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「えっ、クレディア様って伯爵様なんですか!?」
「そうだよ。でも貴族でも平民でも騎士団のみんなには平等に接してくれるんだ。加えてあの美形な顔に身体も無駄なく仕上がり! 剣の腕も魔法の腕もかなりある! 第一騎士団の次期団長に確定してるって話もあるし、王都のみんなの憧れなんだよ。副団長は」
じゃぶじゃぶと、俺と一緒に温めの地下水が流れてくる裏庭の川で洗濯をしながら得意げに語っている彼の言葉に、俺は「そりゃぁ、あんな人がいたら憧れちゃうよねぇ」と同意して頷いた。
騎士様達が泥だらけで帰ってきた次の日、俺はあまりに酷い彼らの制服の有様に洗濯を買って出た。断っていた彼らを魔獣退治のお礼だからと説き伏せて全員分を回収したはいいものの、十人分となると流石に骨が折れる。
そんな俺を見かねた、騎士様達の中で一番若手だという彼、ハロルが手伝ってくれているのだ。せっかくの休息日なのだからと断ったが、部屋に籠るより身体を動かしていた方がいいと今度は俺が押し切られてしまった。けれど正直、とても助かっている。
ハロルはおしゃべりが好きらしく、色んな話をしてくれる。歳が近いことも爵位を持たない平民同士だということも敬称は要らないと言ってくれて気も楽だ。
話の話題は彼次第だけれど、今はクレディア様について熱心に語ってくれている。
彼は伯爵位のお貴族様だけれど、身分問わず平等に接するため多くの騎士に憧れられている。王族直属の騎士団は五つあり、その中でもエリートが集まる第一騎士団の副団長。ちなみに、ハロルが所属しているのは第三騎士団。
本当は一緒に任務できることは皆無なのだけれど、ハロルは期待の新人として経験を積むためにと第三騎士団の団長に推薦してもらえて今回の討伐隊に入ることができたらしい。
だから結構浮かれていたのだけれど思った以上の任務の過酷さに、調子に乗って高くなった鼻をボキボキに折られたのだとか。
「確かに昨日は疲れ切っていましたね。制服もこんなになるくらいですし。お疲れ様でした」
「でも、クレディア様は近くに大規模な巣があるはずだって仰るんだ。確かに魔獣の数がかなり多かった。また退治に行かないといけないかもしれない」
「巣……それって、一週間で解決できるものなんですか?」
「うーん……、その一週間ってもともと調査と討伐の確認も含めての予定だったんだけど、もう少し伸びるかもしれないな。事態が更に深刻そうなら、一度王都に帰って隊を組み直すことも考えられる」
「そうですか……」
やっぱり、魔獣に異変が起きているのかもしれない。魔獣の発生が止まらないとなると、家畜の被害はもちろん心配だが旅人も減ってしまう。そうなると宿屋としては大打撃だ。
「あっ、えっと、大丈夫だからな! クレディア様が隊を指揮されるんだから解決も早いって! クレディア様が指揮された任務は失敗したことはないんだから!」
「当然今回も解決するが、私頼りというのは感心しないな」
「ウェッ!? クレディア様!?」
暗くなった俺の表情を見て焦りながら言葉を並べていたハロルは、彼の真後ろからかけられた声に文字通り飛び上がった。俺はそんなハロルの俊敏な動きに流石騎士様だなと感心しながら後ろを振り返った。
そこにはクレディア様が呆れたような表情をしながら立っていた。
「ハロル、不安にさせるようなことを言うな。解決するのは当然だが、ただでさえ不安に思っているのだから余計な心配をさせてはいけないだろう」
「は、はいっ! 申し訳ございませんっ!!」
「お前のそういうところを、第三騎士団の団長は困っていたぞ。現地の住民と親しくなれるところは長所だが、おしゃべりが過ぎるところは周りに不信感を抱かせかねないと」
「はい……っ」
「あ、あの! 今回は俺が踏み込んで聞いてしまったのが悪いんです! すいません!」
二人の視線が刺さる。
クレディア様の言うことが全面的に正しいのだが、憧れの人に叱られてしまっているハロルが少し可哀そうに思って、つい口を挟んでしまった。
「そうだよ。でも貴族でも平民でも騎士団のみんなには平等に接してくれるんだ。加えてあの美形な顔に身体も無駄なく仕上がり! 剣の腕も魔法の腕もかなりある! 第一騎士団の次期団長に確定してるって話もあるし、王都のみんなの憧れなんだよ。副団長は」
じゃぶじゃぶと、俺と一緒に温めの地下水が流れてくる裏庭の川で洗濯をしながら得意げに語っている彼の言葉に、俺は「そりゃぁ、あんな人がいたら憧れちゃうよねぇ」と同意して頷いた。
騎士様達が泥だらけで帰ってきた次の日、俺はあまりに酷い彼らの制服の有様に洗濯を買って出た。断っていた彼らを魔獣退治のお礼だからと説き伏せて全員分を回収したはいいものの、十人分となると流石に骨が折れる。
そんな俺を見かねた、騎士様達の中で一番若手だという彼、ハロルが手伝ってくれているのだ。せっかくの休息日なのだからと断ったが、部屋に籠るより身体を動かしていた方がいいと今度は俺が押し切られてしまった。けれど正直、とても助かっている。
ハロルはおしゃべりが好きらしく、色んな話をしてくれる。歳が近いことも爵位を持たない平民同士だということも敬称は要らないと言ってくれて気も楽だ。
話の話題は彼次第だけれど、今はクレディア様について熱心に語ってくれている。
彼は伯爵位のお貴族様だけれど、身分問わず平等に接するため多くの騎士に憧れられている。王族直属の騎士団は五つあり、その中でもエリートが集まる第一騎士団の副団長。ちなみに、ハロルが所属しているのは第三騎士団。
本当は一緒に任務できることは皆無なのだけれど、ハロルは期待の新人として経験を積むためにと第三騎士団の団長に推薦してもらえて今回の討伐隊に入ることができたらしい。
だから結構浮かれていたのだけれど思った以上の任務の過酷さに、調子に乗って高くなった鼻をボキボキに折られたのだとか。
「確かに昨日は疲れ切っていましたね。制服もこんなになるくらいですし。お疲れ様でした」
「でも、クレディア様は近くに大規模な巣があるはずだって仰るんだ。確かに魔獣の数がかなり多かった。また退治に行かないといけないかもしれない」
「巣……それって、一週間で解決できるものなんですか?」
「うーん……、その一週間ってもともと調査と討伐の確認も含めての予定だったんだけど、もう少し伸びるかもしれないな。事態が更に深刻そうなら、一度王都に帰って隊を組み直すことも考えられる」
「そうですか……」
やっぱり、魔獣に異変が起きているのかもしれない。魔獣の発生が止まらないとなると、家畜の被害はもちろん心配だが旅人も減ってしまう。そうなると宿屋としては大打撃だ。
「あっ、えっと、大丈夫だからな! クレディア様が隊を指揮されるんだから解決も早いって! クレディア様が指揮された任務は失敗したことはないんだから!」
「当然今回も解決するが、私頼りというのは感心しないな」
「ウェッ!? クレディア様!?」
暗くなった俺の表情を見て焦りながら言葉を並べていたハロルは、彼の真後ろからかけられた声に文字通り飛び上がった。俺はそんなハロルの俊敏な動きに流石騎士様だなと感心しながら後ろを振り返った。
そこにはクレディア様が呆れたような表情をしながら立っていた。
「ハロル、不安にさせるようなことを言うな。解決するのは当然だが、ただでさえ不安に思っているのだから余計な心配をさせてはいけないだろう」
「は、はいっ! 申し訳ございませんっ!!」
「お前のそういうところを、第三騎士団の団長は困っていたぞ。現地の住民と親しくなれるところは長所だが、おしゃべりが過ぎるところは周りに不信感を抱かせかねないと」
「はい……っ」
「あ、あの! 今回は俺が踏み込んで聞いてしまったのが悪いんです! すいません!」
二人の視線が刺さる。
クレディア様の言うことが全面的に正しいのだが、憧れの人に叱られてしまっているハロルが少し可哀そうに思って、つい口を挟んでしまった。
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