両親に殺された俺は異世界に転生して覚醒する~未来の俺は世界最強になっていたのでちょっと故郷を滅ぼすことにしました~

あぶらみん

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第一部

契約

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奇妙な男たちとのやり取りから1時間ほど経った。
魔法の訓練という気分でもなくなり、休息日ということで
アルテアとノエルは各々に好きなことをやっていた。

少年はもっぱら剣の素振り。
休息など必要ない。そう言わんばかりの力強い剣筋。

それを感心するように眺める視線が二つ。ひとりと一匹。
わずかに頬を赤く染めながらぽーっとした表情で少年をみつめる少女。
その膝の上でケットシーがまさにねこのようにゴロゴロと喉を鳴らしていた。

なんとも言えぬ熱い視線が気になって、アルテアは剣を置いて
その原因たる少女に声をかける。

「すっかりなつかれたみたいだな」

「はっ……はわわっ!」

急に話をふられるとは思っていなかったのか、
目があった瞬間に少女は慌てふためいてさっと顔を逸らして俯いてしまう。
膝の上のケットシーが「どうした?」というふうに首を傾げて少女の顔を見る。
どうやらすっかり仲良くなったようだ。

「……すまん。びっくりさせたみたいだな」

あまりの慌てぶりに思わず謝罪の言葉を口にする。
ひどく悪いことをしてしまったような、そんな気分になった。

「あっ、ごめん……アルくんは悪くないの!わ、私がちょっと……
驚きすぎただけだから!だから気にしないで!」

ノエルが今度は両手をぶんぶんと振りながら必死に否定した。
少しのことで慌てふためく少女の様子も、見慣れたアルテアにとっては
ノエルらしいと逆に落ち着く。

「気にしてないよ」

そう言って慌てるノエルを落ち着かせた。

「それで、そいつはどうするんだ?」

視線をノエルの膝の上の魔獣に向ける。
そしてノエルも腕を組んで少し困ったような顔になる。

「うーん。飼っちゃダメ……かな?」

「ケットシーを飼うこと自体に問題はないと思うけど……
まあ、ご両親にきいたほうがいいんじゃないか」

「そう、だよね。でもお父さんダメって言いそう……」

「テオさんが?そんな風には思えんけどな」

「お父さんこういうのにはけっこうきびしいの……
世話ができるのかーとか、食費がーとか、絶対言われるもん……」

そう言ってしゅんと肩を落とす少女。
娘には甘いと思っていたが、そういうところではしっかり教育しているらしい。
なかなかに意外だった。
まあ、仕方ない。とアルテアは思う。
生き物を育てるは難しく、また責任を持たなければならない。
それが魔獣ならばなおさらだろう。

ケットシーは人を襲わない。そう言われているが、何が起きるかは誰にもわからない。
もし仮にノエルがケットシーを飼うとして、
そのケットシーがノエルの意志に反して人を襲ったら、そのとき彼女はどうするのか。
難しい問題だ。反対されても仕方がないだろう。

しかし思いのほか激しく落ち込む少女を見るのも心苦しい。
そんな彼女にひとつ助け舟を出す。

「……契約すればいいんじゃないか?
そうすれば召喚魔法でいつでも呼べる。
魔力を供給しておけば飯もいらんしずっと傍におくこともできる」

「け、契約……?」

落ち込む少女にわずかに光が灯る。

「前に少し教えたろ。魔獣や精霊、
その他様々な生物とは契約を結べるんだ。
契約した者は召喚魔法でいつでも呼び出せる。そして魔力を供給しておけば
魔力の続く限り顕現させていられる」

アルテアの説明を聞いたノエルの表情が、今度は花が咲いたように
パッと明るくなった。

「そ、それなら許してもらえる……かな!?」

「まあ……俺に魔法を教えてやってくれって頼んだのはテオさんだし、
魔法の訓練の一環だと言えば大丈夫じゃないか?
なんだか少しずるい気はするが……」

「ず、ずる……」

ずる、という言葉が気になるようだ。
思案する少女を見て、とても素直で優しい子なのだなと改めて思った。
つい手を差し伸べたくなってしまう。

「ずるっていうのは、少し言い過ぎたな。これも魔法の訓練だ。
もし召喚魔法を学びたいならいつかはやること。そんなに
気にしなくてもいい。契約の仕方なら俺が教える。だからやろう」

そう言うと、ノエルも控えめに可愛らしい顔をこくりと縦に振った。
そうしてノエルはケットシーと契約することになった。



ノエルのケットシーの契約はつつがなく終わった。
契約は難しい呪文や特別な場所、道具などは必要なく、
互いの同意があればすぐにでも終わるものだ。

何やらとても難しいものだと思っていたのか、
身構えていたノエルが拍子抜けしたような顔をしていた。

だがそれでもケットシーとの契約がよほど嬉しかったのだろう。
それからはずっと笑顔ではしゃぎっぱなしだった。

日も落ちてきて、今日の訓練は終わることにした。
怪しい男たちとのひと悶着あったことから、
アルテアはノエルを家まで送り届けることにした。
最初は大丈夫だと遠慮するノエルだったが

「心配だから」

アルテアがそう口に出すとまたも顔を真っ赤に染めて、
それからはあっさり申し出を受け入れた。
夕暮れ時、二人と一匹が並んで歩く。
ノエルがすっかり照れてしまって会話らしい会話もほとんどなかった。
それでもアルテアは不思議といやな気持にはならなかった。
ほどなくして無事ノエルの家に着く。

「またな」

「うん。また、明日!」

そう挨拶をかわして少女と別れた。
少女が家の中に入るのをしっかり見届けてからアルテアも踵を返して家路に着いた。
父と母、ターニャに帰りを告げて夕食をとり、眠った。

翌日、ノエルは村からいなくなった。
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