両親に殺された俺は異世界に転生して覚醒する~未来の俺は世界最強になっていたのでちょっと故郷を滅ぼすことにしました~

あぶらみん

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第一部

『こよみ』

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罪は赤く
死は白く
生は黒く

───────

俺はカプセルの中で生まれた。
初めて見たのは、緑色の培養液の中に浮かぶ無機質な子供たちと、感情の抜け落ちた科学者の顔だった。
だから親の愛情なんてものはまるで知らなかったし、それでいいとも思っていた。重要なのは自分の有用性を示し続けることと自分が生き残ることだった。
思えば赤子の頃なんてものもなかった。
どういう方法かは知らないが、俺たちはある程度の肉体年齢まで成長した状態で造られていた。
そして培養液の中で言語や常識、知識といったものを脳に直接インストールされた。
一度に数年分の情報を叩き込まれるわけだから、脳の処理が追いつかずにそこで精神が壊れて使い物にならなくなることも珍しくない。そういう子供が廃棄されるところをカプセルの中から何度も目にしてきた。
それ以外にも、俺たちには製造段階である特殊な遺伝子とナノマシンが組み込まれている。それに適合できない者はカプセルから出てすぐに異形へと変異し短い命を散らしていた。
そういった調整が終わり、基準をクリアしたものは‪”‬楽園エデン‪”‬と呼ばれる施設へと出荷される。
K0431GB346。
それが俺に与えられた名前だった。
人ではない、モノとして能力の使い方や向上の訓練とテスト、そしてメンテナンスを受ける日々が続いた。
そうした日課をこなしながら、やがて俺たちは大人の指示で戦場へと送られる。
俺たちの戦う相手は‪”‬地球の病魔ヴァイラァース‪”‬と名付けられた異形の敵性生物だ。地球の環境汚染が進みナーロー教が台頭してから少しして、そいつらは突如として現れたらしい。
人類はそいつらが現れてからずっと戦っていたのだという。そしていつしか人類はやつらから身を守り安全を確保するために高い外壁で都市を覆った。
移動型の都市‪”‬機動都市テラズフロート‪”‬を建設しそこで生活圏を築き始めた。それを主導したのがナーロー教の教祖という話だった。
汚染によって人々が住む場所を減らしていくのを嘲笑うかのように、怪物は勢力を拡大していった。
そんな常に死と隣り合わせにある恐怖から解放されるため、人々は不老不死化を求めた。不老不死が推進されて人口の減少はなくなるが、都市の大きさは変わることなく一定だ。住める場所は限られているのに人口だけがどんどん増える。
このままではいずれ都市の資源は枯渇する。都市の機能が崩壊してしまうかもしれなかった。既に不老不死になり安息を得たものにとって、それは恐怖の再来だった。

だからこそ人々はナーロー教の教えを歪めた。そしてその一方で、人類の生活圏拡大のため、クローン技術を駆使して怪物と戦う兵器──つまり俺たちを造りだしたのだ。
俺たちは怪物と戦うために造られた、いわば人造兵器だった。
何体かのヴァイラァースの死骸を解剖研究し、やつらの能力を解析、その遺伝子を組み込まれて造られたのが俺たちだ。

‪”‬鬼甲化少兵ドール‪”‬

俺たちはそう呼ばれていた。
体に組み込まれた怪物の遺伝子とナノマシンとが宿主の意思に反応し、宿主の細胞をヴァイラァースのものと同質に変異させ、それに応じた能力を発現させる。
変異により発現する能力の種類は様々で、組み込まれた遺伝子に大きく左右された。
火を噴く怪物の遺伝子を持つものは火を操れるようになるといった具合に。
そうして能力を発現させた俺たちは戦場へと送られ、異形の怪物を殺すだけの日々が続いていく。
好成績、つまり多くの怪物を殺した者は都市の中に住む大人に引き取られ、そこへ移り住むことが許されていた。
それだけが、終わりのない地獄から抜け出すための唯一の希望のようなものだった。
他人などどうでもよかった。
最後に自分が生き残っていればそれでよかった。
だが、一人の少女が現れて、俺の世界は一変した。いや、俺だけじゃない。楽園にいる全ての子供を変えてしまった。

「今から、みんなに名前をつけたいと思います!もう番号で呼び合うのは止めにしましょう!」

いつだったか、その少女は突然そう言った。
Re:117GB648。
彼女はダストとして調整を受けて戻ってきた唯一の特殊個体だ。どこで何をどう調整されたのかは知らないが、調整はおそらく失敗したのだと俺は思っていた。感情抑制を受けているはずのドールにあって、彼女の行動はそれをまったく感じさせなかったからだ。その時も名前をつけるなんて、およそドールとしてはあり得ないことを言っていた。
彼女は何故か俺によく話しかけてきた。
最初は煩わしいと思い無視を決め込んでいたのだが、いつしか俺も彼女の影響を受けて随分と変わっていた。
彼女のしかけてきた勝負に負けた俺は、彼女の言いつけ通りに友達になった。
それからは一緒にチームを組んで戦うようになった。次第に他の子供たちも集まってきて、どんどん仲間がい増えていった。
そうしているうちに、俺は彼女のことを誰よりも信頼するようになっていた。彼女といることが楽しいとさえ感じるようにもなった。泥水のような雲に覆われた空を見ながら、皆で楽園を出て広い世界を見に行こうと、俺たちはそう誓い合った。
しかしその約束が果たされることは無かった。
ある戦場への出撃命令が出された日のこと。その直後に俺の体に突然、機能的な不備が見つかった。それでもなんとか共に行こうとした俺を、仲間たちは優しく押しとどめた。メンテナンスを受けてから来てくれればいいと、そう言って。
結局、俺が戦場へ駆けつけた時には何もかもが遅かった。
爆炎。臭気。ずたずたの肉片。
赤黒く染まった大地には、かつて仲間だったモノが散乱していた。もはや元が誰だったのか判別つかないほどそれはバラバラで、あるいは黒焦げだった。死屍累々の地獄を、怪物を殺しながら俺は進んだ。
ほどなくして、地獄の中心に居座る一匹の巨大な怪物を見つけた。怪物はひとりの少女と戦っていた。
その戦いのあまりの凄まじさに、俺は少しだけ助けに入るのを躊躇した。
その次の瞬間、怪物の攻撃が彼女を貫いた。俺は咄嗟に彼女を庇うように戦いに割り込み、彼女と協力して怪物を打倒した。
だが、その怪物はただでは死ななかった。体内に溜め込んだ膨大なエネルギーを炸裂させ、辺り一帯を炎に沈めたのだ。
それでも俺は生きていた。彼女が庇ってくれたからだ。俺は彼女を犠牲にして生きながらえた。
そしてなぜか、そこでの戦いが評価され俺は都市に住む大人に引き取られ、都市で暮らすようになった。
そこは物が溢れ常にきらきらと輝いていて、死の危険に脅かされることもなかった。
まるで異世界だった。
けど俺にとってその生活は無味乾燥なものだった。
仲間を失った悲しみ、ひとりだけ生き残ってしまった罪悪感。仲間たちの死体の山の上に建つその都市で暮らすことが、俺にはどうしてもできなかった。
だから俺は戦うことを選んだ。
ナーロー教などという偽りの救いで俺たちを道具のように使い捨て死に追いやり、自分たちはその恩恵を貪り食らう。
命をくらって生きる意地汚いハイエナ共を、俺が粛清してやろうと思った。
でもそれは、俺が自分自身に感じている怒りでもあった。仲間の命を、彼女の命を犠牲にして生き残ってしまった、どうしようもない俺への怒りだった。
でも俺はそのことには目を逸らして、都市の特権階級の人間を殺し始めた。だがそれもすぐに察知されて俺は親代わりの大人に殺されてしまった。
因果応報だ。
俺には相応しい最後だった。
それなのに、俺は女神の元を訪れて転生することになった。
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