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後編
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「あのぉ……」
ジェイスが俺の右腕に懐いている横でミエルは不安そうに佇んでいた。
俺は名刺入れから一枚取り出し、彼に差し出した。
「その名刺をうちの屋敷の門番に見せれば、俺のところまで連れてきてくれるよ。紹介状のようなものだね」
「紹介状……ですか」
「今日入学した新入生に、俺の息子が二人いるんだ。二人とも養子なんだけど、ユリウスは新入生代表に選ばれるくらい頭も良くて魔法の才能もある。加えて、精霊王の愛し子」
「おぉ……」
「本人は性格も良くていい子なんだけど、専属になるほど相性の良い使用人に出会えてなくてね。もう一人の息子のカーディアスは剣に覚えのある専属が随分前からいるんだけど、ユリウスだけがずっと決まらないんだ。だけど、君ならユリウスも認められるんじゃないかなと思ってね」
「なるほど……それで紹介状ということですか」
話を聞いてマジマジと名刺を見ていたミエルだったが、困ったような表情を俺とジェイスに向けた。
「大変ありがたいお話だとは思うのですが、俺はやっぱり団長と一緒に働ける王国騎士を諦めることを簡単には決められないです」
困りながらも自分の意思を真っすぐに伝えてくるところ、増々気に入った。
「でもなぁ、ミエル。お前は魔法の才能が良くても剣はそこまで得意じゃないだろ。魔法で補える器用さがあったから俺の隊に入れたが、正直俺の騎士団では魔法はそこまで重用しない。このままじゃ宝の持ち腐れだぞ」
「でも団長ぉ……!」
ジェイスは学生の時から人気者で憧れている奴は多くて、未だにパーティでも男女共に人気だが、ここまで慕われてるのは初めて見たな……。まるでアイドルの追っかけ……あぁ、推しってことか。なら、この手は使えるかもしれない。
縋るようにジェイスの腰に抱き着いているミエルの耳に、俺はこそっと囁いた。
「……これはさっき決まったことなんだが」
「え……?」
「俺とジェイスは正式に婚約することになったんだ。つまりパトリー家で働けばそのうちジェイスと同じ屋敷に住めることになるが……どうする?」
もちろん他の使用人達もほとんどが同じ屋敷に住んでいるから、これは特別でも何でもない当たり前のこと。だけど、推しと同じところで働くために合わない職場にいるほどのミエルにとってはどう聞こえるか……
「……レイラ様」
「うん?」
「何卒、よろしくお願いいたします!!」
「おいミエル!?」
あっさり転職を決定したミエルを信じられない目で見たジェイスだったが、「団長と同じ屋敷……!」という感激の言葉に察したようだ。
「レイラ……! 俺を使ってそそのかすな!」
「ジェイスは餌に適任だっただけだ」
「だからってなぁ!」
「お前は俺と一緒の屋敷に住むのは嫌なのか?」
「え」
「ミエルがパトリー家で働けば、将来的にはジェイスと同じ屋敷に住めるぞって言っただけなんだけどなぁ」
そうかぁ、ジェイスは結婚しても別居派かぁ、残念だなぁ……とそっぽを向きながら言ったところで、両肩をガシッと鷲掴まれた。
正面に顔を戻せば、怒っているのか照れているのか分からない表情のジェイスが俺を怖くない目で睨んでいて、思わずニヨッと笑ってしまった。
「……なんで笑ってるんだよ」
「可愛い顔してるなぁって思って」
「くそっ……これが惚れた弱みってやつかよ……はぁ」
ガクッと肩の力を抜いて項垂れたジェイスは、そのまま消えそうなほど小さな声で「今日からでもレイラと一緒に住みたいに決まってるだろ」と呟いたのだった。
ジェイスが俺の右腕に懐いている横でミエルは不安そうに佇んでいた。
俺は名刺入れから一枚取り出し、彼に差し出した。
「その名刺をうちの屋敷の門番に見せれば、俺のところまで連れてきてくれるよ。紹介状のようなものだね」
「紹介状……ですか」
「今日入学した新入生に、俺の息子が二人いるんだ。二人とも養子なんだけど、ユリウスは新入生代表に選ばれるくらい頭も良くて魔法の才能もある。加えて、精霊王の愛し子」
「おぉ……」
「本人は性格も良くていい子なんだけど、専属になるほど相性の良い使用人に出会えてなくてね。もう一人の息子のカーディアスは剣に覚えのある専属が随分前からいるんだけど、ユリウスだけがずっと決まらないんだ。だけど、君ならユリウスも認められるんじゃないかなと思ってね」
「なるほど……それで紹介状ということですか」
話を聞いてマジマジと名刺を見ていたミエルだったが、困ったような表情を俺とジェイスに向けた。
「大変ありがたいお話だとは思うのですが、俺はやっぱり団長と一緒に働ける王国騎士を諦めることを簡単には決められないです」
困りながらも自分の意思を真っすぐに伝えてくるところ、増々気に入った。
「でもなぁ、ミエル。お前は魔法の才能が良くても剣はそこまで得意じゃないだろ。魔法で補える器用さがあったから俺の隊に入れたが、正直俺の騎士団では魔法はそこまで重用しない。このままじゃ宝の持ち腐れだぞ」
「でも団長ぉ……!」
ジェイスは学生の時から人気者で憧れている奴は多くて、未だにパーティでも男女共に人気だが、ここまで慕われてるのは初めて見たな……。まるでアイドルの追っかけ……あぁ、推しってことか。なら、この手は使えるかもしれない。
縋るようにジェイスの腰に抱き着いているミエルの耳に、俺はこそっと囁いた。
「……これはさっき決まったことなんだが」
「え……?」
「俺とジェイスは正式に婚約することになったんだ。つまりパトリー家で働けばそのうちジェイスと同じ屋敷に住めることになるが……どうする?」
もちろん他の使用人達もほとんどが同じ屋敷に住んでいるから、これは特別でも何でもない当たり前のこと。だけど、推しと同じところで働くために合わない職場にいるほどのミエルにとってはどう聞こえるか……
「……レイラ様」
「うん?」
「何卒、よろしくお願いいたします!!」
「おいミエル!?」
あっさり転職を決定したミエルを信じられない目で見たジェイスだったが、「団長と同じ屋敷……!」という感激の言葉に察したようだ。
「レイラ……! 俺を使ってそそのかすな!」
「ジェイスは餌に適任だっただけだ」
「だからってなぁ!」
「お前は俺と一緒の屋敷に住むのは嫌なのか?」
「え」
「ミエルがパトリー家で働けば、将来的にはジェイスと同じ屋敷に住めるぞって言っただけなんだけどなぁ」
そうかぁ、ジェイスは結婚しても別居派かぁ、残念だなぁ……とそっぽを向きながら言ったところで、両肩をガシッと鷲掴まれた。
正面に顔を戻せば、怒っているのか照れているのか分からない表情のジェイスが俺を怖くない目で睨んでいて、思わずニヨッと笑ってしまった。
「……なんで笑ってるんだよ」
「可愛い顔してるなぁって思って」
「くそっ……これが惚れた弱みってやつかよ……はぁ」
ガクッと肩の力を抜いて項垂れたジェイスは、そのまま消えそうなほど小さな声で「今日からでもレイラと一緒に住みたいに決まってるだろ」と呟いたのだった。
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