『貴方と彼は理想の推しカプ』お邪魔な俺はココらで消えます〜二人の男から囚われた俺〜

やまくる実

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第三章 立場と誤解

26、俺の立場と俺のこれから(オースティン視点)

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 一週間に一度、学園に通う事は続けているけど、最近は全然ブレイク様を見にも行っていない。

 たまに水の妖精さんにお願いし、湖にブレイク様の現在の姿を投影してもらったりして、元気かどうかを確認していた。

 魔力量が増えすぎてないかどうかも気にはなっていたけど、流石にそれは近くに行かないと無理だった。

 湖に映し出されたブレイク様の姿は、相変わらず格好良い。
 剣を振る姿は湖に写っている姿なのに、目の前にいるかの様なすごい迫力だ。

 だけど相変わらずイライラは続いているのか、眉間には皺が深く寄っており、少し疲れている様にも見えた。

 そのイライラの原因は自分かもしれないと思うと、更に心が痛んだ。

「ティンさん、ここにいたんですね。今日、学園に来る予定の日と思っていたんです。一緒に昼食良いですか? 売店で軽く食べれるものを買っておきました」
 そう言って二人がけの椅子に手を引かれ、俺をまず座らせその隣にアルフォン君は座った。

 アルフォン君の身長が、急激に伸びたと思ったのはシークレットブーツなどではなく、ここ数週間で急激に成長したらしい。

 確かに背の低めの男性が、高校生になった所で急に身長が伸びたりすることは前世でもよくある事だったが……。

 おかしい、ゲームのアルフォン・キャッスリンはニコニコ無邪気な愛されキャラだったのに、小柄で背も低くとても可愛らしくて、色々な攻め様達から愛され、ハーレムルートに進もうものならば、数人から代わるがわる抱かれるなど……とにかく受けの中の受けという見た目だった。

 なのに今は、もうその様子は見る影もない。
 なんだかアルフォン君は最近、余計に前世の後輩に似てきた。

 だからなのか分からないが強く拒めない……。
 いや後輩とは流石に、もう少し距離があったか?

 アルフォン君は他人との距離感がバグっているのか分からないが抱きついてくるのも普通だし、よく俺の首あたりの匂いを嗅いでくる。

 俺は現在は平民だし、前世のように毎日風呂に入っているわけではない。

 下手したら井戸で水をくみ、布で拭く程度だ。

 妖精さんや精霊さんが『カラダをキレイニするの手伝うぞ?』って言ってくれるけどあまり無闇に手伝ってもらうと、またこの変装魔道具が壊れてしまう事も考えられるから断っていた。

 確かに浄化の魔法を妖精さんにかけてもらえれば、簡単に身体くらい綺麗になるんだけど……。

 何が言いたいかというと、そんなに匂いを嗅がれたら絶対臭うと言うことが言いたいんだ。

 臭いだろうに、「ティンさんの匂いだから、むしろ強い香りの方が俺にはご褒美なんです」
 なんて変態チックなことまで言い出す始末。

 以前もピンク色の髪に金眼でお目々パッチリで小顔、ピンクの頬、そんな妖精のように可愛い見た目だったけど、今でも美形なことは変わらない。

 小さな顔が少しだけ縦長にのび、鼻も高くなり目元がどんぐり眼だったのが眼球は大きくそのままなのに周りの比率からか、目つきに以前よりも意思が宿ったように鋭くなっり切れ長に見える様になった。可愛らしいと言うよりも男らしく雄っぽい格好良さが目立つような色気ムンムンの王子様のような見かけに変化してしまった。  

 俺の推しはブレイク様一筋。

 いくらちょっと惚れかかっていた前世の後輩に雰囲気が似ていようとも、ブレイク様と同等の美形であろうとも、俺への推しへの愛は変わらないんだから……。


 だけどアルフォン・キャッスリンの能力は魅了の最大級の力があり、どんなものの気持ちも虜にする力がある。

 しかし以前の俺と違って、今の俺は周りにたくさんの味方がいて魅了など通じない。


 なのに――アルフォン君、近すぎる。

 俺の首元の匂いを嗅いでいるからアルフォン君の綺麗な薄ピンクの髪からとても良い匂いの、シャンプーの香りがしてなんだか変な気分にさせられそうだ。

 首元にアルフォン君の息遣いも伝わる。

「そこにいるのはキャッスリン君ですか? 校舎内では不純異性行為も不純同性行為も禁止されているはずですよ」

 そう声をかけてきたのはブラウン先生。そしてその隣を歩いていたのはアーサー兄様だった。

 俺は慌ててアルフォン君から距離を取った。
「って、いうかティンじゃないですか。今日はもう届け物は終わったのですか? 今日も帰りは私が送っていきますのでお手数ですが、待っていていただけますか?」

 そう言われその場から立ち上がらされ、ブラウン先生から手を引かれ引き寄せられそうになったのをアルフォン君が慌てて止め、再びアルフォン君の胸の中に引き寄せられる。

「これは別にやましいことをしている訳ではないです。俺は授業や色々な事へのストレスを、ティンさんに癒して頂いただけです。最近急に体が大きくなってしまって、色々な場所が痛くて仕方がないんです」

 そんな風に話し同情を引くような辛そうな表情をアルフォン君が浮かべた。

 そうだよな……確かにこんなに急激に体が変化したら確かに痛みも大きいのかも……。

 俺は妖精さん達がたくさん力を貸してくれるから、痛みを和らげる効果もあるのかもっ!

 ブレイク様の魔力暴走も止めることができたくらいだしっ。

 アルフォン君がどうして俺に抱きついたり触ったり、匂いを嗅いだりしていたのか理由が分かり、俺はアルフォン君のことをますます拒めなくなってしまった。

 それに、俺もアルフォン君に抱きしめられたらなんだか安心するし……キモチイイし……これって浮気? 違うっあ、あくまで俺の推しはブレイク様だしっ。

 だけど、ブレイク様からはどう頑張ったって嫌われているし、俺も違うものや人に少しずつ目を向けないといけないしっ。

 そんな風に揺れてしまっている自分自身に言い訳をし、アルフォン君との触れ合いに心地よさを覚え始めていることに少し戸惑いを覚えている俺だった。

「ええとっオース……じゃなかった。ティンっさん。今日もお仕事でこちらにいらしたのですか? ここの生徒と深く関わることはあまり関心しませんね……」

 そう言ったのはアーサー兄様だった。

 最近、学園で一人で歩いているとたまにアーサー兄様からも話しかけられていた。

 あまり長くは話はしないけど一言二言だし。
 だけど「元気にしているか?」 とかたまには「美味しいものでも食え」とお金を渡されたりして、昔と全然対応や話す言葉も違って優しい。

 だから久しぶりに聞いたアーサー兄様からの冷たい言葉に、俺自身の体が反応し固まった。

 そうだアルフォン君と関わると、アルフォン君に迷惑がかかるし俺が悪めだちすると、兄様達にも迷惑がかかる……。

「す、すみません。ただ食事をしていただけのつもりでしたが軽率でした」
 俺はその場をさろうと立ち上がろうとした時、アーサー兄様の眉間に皺が寄った。
「ち、違う。おっ怒っているのではない。ただ、学園に変な噂が立っている。キャッスリン君が親しくしている人が……へ、平民の様な……見た目をしていると……。この学園は娯楽は少ないし婚約者を幼い頃から決められている令嬢や令息ばかりで皆、自由な恋愛などができないものばかりだ。そんな奴らの娯楽とは色々な噂話だったりする。変なことに巻き込まれないためにも……行動には気をつけた方がいいっ……」

 アーサー兄様がこんなに長く話すのを俺は初めて聞いた……それにっ。

 俺はアーサー兄様の言葉があまりに嬉しくて、顔がほてってきてしまった。

 アーサー兄様、俺なんかの事を心配してくださっている……。

「確かに俺も噂話なんて聞いても碌なことがないって思うけど、最近の学園の話題は俺の事とブレイクさんの婚約者候補の話ばかりだな。今の所、マーガレット・ラドクリフ伯爵令嬢がその座に一番近いって聞いた。長男がなかなか婚約者も婚姻も決めないから、ブレイクさんが婚約してそのまま伯爵家を継ぐんじゃないかと噂されているらしいよな」

 そう言いながら、チラッと様子を伺うように俺の方に目線を移すアルフォン君。
 

「その噂も確かに聞きますが、それよりもあなた方の噂ですよ。くっつきすぎです」
 そう言うブラウン先生の顔はかなり険しくしかめられている。
 その言葉に逆らうかのように、アルフォン君が俺を抱きしめている力は強くなってきた気がする。

 とにかくブラウン先生や兄様が言うように、この状況はアルフォン君の為にも良くないし、俺にとっても多分マイナスだ……。

「アルフォンさん離してください。ここには先生方もいるんですよ」

 なんとかそう言い、俺はアルフォン君に離れてもらえるようにお願いした。
 アルフォン君は渋々、俺を抱きしめている力は緩めたが、離そうとはしない。

 困ったな……。そんなに俺に触れていたいぐらい身体が辛いのかな……。
  
 それにしても……やはりそうだよな……アルフォン君もブレイク様の婚約者の話を知ってた。

 ゲームでは悪役令嬢の悪事を暴き、婚約者の座に収まるのはアルフォン君だった。

 今のアルフォン君の見かけだと、ブレイク様とそう言う関係になったとしたならば、どちらが攻めか分からないな……。

 ブレイク様✖️アルフォン君 アルフォン君✖️ブレイク様 どっちもアリだな。
 前世ゲイだった俺は自身の恋愛は諦めていたから、立派な腐男子で特にこのゲーム以外のBL漫画やBL小説では攻め✖️攻めは大好物だった。


 もしかして今の俺って、当て馬なんじゃ?

 二人が幸せになるならそれもありだけど、なんだろう……嬉しいはずなのに少し胸が痛い……。

「これは一体、なんの集まりだ? 高位貴族の先生方もいるのに平民なんかにそんな態度、貴方達は自分達の立場をもっと考えた方がいいのではないですか?」

 その声と共に場の空気が一瞬、凍ったかのように冷たくなった。
 ブレイク様だ。

 冷たい声。人でも殺しそうな声を発しこちらを睨んでいる。

 

 そうだ。
 俺は平民、皆と――ブレイク様と――関わるべきではない平民だ。

 ブレイク様だけでなく、それはブラウン先生もアーサー兄様もアルフォン君だって同様だ。

 貴族と平民は、安易に関わっても良い立場ではない。

 それに俺は抱えている秘密もあるし――これ以上みんなにカカワルべきでは無い。

 この時、俺はこれから皆の幸せの為に――どうしたら良いかを決めた。

 本音を言えば皆の為と言うのは綺麗事で……ただこれ以上ブレイク様に嫌われることが、耐えられなかっただけだった。


 
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