両親に殺された俺は異世界に転生して覚醒する~未来の俺は世界最強になっていたのでちょっと故郷を滅ぼすことにしました~

あぶらみん

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第一部

襲来

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村の中央広場に焚かれた篝火が夜の闇を赤く染め、大勢の村人は松明を片手に篝火を囲んでいる。手にした松明の火が揺れる度、彼らの深刻な顔が闇夜に浮かび上がっては消えていく。その場は沈痛に支配され、パチパチと薪の爆ぜる音だけがよく響いていた。

「すまねえ、待たせたな!」

テオのよく通る声が静寂に切込みをいれると、静まりかえっていた場が一転、どよめいた。

「応援をつれてきたぜ、これでもう大丈夫だ!」

彼らの不安をかき消すように、わざと明るい調子をつくってみせた。

「アルゼイド様がきてくれたのか!?」

村人のひとりがすがるように言う。

「いや、旦那……アルゼイド様はご不在だ」

テオがそう返すのを聞いて村人たちはあからさまに肩を落とした。彼らを励ますようにテオが声を張り上げて言う。

「安心しろ!アルゼイド様はご不在だったが侍女様とご子息が協力してくださる!」

村人の視線が一手に集まる。

「皆様。此度の事態、不在の主に代わりご子息であるアルテア様と私ターニャがご助力させて頂きます」

ターニャが優雅に一礼してみせる。彼女の姿を見て村人たちも安心したのか、暗かった顔に少しだけ光が刺した。普段の姿からは想像もつかないが、彼女は村人から随分と信頼されているようだ。

そして次にアルテアの方に目をやり、ヒソヒソと小声で囁きあう。アルテア自身に話の内容は聞こえなかったが、好意的な反応でないことはわかった。まるで腫れ物を触るような扱いに、隣にいたノエルが少しむっとした顔をする。
そんな彼女に無言で首を振り、気にしていないことを言外に伝えた。
自分はこれでいいのだと。

「おめえらはここでちっと休憩しててくれ。かなり前から動きっぱなしで疲れちまったろ。あとは俺たちがやるからよ」

微妙な空気を察したのか、テオが手を鳴らして方針を決める。長時間にわたり危険が潜む森を捜索して、不安と疲労とで心身ともに限界が近かったのだろう。誰も反対することなく村人たちはその場にへたりこんだ。

「では、ノエル様。道案内をお願い致します」

ターニャが優しくノエルに声をかけた。

「急ぎますので、よろしければ私──いえ、坊ちゃんが抱きかかえて走りますが」

突然の提案にアルテアはぎょっと目を剥いてからメイドを睨むが、彼女がすまし顔を崩すことはなかった。

「わたし、自分で走ります。無理そうならお願いするね……?」

顔をトマトみたいに真っ赤にしたノエルが遠慮がちに言った。
テオが小声で「ははぁ」と呟いて意地悪そうに笑いながらアルテアを見やる。

「よ、よし!行こう!」

アルテアは無理やり話しを終わらせて森へ向かって駆け出した。


漆のごとく黒が広がるその森は、死んだように静かだった。そんな静けさの中で様々な音が不思議な聞こえ方をした。湿った落ち葉と砂利を踏む鈍い音が、まるでちがう世界から聞こえてくるように異質に響いた。
自分たちの足音と、それに合わせて揺れる剣の鍔鳴り、自分たちの息遣い。その他には何も音を発するものはいなかった。
森の生物たちが、嵐が通り過ぎるまでひっそりと息を殺しているような、そんな重苦しさをアルテアは感じていた。いつもとは違う異質さに気づいているのか、案内のために先頭を走るノエルの表情にも緊張が見られた。

「それにしても驚きですね」

周囲を警戒しながら殿をつとめるターニャがそんなことを言った。

「失礼ながら、ノエル様がここまで動けるとは思っておりませんでした。滑らかで無駄のない魔力操作と身体強化……見事です」

彼女にしては珍しい素直な賞賛だった。
少女の緊張を解すためかもしれないとアルテアは思った。

「あはは……ありがとうございます。私もびっくりです。アル君とずっと一緒に訓練してたおかげだと思います」

嬉しさと恥じらいとがまぜ合わさったような声音だった。不気味な妖気が漂う森の中にわずかばかりの甘い空気が生まれた。

「なるほど。坊ちゃんと……ずっと一緒に……」

ターニャはからかうような調子でノエルの言葉を反芻する。

「お前はどんなときでもブレないな」

アルテアがため息をついて呆れたように首を振った。

「ええ、私はいつでも坊ちゃんの幸せを願っていますよ。あまり女性を泣かせないようにしてくださいね」

「……意味がわからん」

「ふふっ……あははは」

二人のやり取りを聞いていたノエルがコロコロと笑った。

「そんなにおかしかったか?」

「だって、アル君ってこういう話はてんでダメだから……なんだかおかしくって」

そう言ってノエルはしばらくクスクスと笑っていた。張っていた肩の力も抜けてリラックスしたようだった。
それからしばらく、彼女の記憶は確かなようで、一度も止まることなく案内に従って獣道を走り続けていると、突如けたたましい咆哮が森を揺らした。

森全体が悲鳴を上げるようにざわめきだって、何かが爆発したような轟音のあとに大地が大きく揺れた。咆哮と轟音の中、わずかだが確かに聞こえた子供の悲鳴。

「まずいぜ!」

テオの言葉で各々が一瞬で視線を合わせ、方向を定めて駆け出す。断続的に地揺れが続く森の中をターニャが風のように疾走し、その後にアルテアとノエル、テオが続く。
草木をかき分け飛び出すと、アウルベアの倍はあろうかと思われる大岩のごとき魔獣が巨木に向かって突進を繰り返していて、その度に地面が大きく揺れた。

「なんだありゃ!?」

テオが髭に覆われたつぶらな瞳をぎょっとさせた。アルテア自身もあんなに巨大な魔獣は今まで見た経験がなく驚いた。

「身体的な特徴からグランライノセラスという魔獣かと思われます。あそこまで巨大なものは私も初めて見ましたが」

ターニャが冷静に分析してから、魔獣が突進を繰り返す巨木の上部に目線をうつす。つられて皆も木の上に目をやると、枝の間を巧みに利用して木版やツタなどを使って小屋のようなものが建てられていた。

「あれが秘密基地ってやつか?!」

テオが聞くとノエルは慌てた様子で何度か頷いた。

「ってこたぁ……ガキ共はあの中か!あのデカブツがあれ以上体当たりしたらやべぇぞ!」

テオの言うと通り、巨木は繰り返される突進にミシミシと音を立てていて今にもへし折れてしまいそうだった。

「誰かが囮になって魔獣を引きつけよう」

アルテアがそう提案する。

「では私が囮、救助はテオ様に」

「おうよ!」

「え?ちょっ、待っ──」

アルテアが即座に飛び出す二人の背中に制止の声をかけたが、彼らが足を止めることはなかった。

「坊ちゃんはノエル様の守護を」

「アル坊、おめえはノエルを頼むぜ!」

やたら息のあった連携を見せる二人にすっかり置いてけぼりにされて唖然となる。

「……わかったよ!」

腑に落ちないところはあるが意識を切り替えて周囲を警戒する。
グランライノセラスはターニャが牽制で投擲した短剣に気を引かれて、目標を彼女にうつしたようだった。彼女は牽制を繰り返して順調に魔獣を巨木から引き離していた。
その間にテオがその体躯に似合わぬ意外なほど軽快な動きで巨木をのぼっていく。やがてテオが頂上までたどり着き、
泣きわめく子供たちを豪快に撫で回してから太い腕に抱きかかえた。どうやら子供たちにケガはないようで、テオはにかっと笑いながら親指を立てて成功を知らせた。

───────

しばらくして、囮をしていたターニャが全く変わらぬ姿で戻ってきた。

「メイド様に怪我はねぇのかい?相手してたあのごつい魔獣はどうしたんでぇ」

「ご心配には及びません。三枚におろしておきましたので。この通り、傷もなければ汚れひとつついておりませんよ」

メイドがスカートの掴んで少し持ち上げて、優雅に回ってみせた。それを見てテオが感嘆を漏らす。

「ほぉ、大したもんだなぁ。俺にはかなりヤバそうな魔獣に見えたんだが」

「見た目ほど厄介な魔獣ではありませんよ。冒険者ギルドが設定するランクで言うとCランクというところでしょうか。中堅どころの冒険者や我が国の騎士であれば難なく処理できるレベルです」

「そ、そうなのか。俺にゃよくわかんねえが、何にせよ無事で良かったぜ」

テオの顔が少し引きつっていた。メイドがどうして中位冒険者や騎士並に強いのだという疑問が彼の顔にはっきり出ていた。彼女の過去はアルテアも知らなかった。父や母ならば知っていると思うが、聞こうとは思わなかった。人には知られたくないことのひとつやふたつはあるだろうから。

「んじゃ、ガキ共も保護したしそろそろ帰るとすっか!」

テオの言葉に一同が同意する。

「では、帰りは私が先導しましょう。道は覚えておりますので──」

そう言ってターニャが数歩進んだところでぴたりと足を止めた。剣呑な気配を見にまとい、剣で斬るように周囲に目を走らせた。

続いてアルテアが不穏な気配を察知して臨戦態勢をとり、暗闇を見据える。

「──来ます」

ターニャが声を低くして告げるがはやいか、虚空にヒビ割れたような亀裂が走り、亀裂から生えるように異形の腕が出現した。
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