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第二章 急接近とすれ違い
18、いつもの姿に戻ったら......。 (オースティン視点)
しおりを挟むあの日、俺はどうやって家に戻ったか覚えていない。
多分、記憶の片隅に、名乗る訳にはいかないとそう思っていたことしか覚えていない。
失礼な事は言っていないとは思うけど、推しが近すぎて格好良すぎて頭が沸騰状態で、使い物になってなかったというのはただの言い訳だが、多分逃げるように(失礼の無いように気をつけてはいたけど)ブレイク様の元を去った事は覚えている。
そして、なんとかその後は、誰にも見つからない様に妖精達に誰も居ないか聞きながら、目的地に到着し、薬草や薬達と共に置き手紙を添えて(俺の到着が遅かったからか、待ち合わせていたいつもの部屋には、鍵が開きっぱなしで丁度、誰もいなかった)その後も最新の注意を払い家に帰った。
途中で落ちていたボロキレを拾い、それを頭に被り、乗合馬車に乗り込んだ為、ぱっと見、さらに見窄らしい平民風になっていたかもしれないが……。
そして今日はまた、あれから1週間が経っていた。
この前の商会の馬車は、平然と俺達を置き去りにしたからあの交通手段を取るのは止めた。
ラザロ叔父さんは店に帰って通信の魔道具で連絡したら、すぐに駆けつけてくれた。
今回の変身魔道具は急遽作ってもらったから、前のよりも性能が悪く、能力の高いモノには見破られる可能性があると言われた(急だった為、前のモノと同じ性能のモノを作るには素材が足らなかったらしい)。
俺は今も茶髪茶目の前髪長い平凡風に変装しているけど、見る人が見れば見破られてしまうという事だよな……。
この姿では絶対にブレイク様に会わないようにしないと……。
ブレイク様はティンである平民な俺をものすごく嫌っていらした。
だから俺なんかから助けられたと知ったら、すごく不快に思うかも……。
いや、それ以前に、俺はモブだし、どんな姿でも逢うべきではない……だけど。
またブレイク様が魔力暴走してしまったら大変だ。
なぜ魔力暴走を止める事ができたかも分からないし……。
それには確か光混じる青色の瞳の少年の力が必要だったはずだ……。
青色……俺の素の瞳の色は薄いけど青色だ。
ま、まさかブレイク様が探していた青色の瞳の少年って俺? いやいやまさか……俺は少年じゃなくて立派な青年だ。
いくら周りから成人前と思われようとも、立派な22歳だ。
で、でももし、ブレイク様が探していたのが俺だったら……正直めちゃくちゃ嬉しい。
俺なんて、ブレイク様の隣にいる資格なんかないけど、俺がもし、少しでもブレイク様の力になれるなら、そんな奇跡みたいなことが本当にあるのなら……。
そうならば俺は、前世死んでこの世界に転生できた事は本当にすごいご褒美だ。
俺はありえない自分勝手な妄想を繰り返し脳裏に浮かばせながら、1週間前に触れ合ったブレイク様の身体の熱を思い出し、自分自身も身体が熱くなってきているような気がした。(触れ合ったなんて言ったら語弊があるか……実際は俺が少しだけ、ブレイク様を抱きとめていただけだから……)
俺はもうこの姿に変装していても、前の素の姿も俺だと、ティンだとブレイク様が気づいてくれていたのだとしたら、どうして急にあんなに優しくなったのか、話口調も全然違って丁寧だったし……分からない。
いやいや待て待て、あの時は魔道具自体つけていなくて素の姿。さすがにティンとあの時の素の俺(銀髪)が同一人物とは思えないか……。
けれど、叔父さんが今回の変装魔道具は劣化版で能力が高いとすぐに見破られると言っていたし……。
俺は今日、もしブレイク様に逢ったら……前回、素の姿であった時の様に、優しく語りかけてくれるかもしれない。
この前の様に、優しく触れてくれるかもしれない……。
俺はこの姿でもう絶対ブレイク様には会わない様にしないとと、そう思っていた決心もすっかり揺らぎ、甘い夢を見てしまっていた。
乗合馬車に乗るのを止めたはいいがそれ以外では伝手がない……そう思ってラザロ叔父さんに相談したら、知り合いの冒険者を紹介してくれた。
彼の本業は俺が薬草を届けている貴族学校、例の学園の教師をしていて、アルバイトで冒険者もしているらしい。
普通、生徒も教師も学園の寮に住み込んでいる事が多いが、稀に通っている方々も居るようだ。
ブレイク様も寮に普段は住んでいるみたいだけど家の事情やお仕事で(まだ学生なのにもう家の仕事も手伝っているみたいだ(耳が広く澄む能力(遠聴)の能力で知った情報))家から通うこともあるみたいだ。
で、一応、この広場で待ち合わせ。
待ち合わせ相手はラザロ叔父さんから紹介されたA級冒険者で学園の魔法師科の教師らしく冒険者もやっているから家から通っているらしい(冒険者をしていることは学園には内緒らしい。そういう事なら俺も秘密は守る)。
学園の教師……俺も見かけたことがある人だろうか……名前はダグラスさんというらしく俺と同じ22歳だそうだ。
友達になれたらいいなと言いながら、叔父さんはこの話を持ちかけてくれた時に通信の魔道具の向こう側で優しい声で笑っていたようだった。
本当に……友達になれたら嬉しいな……。
俺はちょっとドキドキしながらそのダグラスさんという人を待っていた。
待ち合わせ相手と分かるように今日、俺は黒い帽子をかぶっている。
帽子をかぶっていても中途半端に頬ぐらいまである茶髪(変装、能力値高い人には銀髪に見える)が帽子の隙間から顔を出している。
「あの……」
街の広場で待っていると背後から馬の足音と共に声がして振り返った。
「ブラウン先生!!」
俺はその顔を見て思わず大きく声を上げてしまった。
「えっ? その声は、も、もしかしてティンさんですか? 茶色の髪は変装だったのですか……!?」
普段冷静で穏やかなブラウン先生が、驚いた様に大きな声をあげた。
「あ……えっと、あ、あの……はい。す、すみませんっ」
俺は謝る以外、良い言葉が思い浮かばず狼狽えてしまっていた。
「いえ、ゴホンッ。こちらこそ、大きな声を上げてしまってすいません」
そう言い直し、咳払いをするブラウン先生。
伯爵家でお貴族様なのに、平民の俺なんかに優しく穏やかな声で謝って下さったブラウン先生の言葉に思わず気が緩み、泣きそうになってしまった。
「先生は悪くありませんっっ」
「いえ、そんな事はないです。怖がらせてしまい申し訳ないです。今日待ち合わせの方は、ラザロさんから私と同じく22歳の方だと伺っていて、まさかティンさんだとは思いもよらず……それに……とても綺麗な銀髪ですね……」
そう言いながら俺の黒い帽子の縁から出ている髪に優しく触れてきた。
こんなふうに髪に優しく触れられるのは初めてで、俺はなんだか恥ずかしくなってしまって、熱くなってきた自身の頬に両手を当てた。
その時、その指にブラウン先生の指があたり、慌てて自身の頬から手を話そうとしたら、その指にブラウン先生が指を絡ませてきたと思ったらすぐに解放して下さった。
「す、すみません。思わず」
そう言いながら顔を逸らしたブラウン先生の顔が赤くて……俺の顔も思わず熱くなった。
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