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早朝。騎士達は昨日の疲れも見せずに魔物退治に向かっていった。
俺は従業員として見送りに出たけれど、クレディア様は特に昨夜のことについては何も言うことなく出発していった。
あれはただの従業員としては確実に行き過ぎた行動だった。何か苦情を言われるのではとドキドキしていた俺は拍子抜けした気持ちになり、気の抜けた顔をしていたらしい。久しぶりにダッドさんに背中を叩かれて喝を入れられてしまった。
「ユウヒ、やっぱりあの騎士様と何かあっただろ」
「ぶっ……!」
一通り仕事が終わってダッドさんと昼食をとっていた時のこと。唐突にぶち込まれた言葉に俺は飲んでいた水を吹き出しかけた。
「な、何にもないです!!」
「何にもなかったらそんな反応しないだろ。ま、面倒ごとには気をつけろよ。今回は王都の騎士様だから大丈夫だとは思うが、お前は世話を焼きすぎるからな」
「う……」
スプーンを突き付けられながら釘を指すように言われて、俺は口を噤んで目を反らすしかなかった。ダッドさんにこれほどまで口酸っぱく言われるのには理由がある。
俺がこの街に出て来てすぐのこと。俺はこの宿屋にお客さんとして泊まりながら働き先と家を探していた。
前世も病気でアルバイトすらできなかった俺だ。この世界の求人の情報を手に入れる方法すら知らずに故郷を出て来てしまったため、成果はなかなか上手く得られなかった。
そんな状態ではお金は減っていくばかりだ。段々元気が無くなっていく俺が気になったダッドさんが声をかけて話を聞いてくれた。
俺の話を聞いたダッドさんは、ちょうど従業員が欲しかったんだと、そのまま従業員として住み込みで雇ってくれた。あの時は嬉しさと感謝のあまり思わず抱きついてしまった程だ。ダッドさんは大恩人だ。
けれど俺は、その数日後にダッドさんの元に面倒ごとを持ち込んでしまった。原因は俺のおせっかい癖だった。
接客サービスとして色々とお客さんの世話を焼いていたのだけれど、やっかいなお客さんが来てしまったのだ。最初の数人は限度も分かっていたし、むしろ俺が進んで用事をお手伝いしていた。
けれど、そのやっかいなお客さんは限度を知らない人だった。俺が他のお客さんにあれこれと世話を焼いているのを見て、何でも言いつけていい小間使いだと思われてしまったのだ。
俺が何をしていても些細な用事を言いつけてくるし、短時間で何度も呼びつけられるものだから、ただでさえ不慣れで進みが遅くなる業務が進まない。
そのお客さんが宿泊したのは四日間だったが、二日目の夜にはどうにもいかなくなって結局はダッドさんに助けを求めるしかなくなってしまった。
ダッドさんは人が良い性格に似合わず結構強面だ。よく怖い人だと勘違いされる。だからダッドさんを通さずにわざわざ俺を探してまで用を言いつけていたその人は、ダッドさんが俺に業務を教えるという名目で一緒に行動するようになると何も言わずに部屋に戻っていった。
最終日も俺を見つけては用を言いつけてきたが、その日は休みだと言って断固として断れとダッドさんに叱られた後だったので、要求すべてに「今日はお仕事休みの日なので」と言って逃げた。
結局そのお客さんは不機嫌になって去って行ったが、チェックアウトはダッドさんのお仕事なので、俺は後ろの小部屋に隠れて様子を伺って難を逃れた。
ダッドさんは俺が宿泊するお客さんに世話を焼き始めた当初から、こうなると思っていたらしい。
それ以来、俺も気を付けるようになった。過度な世話は焼かず、親切な従業員程度に留めている。
けれどまだ信用できないらしいダッドさんは、時々こうして釘を刺してくる。そして俺も自分自身を信頼できないため、その釘を甘んじて刺されているわけである。
「ま、結局が自己責任だからな。ただ、前みたいなことはもう止めてくれよ」
「それはもう……はい……肝に銘じております……」
「ならいい。さて、騎士様方が帰ってくる前にシーツの交換を頼むぞ」
「わかりました!」
食べ終わった食器を持って席を立ったダッドさんを見送りながら、俺は最後まで残していた好物のひよこ豆に似た豆のスープを勢いよく飲み干した。
ごちそうさまでした!
俺は従業員として見送りに出たけれど、クレディア様は特に昨夜のことについては何も言うことなく出発していった。
あれはただの従業員としては確実に行き過ぎた行動だった。何か苦情を言われるのではとドキドキしていた俺は拍子抜けした気持ちになり、気の抜けた顔をしていたらしい。久しぶりにダッドさんに背中を叩かれて喝を入れられてしまった。
「ユウヒ、やっぱりあの騎士様と何かあっただろ」
「ぶっ……!」
一通り仕事が終わってダッドさんと昼食をとっていた時のこと。唐突にぶち込まれた言葉に俺は飲んでいた水を吹き出しかけた。
「な、何にもないです!!」
「何にもなかったらそんな反応しないだろ。ま、面倒ごとには気をつけろよ。今回は王都の騎士様だから大丈夫だとは思うが、お前は世話を焼きすぎるからな」
「う……」
スプーンを突き付けられながら釘を指すように言われて、俺は口を噤んで目を反らすしかなかった。ダッドさんにこれほどまで口酸っぱく言われるのには理由がある。
俺がこの街に出て来てすぐのこと。俺はこの宿屋にお客さんとして泊まりながら働き先と家を探していた。
前世も病気でアルバイトすらできなかった俺だ。この世界の求人の情報を手に入れる方法すら知らずに故郷を出て来てしまったため、成果はなかなか上手く得られなかった。
そんな状態ではお金は減っていくばかりだ。段々元気が無くなっていく俺が気になったダッドさんが声をかけて話を聞いてくれた。
俺の話を聞いたダッドさんは、ちょうど従業員が欲しかったんだと、そのまま従業員として住み込みで雇ってくれた。あの時は嬉しさと感謝のあまり思わず抱きついてしまった程だ。ダッドさんは大恩人だ。
けれど俺は、その数日後にダッドさんの元に面倒ごとを持ち込んでしまった。原因は俺のおせっかい癖だった。
接客サービスとして色々とお客さんの世話を焼いていたのだけれど、やっかいなお客さんが来てしまったのだ。最初の数人は限度も分かっていたし、むしろ俺が進んで用事をお手伝いしていた。
けれど、そのやっかいなお客さんは限度を知らない人だった。俺が他のお客さんにあれこれと世話を焼いているのを見て、何でも言いつけていい小間使いだと思われてしまったのだ。
俺が何をしていても些細な用事を言いつけてくるし、短時間で何度も呼びつけられるものだから、ただでさえ不慣れで進みが遅くなる業務が進まない。
そのお客さんが宿泊したのは四日間だったが、二日目の夜にはどうにもいかなくなって結局はダッドさんに助けを求めるしかなくなってしまった。
ダッドさんは人が良い性格に似合わず結構強面だ。よく怖い人だと勘違いされる。だからダッドさんを通さずにわざわざ俺を探してまで用を言いつけていたその人は、ダッドさんが俺に業務を教えるという名目で一緒に行動するようになると何も言わずに部屋に戻っていった。
最終日も俺を見つけては用を言いつけてきたが、その日は休みだと言って断固として断れとダッドさんに叱られた後だったので、要求すべてに「今日はお仕事休みの日なので」と言って逃げた。
結局そのお客さんは不機嫌になって去って行ったが、チェックアウトはダッドさんのお仕事なので、俺は後ろの小部屋に隠れて様子を伺って難を逃れた。
ダッドさんは俺が宿泊するお客さんに世話を焼き始めた当初から、こうなると思っていたらしい。
それ以来、俺も気を付けるようになった。過度な世話は焼かず、親切な従業員程度に留めている。
けれどまだ信用できないらしいダッドさんは、時々こうして釘を刺してくる。そして俺も自分自身を信頼できないため、その釘を甘んじて刺されているわけである。
「ま、結局が自己責任だからな。ただ、前みたいなことはもう止めてくれよ」
「それはもう……はい……肝に銘じております……」
「ならいい。さて、騎士様方が帰ってくる前にシーツの交換を頼むぞ」
「わかりました!」
食べ終わった食器を持って席を立ったダッドさんを見送りながら、俺は最後まで残していた好物のひよこ豆に似た豆のスープを勢いよく飲み干した。
ごちそうさまでした!
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