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夕方、フィルトさんは注文通りにお酒を宿屋まで運んでくれた。そしてそのすぐ後、王都から来た騎士達が町に到着した。
「外が騒がしいな」
「騎士様達が到着したのかもしれないですね。ちょっと見てきます」
そういえば王都の騎士団の騎士を見るのは初めてだなぁと思いながら扉を開けると、宿屋の前に人だかりができていた。
しかし、みんなが見ているのは宿屋とは逆の方向。そしてやたらと女性が多い。
「本当にこんな宿でよろしいのですか? 今からでも我が家の客間をご用意できますが……」
「他の任務地でも現地の宿を手配してもらっている。気にしないでくれ」
「そうですか……」
みんなが向いている人だかりの中心から聞こえてきたのは若い男の声と町長の声。どうやら自分の屋敷に泊めたい町長が諦め悪くお誘いしているようだが、すげなく断られているらしい。
思わず笑ってしまいそうになった。慌てて口元を手で隠して取り繕ったけれど、周りを見てみれば野次馬の男性達のほとんどは口元をニヤつかせている。
やっぱり、みんな町長のことをよく思っていないからなぁ。
ミトバという名前のこの町は、人情に溢れたとても魅力的な町だ。けれど、町長一族は嫌われている。理由は町の人達のことをまったく考えない政策ばかり行うからだ。貴族ではなく少し裕福な平民であるにも関わらず偉そうにしている彼らを、町の人達、特に商売をしている人達は目の上のたん瘤のように思っているようだ。
それなのに、これだけ悪く思われていても変わらず町長をできている理由は、現在の町長がダッドさんやフィルトさん達と幼馴染みであり、彼らとの幼少期の力関係が今も続いているからだという。
この町に来てダッドさんに雇われてすぐの頃、町長がいきなり宿屋に来たことがあった。その時に散々宿屋やダッドさんの悪口を言うだけ言って帰っていったのだ。すでにこの町を好きになっていた俺が憤慨する横で、ダッドさんと偶々来ていたフィルトさんは肩を竦めて揃ってアイツの親よりマシだと言った。そして、アイツは小心者で大きな悪行はできないから放っておくのが一番いいとも。
とはいえ、俺は町長、ビズリーのことが嫌いである。理由は町の人達をバカにするし俺を見てちんちくりんだと言ってきたから。絶対に許さないからな……
かつての屈辱感を思い出していたら、いつの間にか目の前の人の壁が割れて騎士達の姿が見えていた。
王都からこの町まで馬車で二日程かかるらしい。道も舗装されていないところの方が多い。楽な道のりではなかっただろうに、騎士達は疲労の色をまったく見せない様子だった。
彼らの馬もかなりタフなのだろう。見るからに立派な駿馬達は、まだまだ走れると言わんばかりの元気な様子だ。
流石は王都の騎士様達。憧れる人が多いというのも頷けるカッコよさ。加えてイケメン揃いときた。まるでどこかのアイドルグループみたいだ。
特にビズリーと話している青年はイケメンというより美形という言葉が似合う麗しい面立ちをしている。優し気なミルクティー色の髪と美しい海のような青い瞳が印象的な美青年。彼がリーダーだろうか。
そう考えながら彼をジッと見つめていると、向こうも俺を認識したのか視線がかち合った。
「君は宿の者か?」
「はい。王都からいらっしゃった騎士様ですね。まずは厩舎にご案内いたしましょうか?」
「ああ。よろしく頼む」
「副団長」
申し訳なさそうな顔をしながらも会話に割り込んできた騎士は、副団長と呼んだ美青年に目配せした。ちらっと向けられたその目線は彼らの後ろを指している。それだけで察したのか、彼は溜め息をついて頷いた。
「……あぁ。すまない、少し待ってもらえるだろうか」
「かしこまりました。私も店主に皆様のご到着を伝えてまいります」
そう言って宿屋の扉に手をかけたものの、気になってちらっと振り返ってみると、ビズリーが美青年騎士に何かを言っては首を振られていた。まだ彼らを自分の屋敷に泊めたいと思っているようだ。諦めが悪すぎる。
しかし断固として断られている様子を見る限り、流石の彼も諦めるしかないだろう。いつも見下している町民達の前で見事に振られてしまえば、山のように高いプライドも少しは堪えるに違いない。
内心ざまぁみろと思いながら、今度こそ扉を開けてお客様の来訪を伝えた。
それから三日。町では連日、騎士達の魔獣退治の話題でいっぱいになった。
「外が騒がしいな」
「騎士様達が到着したのかもしれないですね。ちょっと見てきます」
そういえば王都の騎士団の騎士を見るのは初めてだなぁと思いながら扉を開けると、宿屋の前に人だかりができていた。
しかし、みんなが見ているのは宿屋とは逆の方向。そしてやたらと女性が多い。
「本当にこんな宿でよろしいのですか? 今からでも我が家の客間をご用意できますが……」
「他の任務地でも現地の宿を手配してもらっている。気にしないでくれ」
「そうですか……」
みんなが向いている人だかりの中心から聞こえてきたのは若い男の声と町長の声。どうやら自分の屋敷に泊めたい町長が諦め悪くお誘いしているようだが、すげなく断られているらしい。
思わず笑ってしまいそうになった。慌てて口元を手で隠して取り繕ったけれど、周りを見てみれば野次馬の男性達のほとんどは口元をニヤつかせている。
やっぱり、みんな町長のことをよく思っていないからなぁ。
ミトバという名前のこの町は、人情に溢れたとても魅力的な町だ。けれど、町長一族は嫌われている。理由は町の人達のことをまったく考えない政策ばかり行うからだ。貴族ではなく少し裕福な平民であるにも関わらず偉そうにしている彼らを、町の人達、特に商売をしている人達は目の上のたん瘤のように思っているようだ。
それなのに、これだけ悪く思われていても変わらず町長をできている理由は、現在の町長がダッドさんやフィルトさん達と幼馴染みであり、彼らとの幼少期の力関係が今も続いているからだという。
この町に来てダッドさんに雇われてすぐの頃、町長がいきなり宿屋に来たことがあった。その時に散々宿屋やダッドさんの悪口を言うだけ言って帰っていったのだ。すでにこの町を好きになっていた俺が憤慨する横で、ダッドさんと偶々来ていたフィルトさんは肩を竦めて揃ってアイツの親よりマシだと言った。そして、アイツは小心者で大きな悪行はできないから放っておくのが一番いいとも。
とはいえ、俺は町長、ビズリーのことが嫌いである。理由は町の人達をバカにするし俺を見てちんちくりんだと言ってきたから。絶対に許さないからな……
かつての屈辱感を思い出していたら、いつの間にか目の前の人の壁が割れて騎士達の姿が見えていた。
王都からこの町まで馬車で二日程かかるらしい。道も舗装されていないところの方が多い。楽な道のりではなかっただろうに、騎士達は疲労の色をまったく見せない様子だった。
彼らの馬もかなりタフなのだろう。見るからに立派な駿馬達は、まだまだ走れると言わんばかりの元気な様子だ。
流石は王都の騎士様達。憧れる人が多いというのも頷けるカッコよさ。加えてイケメン揃いときた。まるでどこかのアイドルグループみたいだ。
特にビズリーと話している青年はイケメンというより美形という言葉が似合う麗しい面立ちをしている。優し気なミルクティー色の髪と美しい海のような青い瞳が印象的な美青年。彼がリーダーだろうか。
そう考えながら彼をジッと見つめていると、向こうも俺を認識したのか視線がかち合った。
「君は宿の者か?」
「はい。王都からいらっしゃった騎士様ですね。まずは厩舎にご案内いたしましょうか?」
「ああ。よろしく頼む」
「副団長」
申し訳なさそうな顔をしながらも会話に割り込んできた騎士は、副団長と呼んだ美青年に目配せした。ちらっと向けられたその目線は彼らの後ろを指している。それだけで察したのか、彼は溜め息をついて頷いた。
「……あぁ。すまない、少し待ってもらえるだろうか」
「かしこまりました。私も店主に皆様のご到着を伝えてまいります」
そう言って宿屋の扉に手をかけたものの、気になってちらっと振り返ってみると、ビズリーが美青年騎士に何かを言っては首を振られていた。まだ彼らを自分の屋敷に泊めたいと思っているようだ。諦めが悪すぎる。
しかし断固として断られている様子を見る限り、流石の彼も諦めるしかないだろう。いつも見下している町民達の前で見事に振られてしまえば、山のように高いプライドも少しは堪えるに違いない。
内心ざまぁみろと思いながら、今度こそ扉を開けてお客様の来訪を伝えた。
それから三日。町では連日、騎士達の魔獣退治の話題でいっぱいになった。
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