両親に殺された俺は異世界に転生して覚醒する~未来の俺は世界最強になっていたのでちょっと故郷を滅ぼすことにしました~

あぶらみん

文字の大きさ
54 / 123
第一部

理屈じゃないよ

しおりを挟む
「……あ?」

突然のことにアルテアは頭が真っ白になった。
何を言われたのかわからなかった。
いや、言葉はしっかりと聞き取れていた。
ただ、言葉と意味とが繋がらない。
「すき」とはどういう意味だっただろう。

「急に……何を、言って……」

そしてアルテアを動転させている原因がさらにもう一つ。
少女に起きた微細な、しかし明らかな変化。
茶金の髪に覆われて見えていなかったはずの少女の耳が、
今は美しい稜線を描いて髪の隙間から顔をのぞかせていた。

なぜ急に人の耳が伸びるのか。
いや、確か以前にも同じものを見たことがある。
いや、それよりも。目の前の少女は何と言っていたか。
やはりそちらの方が重要なのではないか。
津波のように情報が押し寄せてきて思考がまとまらなかった。
その様子がおかしかったのか、少女がこらえきれないというように笑みをこぼした。

「アル君もそうやって慌てることがあるんだね。少し安心しちゃった」

そう言って口に手を当ててコロコロと笑う少女は、
先ほどまでと変わって大人びた雰囲気になっていた。
性格も変わっているように感じられた。彼女はとても落ち着いていた。
彼女の落ち着いた雰囲気に毒気を抜かれたのか、
それともわめき散らしてすっきりしたのか、
冷静さを取り戻してきたアルテアは、
力を抜いて咳払いを挟んでから返事する。

「いや……その……。俺だって動転することくらいある」

「みたいだね。とってもめずらしいもの見ちゃったなぁ」

えへへ、と頬をかきながら少女が笑う。
少女の笑いにつられてアルテアもほっと溜息をついた。
やがて少女の笑い声がなくなって、しばらくどちらも話すことなく、
互いの視線がわずかにずれたまま、何かを考えるように
互いが互いの足元あたりをじっと見ていた。
その時間がどのくらい続いたか、先に口を開いたのはアルテアだった。

「さっきは……すまなかった。色々と……ひどいことを言った。
ノエルたちは何も悪くない。悪いのは俺だ……ごめん」

「悪い人なんていないよ。アル君も悪くない。
少しだけ……アル君の本音が聞けて、私は嬉しかったかな」

あれだけの暴言を浴びせられて、なおも優しい言葉をかけてくる少女。
そんな少女の優しさが痛くて、少女にひどいことを言った自分が
嫌で嫌で仕方がなくて顔を歪める。

「……どうして、まだそんなに優しくしてくれるんだ」

呻くように言うアルテアに、また少女が優しく告げる。

「好きだからだよ」

「好き……」

アルテアが同じ言葉を繰り返す。
なんとか理解しようとするように。

「何度でも言うよ。私はアル君が好き」

はっきりとした口調だった。
冗談でからかっているわけではないことがわかった。
であれば、なおさらわからなかった。

「理由……聞いてもいいか?」

おそるおそる。暗闇の中を手探りで進むような口調だった。

「理由かぁ。色々あるよ。いつもきりっとしててかっこいいし、
たまにする困った顔がとってもかわいいし、何度も助けてもらったし……
アル君はたくさんのものを私にくれたから」

少女が指を折って理由をひとつひとつあげていく。
それでもやはり、アルテアにはわからなかった。

「俺にはわからない。どうして俺なんだ……」

「本当はね、私にもよくわからないの。
でもね……好きだよ。
この気持ちだけは、はっきりしてる。
きっと、好きっていう気持ちは理屈じゃないんだと思う」

そう言って少女が快活に笑った。
いつもの小動物を思わせる風体の彼女とはまるでちがっていた。
理屈じゃない。確かにそうなのかもしれない。
彼女の言葉にアルテアも納得する。

「……そういうものか」

「うん、そういうものだよ」

少女も大いに頷いてまた笑った。
彼女の笑顔を見ているとささくれ立っていた心が和み、
そしてこれから自分のすることを思って心が痛んだ。

返事をしなければならいと思った。
自分には好きという気持ちがどんなものか、まだわかっていない。
言葉を知るのと、実感するのとでは程遠い。

だが、その気持ちを相手に伝えることがどれほど勇気のいることか、
それくらいは知っているつもりだった。
だから少女の気持ちには真摯で応えなければならないと、そう思った。

「ノエル……すまない。俺は、お前の気持ちには応えられない」

拒絶の言葉が響いて消える。
両手を後ろ手に組みながら静かに微笑みをたたえている少女と視線が重なる。
その顔は泣いているようでもあり、
納得しているようでもあり、笑っているようでもあった。

「うん……そう言われると思ってた」

少女は寂しそうに顔を下げて言った。
ゆっくりと地面に腰を下ろして膝を抱えて、膝の間に顔を埋める。
でも少女は泣かなかった。

「知ってたから、だいじょうぶ……気にしないで」

「……すまない」

アルテアがまた謝る。
それに対して何も言うこともなく、ただ黙って村の方を眺める少女。
どうしていいのかわからずに、アルテアも少女の隣に立って村を眺める。
そうして二人なにをするでもなく、じっと黙って景色を眺めていた。

「よしっ……!」

ぱちっ!と少女が自分の頬を両手で軽く叩いて立ち上がった。

「ごめんね、もうだいじょうぶだよ。……そろそろ戻ろっか」

どこか寂しそうな少女の横顔。
アルテアは少女のその姿を見て、二年ほどの前の記憶と重なった。
そしてそれをそのまま言葉にする。

「……随分と変わったな」

少女の横顔を見ながら言った。

「あはは……この耳のこと、だよね。
びっくりさせちゃったかな。黙っててごめんね」

「確かに少し驚いたけど、俺が言ったのはそのことじゃない。
……初めて会った頃から変わったなって。そういう意味だよ」

「え……」

今度は少女が呆気にとられた。

「二年くらい前に……一度ここで会ったよな。
俺が村の子どもと喧嘩したときだ」

その懐かしむような声が少女の耳に届き、少女の感情が大きく揺さぶられた。
そして、少女の思考は少年との出会いの時に巻き戻っていった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

八百万の神から祝福をもらいました!この力で異世界を生きていきます!

トリガー
ファンタジー
神様のミスで死んでしまったリオ。 女神から代償に八百万の神の祝福をもらった。 転生した異世界で無双する。

前世で薬漬けだったおっさん、エルフに転生して自由を得る

がい
ファンタジー
ある日突然世界的に流行した病気。 その治療薬『メシア』の副作用により薬漬けになってしまった森野宏人(35)は、療養として母方の祖父の家で暮らしいた。 爺ちゃんと山に狩りの手伝いに行く事が楽しみになった宏人だったが、田舎のコミュニティは狭く、宏人の良くない噂が広まってしまった。 爺ちゃんとの狩りに行けなくなった宏人は、勢いでピルケースに入っているメシアを全て口に放り込み、そのまま意識を失ってしまう。 『私の名前は女神メシア。貴方には二つ選択肢がございます。』 人として輪廻の輪に戻るか、別の世界に行くか悩む宏人だったが、女神様にエルフになれると言われ、新たな人生、いや、エルフ生を楽しむ事を決める宏人。 『せっかくエルフになれたんだ!自由に冒険や旅を楽しむぞ!』 諸事情により不定期更新になります。 完結まで頑張る!

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

【完結】487222760年間女神様に仕えてきた俺は、そろそろ普通の異世界転生をしてもいいと思う

こすもすさんど(元:ムメイザクラ)
ファンタジー
 異世界転生の女神様に四億年近くも仕えてきた、名も無きオリ主。  億千の異世界転生を繰り返してきた彼は、女神様に"休暇"と称して『普通の異世界転生がしたい』とお願いする。  彼の願いを聞き入れた女神様は、彼を無難な異世界へと送り出す。  四億年の経験知識と共に異世界へ降り立ったオリ主――『アヤト』は、自由気ままな転生者生活を満喫しようとするのだが、そんなぶっ壊れチートを持ったなろう系オリ主が平穏無事な"普通の異世界転生"など出来るはずもなく……?  道行く美少女ヒロイン達をスパルタ特訓で徹底的に鍛え上げ、邪魔する奴はただのパンチで滅殺抹殺一撃必殺、それも全ては"普通の異世界転生"をするために!  気が付けばヒロインが増え、気が付けば厄介事に巻き込まれる、テメーの頭はハッピーセットな、なろう系最強チーレム無双オリ主の明日はどっちだ!?    ※小説家になろう、エブリスタ、ノベルアップ+にも掲載しております。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

処理中です...