両親に殺された俺は異世界に転生して覚醒する~未来の俺は世界最強になっていたのでちょっと故郷を滅ぼすことにしました~

あぶらみん

文字の大きさ
17 / 123
第一部

おくりもの

しおりを挟む
それからアルテアの日常は目まぐるしく流れていった。
朝は鍛錬をして、それが終われば家でターニャの指導を受け、イーリスに読み書きを教えた。
家で一緒に昼食をとり、勉強して、夕食を共にすることもあった。
たまに父やターニャと一緒に森に入って狩りをしたり、設置した魔道具の効果を確認したり、狂暴化した魔獣を間引いたりした。
血なまぐさいものをイーリスに見せるのは気がすすまなかったが、
彼女はどうしてもついてくると言ってきかなかった。
イーリスはやはり要領が良いようで、綿が水を吸い込むようにどんどん色々なことを覚えていった。きっと元から類まれない才能があったのだろう。
一方で鍛錬には頑なに参加を拒否した。
理由を聞いても「なんとなく」と答えるだけだった。
嫌な思い出があるのかもしれないと思い、それ以上聞くことはしなかった。
ただ、少女はアルテアの少し後ろで剣を振る彼の姿を眺めていた。
気づけば二ヶ月近くがあっという間に過ぎていた。
当初の思惑から外れ、長い期間を彼女と共に過ごしていた。
ずっとこの日が続けばいい。
心の奥底でそんな思いが首をもたげたが、抑えつけた。
ある日、いつものように勉強を教えていると、イーリスがどことなく寂しそうな顔をしていることに気づいた。
二ヶ月近く毎日一緒に過ごしたおかげか、変化に乏しい表情からも感情の機微を読み取れるようになってきていた。

「どうした?」

これまでは淡々と言いつけ通りに勉強をこなす彼女が、今日は手を止めて神妙な顔つきで紙を睨みつけていた。
わからないところでもあるか?と聞いても彼女は首を横に振るだけだった。
仕方ないと諦めて、横目でイーリスを見つつ読みかけの魔導書に目を戻した。
イーリスはしばらく本とにらめっこを続けたところで、何かを決心したように顔を上げた。

「アル」

「ん?」

アルテアが魔導書から顔を上げた。
少女の血のように紅い瞳が自分をしっかり捉えていた。
言いたいことがあるときに、口をもごもご動かす癖は健在だった。

「わたし、そろそろ王都に戻らないといけない……」

彼女はずいぶん流暢に言葉をしゃべるようになっていた。

「そうか」

平静を装って短く返し、また魔導書に視線を戻した。

「……それだけ?」

「ああ」

「……ほんとにそれだけ?」

イーリスが視線の湿度をあげる。へばり付くような視線にさらされ、耐えかねたアルテアは観念したように魔導書を閉じた。

「二ヶ月くらいはここにいる、って会ったばかりの時に話してたじゃないか。そろそろ頃合いかなって見当はついてた」

自分でもひどく言い訳がましく聞こえた。自分に言い聞かせていたのかもしれない。

「アル、つめたい」

イーリスが小さな肩を落として目を伏せた。扇状の長いまつげが窓から差し込む日光に照らされて、少女の白い頬に影を落とした。
アルテアには、その影の一点に少女の悲しみが凝縮されているように感じられた。
かち、かち、かち、と時計の針がすすむ音だけが部屋に残る。
その沈黙に先に音を上げたのは、アルテアだった。

「ちょっと待ってろ」

顔を伏せるイーリスにそう伝えて部屋を出た。しばらくして戻ってきたアルテアの手には、一冊の本と黒塗りされた小箱が握られていた。
きょとんとするイーリスの隣に腰をおろして、それらのものを机の上に置いた。

「これは単語帳だ」

「たんご、ちょう」

首を傾げながら耳なれない言葉を繰り返す彼女に頷いて答えて、本を彼女の手に押し付けた。

「まあ、簡単な辞書みたいなものだな」

「中、見ていい?」

「ああ」

アルテアが答えると、少女は一枚ずつページをめくって目を通した。ページには単語と例文と、拙い絵が書いてあった。
どれもイーリスが覚えていない言葉か、苦手としている言葉だった。

「覚えきれてない言葉あるよな。俺は一緒に王都には行けないから、もう教えることはできない。だからこれを見て勉強するといいよ」

少女は一文字ずつ、文字の上をなぞるようにして最後まで目を通してから、単語帳を大事そうに両手で包み込んだ。
それから「ありがと」と言った。
アルテアは照れを隠すためか、ふんと小さく鼻を鳴らして机に置かれた小箱に手を伸ばした。

「手、だして」

差し出された少女の手にその小箱を置く。

「……あけてみて」

イーリスは受け取った小箱を探るように眺めてからフタを開けると、中には紅玉のペンダントが入っていた。
透き通った宝石の中にゆらゆらと炎が揺れていて、それは少女の瞳によく似ていた。

「父さんに少しだけわがままを言って魔鉱石をもらってな。それに炎の魔法を流し込んでつくったんだ」

アルテアは早口でまくしたてるように言った。珍しく、聞かれてもいないことを説明していた。
半分は少女の反応をみるのがこわかったのと、もう半分はただ恥ずかしかったのかもしれない。
アルテアにとって人に何かを贈るというのは初めての経験だった。

「きれい……」

イーリスが、誰にも聞こえないくらい小さな声で、惚けるように呟いた。

「どうして……この色にした?」

ペンダントの宝石を指でさすりながらイーリスは聞いた。

「好きな色だからかな。俺の髪の色とおそろいだし」

腕を組んで偉そうに言い切った。
イーリスはそれを聞いて納得したのか。
「おそろい」と言ったとあとに「つけていい?」と尋ねた。

無言でうなずくと、何度かカチャカチャと音をたててペンダントのひも状のところをいじって、首に回した。
名も無き紅い宝石が、彼女の胸のあたりで深い輝きを放っていた。

「……どう?」

「うん、似合ってるんじゃないかな」

「そっか。うれしい」

その言葉を聞いて胸を撫でおろす。イーリスは変わらず無表情だったが、本当に喜んでいることはわかった。
そこにイーリスが
「……ん」と言って頭を突き出した。
アルテアが半ば反射的に彼女の頭を撫でると、少女はぼーっとしながら猫みたいに目を細めた。
この二ヶ月の間に何度もやったせいか、最初は気恥ずかしかった行為にも今更恥ずかしさは感じない。
アルテアは頭をなでながら、本当に妹ができたみたいだなと思った。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

八百万の神から祝福をもらいました!この力で異世界を生きていきます!

トリガー
ファンタジー
神様のミスで死んでしまったリオ。 女神から代償に八百万の神の祝福をもらった。 転生した異世界で無双する。

前世で薬漬けだったおっさん、エルフに転生して自由を得る

がい
ファンタジー
ある日突然世界的に流行した病気。 その治療薬『メシア』の副作用により薬漬けになってしまった森野宏人(35)は、療養として母方の祖父の家で暮らしいた。 爺ちゃんと山に狩りの手伝いに行く事が楽しみになった宏人だったが、田舎のコミュニティは狭く、宏人の良くない噂が広まってしまった。 爺ちゃんとの狩りに行けなくなった宏人は、勢いでピルケースに入っているメシアを全て口に放り込み、そのまま意識を失ってしまう。 『私の名前は女神メシア。貴方には二つ選択肢がございます。』 人として輪廻の輪に戻るか、別の世界に行くか悩む宏人だったが、女神様にエルフになれると言われ、新たな人生、いや、エルフ生を楽しむ事を決める宏人。 『せっかくエルフになれたんだ!自由に冒険や旅を楽しむぞ!』 諸事情により不定期更新になります。 完結まで頑張る!

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

【完結】487222760年間女神様に仕えてきた俺は、そろそろ普通の異世界転生をしてもいいと思う

こすもすさんど(元:ムメイザクラ)
ファンタジー
 異世界転生の女神様に四億年近くも仕えてきた、名も無きオリ主。  億千の異世界転生を繰り返してきた彼は、女神様に"休暇"と称して『普通の異世界転生がしたい』とお願いする。  彼の願いを聞き入れた女神様は、彼を無難な異世界へと送り出す。  四億年の経験知識と共に異世界へ降り立ったオリ主――『アヤト』は、自由気ままな転生者生活を満喫しようとするのだが、そんなぶっ壊れチートを持ったなろう系オリ主が平穏無事な"普通の異世界転生"など出来るはずもなく……?  道行く美少女ヒロイン達をスパルタ特訓で徹底的に鍛え上げ、邪魔する奴はただのパンチで滅殺抹殺一撃必殺、それも全ては"普通の異世界転生"をするために!  気が付けばヒロインが増え、気が付けば厄介事に巻き込まれる、テメーの頭はハッピーセットな、なろう系最強チーレム無双オリ主の明日はどっちだ!?    ※小説家になろう、エブリスタ、ノベルアップ+にも掲載しております。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

処理中です...