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第3話 忘れたくない記憶
しおりを挟む所変わってここはある山奥にポツンとたたずむグループホーム。
ホームの中は小さな部屋が周りに十部屋ぐらいありその真ん中には大きなリビングがある。
そのリビングの中は食事をとれる大きなテーブルが置いてあるスペースと、テレビとソファーが置いてある住人がくつろぐことのできるスペースがあった。
そのテレビの前のソファーに一人の女性が座っていた。
「はい、頼子さん、お茶ですよ。今日も早いですね」
お茶を受け取りながら頼子は笑う。
頼子は皺の数や髪の色から行くと高齢のように見えた。
実際高齢ではあったが服装、身なりは気にしている様子でぱっと見はかなり上品で若く見えた。
「ありがとう、やっぱりお茶は熱いのに限るわねぇ。ところでここは何処でしたっけ? 将さんはどこにいるんでしょう?」
困ったように笑いながら介護士の由紀は動き出した別の老人のもとへ向かって行ってしまった。
お茶を頂いたという事はここ、喫茶店かしら?
でも何だか見覚えもあるし……。
あっ私お金どこにやったかしら?
私、バック持ってないわ……。
不安に思った頼子は慌てて立ち上がり歩き続けている。
けれど何処に行ったら良いか分からない頼子は一つ一つ部屋を開けて回る。
皆、見た事があるような気がするが記憶と一致せず不安を抑えられない頼子はがむしゃらに歩き、段々興奮したように顔も赤くなってきていた。
そんな様子に気付いた由紀が、慌てて頼子の傍に駆け寄る。
「どうしました? 頼子さん」
介護士である由紀は頼子の様子を見てまず興奮しているのを落ち着かせるため、ゆっくり笑顔で目線を合わし頼子の言う事を否定しないよう聞く体制に入った。
「私、お金が無くて……ここは何処なの?」
頼子の中で今現在パニックに落ちっている。
お金もないのにこんなところに来てしまったと混乱の渦にいた頼子に由紀は頼子の肩をゆっくり擦りながら笑いかけた。
「お代はもう家族さんから頂いているので大丈夫なんですよ? 今日は良い天気ですよ。少し歩きましょうか?」
由紀はまず頼子に安心してもらおう、そして今の混乱した状況を忘れて気をそらす為、この場を少し離れようと思った。
優しい笑顔を張り付けたまま由紀は頼子の手を引き長い廊下に出て歩き出した。
「頼子さんは今年でいくつになりましたっけ?」
由紀は頼子の手をやさしく、しっかり握り、長い廊下を歩く。
時おり止まりながら窓の外を眺めたりしながら話を続ける。
「私は、えっといくつだったかしら……80歳は越したと思うの、孫が3人いるのよ」
頼子は由紀の調子に乗せられて、さっきの混乱した出来事の事はもうすっかり忘れ頭の中は頼子の中で成長が止まっている孫の事でいっぱいになっていた。
「そうなんですね……。どんなお子さんなんですか?」
由紀は頼子の表情を見て安心したように話を続けた。
「ええと……上手く言えないわ、とにかく可愛いの、怪我ばっかりして心配ばかりかけるんだけどね」
由紀は頼子の笑顔にほっと息をつき一緒に笑った。
笑いながら二人で窓の外を眺める。
頼子はもう落ち着いた。
リビングの他の入居者達の事も気になっていた由紀はゆっくりと自然に頼子が気にならない程度にリビングの方に方向転換する。
「頼子さん、朝早いからまだ寒いですよ、部屋に戻りましょうか」
少し話が出来落ち着いた頼子は笑顔でそれに了承する。
支えられながら頼子は由紀と一緒にリビングに向かって歩き出した。
なぜ年を取ると色んなことを忘れて行ってしまうのかしら……。
初めは不安になったりしたけど最近はこれが私なんだと思うようになってきたの。
だけど絶対に忘れたくないそんな事を昔、思っていた気がするの……何だったかしら……。
胸元にあるロケットをギュッと握りながら頼子は足を進めた。
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