両親に殺された俺は異世界に転生して覚醒する~未来の俺は世界最強になっていたのでちょっと故郷を滅ぼすことにしました~

あぶらみん

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第二部

森の美女

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「よし、そろそろ交代すっか。野郎ども!」

 街道から続く山道へとさしかかる少し手前で、リードが号令を飛ばすと、「応よ!」と男たちが野太い声でこたえ、馬車が停止した。車内で休んでいた者と、警戒のため徒歩で随伴していた者とが入れ替わり、てきぱきと隊列を組みなおしていく。
 慣れているのだろう、男たちの動きに迷いはなく、あっという間に人員が入れ替わっていき、リードとスレインも馬車の外へ降りて指揮を始めた。

「俺も歩くか」

 男たちの中で自分だけが休みっぱなしというのも落ち着かず、アルテアも魔導書を手に取り立ち上がる。「なら私も」と腰を上げようとしたノエルを手で制し、休んでていいよ、と視線で告げて馬車から降りた。

「なんだい、ニイちゃん。別に休んでくれてて構わねえんだぜ。一緒に来てくれるよう頼んだのは俺らなんだからよ」

 気遣わしげに声をかけてくれたリードにアルテアは、大丈夫、と軽く手を振ってこたえた。
 確かにあちらから同行を求められはしたが、それはノエルに限った話で、自分は無理を言って着いてきたかたちだ。彼の気遣いはありがたいが、それに甘えてばかりはいられない。

 賊と接敵すれば命懸けで戦うことになる。仲間に背中を預けることにもなるだろう。そんな時、無理やりついてきてずっと馬車の中で休んでいるただの子供に、誰が背中を、命を預けようと思うだろうか。

 ほんの一時とはいえ、彼らは共に肩を並べて戦う仲間だ。ある程度の信用は得なければならないし、だからこそ過度な特別扱いは避けなければならない。
 そしてアルテアは前世の経験から戦時では、同じ釜の飯を食べたり苦難や困難を乗り越えると言ったような、同じ経験を共有することが、信頼関係を構築するうえで最も手っ取り早い手段であることも知っていた。だからこそ今は歩くべきだろう。

「ずっと座ったままだと体もなまってしまうので」
 笑顔をつくり肩を回しながら軽い調子でそう返すと、リードも何か察したようで、それ以上は何も言わず、少し呆れたように笑って指揮に戻った。

「そろそろ山道に入って視界も悪くなる。野郎ども、警戒を怠るなよ!」
 リードの檄に男たちがいっそう野太い声で応じ、馬車は再び動き出した。
 
 山道に入り、それまでは規則正しく揺れていた馬車の振動が不規則なものにかわる。
 見れば地面にはここまでと同様、石畳が敷かれており舗装されていた名残はあった。だがそれからかなりの年月が経っているらしく、成長した木々の根が下から地面を押し上げ、道に大きな凹凸が生じていた。土はかなり柔らかくぬかるんでいて、その上、生い茂っている木々が光を遮っているせいで周囲は薄暗く足元も見えづらい。男たちの何人かはかなり歩きにくそうにしていた。

「こうも薄暗いと、なんとも不気味なものですね」

 何度か辺りを見回しながらスレインが気味悪そうに呟いた。
 意外にも足取りはしっかりしていて、息も切れてはいない。完璧な魔法使いタイプと自称していたので体力面に自信がないのかと思っていたが、どうやら思い違いだったらしい。

「昔読んだ絵本を思い出しますよ」

「どういった絵本なんですか?」

 アルテアが尋ねると、スレインが声のトーンを落として話し出す。

「昔々、とある貴族の男が旅の道中、森の中でこの世のものとは思えぬほどの美しい女性に出会う、というお話なのですが」

 雰囲気を出したいのか、ゆっくりと間延びした声でスレインが続ける。

「実は女の正体は、迷わずの大森海の奥地に住む人喰いの魔女で、男は食べられてしまう、という落ちです」

 その話はアルテアも幼い時に聞いたことがあった。迷わずの大森海とは、王都の北部に位置する、帝国領と共和国領の間に広がる森林地帯だ。そのあたりの地域一帯には特殊な結界魔法が施されているらしく、名前の通り、森に入ってもすぐさま出入口まで戻ってきてしまい深く探索することができない。
 噂によれば、森の奥地には本当に魔女が住んでいるとも、未発見の大迷宮があるとも、おそろしい宝具が眠っているとも言われている。

「まあ、子供をしつける為の寓話の類ですね。遊びに出かける時はよく両親におどかされたものです。魔女に攫われて食べられてしまうぞ、だから知らない人には着いていかないように、とね」

 スレインが昔を懐かしむようにくすりと笑う。
  ノエルやリード、他の男たちも同じ脅し文句を一度は言われたことがあるようで、懐かしいなと皆で笑いあった。

「──ん?」

 ふと、リードが訝しげな声を発した。
 彼の視線を追うと、前方に何かの影がちらついた。目を凝らすと道の先で、見知らぬ誰かがこちらに向かって手を大きく振っていた。その隣には荷車が、道を塞ぐかたちで止められていた。
 先頭を歩くリードが片手を挙げて皆の足を止める。賊を警戒してだろう、それまでの穏やかな空気が一変、緊張が流れる。
 こちらが立ち止まると、手を振っていた者が刻み足で向かってきた。遠目ではわからなかったが、女だった。

「すまない。助けてはもらえないだろうか」
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