両親に殺された俺は異世界に転生して覚醒する~未来の俺は世界最強になっていたのでちょっと故郷を滅ぼすことにしました~

あぶらみん

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第一部

異端者

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人影を発見したところで足を止め、茂みに身を隠して腕に抱えていた少女を優しく降ろす。

「む……」

少女の口から漏れる不満げな声。
なんとなく、アルテアは自分がとても悪いことをしたような気分になるがあえて無反応を装い、口の前に指を立ててジェスチャーで静かにするように伝える。

こくりと頷く少女に、動くなと視線で呼びかけ、茂みから少しだけ顔を覗かせる。
四人の人間が木々の間を駆け回って激しい戦闘を繰り広げていた。

いかにも冒険者という風情の男女が三名と黒ずくめの人間。
黒ずくめの方は黒いフードと外套で全身を覆っており、顔に道化のような仮面をつけているため性別も不明。怪しいと言う言葉を体現しているような出立ちだった。

あまりにも特徴的すぎる装いで、冒険者風の彼らが何と戦っているのかアルテアにもすぐにわかった。

「……異端教徒か」

「異端者……」

少年少女からそれぞれ剣呑な声が漏れる。
この世界では空と星の女神ステラルーシェへ信仰を捧げる星神教が広く根付いている。

星神教はアルテアの住む領地があるスターリアレーゼ王国はもちろん、東西の大国──シルメリア帝国やミリオポリス連邦共和国、その他の国々、もはやほぼ世界中といっても過言ではないほど広い範囲で信仰を集めている。

そんな圧倒的な信仰を誇る星神教だがやはり例外はあり、悪魔や魔王、他の神を信奉する者たちも存在し、彼らは異端教徒と呼ばれていた。

アルテア自身は異端教徒を見るのは初めてだったが、その危険度は本や家族から聞いた話で知っていた。

異端教徒は現れた地のことごとくで災いを引き起こし、彼らが関われば血の雨が降ると言われるほど悪名を轟かせている。

歩く爆弾のような人間が今、目の前にいる。その事実がアルテアの危機感を募らせる。

即刻排除するべきだと判断して動き出そうとしたところで、目の前で繰り広げられる戦闘を目にして思いとどまる。

冒険者風の男女三名は巧みなコンビネーションで異端教徒を追い立てていた。
自分が乱入すればかえって場が混乱して異端教徒に逃げる隙を与えてしまうかもしれなかった。

焦る気持ちを抑えつつ少しだけ様子を見ることにする。

剣士だと思われる二人の男が地を蹴って異端教徒を猛追している。

「クレイグ!」

長剣を持った金髪の男が隣を並走する男に呼びかける。

「ああ!」

大剣を担いだ男──クレイグがそれに応じて一人で前へと飛び出していく。
それをチャンスと見て取ったのか、異端教徒が袖の中から短剣を取り出し投擲するが、クレイグは大剣の腹を盾がわりにして少しの躊躇もなく突っ込んでいく。

まるで獣のような猛進で距離を詰めたクレイグは大剣を振り上げ、力のままに振り下ろす。巨大な鉄の塊が空気を押しつぶすように異端教徒に迫る。

すんでのところで身を捻り、迫る鉄塊を躱す異端教徒。
そんなことは織り込み済みだと言わんばかりに、クレイグの背中に隠れてぴったりとついてきていた金髪の男が鋭く飛び出し、異端教徒めがけて斬撃を放った。

完全に不意をついた一撃。
決まるかと思われたその攻撃も、異端教徒は驚異的な反応速度で難なく回避する。

二人の攻撃をさばいた異端教徒が反撃に出ようと前へと飛び出したところで、虚をつくように二人の男は左右に飛びのき、その後方から巨大な炎の塊が押し寄せた。

異端教徒は完全に反応できていない。巨大な炎が直撃し、大爆発を起こす。
その衝撃で一帯の木々が揺れ、叫ぶようにさざめいた。

息のあった見事な連携だとアルテアは思った。
前世ではチームを組んで任務にあたることが多かったからこそ、彼らのチームワークが一朝一夕のものではないとわかる。
どうやら加勢しなくても良さそうだと胸を撫で下ろす。

「っしゃあ!」

「やったか……」

金髪の男が腕を掲げて雄叫びを上げ、クレイグが黒々とした煙の中を見据えるように呟いた。

「手応えあったわ、直撃よ」

炎の魔法を打ち込んだ張本人、いかにも魔法使いというような大きな帽子を被った女性が二人に歩み寄りながら言った。

「直撃はいいけどよ、エレナ。お前、ちゃんと加減したのか。ありゃ生きてんだろうな?つか、俺まで巻き込まれるところだったぞ」

金髪の男がもうもうと立ち上る煙の方を呆れたように指差す。

「心外ね、アーガス。ちゃんと加減はしてるわよ。もしあなたが巻き込まれても大丈夫なようにね」

魔法使い然とした女性、エレナが髪をかきあげて挑発するように笑った。

「ああん?何言ってやがる。お前の詠唱がノロイから俺がギリギリまで粘って引きつけてやってたってのによ」

「あら、詠唱なんて私はとっくの昔に終わってたわよ?あなたがいつまでも退いてくれないから撃てなかったけれど」

「なんだとぉ?」

「何かしら?」

威嚇するように睨み合うアーガスとエレナを、クレイグが呆れたように片手で顔を覆って諌め始める。

「はぁ……お前ら、もう少し緊張感を持ったらどうだ。相手は異端教徒だぞ、気を抜くな」

「クレイグったら心配性ね。加減したとはいえ上級魔法……高ランクの魔獣にも通用する威力よ。人間ならたとえ意識があっても虫の息、動けるはずは──」

そこまで言ったところでエレナが不意に口を閉す。
その目は驚きで大きく見開かれていた。

「おいおい、そんな顔してどうした──」

そう声をかけるアーガスも言葉を切って剣呑に煙の中を凝視して

「……どうやら想像以上に手強い相手らしい」

クレイグが再び大剣を構え直した。彼の頬を一筋の汗がついと流れる。

ビュウと切り裂くような風が吹き、地に落ちた木の葉を舞いあげ煙を飛ばす。
晴れていく煙の中で異端教徒が怪しく佇んでいた。
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