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第二章 急接近とすれ違い
21、オースティン、俺が言いたかったのはこんな言葉じゃない (オースティン兄、公爵家次男アーサー視点)
しおりを挟む俺はある人物を探していた。
それは俺の弱点であり、俺が何よりも誰よりも大切にしていた存在だった。
俺はアーサー・クロムウェル。
クロムウェル公爵家の次男で将来は俺か兄がクロムウェルを継ぐから将来は約束されている。
兄が継いだとしても俺がする仕事は充分あるし、何より公爵家は王族の次に裕福な貴族である。
血筋を辿ると普通に王族に繋がる。
だから俺が探しているある人物の髪色が赤ではないことは、ある意味おかしな事ではなかった。
クロムウェルの色は髪も瞳も赤というのが一般の常識だが、それはクロムウェルがそう偽っているからだ。
今までの祖先の中には、赤以外の髪色も少ない人数だが存在した。
俺が探している人物もその一人だった。
俺の探している人物はオースティン・クロムウェル。我が公爵家の三男で俺の弟。
俺が誰よりも大事に思っていて、愛してやまない存在だ。
だけどあいつは多分、俺に嫌われていると思っているし、あいつの自己肯定感を最低値まで下げた原因は俺と俺達の兄だ。
あいつは生まれた時から、あり得ないほどに可愛かった。
見た目もそうだが性格も、何もかもが可愛かった。
あいつが生まれ始めて目の前にした時、この可愛い生き物は人間なのか? いや違う、天使だろう?
そう思うぐらいに可愛かった。
しかも俺や兄の言うことは、どんな事でも信じるし、俺はちょっと変な性癖があって、あいつの泣き顔が好きで、あいつをいじめることが好きだった。
そして7歳の時、その時の魔力鑑定で重大なことが分かった。
オースティンの魔力は微弱、しかし精霊、妖精、全ての万物の愛し子との判定が出た。
俺達の祖先は、この星の神々に愛されている家系という逸話があり、まれにそういうものが生まれるとされている。
しかしその事が国に分かれば、国に王族に良いように使い潰される。
それを恐れた両親はオースティンを離れに隠し、他貴族には神隠しに合い、いなくなってしまったと報告した。
当時7歳だったオースティンは、社交界でもデビュタント前だったし、他の貴族の子息とも交流して居なかった為、その報告を通す事ができた。
正確にはまだ、オースティンの名前はもちろん残っている。
俺達も俺達の親も、オースティンをこのままにしておきたくはないとは思っているが、見た目自体が、オースティンの見た目は、王族よりも王族らしい為か呼び寄せることは難しそうだ。
それでもどこかで元気に暮らしていて欲しいと、叔父であるラザロ叔父さんに託したんだ。
オースティンが公爵家を離れたのは10歳の時、7歳から10歳までの間それまでいた離れには、両親が近づくことはほとんどなかった。
オースティンを隠す為に、目立たせない為にした手段なのだろう。
俺と兄はそんな中でも度々その離れまで、オースティンに逢いに行った。
大好きな存在だったんだ、逢いに行かずにはいられなかった。
だけど俺はその時、思春期真っ只中だった。
婚約者候補だった女子や男子達をどうしてもそういう目で見る事はできず、オースティン以外可愛いと思えなかった。
むしろオースティンはまだ小さく子供だったのに、その当初からそう意味で俺は好きだった。
いや愛していた。
だけど当時子供だった俺は、それを認めたくなかった。
認めたくなかったくせに、他の奴のものになる事も絶対に嫌だった。
『お前の髪色もお前の瞳もお前に全然似合っていない……お前は俺達と本当に血が繋がっているのか?』
『そんな汚い顔、周りには見せない方が身のためだ』
『これはお前の為に、クロムウェルの名前を汚さない為に言っている』
そんな事を俺も兄もよく言っていた。
兄は俺の一つ上。
だけど兄も、俺と同じような思考だったんじゃないだろうか?
俺はどちらかというと頭脳派で、兄は脳筋だったが……。
今日、俺は魔法師科の臨時講師としてある学園に呼ばれていた。
ここは俺と兄の母校であるし、本当ならばオースティンの母校にもなるはずだった。
俺と兄は本当はもうクロムウェルを継承しても良い年齢ではあったし、本当は婚約者と婚姻をし継承すべき時期に来てはいたのかもしれない。
両親もそれを望んでいるのかもしれない。
しかし俺も兄も、未だ婚約者すら存在していない。
この年齢になってまで婚約者すら存在しないのは珍しい。
次男であったとしても、男性の婚約者がいたりするからだ。
オースティンの能力や本当の容姿が漏れてしまったら、かなりの高確率で王族の婚約者になってしまっていた事だろう。
だからって優雅に暮らせるわけではない。
閉じ込められ、能力を使い潰されることが目に見えている。
今の王族の能力値は、俺や兄よりも低い。
俺達(クロムウェル公爵家)と同等の能力を持つのは王族ではなく多分、リッチモンド伯爵家のものぐらいではないだろうか……。
そんなだから余計にオースティンは、王族に見つかる訳にはいかなかった。
だから冒険者をしているラザロ叔父さんに託したんだ。
ラザロ叔父さんはS級冒険者だし、オースティンの護衛としてもぴったりだ。
ラザロ叔父さんの側ならこれからも度々オースティンに逢えるだろう――そう思っていたのに。
現在オースティンがどこに住んでいるのかどんな暮らしをしているのか、ラザロ叔父さんは教えてくれない。
オースティンの自己肯定感を下げたのが俺達だとバレているのだろう……。
俺達の能力が高くても叔父さんはS級冒険者。
経験値や能力では流石に俺達でも敵わない……
オースティン……逢いたい。
自分が浅はかだったと今では分かる。
あんな言葉言うべきではなかった。
俺が好きだった愛していたオースティンはもっと、ニコニコと笑顔が絶えない奴だった。
あんな自信がなさそうに、不安そうに顔を隠すような奴じゃなかった。
こんな言葉じゃない。
本当はこんな言葉を言いたかったんじゃない……。
俺は子供だった。
大人になった俺は、今ではオースティンにどう接すればいいか分かる。
他の奴らも手に入れられないようにしたとしても、俺自身がオースティンに嫌われてしまうなんて――あの頃のバカだった、子供だった俺は考えもしなかった。
それにアイツが公爵家を離れたのは、俺が15歳の時。
俺は現在、27歳。こんなに長い間、逢えなくなってしまうなんてあの時の俺は、考えもしなかったしこんなに見つからないとも思わなかった。
そりゃそうだ。
王族にバレないためにラザロ叔父さんに託したのだ。
王族が気が付かない――あの髪色、あの瞳なのにその王族から身を隠すことができているんだ。
なのに、普通に生活しているだけの俺が見つけられるはずがない。
俺は何度もラザロ叔父さんに頭を下げた。
もしまた逢えるならあんな事をもう言わない、アイツの笑顔が見れるようになる為に努力すると、ラザロ叔父さんに何度も頼み込んだ。
それでも逢わせてくれないが、最近、少し絆されてきた気がする。もう一押しかもしれない。
こうなったらプライドなんかクソくらいだ。
とにかく俺は――オースティンに――あの可愛すぎる存在に、もう一度逢いたい。
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