45 / 49
後編
4
しおりを挟む
「えーっと、門で学園側から渡されたカードをこちらにお願いします」
「ここに翳せばいいのか?」
「はい! そして、その横の丸が描かれているところに手を置いて魔力を流してください。そうしたらカードに登録されている魔力と照合して、機械に保護者の情報が出るようになっています。カードには事前に保護者の魔力を登録しているため、不審者はここで防ぐことができるのです! そして保護者の方は出る際にも同じ手続きが必要になりますので、カードは無くさないようにお願いします!」
手に持っていた書類はマニュアルだったらしい。明らかに説明用ではないそれを声に出して読んでいるミエルは得意げな顔をしていて、ジェイスが横でため息をついている。手のかかる後輩だな?
「えーっと……え」
マニュアルを見ながら機械を操作していたミエルが、ピシッと音をたてて固まったように動かなくなってしまった。何か不備があったのか?
「どうかしたかい? ミエルくん」
「あ、貴方がレイラ・パトリック様だったのですか!?」
驚愕という感情を顔に貼り付けたミエルが勢いよく顔を上げた。思ってもいなかった言葉に驚いて茫然としている俺を上から下まで視線を巡らせている彼の頭を、ジェイスが勢いよく叩いた。
「いたっ!!」
「見過ぎだバカ野郎。あとパトリックじゃなくてパトリーな。今は分家のご当主だよ」
「え、そうなのですか?」
「ただし分家は分家でも、侯爵な」
「こっ!? 失礼いたしました!!」
侯爵と聞いて勢いよく頭を下げたミエルに、思わず苦笑する。
未だに俺のことをパトリックと呼ぶのは、過去の俺のことは知っていて今の俺のことを知らない奴だけだ。
それこそアカデミーに在学中は入学してから退学するまでの間に俺を知らない奴はいなかっただろう。けれどアカデミーを卒業して久しい今、上位貴族以外はほとんど現在の俺のことを知るものはいない。だから時々こんな反応をされることはある。そして侯爵と知るとみんな頭を下げへりくだった態度を取る。公爵令息だったときの方が地位は高いんだけどな。
「君は王国騎士だろう? そんなに頭を下げなくてもいいよ。ジェイスの部下でもあるんだし」
「レ、レイラ様……!」
「調子に乗るな!」
「いたっ!」
本当に素直な性格だな。
上げかけていた頭をジェイスにはたき落とされて、ミエルは哀れな悲鳴を上げてしゃがみ込んだ。
「ううっ……酷いですよ団長……。そもそも、今日は団長のいい人の付き添いだと仰られていたじゃないですか!」
「だから、コイツが俺のいい人」
「レイラ様だって聞いてないですよー!」
本当にショックを受けましたというようにジェイスを見上げるミエルは子犬の眼差しだ。
ジェイスにおちょくられている彼に年下の可愛さを見出し始めていた。うん。やっぱり可愛いよなぁ。
「なぁ、ジェイス。彼、うちに貰ってもいいか?」
「……は?」
「え?」
「欲しいなぁって思って。ダメか?」
魔法研究会に在籍していたくらいだ。魔法よりも剣術の方が重要視される傾向にある騎士団で腐れさせるよりは、パトリー家に来てユリウスの専属になってもらった方がいいのではないだろうか。
「……ミエル」
「は、はい!」
「決闘だ! 剣を持て!」
「嫌です! 死んじゃいます!」
やっぱり清々しいほど素直だなぁ。
ジェイスは落ち着け。お前は剣を今持ってないだろ。
「俺だってまだレイラに『欲しい』って言われたことないのに……!」
ジェイスの言う『欲しい』は俺と意味合いが違う気がするのは俺だけだろうか。
「なんでミエルなんだ……」
「お、俺は魔法しか能がないのでお役には立てないと思います……!」
「うーん、そんなことはないと思うけど」
ユリウスにもカーディアスのように専属執事を付けようと思って、引き取ってすぐに何人かと顔合わせやお試しをしたことがあった。けれど、相性が悪いとまではいかないが良くもないという結果に終わることがほとんどで、上手く嚙み合わないとユリウスと使用人の両方にも言われてしまい、その後も適任が見つからずにとうとう学園に入学となってしまったのだ。
「素直だし魔法の才能あるし、ユリウスの専属に適任だと思うんだけど」
「……ユリウスの?」
「俺にはデリスがいるし、カーディアスにはザラドがいるだろ? 専属が付いていないのはユリウスだけだろ」
「……なんだ、ユリウスの専属ってことかぁ」
心底安心したという表情で俺の腕に抱き着いてくるジェイス。
変なところで気が早いところがあるんだよなぁ、こいつ。
「ここに翳せばいいのか?」
「はい! そして、その横の丸が描かれているところに手を置いて魔力を流してください。そうしたらカードに登録されている魔力と照合して、機械に保護者の情報が出るようになっています。カードには事前に保護者の魔力を登録しているため、不審者はここで防ぐことができるのです! そして保護者の方は出る際にも同じ手続きが必要になりますので、カードは無くさないようにお願いします!」
手に持っていた書類はマニュアルだったらしい。明らかに説明用ではないそれを声に出して読んでいるミエルは得意げな顔をしていて、ジェイスが横でため息をついている。手のかかる後輩だな?
「えーっと……え」
マニュアルを見ながら機械を操作していたミエルが、ピシッと音をたてて固まったように動かなくなってしまった。何か不備があったのか?
「どうかしたかい? ミエルくん」
「あ、貴方がレイラ・パトリック様だったのですか!?」
驚愕という感情を顔に貼り付けたミエルが勢いよく顔を上げた。思ってもいなかった言葉に驚いて茫然としている俺を上から下まで視線を巡らせている彼の頭を、ジェイスが勢いよく叩いた。
「いたっ!!」
「見過ぎだバカ野郎。あとパトリックじゃなくてパトリーな。今は分家のご当主だよ」
「え、そうなのですか?」
「ただし分家は分家でも、侯爵な」
「こっ!? 失礼いたしました!!」
侯爵と聞いて勢いよく頭を下げたミエルに、思わず苦笑する。
未だに俺のことをパトリックと呼ぶのは、過去の俺のことは知っていて今の俺のことを知らない奴だけだ。
それこそアカデミーに在学中は入学してから退学するまでの間に俺を知らない奴はいなかっただろう。けれどアカデミーを卒業して久しい今、上位貴族以外はほとんど現在の俺のことを知るものはいない。だから時々こんな反応をされることはある。そして侯爵と知るとみんな頭を下げへりくだった態度を取る。公爵令息だったときの方が地位は高いんだけどな。
「君は王国騎士だろう? そんなに頭を下げなくてもいいよ。ジェイスの部下でもあるんだし」
「レ、レイラ様……!」
「調子に乗るな!」
「いたっ!」
本当に素直な性格だな。
上げかけていた頭をジェイスにはたき落とされて、ミエルは哀れな悲鳴を上げてしゃがみ込んだ。
「ううっ……酷いですよ団長……。そもそも、今日は団長のいい人の付き添いだと仰られていたじゃないですか!」
「だから、コイツが俺のいい人」
「レイラ様だって聞いてないですよー!」
本当にショックを受けましたというようにジェイスを見上げるミエルは子犬の眼差しだ。
ジェイスにおちょくられている彼に年下の可愛さを見出し始めていた。うん。やっぱり可愛いよなぁ。
「なぁ、ジェイス。彼、うちに貰ってもいいか?」
「……は?」
「え?」
「欲しいなぁって思って。ダメか?」
魔法研究会に在籍していたくらいだ。魔法よりも剣術の方が重要視される傾向にある騎士団で腐れさせるよりは、パトリー家に来てユリウスの専属になってもらった方がいいのではないだろうか。
「……ミエル」
「は、はい!」
「決闘だ! 剣を持て!」
「嫌です! 死んじゃいます!」
やっぱり清々しいほど素直だなぁ。
ジェイスは落ち着け。お前は剣を今持ってないだろ。
「俺だってまだレイラに『欲しい』って言われたことないのに……!」
ジェイスの言う『欲しい』は俺と意味合いが違う気がするのは俺だけだろうか。
「なんでミエルなんだ……」
「お、俺は魔法しか能がないのでお役には立てないと思います……!」
「うーん、そんなことはないと思うけど」
ユリウスにもカーディアスのように専属執事を付けようと思って、引き取ってすぐに何人かと顔合わせやお試しをしたことがあった。けれど、相性が悪いとまではいかないが良くもないという結果に終わることがほとんどで、上手く嚙み合わないとユリウスと使用人の両方にも言われてしまい、その後も適任が見つからずにとうとう学園に入学となってしまったのだ。
「素直だし魔法の才能あるし、ユリウスの専属に適任だと思うんだけど」
「……ユリウスの?」
「俺にはデリスがいるし、カーディアスにはザラドがいるだろ? 専属が付いていないのはユリウスだけだろ」
「……なんだ、ユリウスの専属ってことかぁ」
心底安心したという表情で俺の腕に抱き着いてくるジェイス。
変なところで気が早いところがあるんだよなぁ、こいつ。
599
あなたにおすすめの小説
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
悪役令嬢の兄でしたが、追放後は参謀として騎士たちに囲まれています。- 第1巻 - 婚約破棄と一族追放
大の字だい
BL
王国にその名を轟かせる名門・ブラックウッド公爵家。
嫡男レイモンドは比類なき才知と冷徹な眼差しを持つ若き天才であった。
だが妹リディアナが王太子の許嫁でありながら、王太子が心奪われたのは庶民の少女リーシャ・グレイヴェル。
嫉妬と憎悪が社交界を揺るがす愚行へと繋がり、王宮での婚約破棄、王の御前での一族追放へと至る。
混乱の只中、妹を庇おうとするレイモンドの前に立ちはだかったのは、王国騎士団副団長にしてリーシャの異母兄、ヴィンセント・グレイヴェル。
琥珀の瞳に嗜虐を宿した彼は言う――
「この才を捨てるは惜しい。ゆえに、我が手で飼い馴らそう」
知略と支配欲を秘めた騎士と、没落した宰相家の天才青年。
耽美と背徳の物語が、冷たい鎖と熱い口づけの中で幕を開ける。
有能すぎる親友の隣が辛いので、平凡男爵令息の僕は消えたいと思います
緑虫
BL
第三王子の十歳の生誕パーティーで、王子に気に入られないようお城の花園に避難した、貧乏男爵令息のルカ・グリューベル。
知り合った宮廷庭師から、『ネムリバナ』という水に浮かべるとよく寝られる香りを放つ花びらをもらう。
花園からの帰り道、噴水で泣いている少年に遭遇。目の下に酷いクマのある少年を慰めたルカは、もらったばかりの花びらを男の子に渡して立ち去った。
十二歳になり、ルカは寄宿学校に入学する。
寮の同室になった子は、まさかのその時の男の子、アルフレート(アリ)・ユーネル侯爵令息だった。
見目麗しく文武両道のアリ。だが二年前と変わらず睡眠障害を抱えていて、目の下のクマは健在。
宮廷庭師と親交を続けていたルカには、『ネムリバナ』を第三王子の為に学校の温室で育てる役割を与えられていた。アリは花びらを王子の元まで運ぶ役目を負っている。育てる見返りに少量の花びらを入手できるようになったルカは、早速アリに使ってみることに。
やがて問題なく眠れるようになったアリはめきめきと頭角を表し、しがない男爵令息にすぎない平凡なルカには手の届かない存在になっていく。
次第にアリに対する恋心に気づくルカ。だが、男の自分はアリとは不釣り合いだと、卒業を機に離れることを決意する。
アリを見ない為に地方に移ったルカ。実はここは、アリの叔父が経営する領地。そこでたった半年の間に朗らかで輝いていたアリの変わり果てた姿を見てしまい――。
ハイスペ不眠攻めxお人好し平凡受けのファンタジーBLです。ハピエン。
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
ユィリと皆の動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新!
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新!
プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
【完結】王宮勤めの騎士でしたが、オメガになったので退職させていただきます
大河
BL
第三王子直属の近衛騎士団に所属していたセリル・グランツは、とある戦いで毒を受け、その影響で第二性がベータからオメガに変質してしまった。
オメガは騎士団に所属してはならないという法に基づき、騎士団を辞めることを決意するセリル。上司である第三王子・レオンハルトにそのことを告げて騎士団を去るが、特に引き留められるようなことはなかった。
地方貴族である実家に戻ったセリルは、オメガになったことで見合い話を受けざるを得ない立場に。見合いに全く乗り気でないセリルの元に、意外な人物から婚約の申し入れが届く。それはかつての上司、レオンハルトからの婚約の申し入れだった──
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
「役立たず」と追放された神官を拾ったのは、不眠に悩む最強の騎士団長。彼の唯一の癒やし手になった俺は、その重すぎる独占欲に溺愛される
水凪しおん
BL
聖なる力を持たず、「穢れを祓う」ことしかできない神官ルカ。治癒の奇跡も起こせない彼は、聖域から「役立たず」の烙印を押され、無一文で追放されてしまう。
絶望の淵で倒れていた彼を拾ったのは、「氷の鬼神」と恐れられる最強の竜騎士団長、エヴァン・ライオネルだった。
長年の不眠と悪夢に苦しむエヴァンは、ルカの側にいるだけで不思議な安らぎを得られることに気づく。
「お前は今日から俺専用の癒やし手だ。異論は認めん」
有無を言わさず騎士団に連れ去られたルカの、無能と蔑まれた力。それは、戦場で瘴気に蝕まれる騎士たちにとって、そして孤独な鬼神の心を救う唯一の光となる奇跡だった。
追放された役立たず神官が、最強騎士団長の独占欲と溺愛に包まれ、かけがえのない居場所を見つける異世界BLファンタジー!
夫から『お前を愛することはない』と言われたので、お返しついでに彼のお友達をお招きした結果。
古森真朝
ファンタジー
「クラリッサ・ベル・グレイヴィア伯爵令嬢、あらかじめ言っておく。
俺がお前を愛することは、この先決してない。期待など一切するな!」
新婚初日、花嫁に真っ向から言い放った新郎アドルフ。それに対して、クラリッサが返したのは――
※ぬるいですがホラー要素があります。苦手な方はご注意ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる