両親に殺された俺は異世界に転生して覚醒する~未来の俺は世界最強になっていたのでちょっと故郷を滅ぼすことにしました~

あぶらみん

文字の大きさ
16 / 123
第一部

しおりを挟む
アルテアは道すがら、家族にどう説明したものかと頭を悩ませていた。
イーリスを家に連れて行くことには少しばかり懸念があった。
呪いが信じられている以上、家族も彼女を恐れるかもしれなかった。
だが結果としてそれは杞憂に終わった。
両親は少女を朗らかに迎えた。
父は友達ができてよかったと笑い、母はまるでもうひとり娘ができたようだと喜んだ。
母の言葉で、イーリスのような妹がいたらどんな感じなのだろうかと想像してみる。
手のかかりそうな妹だとは思ったが、不思議と面倒だとか不快だとかは思わなかった。
ターニャは相変わらずの無表情で何を考えているかわからなかったが、少女を嫌ったり恐れたりしている様子はなかった。
どうやら問題はなさそうだと内心でほっと一息ついてから、ティアとたどたどしく話をしている少女を見やり、何から教えたものかと思案する。
悩んだ末、イーリスには基本的なマナーや常識から教えることにした。
手始めにテーブルマナーや公の場での言葉遣いなどの礼儀作法から教えていく。
間違いや補足があるときはターニャがすぐに助言をくれた。
このことでアルテアはひそかにターニャを見直すことになった。
彼女の知識や所作は完璧だった。
父や母に対する物腰が砕けているせいか、メイドだという実感が
あまりなかったが、実演を交えて指導する彼女の立ち振る舞いは
美しいとさえ感じるほどだった。
そういったやり取りでターニャの中の何かを刺激してしまったのか。

「やはり坊ちゃんもまだまだ未熟。良い機会なので二人まとめて私がご指導させていただきましょう」

そして彼女の鬼の指導が始まった。
アルテアはこういった分野に苦手意識を抱いていた。
前世では治安維持の道具程度の扱いしか受けたことがなく、礼儀やマナーといったことに関しては無縁で言葉遣いなど気にすることもなかった。
だからこの世界に来てからも必須のものを習得しただけで洗練させることはしなかったし、それ以上の指導を受けることのないように、それとなく避けてきた。
そのツケがいま、大波のごとく押し寄せてきていた。
そしてアルテアの自信を喪失させる意外な事実が判明した。
礼儀作法の面においてはアルテアよりもイーリスの方が優秀だった。
彼女は教えられたことを瞬時に理解し身につけていった。
アルテアが四度か五度ほど手直しを受けるところを、イーリスは一度で終えてしまう。
教えるつもり満々でいたところを逆に少女に教えられてしまっていた。
あまりの衝撃に若干うつろになった目を中空にさまよわせていると、背後からイーリスが彼の肩を、ちょんと指で何度がつついた。
振り向くと、仮面を張り付けたような顔で親指を立てながら少女が言う。

「げんき、だしな」

驚くほど抑揚がなかった。

「お、おう……」

アルテアはたじろぎながら、少女の後方に控えるターニャにちらと視線をうつした。
メイドは澄ました顔で、自分は関与していませんという意思を言外に発していたが、絶対に何か吹き込んだに違いない。
粘着質な視線を飛ばし続けるとやがてメイドがケロッとした顔で白状する。

「坊ちゃんをからかえる機会はそう多くないですから。レアですよ、レア」

少しも悪びれないその言いぶりは、もはや気持ち良いほど堂に入っていた。
この人は本当に使用人なのかと疑いたくなった。
そうして指導が続いてしばらくして、ティアがお茶とお茶菓子を持って部屋に入ってきた。
紅茶の上品な香りが部屋を満たしていく。
それだけで疲労が吹き飛びそうな、落ち着く香りだった。
お茶菓子はティアの手作りの焼き菓子らしく、隠し味は母の愛だと言った。
そのティアの言葉をつかまえて、イーリスが小声で尋ねる。

「あい、ってなに?」

「ん?あー……愛ってのは、あれだ」

それ以上言葉が続かずに口を閉じる。
言葉の意味はもちろん知っている。
だが、おそらく彼女の知りたいことは言葉の意味ではない。もっと本質的なことを求めているに違いない。その答えをアルテアもまだ知らなかった。

──愛ってなんだ?

心の中でそう問うてみても答えてくれる者はいない。
行き場を無くした問いはぐるぐると同じところを回り続けて、結局どこにも辿り着けなかった。

「……わからない。すまない」

なんとかそれだけ答えて、足場を無くしたみたいに宙ぶらりんになった会話を終わらせる。
出来るなら答えてあげたかった。
いっそ表面的なことでもいいからもっともらしく言ってやっても良かったのかもしれない。でも何故かそれはできなかった。

「……そっか」

抑揚のない彼女の声は、やはり感情が見えにくい。
しかし、目を伏せる姿はどこか寂しそうに見えた。

「二人とも浮かない顔してどうしたの?紅茶が口に合わなかったかしら?」

大人しい様子の二人を心配するようにティアが声をかけた。

「何でもないよ、母さん」

そう言ってから、誤魔化すように紅茶を飲み、お茶菓子を食べて、四人で談笑した。
そうして身の内に少しの靄を残しながらも一日が過ぎた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

八百万の神から祝福をもらいました!この力で異世界を生きていきます!

トリガー
ファンタジー
神様のミスで死んでしまったリオ。 女神から代償に八百万の神の祝福をもらった。 転生した異世界で無双する。

前世で薬漬けだったおっさん、エルフに転生して自由を得る

がい
ファンタジー
ある日突然世界的に流行した病気。 その治療薬『メシア』の副作用により薬漬けになってしまった森野宏人(35)は、療養として母方の祖父の家で暮らしいた。 爺ちゃんと山に狩りの手伝いに行く事が楽しみになった宏人だったが、田舎のコミュニティは狭く、宏人の良くない噂が広まってしまった。 爺ちゃんとの狩りに行けなくなった宏人は、勢いでピルケースに入っているメシアを全て口に放り込み、そのまま意識を失ってしまう。 『私の名前は女神メシア。貴方には二つ選択肢がございます。』 人として輪廻の輪に戻るか、別の世界に行くか悩む宏人だったが、女神様にエルフになれると言われ、新たな人生、いや、エルフ生を楽しむ事を決める宏人。 『せっかくエルフになれたんだ!自由に冒険や旅を楽しむぞ!』 諸事情により不定期更新になります。 完結まで頑張る!

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

【完結】487222760年間女神様に仕えてきた俺は、そろそろ普通の異世界転生をしてもいいと思う

こすもすさんど(元:ムメイザクラ)
ファンタジー
 異世界転生の女神様に四億年近くも仕えてきた、名も無きオリ主。  億千の異世界転生を繰り返してきた彼は、女神様に"休暇"と称して『普通の異世界転生がしたい』とお願いする。  彼の願いを聞き入れた女神様は、彼を無難な異世界へと送り出す。  四億年の経験知識と共に異世界へ降り立ったオリ主――『アヤト』は、自由気ままな転生者生活を満喫しようとするのだが、そんなぶっ壊れチートを持ったなろう系オリ主が平穏無事な"普通の異世界転生"など出来るはずもなく……?  道行く美少女ヒロイン達をスパルタ特訓で徹底的に鍛え上げ、邪魔する奴はただのパンチで滅殺抹殺一撃必殺、それも全ては"普通の異世界転生"をするために!  気が付けばヒロインが増え、気が付けば厄介事に巻き込まれる、テメーの頭はハッピーセットな、なろう系最強チーレム無双オリ主の明日はどっちだ!?    ※小説家になろう、エブリスタ、ノベルアップ+にも掲載しております。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

処理中です...