両親に殺された俺は異世界に転生して覚醒する~未来の俺は世界最強になっていたのでちょっと故郷を滅ぼすことにしました~

あぶらみん

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第一部

再会

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いつもと変わらぬ快晴であった。
東の帝国方面に薄暗い雲が見えるが風の流れは緩やかだった。空を見ながら今日一日くらいは持ちそうだな、なんてことを考えていると、背後から可愛らしい、だが勇ましくもある気合のこもった少女の声が聞こえてきた。

風陣爪ヴィンナーゲル!」

ノエルが呪文を唱えると、集められた風が刃となって放たれる。
鋭い音とともに爪状の傷跡を地面に残しながら飛んでいき、森の木々をずたずたに切り倒した。
この森はアーカディアの魔力の影響で魔力濃度が高く木々もすぐに生え揃うので魔法を全力で打ち込むのには都合が良かった。

ノエルが使ったのは風刃を飛ばして攻撃する風系統の中級魔法だ。
この魔法は練度や込める魔力量によって飛ばせる刃の数を増やすことのできる魔法で、並みの使い手で三つ程度と言われている。

アルテアは生徒に出した宿題を採点する教師みたいに魔法の痕跡を確認して、感心したように唸った。地面には放射線状に六つの傷跡が刻まれ、それが森の奥まで続いていた。


発生速度、威力ともに申し分ない出来栄えでノエルの練度の高さがうかがえた。
やはりノエルには才能があったようだと、自らの慧眼を内心で自賛した。

「良い感じだな」

「はゎっ……!?」

アルテアが話かけると、ノエルは素っ頓狂な声を出しながら飛び跳ねて尻もちをついてしまった。
そんなに驚かれると思っていなかったアルテアはぎょっとなって
慌てて手を差し伸べる。

「だ、だいじょうぶか……?」

「うぅ……び、びっくりしたぁ……」

言いながらノエルはアルテアの手を取って立ち上がる。
お尻についた土を手で払いながら、少しムッとした顔で続ける。

「もうっ……気配を消して声かけるのやめてって、前も言ったじゃん!」

柔らかそうな丸みを帯びた頬をぷくりと膨らませながら抗議の視線を飛ばす。
ノエルはアルテアに気持ちを伝えてから遠慮がなくなったのか、それとも開き直ったのか、
ときたまこうして強気な態度を打ち出してきていた。

今までの小動物のような少女の仕草にすっかり慣れ切ってしまっていたアルテアは、
こうしてノエルに強く出られると途端にたじたじになってしまう。

「ええと……すまん。そんなに驚かれるとは思ってなくてな」

「アル君は気配が希薄なのに魔力量は凄いから、急に近寄られると
山みたいな魔力の塊が落ちてきたみたいでびっくりしちゃうんだよっ……!」

「ごめんって……。というか、前も聞いたけど……
それにしても大げさすぎやしないか?」

「えっ、むしろ控えめな方だよ……?
ほんとは心臓が止まるくらいびっくりしてるもん。ね、ジル?」

そう言ってノエルが自分の頭上へ視線を向けるようにして呼びかけると、
彼女の頭の上に鎮座している猫――もといケットシーが「にゃ~ん」と
伸びをしながら鳴いた。ご主人様の言う通り、と言わんばかりだった。

「えぇ……」

一人と一匹からの総攻撃にアルテアは困惑したように、
あるいは諦めたように呟いた。

たじたじになったアルテアを見て満足したのか、
ノエルが「プッ」と膨らんだ頬から息を吐きだして相好をくずして
コロコロと可愛らしく笑い声を上げた。
そんな彼女を前に、参ったとばかりにアルテアは頭をぽりぽりとかいた。

「はぅっ。もしかして怒っちゃった?
ちょっとからかいすぎちゃったかな……?ごめんね……?」

一転、少女は不安に瞳を揺らしながら上目づかいでそう尋ねる。
今にも泣きだしてしまいそうな顔で見つめられては、
彼女に対して強く出るという選択肢はアルテアにはなかった。
わざとやっているなら大したものだと内心で感心する。

「いや……この程度で怒ったりしてないさ。
けど俺をからかうのもそろそろ勘弁してくれると助かるな」

アルテアが言うと、先ほどの泣きそうな態度はどこへやら、
再びノエルはいたずらっぽく笑った。

「ごめんね。面白くて、つい」

「つい、じゃない。俺の身にもなってくれ。
これでも本当にお前を傷つけてやしないかと内心びくびくしてるんだから。
お前からも何とか言ってやってくれないか、ジルバーン」

少女の頭上で丸まっているケットシーもといジルバーンにそう問いかけると、
彼女――どうやらメスらしい――は「なぁん」と短く鳴いて銀色の体に顔を埋めてさらに丸くなった。

「……なんて言ってるんだ?」

「眠いから話しかけないで。だって」

「やれやれ……」

味方になってくれる者はいないようだと、今度こそ諦めたように呟いた。




そうして和気あいあいと鍛錬を続けていると、
とても遠くで何かが破裂するような音が鳴った。
そしてしばらく後、森から地鳴りのような咆哮が聞こえてきた。

「魔獣、か?」

今までに聞いたことのない咆声にアルテアが訝しむ。
明らかに異常が起きていると思われたが、
魔力の乱れや魔獣の気配は感じなかった。
魔力探知にもひっかからない。

「どうしたんだろ……?」

同様に違和感を覚えるノエルと顔を見合わせ
何が起きても対処できるように心構えをするが、
それ以降は特に何も起こらなかった。

魔獣の咆哮のようなものが聞こえることもなく、いつもと同じような鳥のさえずりが聞こえだした。

「なんだったんだ……?」

警戒を解きつつそう言ったところで、ガサガサと草木の揺れる音が聞こえた。
大して速くはない、人間の歩行スピードくらいだが、
確実に自分たちの方へ近づいてきていた。

程なくして、草木をかきわけてひとりの少女が現れた。
透き通るような白い髪と白い肌、計算されつくしたように
精緻に形作られ配置されたその相貌はまさに神秘的という他なかった。
そして彼女の最たる特徴とでもいうべき炎を封じたような
深紅の瞳が、彼女の美をいっそう人間離れしたものにさせていた。

ますます神性に磨きがかかった少女の姿を見て、アルテアは一瞬呼吸を忘れる。
しばらく見つめ合ったあと、水でいっぱいになった容器から水がこぼれるように、
自然と少女の名前を呼んでいた。

「……イーリス」

「……ん」

少女はアルテアに歩み寄って短く応えた。
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