両親に殺された俺は異世界に転生して覚醒する~未来の俺は世界最強になっていたのでちょっと故郷を滅ぼすことにしました~

あぶらみん

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第一部

天使の微笑み

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「ひさしぶり……だね」

そう声をかけられて、アルテアは、はっと我に返ったように返答する。

「あ、ああ……一年ぶり、くらいだな。突然なんで驚いたよ」

「ん……。びっくりさせようと……思った。だいせいこう」

そう言って少女は指でVサインをつくってみせた。

少女は相変わらず無表情ではあるが少し茶目っ気がましたようだ。
会わない間にこの少女も成長したのだと、時の流れを実感した。
それから思い出したように少女に尋ねる。

「それはそうと、お前……大丈夫か?
ついさっき森から化け物じみた咆哮が聞こえてきたんだが……」

「ん……?へいき」

心底身に覚えがないといったふうにイーリスが首を振る。
それに合わせて、香水か何かのにおいだろうか、ふわりと甘い香りが漂った。

「どこも……けがしてないよ」

言いながら少女は身をよじって見せた。
少女の胸元で、自分の渡したネックレスが揺れているのを見て
少しうれしく思った。
だがそんなことはおくびにも出さずにアルテアは助言する。

「安心したよ。まあ、会って早々になんだが……
森の中は様子が少しおかしいかもしれない。
あまり近づかないほうがいい。気をつけろよ」

「うん。ありがと」

「……ああ」

そこで会話が終わり、妙な間ができた。
アルテアは久しぶり過ぎてどう話してよいのやら若干の戸惑いを覚えていた。
イーリスはというと特にそんな様子もなく、だが何か思惑があるのか、
チラリチラリとアルテアの顔を見ながら何事かを待っているように見えた。
そしてついに、待ちきれんとばかりにぼそりと呟く。

「それだけ?」

「え……。あ、うん。えーっと。少し髪が伸びたな」

「うん。他には?」

そう言ってイーリスが紅い瞳でじっとアルテアを見つめた。
さらなる少女の追及に、いったい彼女は自分に何を言ってほしいのかと、
アルテアは困惑する。

しばらくの間「あー」だとか「えーっと」だとか言ったまま
続きを話さないアルテアに痺れをきらしたのか、
イーリスは不機嫌さを伝えるように少しだけ眉尻を下げてアルテアを睨んだ。

人間離れした美をもつ彼女に睨まれたとあってはさすがのアルテアも動揺を隠せない。
「うっ……」とくぐもった声をだしてたたらを踏んだ。
あいた距離を縮めるように少女はすかさずズイッと前進して、
アルテアの碧い瞳を見ながら言った。

「……わたしは会いたかった」

あまりにストレートな物言いだったのに加えて
まさか少女がそんなことを口にするとは思いも寄らず、
アルテアはぎょっとなって驚いた。

「アルは?」

すかさず少女が問う。

「よ、呼びすて……」という呟きが後方から聞こえた。

「お、おれ?まあ、な。うん」

交わる視線を外して言う。
二人だけならいざ知らず、
ノエルの前で素直に今の気持ちを口にするのは思いのほかこっぱずかしくて
曖昧に答えるだけにとどめた。

これで誤魔化すことができればいいなと、ちらりとイーリスを目の端で捉えると、
彼女は一心にアルテアの顔を見つめていた。
無言の圧力に屈してアルテアは降参のため息をついた。

「俺もだよ。俺も会いたかった」

「正直な人はすき」

アルテアの答えにイーリスは満足そうに、そして厳粛に頷いた。
まるで国の政策を決めた国王みたいだった。

「す、すきっ……!?」

また二人の後方から驚嘆するような声が聞こえた。

「……だれ」

イーリスが、いま気が付いたというような仕草で声の方へ顔を向けた。
アルテアの後方で何やらうろたえているらしい少女に目を向けて、ぼうっと眺めていた。

「あ、ああ…ごめん。紹介するのが遅れたな。
ノエルも……すまん、つい二人で話し込んでしまった」

アルテアはそう言ってイーリスに紹介しようとノエルの手をとった。
その瞬間、イーリスは「むっ」と唸ってつながれた手を刺すように睨んだ。
一瞬、物凄いプレッシャーと寒気のようなものを感じたアルテアだったが、
気づかないふりをして話をすすめる。

「こちらはノエルだ。頼まれて魔法を教えている。
村でお世話になっているテオさんの娘さんだ。
お前もテオさんとは話したことはあるだろ?」

イーリスは「テオ……」と短く言った後に懐かしそうに目を細める素振りをして、
首を縦に揺らした。

「ノエル、こちらはイーリス。一年ほど前に知り合った友人だ」

友人という言葉をきいてノエルは安堵し、イーリスは眉をかすかにぴくつかせた。
わずかながらも立ち込める不穏な雰囲気を察し、
アルテアは簡単に紹介をすませてあとの成り行きは二人に任せることにした。

二人の少女はお互いに物言わず見つめあっていた。
半ば睨みあっているようにも見えた。
ノエルがきっと気合を入れるようにして前に出た。

「わ、わたしノエルって言います。イーリス……ちゃん?よろしくね」

言い終わってからノエルがぺこりと頭を下げた。

「……ん。わたしは……イーリス。よろしく」

イーリスも礼儀正しく挨拶をした。相変わらずの無表情ではあったが、
それを除けばどこかの貴族令嬢といっても通用しそうなほどの所作だった。
彼女の美と相まってもはや神々しい。
わずかばかりの間ノエルも彼女に見惚れていた。

先ほどは何やら不穏な気配を感じたのだがそれも気のせいだったようで、
特に何事もなく顔合わせが終わった。

それからアルテアとノエルは鍛錬を再開した。
イーリスは少し離れたところからじっと見守るように二人を見つめていた。

「イーリスちゃんは……一緒にしないの?」

ノエルが気を利かせたのか誘いをかける。

「だいじょうぶ。見てる方が好き」

「そうなんだ?」

「イーリスは昔からそうだからな。気にするな」

断られて少し気を落とすノエルを慰めるようにアルテアが言う。

「でもずっと見てるだけって、退屈なんじゃない?」

ノエルがもっともらしい疑問を口にした。

「確かにな。今まであまり気にしたことは無かったが、
つまらなくはないのか?」

アルテアもイーリスに問いかけた。
少女は「んー…」と少し間延びした声を出してから、
口をもごもごさせて答えた。

「この景色が……好きだから」

胸元のネックレスを軽く握りながらそう言って、ほんの少しだけ、少女は微笑んだ。
アルテアは目を見開いて思わず見とれてしまう。
その笑みは、これ以上に尊いものなどこの世にないと思わせるような、
神秘的な静謐さを秘めていた。

その姿を絵画にしたならば、女神というタイトルがつけられるだろう。
涼やかな風が吹き抜けるように、
アルテアの心をさっと撫でてどこか美しい場所へと運んでいく。
そんな錯覚を覚えた。

「変わったな……」

感慨深げに言うとの同時、ぽつりと冷たいものがアルテアの鼻を打って
半ば放心していた彼の意識を現実に引き戻した。
やがてそれは勢いを増してぱらぱらと降り始めた。

「……雨か」

アルテアが夢から覚めたような調子で言う。

「雨……」とイーリス。

「雨だね……」とノエルが不満げに。

「今日はここまで、だな。本格的に振り出す前に帰ろうか」

アルテアが言うと、イーリスは大いに頷きを返し、
ノエルも渋々といった様子で頷いた。
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