両親に殺された俺は異世界に転生して覚醒する~未来の俺は世界最強になっていたのでちょっと故郷を滅ぼすことにしました~

あぶらみん

文字の大きさ
43 / 123
第一部

きな臭いのきな。うさんくさいのうさん。 って何だろう

しおりを挟む
そんな聖域に、粗暴な声が罅を入れた。

「ああ……?逃がしたクソ猫を追っかけてきてみりゃ、なんだこりゃ?」

木々をかきわけて、ひとりの男が姿を見せた。
長身でささくれ立った髪、常に争いを求めるような、
抜き身の剣のようなぎらついた目が特徴的な男だった。
鍛え上げた体と粗暴な物腰がいかにも荒事を得意だと主張している。

「どうやら少し面倒なことになっているみたいだねぇ」

「なあに、子どもがふたりいるだけです。なんとでもなりますよ」

続いて男がふたり。
ひとりは長身痩躯、腰に長剣をぶら下げた剣士。
一見穏やかそうな佇まい。
だがその細い目の奥には黒く薄暗い感情が見てとれた。

そしてもう一人。ローブを着た商人風の男。まるで貼り付けたような笑顔。きな臭い。

剣呑な雰囲気を察してノエルがケットシーを抱えたまま立ち上がり、アルテアは足早に歩いて少女と男たちとの間に体を割り込ませた。

「どこのどなたか存じませんが、いったい俺たちに何の用でしょう?」

なるべく面倒事は避けておきたい。丁寧な言葉遣いを心がけ話しかける。それでも粗暴な男がいきり立って突っかかってこようとしたがローブの男が手でそれを抑えて会話に応じた。

「ふふ。用があるのはあなたたちではありませんよ。そこのお嬢さんが抱えている魔獣です。大人しく渡していただければ、何もしません」

ノエルはローブの男に指を差されて、咄嗟に隠すようにケットシーを抱き込んだ。少女たちを隠すように少し立ち位置をかえながら、アルテアが言う。

「渡さなければ何かすると、まるでそう脅されているように感じます」

「それは失礼……他意はないのですよ。ただ、渡してくれればいいのです。私たちは冒険者です。そしてそれは元々私たちが狙っていた魔獣。横取りはよくないと、そうは思いませんか?」

「横取り?それはおかしい。王国ではケットシーの積極的な狩猟は冒険者にも認められていませんよね。その許可が下りるのは、人を害する極めて凶悪な個体に討伐依頼が出されたときだけのはずです」

「ははは、賢い坊やですね」

男がにやにやと顔を歪ませて乾いた笑い声を出す。

「話は簡単です。そちらのお嬢さんが大事そうに抱えている、その魔獣。それが極めて凶悪な個体なのです」

薄々はわかっていたことだが、アルテアは確信する。この男は嘘をついている。おそらく冒険者などではなく、違法な手段で稼ぎを上げる闇商人のようなものだろう。
背後に控える男二人は冒険者崩れの傭兵といったところだろうか。
なんにせよ危険な連中だった。
大人しく渡せば殺して素材にするか、生け捕りにして闇取引で売り飛ばすかのどちらかだろう。
後ろで心配そうにするノエルの顔をちらりと見て、安心させるように彼女の頭をぽんと叩いた。

「嘘ですね。そんな話は聞いていません」

アルテアがぴしゃりとした声でそう告げると、
男がわずかに笑みを崩した。

「……何ですって?」

「そんな話は聞いていない、と言っています。俺は領主代行を務めるサンドロッド家の者です。そんなに凶悪な魔獣がいるなら我が家にも話がきます。けど俺はそんな話を聞いたことがない」

男の顔から笑みが消えた。
周囲の温度が下がった気がした。
アルテアは剣呑な雰囲気を感じ取り身構える。
ノエルも、絶対に渡さないと言うようにケットシーを腕に包んで庇い、三人の男を睨みつける。

「ガキ共。ぐだぐだ言ってねぇでそいつを渡せ」

粗暴な男が巨大な体躯で威圧しながらノエルに手を伸ばす。その手を横からアルテアが掴み取った。

「なんの真似だ、ガキ。痛い目にあいてぇか?」

「……その子たちに触れるな」

アルテアの口から低く黒い言葉が漏れた。子供とは思えぬ迫力、殺気。空気がちりちりと焦げていく。まさに一触即発。
すぐにでも戦闘が始まろうとしたとき。

「止めなよ、ケン。子ども相手にみっともない」

言いながら、細目の剣士がケンと呼ばれた男の肩をなだめる様に何度か叩いた。そして男に身を引かせ、膝を折ってアルテアたちに目線を合わせた。

「いやぁ……ツレが驚かせちゃったみたいで悪かったね。見た目がでかくていかついからさ、こいつ。
怖いよね。警戒するのも無理ないよ」

そういってにんまりと笑顔をつくる。だがどこか嘘くさい。

「それでその魔獣についてだけど……代行様の家に話が届いていないなら、もしかしたら僕たちの勘違いかもしれないね。他の魔獣だったのかも。そうだよね、ソルドーさん」

顔だけで振り返り後ろの商人風の男にそう声をかけた。すると商人風の男をそれに合わせて首肯する。

「ええ、ザーンの言う通りでしょう。私たちは何やら重大な思い違いをしていたようです。いやはや、申し訳ない」

またのっぺりとした笑顔を顔に貼り付けて商人風の男、ソルドーが
冗談っぽく自分の頭をぺしぺしと叩いた。芝居がかった言動にアルテアとノエルはうさん臭さを感じずにはいられない。

「そういうことだから、ケン。今日はもう帰ろう」

剣士ザーンが立ち上がってケンの肩をぽんと叩くとケンと呼ばれた巨躯の男が不満げに舌打ちして踵を返す。それと入れ替わるようにソルドーがアルテアたちに歩み寄り、膝を折って自分の懐に手を入れた。

「これはお詫びの印です。どうぞ受け取ってください」

そう言ってアルテアとノエルにそれぞれお菓子の包のようなものを手渡した。毒でも入っているんじゃないだろうか。そんな考えが頭をよぎった。

「……いりません」

「まあまあ。そう言わずに受け取ってくださいよ。私の気がすみませんから。別に毒など入っていませんよ」

アルテアの考えを呼んだようにソルドーがにやりとする。ここで押し問答をしても無駄、受け取ってさっさと帰ってもらったほうがいいと判断し、仕方なく包を受け取った。
アルテアがそうすると、ノエルもそれに倣って恐る恐る手を差し出して男から包を受け取る。

「おや、あなたは……」

ソルドーが何かに気づいたように、興味深そうにノエルを見た。
その視線に不気味なものを感じてノエルが隠れるようにアルテアの後ろに回る。

「あまり彼女に近づかないでください。人見知りなんです」

「いやはや、私としたことがこれは失礼」

言いながらソルドーが立ち上がり、貼り付けたような笑みを浮かべて一礼。

「では、ご縁があればまたお会いしましょう」

そう言って踵を返して森の中へと姿を消した。男たちが去ったあとも警戒を解かずに様子をうかがうこと数分、男たちが戻ってくる気配も何か罠が発動する気配もないことを確認し、大きく一息ついた。

ノエルも緊張を解いて、ケットシーを抱えたままへなへなと地べたに座り込んだ。

「はふぅ……なんだか怖い人たちだったね……」

「明らかに一般人ではなかったな。胡散臭いやつらだ」

アルテアは男たちの戻っていった道を見ながら吐き捨てるように言う。そしてノエルの方を振り向いて頭をぽんと叩いた。ノエルがびくりと体を震わせる。

「それにしても……あいつらの威圧によく耐えたな。ノエルもすっかり強くなったみたいだな」

「あぅ……アルくんが魔法を教えてくれたおかげだよ……」

顔をトマトのように真っ赤にさせて照れる少女から、先ほどのケットシーを治療したときのような雰囲気はすっかり消えていた。
そんな様子を見て、不思議な子だとアルテアは思うのだった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

八百万の神から祝福をもらいました!この力で異世界を生きていきます!

トリガー
ファンタジー
神様のミスで死んでしまったリオ。 女神から代償に八百万の神の祝福をもらった。 転生した異世界で無双する。

前世で薬漬けだったおっさん、エルフに転生して自由を得る

がい
ファンタジー
ある日突然世界的に流行した病気。 その治療薬『メシア』の副作用により薬漬けになってしまった森野宏人(35)は、療養として母方の祖父の家で暮らしいた。 爺ちゃんと山に狩りの手伝いに行く事が楽しみになった宏人だったが、田舎のコミュニティは狭く、宏人の良くない噂が広まってしまった。 爺ちゃんとの狩りに行けなくなった宏人は、勢いでピルケースに入っているメシアを全て口に放り込み、そのまま意識を失ってしまう。 『私の名前は女神メシア。貴方には二つ選択肢がございます。』 人として輪廻の輪に戻るか、別の世界に行くか悩む宏人だったが、女神様にエルフになれると言われ、新たな人生、いや、エルフ生を楽しむ事を決める宏人。 『せっかくエルフになれたんだ!自由に冒険や旅を楽しむぞ!』 諸事情により不定期更新になります。 完結まで頑張る!

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

【完結】487222760年間女神様に仕えてきた俺は、そろそろ普通の異世界転生をしてもいいと思う

こすもすさんど(元:ムメイザクラ)
ファンタジー
 異世界転生の女神様に四億年近くも仕えてきた、名も無きオリ主。  億千の異世界転生を繰り返してきた彼は、女神様に"休暇"と称して『普通の異世界転生がしたい』とお願いする。  彼の願いを聞き入れた女神様は、彼を無難な異世界へと送り出す。  四億年の経験知識と共に異世界へ降り立ったオリ主――『アヤト』は、自由気ままな転生者生活を満喫しようとするのだが、そんなぶっ壊れチートを持ったなろう系オリ主が平穏無事な"普通の異世界転生"など出来るはずもなく……?  道行く美少女ヒロイン達をスパルタ特訓で徹底的に鍛え上げ、邪魔する奴はただのパンチで滅殺抹殺一撃必殺、それも全ては"普通の異世界転生"をするために!  気が付けばヒロインが増え、気が付けば厄介事に巻き込まれる、テメーの頭はハッピーセットな、なろう系最強チーレム無双オリ主の明日はどっちだ!?    ※小説家になろう、エブリスタ、ノベルアップ+にも掲載しております。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

処理中です...