両親に殺された俺は異世界に転生して覚醒する~未来の俺は世界最強になっていたのでちょっと故郷を滅ぼすことにしました~

あぶらみん

文字の大きさ
97 / 123
第一部

小休止

しおりを挟む
目の前の光景にアルテアは思わず息を呑んでいた。理解すら及ばないほどの圧倒的な力。

どうしてイーリスがそんな力を持っているのか。そもそも彼女は何者なのだろう。

様々な疑問がアルテアの頭の中を駆け巡るが言葉にはならなかった。


何を聞けばいいのかわからないほど混乱してもいたし、寒気を感じるほど神聖な気配を纏う彼女に気圧されてもいた。

イーリスも何も言わず決して振り返らなかった。どちらも言葉を発することなく、ただ無音の時間が過ぎていった。


永遠とも一瞬とも思える静寂の中、アルテアはイーリスをただ見つめていた。

透き通るような白い肌、月の光を受けてきらきらと光って風に揺れる白い髪、自分よりも背丈の低い女の子がその小さな手に大剣を握って立っている。不釣り合い、という言葉では収まりきらない程の力を小さな身に宿した少女。


異常としかいえない光景だが、アルテアはそれを美しいと感じた。そしてひどく哀しいとも。

イーリスは荒れ果てた大地に咲く一輪の花のようだった。それは、見る者にとっては美しく感じるだろう。だが、仲間もおらず、何もない荒野で孤独に花を咲かせるその花は、きっと寂しいはずだ。


そう思えば、どうして彼女が何も言わずにただ立っているのかわかる気がした。

この場にいるのが嫌なら立ち去ればいい。

自分が心配なら振り返って声をかければいい。そのどちらもしないのは、彼女はきっと困っているのだ。


人付き合いが苦手だから、こういう時にどんな顔をしていいのかわからない、どうやって声をかけていいのかわからない。

人見知りで自分の気持ちを上手く表現できない、でも少し寂しがり屋ないつもの少女と何も変わらない。


それがわかれば、今度は自分は一体この少女の何を怖がっていたのだろうと恥ずかしくなってくる。

何も怖がる必要などないのだ。イーリスはイーリスだ。

だからアルテアは自然と言葉をかけることができた。


「ありがとう、助かったよ。お前は怪我してないか、イーリス?」


「……怪我は、してない」


「そうか、なら良かったよ。でもやっぱり心配だな。お前は少し意地をはるところがあるからな……。こっちを向いて顔を見せてくれないか?」


アルテアがそう言うと会話が途切れた。彼女の背中から逡巡が伝わってきた。

だから何も言わずに彼女がこたえるのを待った。

ややあって諦めたようにイーリスが振り返った。


伏し目がちに俯いて下を見ているその様は、まるで親に叱られるのを怖がっている子どものように見えた。

先程まで強く恐ろしいイーヴルと相対し、あまつさえ一瞬で討滅してみせた少女がそんな姿をしているものだから、アルテアはなんだか可笑しくなってクスッと笑みを漏らした。


「……どうして笑うの」


イーリスが不満と恥ずかしさを何混ぜにしたように口を尖らせる。


「いや、すまん……。めちゃくちゃ強いくせに、そんなに怯えた様子をしてるのがなんだかおかしくてな」


「アルはいじわる……」


笑いを噛み殺すアルテアを、イーリスは湿度の高い目でじろりと見て抗議の意を伝えた。アルテアはそれを避けるように立ち上がり、イーリスに顔を寄せた。


「わるいわるい、許してくれ。でも本当に怪我はなさそうだな、安心したよ」


そう言ってイーリスの身体をつぶさに見て回った。

白を基調とした衣服からすらりと伸び肢体には傷一つなく、曇りひとつないガラス細工のように美しかった。

その細い腕の先には未だに大剣が握られている。


この少女のどこにそんな力があるのだろうと、まじまじとイーリスの顔を見つめる。

少女はその視線から逃れるようにもじもじと身動ぎした。心做しか顔が少し赤くなっているようにも見えた。


「なんだか顔が赤いけど大丈夫か?もしかして火傷してるんじゃないか?」


「……アルはバカ」


「え?」


「なんでもない」


誤魔化すようにイーリスが続ける。


「怪我がひどいのは……そっち」


「……俺は平気だよ。少しマシになった。応急処置くらいの回復魔法は使えるしな」


嘘ではなかった。イーリスが戦っている間、ハクが人知れず回復魔法をかけてくれていたからだ。


「ほんと……?どこも痛くない……?」


お返しとばかりにイーリスはアルテアの身体をじろじろとまさぐるように視線を這わせた。

アルテアはなんだかくすぐったくなってその場で跳ねたり腕を回したりと身体を動かして自分の健全さを主張した。


「大丈夫だよ、ほらこの通り」


「そう……良かった」


納得したのかイーリスも見つめるのをやめて胸を撫で下ろした。

普段表情の変化に乏しい彼女には珍しく、心底安心だという気持ちが顔に出ていた。


確かに少し前の自分の身体の状態を見ていたら無理もないか、とアルテアは苦笑した。あのままなら死は避けられなかっただろう。言うなればイーリスは命の恩人だ。


「ありがとな、助けてくれて」


改めて感謝の言葉を告げると、

少女は嬉しそうに目を細めた。


「ふん……イチャつくなら時と場を考えい」


突如、腰の魔本からが拗ねたような声が上がった。苛立ちを全身で表現するように魔本がカタカタと震えいる。

普段、誰かと話している時は口を挟まず大人しくしているハクのその行動はアルテアを大いに驚かせた。

アルテアはぎょっとなって思わず魔本を殴りつけた。


「ふぎゅっ!」


ドン!と鈍い音がしたあと、間の抜けた悲鳴が上がり、魔本が沈黙する。

気絶したのか、完全に沈黙したハクを見てアルテアはやりすぎたと思いつつ、おそるおそるといった様子でイーリスを伺った。


「今の声……なに?」


「なんだろうな……幻聴か何かかな」


目をぱちくりさせながら首を傾げるイーリスを何とか誤魔化そうと、アルテアが必死の面持ちで言い訳する。

そして思い出したように続けて口を開いた。


「そういえばお前、なんでそんなに強いんだ?鎧のイーヴルが勇者だとか言ってたが……」


「私は……」


「そこまでだよ、イーリス」


突如として割り込む鷹揚な声。


「続きは私が話しましょう」


柔らかい物言いとは裏腹に有無を言わせぬ強制力を感じさせる。アルテアは驚いて声のした方に顔を向けた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

八百万の神から祝福をもらいました!この力で異世界を生きていきます!

トリガー
ファンタジー
神様のミスで死んでしまったリオ。 女神から代償に八百万の神の祝福をもらった。 転生した異世界で無双する。

前世で薬漬けだったおっさん、エルフに転生して自由を得る

がい
ファンタジー
ある日突然世界的に流行した病気。 その治療薬『メシア』の副作用により薬漬けになってしまった森野宏人(35)は、療養として母方の祖父の家で暮らしいた。 爺ちゃんと山に狩りの手伝いに行く事が楽しみになった宏人だったが、田舎のコミュニティは狭く、宏人の良くない噂が広まってしまった。 爺ちゃんとの狩りに行けなくなった宏人は、勢いでピルケースに入っているメシアを全て口に放り込み、そのまま意識を失ってしまう。 『私の名前は女神メシア。貴方には二つ選択肢がございます。』 人として輪廻の輪に戻るか、別の世界に行くか悩む宏人だったが、女神様にエルフになれると言われ、新たな人生、いや、エルフ生を楽しむ事を決める宏人。 『せっかくエルフになれたんだ!自由に冒険や旅を楽しむぞ!』 諸事情により不定期更新になります。 完結まで頑張る!

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

【完結】487222760年間女神様に仕えてきた俺は、そろそろ普通の異世界転生をしてもいいと思う

こすもすさんど(元:ムメイザクラ)
ファンタジー
 異世界転生の女神様に四億年近くも仕えてきた、名も無きオリ主。  億千の異世界転生を繰り返してきた彼は、女神様に"休暇"と称して『普通の異世界転生がしたい』とお願いする。  彼の願いを聞き入れた女神様は、彼を無難な異世界へと送り出す。  四億年の経験知識と共に異世界へ降り立ったオリ主――『アヤト』は、自由気ままな転生者生活を満喫しようとするのだが、そんなぶっ壊れチートを持ったなろう系オリ主が平穏無事な"普通の異世界転生"など出来るはずもなく……?  道行く美少女ヒロイン達をスパルタ特訓で徹底的に鍛え上げ、邪魔する奴はただのパンチで滅殺抹殺一撃必殺、それも全ては"普通の異世界転生"をするために!  気が付けばヒロインが増え、気が付けば厄介事に巻き込まれる、テメーの頭はハッピーセットな、なろう系最強チーレム無双オリ主の明日はどっちだ!?    ※小説家になろう、エブリスタ、ノベルアップ+にも掲載しております。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

処理中です...