。随分と大胆な事をするな。そこまでして、僕を傷めつけたいのかな。もうそれって病気じゃない? というか、僕はもう神尾くんとは何の関係もないんだけどなぁ。

ドガッ!

「深山! 出て来いって言ってんだよ!」

この部屋の扉を蹴りつける音と、坂元くんの怒声。あぁ、久々だなぁ。この怒鳴り声を懐かしく思うなんて想像もしていなかった……なんて、感慨深く思ってみたり。でも一つ言わせて欲しいなぁ。

「なぁに? 坂元くん。この部屋、僕の部屋じゃないから扉壊しても庇ってあげられないよ?」

君のその蹴り、ほんとに痛いんだから。




※14話のえっちがマニアックって友人に言われたんですけど、皆さん大丈夫ですか?
多分、本番もだいぶ、アレな感じになると思うので先に宣言させていただきます。
ラスの性格的に、ピュアな愛で方はしません(白目)
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