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第一部
夢の欠けらⅥ
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きみは ぼくの太陽のよう
きみは わたしの心のよう
───────
少年は手に持った一冊の本に目を落とす。真っ白な紙のページいっぱいに、画一的な文字で教祖の教えとそれにまつわる神話が書いてある。
曰く、死は終わりではない。
曰く、死は世界からの解放である。
曰く、善行を積んだ者の魂は死後の世界で幸福に満ちた生活をおくることができる。
曰く、善行とは都市の大人たちのために戦うことである。
曰く、勇敢に戦い勇敢に死ぬことこそが神の幸福を受ける術である。
そういった教えのあとに、勇敢に戦い死した戦士たちが死後の新たな世界に生まれ変わり幸せに暮らしている物語が綴られている。
しかし少年はそのことをあまり信じてはいない。理由は明快で、死んで幸福になるなら全ての人間は死んでいないとおかしいからだ。
生き続ける理由がない。
「なに読んでるの、こよみ?」
本に影が差し込み、頭上から鈴の音が降ってきた。少年はわざと大きな音を立てて本を閉じて傍らに置き、煩わしそうに顔を上げる。
「……おれはK0431GB346だ」
氷でできた刃のように冷たく言い放つ。
「その名前長くて呼びにくいんだもん。
絶対こっちのほうがいいと思うんだけどなぁ……
あっ!私のことはリーナって呼んでね!」
まるで気にしていないというふうに、少女はあっけらかんとしていた。ほがらかな笑みを見せる少女に少年はなおも強く言い放つ。
「名前なんていらないし呼ぶ必要もない。おれかおれ以外か、それだけわかれば充分だ。わかったら失せろ……Re:117GB648」
「……うわぁ」
少女が端正な顔を歪めて憐れむような目で少年を見る。
「そんなだから友達できないんだよ?」
「必要ない」
少年は顔を下げて再び本に手を伸ばした。もう話すことは無いという意思表示だった。だが本を掴もうとしたところで伸ばした手が、すかっと空を切った。
今度は不快さを隠すことなく少女を睨みつける。
「なんの真似だ」
不機嫌な態度を隠すことも無く問い詰める少年に、本を片手に少女は微笑みかける。
「勝負しようよ。私に勝てたら返してあげる。それにもっと素敵な本もプレゼントするよ」
「お前バカか。それは元々おれの物だ。
自分の物を返してもらうのにどうして勝負する必要がある」
立ち上がり少女の持つ本へ手を伸ばした。すかっ、と再び手が空気を掴む。少年はぎろりと少女を睨みつける。
少女はまるで物怖じせずに「ふわぁ……」と口を大きく開けて眠たそうに目をゴシゴシとこすった。
「あ、ごめん。遅すぎて眠くなっちゃった」
少年のこめかみがぴくりと動いた。声を低くして言う。
「……本はいらん。そのかわり、おれが勝ったら二度とおれに話しかけるな」
「私が勝った時は?」
少女が挑発的な笑みを浮かべる。
「お前の好きにしろ」
「んー。じゃあ私が勝ったら友達になってよ」
「いいだろう。そんなことはあり得んがな」
「契約成立だね」
少女が嬉しそうに、本を指先に乗せてくるくると回した。
その後、すぐに少年と少女は友達になった。
きみは わたしの心のよう
───────
少年は手に持った一冊の本に目を落とす。真っ白な紙のページいっぱいに、画一的な文字で教祖の教えとそれにまつわる神話が書いてある。
曰く、死は終わりではない。
曰く、死は世界からの解放である。
曰く、善行を積んだ者の魂は死後の世界で幸福に満ちた生活をおくることができる。
曰く、善行とは都市の大人たちのために戦うことである。
曰く、勇敢に戦い勇敢に死ぬことこそが神の幸福を受ける術である。
そういった教えのあとに、勇敢に戦い死した戦士たちが死後の新たな世界に生まれ変わり幸せに暮らしている物語が綴られている。
しかし少年はそのことをあまり信じてはいない。理由は明快で、死んで幸福になるなら全ての人間は死んでいないとおかしいからだ。
生き続ける理由がない。
「なに読んでるの、こよみ?」
本に影が差し込み、頭上から鈴の音が降ってきた。少年はわざと大きな音を立てて本を閉じて傍らに置き、煩わしそうに顔を上げる。
「……おれはK0431GB346だ」
氷でできた刃のように冷たく言い放つ。
「その名前長くて呼びにくいんだもん。
絶対こっちのほうがいいと思うんだけどなぁ……
あっ!私のことはリーナって呼んでね!」
まるで気にしていないというふうに、少女はあっけらかんとしていた。ほがらかな笑みを見せる少女に少年はなおも強く言い放つ。
「名前なんていらないし呼ぶ必要もない。おれかおれ以外か、それだけわかれば充分だ。わかったら失せろ……Re:117GB648」
「……うわぁ」
少女が端正な顔を歪めて憐れむような目で少年を見る。
「そんなだから友達できないんだよ?」
「必要ない」
少年は顔を下げて再び本に手を伸ばした。もう話すことは無いという意思表示だった。だが本を掴もうとしたところで伸ばした手が、すかっと空を切った。
今度は不快さを隠すことなく少女を睨みつける。
「なんの真似だ」
不機嫌な態度を隠すことも無く問い詰める少年に、本を片手に少女は微笑みかける。
「勝負しようよ。私に勝てたら返してあげる。それにもっと素敵な本もプレゼントするよ」
「お前バカか。それは元々おれの物だ。
自分の物を返してもらうのにどうして勝負する必要がある」
立ち上がり少女の持つ本へ手を伸ばした。すかっ、と再び手が空気を掴む。少年はぎろりと少女を睨みつける。
少女はまるで物怖じせずに「ふわぁ……」と口を大きく開けて眠たそうに目をゴシゴシとこすった。
「あ、ごめん。遅すぎて眠くなっちゃった」
少年のこめかみがぴくりと動いた。声を低くして言う。
「……本はいらん。そのかわり、おれが勝ったら二度とおれに話しかけるな」
「私が勝った時は?」
少女が挑発的な笑みを浮かべる。
「お前の好きにしろ」
「んー。じゃあ私が勝ったら友達になってよ」
「いいだろう。そんなことはあり得んがな」
「契約成立だね」
少女が嬉しそうに、本を指先に乗せてくるくると回した。
その後、すぐに少年と少女は友達になった。
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