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第二部
これが本当の魔法というものだ
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「お兄ちゃん!見ててよー!」
晴れ渡る青空の下、少女の元気な声が木霊する。
遊びに行くと言ってたどり着いたのは結局いつも通りの場所だった。
屋敷の裏手にある高台。領地である麓の村を一望できる場所であり、アルテアにとっては家と同じくらい来慣れた場所である。
お馴染みの場所で伸び伸びと魔法の鍛錬をする妹を、アルテアは目を細くして見守っていた。
「契約により 我に従え 水の精霊 我に祝福を そして力よ 我が刃と成せっ!」
「水刃!」
リーナが魔法の発動に合わせて「えいっ!」と可愛らしい掛け声で掲げていた手を振り下ろす。
魔力が術者のイメージと詠唱によって形を成し、手の先から水の刃となって放たれた。
短剣ほどの大きさの水刃が、高速で回転しながら緑々しく茂った森の中へ吸い込まれるように飛んでいき、その中に立つ一本の木に命中する。
ドォン!と大きな音が響き、ついで水刃の当たった箇所からバキバキと音を立てて木が折れていく。倒れた木を見てリーナは満足気に胸を張った。
「リーナの魔法、どう!?」
「うん、魔力もよく練れてたし発動速度も申し分なかった。とても良かったよ」
「キュウキュウ!」
アルテアが手放しに褒める。仔竜も「すごい!」と言わんばかりにパタパタと小さい羽根で空を飛んでリーナの周りをくるくると回った。
「えへへ……」
リーナが照れたように頬を緩めた。和気あいあいとしたムードの中、アルテアの腰にぶら下がった魔本が呆れたようにため息をつく。
「まったく……親バカならぬ兄バカだの」
「うるさいぞ、ハク。中級魔法は本来魔法学院の下級生で習うレベルだ。それを独学……それも七歳で使えてるんだ、褒めるのは当たり前だろ。きっとリーナは素晴らしい魔法使いになるぞ!」
「私から見ればまだまだ改善の余地が腐るほどあるがな」
「ほお、例えばどんなところだよ?」
アルテアがそう聞くとハクは自分が収められているブックホルダーからアルテアの顔を付近へと瞬時に移動して鼻を鳴らす。まるで転移のようだ。
理論のわからない移動方法にアルテアは内心で驚いているーーというか少し不気味だと思っていることをハクは知る由もない。
「はん!まずは、そうだな。詠唱することに意識を割きすぎていて肝心の魔法のイメージがまるでできておらぬ。魔法がひどく不安定なのだ。木を一本切り倒したくらいで魔法が消えてしまったのがその証拠よ。確固たるイメージがあれば魔法の威力は激増する。この森林程度なら丸ハゲにできるくらいにはな!あとは……」
活き活きと魔法理論を語るハクの様子にアルテアは内心でまた驚いていた。ハクの自信は彼女自身の確かな魔法知識に裏打ちされているもので、言い方はどうあれ指摘の内容は正しいのだ。
一方、ダメ出しされているはずのリーナは目を輝かせてハクの話に聞き入っていた。
ハクが何か言う度に「すごーい!」とか「かわいー!」とか相槌をうつものだからハクも気をよくして魔法講義は絶好調である。それから更に興が乗ったのかハクが「手本を見せてやろう!」と声を張った。
リーナは「わーい!」と万歳三唱とばかりに両手を上げる。リーナがハクのことを好きなのはなんだかんだとこうして魔法を教えてくれるからなのかもしれないとアルテアは思った。
アルテア自身も、ハクが属性魔法を使う所をはあまり見たことがなかったので興味をひかれた。
「いいか、小童ども……よぉく見ておけ!これが本当の魔法というものだっ!」
ハクが高らかに宣言する。
「契約により 我に従え 水の精霊 我に祝福を そして力よ 我が刃と成せ」
詠唱を終えるとハクの前に魔法陣が浮かび上がり極大の水の刃が精製された。リーナの短剣ほどの水刃とは比べ物にならない、ハクのそれは三メートルを超えていた。
「水刃!」
巨大な鎌を思わせる水刃が回転しながら森林に飛翔し、まるで雑草を刈るように巨木をなぎ倒していった。本当に森を丸ハゲにしてしまいそうな威力にアルテアは思わず目が点になる。
一方、リーナはというと「かっこいー!」とハクを羨望の眼差しで見つめていた。
「はーっはっはっはっ!どうだ、見たか。これが真の魔法、根源に迫りし魔の真髄よ!まあ、加減はしたがな!」
「いや、確かに凄いが……お前、これ大丈夫か?もし人とか動物とかがいたらかなり悲惨なことに」
すっかり気を良くして高笑いするハクにアルテアが引き気味で言う。
「はん!その程度のこと、私が失念すると思うたか?探知の魔法で生物の存在せぬところを狙ったに決まっておろうが」
ハクがそう言って胸を張るように斜めにのけぞると、リーナはぱちぱちと拍手を送った。
「キュウ!キュウ!」
仔竜も大興奮である。
「あ、そう……それなら良いんだけどな……」
アルテアはやたらと疲れた気分になった。
晴れ渡る青空の下、少女の元気な声が木霊する。
遊びに行くと言ってたどり着いたのは結局いつも通りの場所だった。
屋敷の裏手にある高台。領地である麓の村を一望できる場所であり、アルテアにとっては家と同じくらい来慣れた場所である。
お馴染みの場所で伸び伸びと魔法の鍛錬をする妹を、アルテアは目を細くして見守っていた。
「契約により 我に従え 水の精霊 我に祝福を そして力よ 我が刃と成せっ!」
「水刃!」
リーナが魔法の発動に合わせて「えいっ!」と可愛らしい掛け声で掲げていた手を振り下ろす。
魔力が術者のイメージと詠唱によって形を成し、手の先から水の刃となって放たれた。
短剣ほどの大きさの水刃が、高速で回転しながら緑々しく茂った森の中へ吸い込まれるように飛んでいき、その中に立つ一本の木に命中する。
ドォン!と大きな音が響き、ついで水刃の当たった箇所からバキバキと音を立てて木が折れていく。倒れた木を見てリーナは満足気に胸を張った。
「リーナの魔法、どう!?」
「うん、魔力もよく練れてたし発動速度も申し分なかった。とても良かったよ」
「キュウキュウ!」
アルテアが手放しに褒める。仔竜も「すごい!」と言わんばかりにパタパタと小さい羽根で空を飛んでリーナの周りをくるくると回った。
「えへへ……」
リーナが照れたように頬を緩めた。和気あいあいとしたムードの中、アルテアの腰にぶら下がった魔本が呆れたようにため息をつく。
「まったく……親バカならぬ兄バカだの」
「うるさいぞ、ハク。中級魔法は本来魔法学院の下級生で習うレベルだ。それを独学……それも七歳で使えてるんだ、褒めるのは当たり前だろ。きっとリーナは素晴らしい魔法使いになるぞ!」
「私から見ればまだまだ改善の余地が腐るほどあるがな」
「ほお、例えばどんなところだよ?」
アルテアがそう聞くとハクは自分が収められているブックホルダーからアルテアの顔を付近へと瞬時に移動して鼻を鳴らす。まるで転移のようだ。
理論のわからない移動方法にアルテアは内心で驚いているーーというか少し不気味だと思っていることをハクは知る由もない。
「はん!まずは、そうだな。詠唱することに意識を割きすぎていて肝心の魔法のイメージがまるでできておらぬ。魔法がひどく不安定なのだ。木を一本切り倒したくらいで魔法が消えてしまったのがその証拠よ。確固たるイメージがあれば魔法の威力は激増する。この森林程度なら丸ハゲにできるくらいにはな!あとは……」
活き活きと魔法理論を語るハクの様子にアルテアは内心でまた驚いていた。ハクの自信は彼女自身の確かな魔法知識に裏打ちされているもので、言い方はどうあれ指摘の内容は正しいのだ。
一方、ダメ出しされているはずのリーナは目を輝かせてハクの話に聞き入っていた。
ハクが何か言う度に「すごーい!」とか「かわいー!」とか相槌をうつものだからハクも気をよくして魔法講義は絶好調である。それから更に興が乗ったのかハクが「手本を見せてやろう!」と声を張った。
リーナは「わーい!」と万歳三唱とばかりに両手を上げる。リーナがハクのことを好きなのはなんだかんだとこうして魔法を教えてくれるからなのかもしれないとアルテアは思った。
アルテア自身も、ハクが属性魔法を使う所をはあまり見たことがなかったので興味をひかれた。
「いいか、小童ども……よぉく見ておけ!これが本当の魔法というものだっ!」
ハクが高らかに宣言する。
「契約により 我に従え 水の精霊 我に祝福を そして力よ 我が刃と成せ」
詠唱を終えるとハクの前に魔法陣が浮かび上がり極大の水の刃が精製された。リーナの短剣ほどの水刃とは比べ物にならない、ハクのそれは三メートルを超えていた。
「水刃!」
巨大な鎌を思わせる水刃が回転しながら森林に飛翔し、まるで雑草を刈るように巨木をなぎ倒していった。本当に森を丸ハゲにしてしまいそうな威力にアルテアは思わず目が点になる。
一方、リーナはというと「かっこいー!」とハクを羨望の眼差しで見つめていた。
「はーっはっはっはっ!どうだ、見たか。これが真の魔法、根源に迫りし魔の真髄よ!まあ、加減はしたがな!」
「いや、確かに凄いが……お前、これ大丈夫か?もし人とか動物とかがいたらかなり悲惨なことに」
すっかり気を良くして高笑いするハクにアルテアが引き気味で言う。
「はん!その程度のこと、私が失念すると思うたか?探知の魔法で生物の存在せぬところを狙ったに決まっておろうが」
ハクがそう言って胸を張るように斜めにのけぞると、リーナはぱちぱちと拍手を送った。
「キュウ!キュウ!」
仔竜も大興奮である。
「あ、そう……それなら良いんだけどな……」
アルテアはやたらと疲れた気分になった。
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