両親に殺された俺は異世界に転生して覚醒する~未来の俺は世界最強になっていたのでちょっと故郷を滅ぼすことにしました~

あぶらみん

文字の大きさ
13 / 123
第一部

ボーイ・ミーツ・ガール

しおりを挟む
 新たな一日は夢の終わりとともに始まる。目覚めると見慣れた天井が視界にうつった。
 少しして意識がはっきりしてくると、次第に夢の内容は朧気になっていく。昔の夢、ということだけは何となくわかっていた。夢をみる度に、ずいぶんと遠くに来てしまったことを実感した。

 何度も昔の夢を見る理由はわからない。
 はやく復讐を果たせと、怨念が急き立てているのかもしれない。
 だとすれば、その怨念は決して自分だけのものではないはずだった。

「……バカバカしい妄想だな」

 父親譲りの赤髪を手で乱暴にかきあげて妄念を散らし、勢いよくベッドから跳ねた。
 アルテアの朝ははやい。日が昇る前に起床し支度を整え、音をたてないように屋敷を出た。
 日課の始まりだ。
 屋敷の横手に広がる森を抜けて曲がりくねった坂道を上がると、村を一望できる高台に出る。かつて何かの建造物があったことを思わせる朽ちた外壁があり、その陰にひっそりと雨宿りでもしているみたいに花が咲いていた。まるで壁が雨風から花を守っているようにも見えた。
 日の昇る前とあって辺りはまだ薄暗かった。
 日光で暖まる前の少し冷たい空気で肺を満たして高台から村を見下ろすと、幾度も目にした景色が広がっていた。
 広大な麦畑だった。ときおり風が吹いてはそれに合わせて稲穂が倒れるように揺れて、風が止むとまた起き上がった。

『稲っていうのは案外に強いものでな。どれだけ雨風に見舞われても簡単には負けないんだ。農業は忍耐だ。強い心が求められるし、農作業は足腰をつかう。意外と剣の道に通ずるところがあるんだ』

 そう言いながら、村人に混じって農作業をする父の姿をふと思い出す。
 巡回といいながら村を回っては、そうやって手伝っているらしかった。村人たちとも良好な関係を築いているようで皆に慕われていた。

『 お前もやってみるか?』

 そう聞かれて断ったときの、父の少しだけ残念そうな顔が頭をちらつく。そして先日の食事の席での、父の厳しい表情を思い出した。
 自分は何か失敗したのかもしれない。途端にそんな気持ちが強くなった。
 それを追い出すみたいに頭をふって、再びしんとした空気を吸い込んで、吐き出す。鍛錬の際に意識を切り替えるためのおまじないのようなものだった。ずっと繰り返してきただけあって、アルテアの意識はぱっと切り替わった。
 この場所で鍛錬を初めたのは四歳になったばかりの頃だった。それから約一年、毎日続けていた。一連の流れは身体が覚え込んでいた。

 身体を十分にほぐしてから、まずは剣の素振りを始めた。
 毎日見ている父の姿をイメージして、それを自分の身体に
 重ね合わすようにして近づけていく。
 アルテアは、村の景色を背に剣を振る父の姿が気に入っていた。
 それがあまりにも自然で美しいとさえ感じてしまった。
 だから、村を一望できるこの高台を見つけた時、この場所で剣を振ることを決めた。
 回数は特に決めていなかった。
 父の姿と自分の姿がぴたりと一致して納得できるまでそれを続けた。
 素振りが終わると少し乱れた息を整えてから魔法の訓練にうつる。
 精神を研ぎ澄ませて己の身体の内にある力を感覚する。
 それを練り上げるイメージで、身体の特定の部位に集中させて限界までその状態を維持する。目、腕、胴、脚と上から順番に部位をうつし、最後に全身を魔力で覆った。
 むらなく均等に魔力がいきわたる状態を意識する。それが終わるとインターバルをとり、魔法の詠唱を始める。彼は屋敷にある魔導書を読み漁り、上級属性魔法なら無理なく発動できる域に達していた。

 赤子のころより魔力の枯渇を繰り返してきたかいがあり、いまや使い切るのが難しいほどの底知れない魔力量を誇っていた。最近では常に魔力を放出した状態を保っているほどだ。
 一般的には扱える元素魔法の属性の数が才能をはかる目安として浸透している。元素魔法は火・水・風・地・光・闇の六つ。位階は初級、中級、上級、超級、神級と上がっていく。光と闇は特別な適性を持つ者のみが扱えるため使い手はめったにいない。光闇を除いた四つのうち、二つの属性を上級まで扱うことができれば優秀、三つなら天才だと言われている。
 アルテアは生まれた直後から訓練してきただけあり全ての属性を操ることができた。しかし魔法は元素魔法の他にも様々な種類のが存在するのでこれはあくまでも目安だ。アルテアは慢心することなく鍛錬に精を出していた。

 いつも通りのメニューをこなし手持ち無沙汰になり、ぼんやりと、瓦礫の隅に咲く一輪の花を眺めた。ぽつんと離れて咲く花は、そんなこと気にした風もなく、空に伸びた茎の先に青く美しい花を咲かせていた。
 アルテアにはそれがとても気高くも見えたし、寂しくも見えた。

 不意に一年前の出来事を思い出した。
 鍛錬を初めてすぐ、何名かの子どもが魔法を教えてほしいとやってきた。子どもの相手をするのは苦手で、ずいぶんと頭を悩ませた。
 だがそれは程なくして解決した。
 ある日、アルテアは子供達と揉め事を起こした。そのことで村の大人になにか言われたのだろう。その日を境にここには誰も寄り付かなくなった。
 あの頃はうるさかった。子どもたちが危なっかしくて鍛錬にも集中できないほどだった。そう思えば、結果的にこうなって良かったのかもしれない。
 どのくらい物思いにふけっていたか、背後で枝の割れる乾いた音が聞こえてアルテアは意識を現実に引き戻された。
 魔獣か何かだろうと見当をつけて気怠げに振り返る。

「んん……?」

 アルテアから困惑気味の声が漏れる。
 視線の先には、まったく見覚えのない少女が立っていた。
 一瞬にして、目を奪われた。
 息の仕方を忘れてしまいそうなほどの、美しい少女だった。
 それなのに、真っ先に「幻」という言葉が思い浮かぶほど、その少女の存在は薄く、透き通っていた。
 風が吹き、森の木々がざわざわと鳴いた。少女の細く白い髪がきらきらと流れた。風の中で光るように舞う少女の髪は、夜空をはしる流星のように美しく、儚かった。驚くほど華奢なからだを白いワンピースで包む彼女は、まるで星の切れ端が落ちてきたみたいだとも思った。
 風が止み木々の鳴き声が止まると、しんとした静寂が戻った。こちらを見る少女の大きく眠たげな目の奥で、血のように紅い瞳が魅惑的な魔力を放っていた。
 吸い込まれそうなほど美しい瞳はしかし、どこか機械的でもあった。

「……」

「……」

 お互いにらみ合ったまま無言の間が続いた。無視するか、話しかけるか、アルテアは決めあぐねていた。目が合ってしまったからには声をかける他ないと思った。
 でも、どう話しかけて良いのかわからない。距離感も。

「……だ、だれ?」

「……」

 アルテアの意を決した問いかけに返答はなかった。

「お、おーい」

「……」

 手を顔の前で振った。
 手をおって、かすかに少女の目線が動いた。立ったまま寝ているといわけでもなさそうだった。ならどうして無視されているのか、不安になる。
 怪訝な顔で少女を見据えるアルテアだったが、やがて何かに気づいたという風に手を叩いて何かを探すように辺りを見回す近くにあった木の枝を拾って地面に「名前は?」と文字を掘った。耳が聞こえないと考えたからだ。
「アルテア」と書いたあとに文字と自分とを
 交互に指さして、少女にも木の枝を渡した。
 少女は枝を受け取ると、枝とアルテアと地面とを順番に視線をうつして、再びアルテアの顔をじっと見つめた。
 そして薄い唇を何度かもごもごと動かしてから、風に飛ばされそうな小さな声で、言った。

「……じ、よめない」

「しゃべれるのかよ……!」

 アルテアはすっ転びそうになった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

八百万の神から祝福をもらいました!この力で異世界を生きていきます!

トリガー
ファンタジー
神様のミスで死んでしまったリオ。 女神から代償に八百万の神の祝福をもらった。 転生した異世界で無双する。

前世で薬漬けだったおっさん、エルフに転生して自由を得る

がい
ファンタジー
ある日突然世界的に流行した病気。 その治療薬『メシア』の副作用により薬漬けになってしまった森野宏人(35)は、療養として母方の祖父の家で暮らしいた。 爺ちゃんと山に狩りの手伝いに行く事が楽しみになった宏人だったが、田舎のコミュニティは狭く、宏人の良くない噂が広まってしまった。 爺ちゃんとの狩りに行けなくなった宏人は、勢いでピルケースに入っているメシアを全て口に放り込み、そのまま意識を失ってしまう。 『私の名前は女神メシア。貴方には二つ選択肢がございます。』 人として輪廻の輪に戻るか、別の世界に行くか悩む宏人だったが、女神様にエルフになれると言われ、新たな人生、いや、エルフ生を楽しむ事を決める宏人。 『せっかくエルフになれたんだ!自由に冒険や旅を楽しむぞ!』 諸事情により不定期更新になります。 完結まで頑張る!

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

【完結】487222760年間女神様に仕えてきた俺は、そろそろ普通の異世界転生をしてもいいと思う

こすもすさんど(元:ムメイザクラ)
ファンタジー
 異世界転生の女神様に四億年近くも仕えてきた、名も無きオリ主。  億千の異世界転生を繰り返してきた彼は、女神様に"休暇"と称して『普通の異世界転生がしたい』とお願いする。  彼の願いを聞き入れた女神様は、彼を無難な異世界へと送り出す。  四億年の経験知識と共に異世界へ降り立ったオリ主――『アヤト』は、自由気ままな転生者生活を満喫しようとするのだが、そんなぶっ壊れチートを持ったなろう系オリ主が平穏無事な"普通の異世界転生"など出来るはずもなく……?  道行く美少女ヒロイン達をスパルタ特訓で徹底的に鍛え上げ、邪魔する奴はただのパンチで滅殺抹殺一撃必殺、それも全ては"普通の異世界転生"をするために!  気が付けばヒロインが増え、気が付けば厄介事に巻き込まれる、テメーの頭はハッピーセットな、なろう系最強チーレム無双オリ主の明日はどっちだ!?    ※小説家になろう、エブリスタ、ノベルアップ+にも掲載しております。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

処理中です...