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第一部
勇者礼賛
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光が収まり視界が開ける。
光の中からボロボロの鎧の男が姿をあらわす。
身体左半分ほど消し炭になっている状態だったがまだ消滅してはいなかった。
「今のは死にかけたぞ……人間……」
「くそ……」
とっくに限界を迎えていたアルテアは、ついに膝を着いた。だが決して地に倒れふすことだけはしなかった。
「まだ倒れんか……信じられん精神力だ。……貴様に敬意を評し、痛みなく一瞬で殺してやる」
男が右手に持った剣を振り上げ、振り下ろした。確実に命を絶つ一撃だった。
「みんな……ごめん」
アルテアは目をつむり、心の中で大切な者たちを想った。
その直後、凛と澄ました音が聞こえて、天の使いでもきたのだろうかと目を開いた。
眼前には夜の底を押し上げるほどの白い景色が広がっていた。まるで神のように神々しい光を放っているがため、まさかここは天国かと思い、周囲の風景を見て違うと気づいた。
自分は変わらず戦いの最中にいてまだ死んではいないのだ。
少ししてから目の前のそれが魔力だと気づいたのは、それを発している人物がアルテアに話しかけてきたためであり、そしてそれがアルテアのよく知る少女だったからだ。
「アル……平気?」
「イー……リス……?」
透き通るような白い髪に、魂が吸い込まれそうなほど深紅の瞳。場違いなほど美しく神々しいその少女は白を基調とした服に身を包み、手には小さな身体に不釣り合いな純白の大剣が握られていた。
「……今は、休んで。あとは私がやるから」
イーリスは優しくそう言って、目の前の男に向き直った。
彼女が男を見る目つきは鋭く、普段の彼女からは想像もできない、剣で切られたのかと寒気を覚えるほどのものだった。
「……まさか勇者が出てくるとはな」
鎧の男が少女を見て不愉快そうに口元を歪める。
勇者はイーヴルの天敵。イーヴルを滅するための存在であるからだ。
それを聞いたアルテアがぎょっとみんな目を見開いて眼前に立つ少女の背を見つめる。
「勇者……イーリスが……?」
声が聞こえていないのか、聞こえていてあえて答えないのか、イーリスはアルテアには答えずただ眼前の敵に冷酷に告げる。
「四天魔王が一柱、アインツベルン……あなたは許さない。ここで討滅する」
「ふふ……それは光栄だな。勇者に討たれたとなれば煉獄での通りもよさそうだ。だが……私は殺せんぞ」
男が勢いよく飛び上がり、空中で呪文を唱え始める。人間には理解できない言語を数秒の間詠唱すると、周囲の空間がひび割れて異界へと繋がった。
空を埋め尽くさんばかりに異界からイーヴルが這い出してくる。
アルゼイドが相手をしていた強大なイーヴルが数え切れないほど現出し、中にはツヴァイやドライケルに近しい魔力の者もいた。
「ふはは……!いかな勇者といえどこの数を一度に相手はできまい!私はゆるりと身体を休めることとしよう……今のままでは流石に分が悪いのでな」
鎧の男が高らかに笑い、空間の断裂の向こう側ーー異界へ身を潜らせようとしたが。
「逃がさない。討滅すると、そう言った」
それは神が人に天罰を与えるような、絶対無比の宣言だった。
イーリスの身体から神聖さすら感じる魔力が立ち上る。
途方もない力に身震いするのと同時に、信仰めいたものすら覚えかけるほどだった。
アーカディアーー規格外の超越者を前にした時と同じ感覚だった。
そして、森で異端教徒の男に斬られかけた時に突如感じた魔力と同じだった。
「異相天魔結界──『四神天変』」
閃光が爆ぜた。
イーリスを中心に強烈な光が放たれて、いっとき辺りを白色に染め上げた。
それだけで、空を埋めつくしていたイーヴルの半数近くが白い粒子となって消滅した。
白光に包まれた世界の中で、少女は続けて純白の大剣を構える。
「白めろ」
少女が厳かに告げる。
「──宝具『浄化大剣』」
少女の声に応じて大剣から極大の光が放出される。
味方には慈愛を、敵には破滅を与える破魔の光だ。
小さな体のどこにそんな力があるのか、少女が大剣を軽々と大きく横に薙ぐと、大剣から吹き出す極大の光がその軌道上にいる全てのイーヴルを斬り裂いた。いや、もはや呑み込んだといったほうが正しかった。
その一振で、ゆうに千は超えていたであろう全てのイーヴルは、体が塩となり消滅した。
それは鎧の男も例外ではなかった。
「ば、ばかな……勇者といえどこれほどの力、ある……は……ず……が……」
男は塩となり朽ちていく己の身体を見て信じられないという顔をしていた。
そしてイーリスを見て、男ははたと何かに気づいた。
「そうか、その剣……!貴様……リィンフレーゼの、忌み子ーー」
ボンッ!と男の体に魔力弾が撃ち込まれた。
「……さよなら」
追いうちとばかりに、イーリスがさらに魔力弾を放つ。
それに撃ち抜かれた男の身体は風に吹かれるように霧散してやがて空気に溶けていった。
光の中からボロボロの鎧の男が姿をあらわす。
身体左半分ほど消し炭になっている状態だったがまだ消滅してはいなかった。
「今のは死にかけたぞ……人間……」
「くそ……」
とっくに限界を迎えていたアルテアは、ついに膝を着いた。だが決して地に倒れふすことだけはしなかった。
「まだ倒れんか……信じられん精神力だ。……貴様に敬意を評し、痛みなく一瞬で殺してやる」
男が右手に持った剣を振り上げ、振り下ろした。確実に命を絶つ一撃だった。
「みんな……ごめん」
アルテアは目をつむり、心の中で大切な者たちを想った。
その直後、凛と澄ました音が聞こえて、天の使いでもきたのだろうかと目を開いた。
眼前には夜の底を押し上げるほどの白い景色が広がっていた。まるで神のように神々しい光を放っているがため、まさかここは天国かと思い、周囲の風景を見て違うと気づいた。
自分は変わらず戦いの最中にいてまだ死んではいないのだ。
少ししてから目の前のそれが魔力だと気づいたのは、それを発している人物がアルテアに話しかけてきたためであり、そしてそれがアルテアのよく知る少女だったからだ。
「アル……平気?」
「イー……リス……?」
透き通るような白い髪に、魂が吸い込まれそうなほど深紅の瞳。場違いなほど美しく神々しいその少女は白を基調とした服に身を包み、手には小さな身体に不釣り合いな純白の大剣が握られていた。
「……今は、休んで。あとは私がやるから」
イーリスは優しくそう言って、目の前の男に向き直った。
彼女が男を見る目つきは鋭く、普段の彼女からは想像もできない、剣で切られたのかと寒気を覚えるほどのものだった。
「……まさか勇者が出てくるとはな」
鎧の男が少女を見て不愉快そうに口元を歪める。
勇者はイーヴルの天敵。イーヴルを滅するための存在であるからだ。
それを聞いたアルテアがぎょっとみんな目を見開いて眼前に立つ少女の背を見つめる。
「勇者……イーリスが……?」
声が聞こえていないのか、聞こえていてあえて答えないのか、イーリスはアルテアには答えずただ眼前の敵に冷酷に告げる。
「四天魔王が一柱、アインツベルン……あなたは許さない。ここで討滅する」
「ふふ……それは光栄だな。勇者に討たれたとなれば煉獄での通りもよさそうだ。だが……私は殺せんぞ」
男が勢いよく飛び上がり、空中で呪文を唱え始める。人間には理解できない言語を数秒の間詠唱すると、周囲の空間がひび割れて異界へと繋がった。
空を埋め尽くさんばかりに異界からイーヴルが這い出してくる。
アルゼイドが相手をしていた強大なイーヴルが数え切れないほど現出し、中にはツヴァイやドライケルに近しい魔力の者もいた。
「ふはは……!いかな勇者といえどこの数を一度に相手はできまい!私はゆるりと身体を休めることとしよう……今のままでは流石に分が悪いのでな」
鎧の男が高らかに笑い、空間の断裂の向こう側ーー異界へ身を潜らせようとしたが。
「逃がさない。討滅すると、そう言った」
それは神が人に天罰を与えるような、絶対無比の宣言だった。
イーリスの身体から神聖さすら感じる魔力が立ち上る。
途方もない力に身震いするのと同時に、信仰めいたものすら覚えかけるほどだった。
アーカディアーー規格外の超越者を前にした時と同じ感覚だった。
そして、森で異端教徒の男に斬られかけた時に突如感じた魔力と同じだった。
「異相天魔結界──『四神天変』」
閃光が爆ぜた。
イーリスを中心に強烈な光が放たれて、いっとき辺りを白色に染め上げた。
それだけで、空を埋めつくしていたイーヴルの半数近くが白い粒子となって消滅した。
白光に包まれた世界の中で、少女は続けて純白の大剣を構える。
「白めろ」
少女が厳かに告げる。
「──宝具『浄化大剣』」
少女の声に応じて大剣から極大の光が放出される。
味方には慈愛を、敵には破滅を与える破魔の光だ。
小さな体のどこにそんな力があるのか、少女が大剣を軽々と大きく横に薙ぐと、大剣から吹き出す極大の光がその軌道上にいる全てのイーヴルを斬り裂いた。いや、もはや呑み込んだといったほうが正しかった。
その一振で、ゆうに千は超えていたであろう全てのイーヴルは、体が塩となり消滅した。
それは鎧の男も例外ではなかった。
「ば、ばかな……勇者といえどこれほどの力、ある……は……ず……が……」
男は塩となり朽ちていく己の身体を見て信じられないという顔をしていた。
そしてイーリスを見て、男ははたと何かに気づいた。
「そうか、その剣……!貴様……リィンフレーゼの、忌み子ーー」
ボンッ!と男の体に魔力弾が撃ち込まれた。
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