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第四章 消失と執着
28、後悔と捜索 (ブレイク視点)
しおりを挟むどうにかしてティンに逢って、誤解を解かなければ……。
俺はティンには酷い言葉しかかけていない。
あんなこと言われたら、誰だって嫌いになるだろう。
嫌っている相手を、あいつは二度も助けてくれた。
それなのに俺はアイツになんて言った?
いや直接的に、嫌な言い回しはしたつもりはない。
しかしあの時、認めてしまうなら俺はかなり酷い嫉妬をアルフォンや教師どもにしていた。
俺が探し回っていたティンと、当然のように触れ合ったり笑い合うアイツらに苛立っていたというのに、それに全然気づけていなかった俺は、よりにもよってその苛立ちをティンにも向けてしまっていた。
俺は顔が怖いと、いつも怒っているように見えると、何も考えていなかった時でさえ言われることは多々あった。
あの時、俺はどんな顔をしていただろう……。
そんな俺の顔を見てティンはなんと思っただろう?
「アイタタタっ。通信の魔道具は見つかりましたか?」
そう言いながら這いつくばって先程の少しだけ腰の曲がった男性(店主? )が声をかけてきた。
「あっ、ええ。ありました。今、連絡してみます。貴方も動かないでください。状態が悪くなりますから。すぐ、医者か治癒師がきますから」
俺も小型の通信の魔道具が手元にあるから正式な番号を教えてくれさえすればすぐに連絡が取れるだろうが、正式な番号は教えたくはないということだろう。
あの店主の言っている知り合いというのがティンだとしたならば、これから連絡する相手はティンかもしれない。
俺は急いで、店主が言っている通信の魔道具が置いてある場所へ行き、短縮番号である※※を押した。
この通信の魔道具は、普通の通信の魔道具と違って使う魔力がかなり微量で使う代物らしい。
世には出回っていないタイプのモノのようだし、貴族の家さえも無いような高価な代物のようだ。
やはりこの店にはクロムウェル公爵家が関わっているに違いないし、ティンがオースティン・クロムウェルの可能性がますます高まった。
オースティン・クロムウェルは誘拐されたわけでも、神隠しにあった訳でもなかったということか……。
そんな風に考えながらも通信先からティンの声が聞こえてくるかもしれない、そんな風に僅かな期待を持って魔道具の受信具に耳を当てた。
『どうした? 何かあったのか?』
受診具の向こうから聞こえてくる声はどう聞いてもティンのモノではなかった。
その声は、少し離れた所に横になっている店主の声よりもさらに低く、深みのあるいい声をしていた。
『おい? ティンか? どうかしたのか? 何かあったのか?』
コイツは今、ティンと俺に向かって呼びかけたか? という事は、この店には当たり前のようにティンが住んでいることは間違いなさそうだ。
俺は、通信の相手が話しているのに無言を貫いてしまっている事に気付き、慌てて返事をした。
『私はリッチモンド伯爵家次男、ブレイク・リッチモンドという。こんな場での自己紹介で申し訳ないが貴方の名前を伺ってもよろしいですか?』
俺の声に反応したかのように大きな音が耳元で聞こえた。
『これは、どうして貴方様が俺に連絡を? それにこの番号。どうしてなんの用事でその店にいらっしゃるのですか? ……ゴホンッ。申し遅れました。私の名前はラザロ・クロムウェルです。クロムウェル公爵家から出て随分経ちますが、まだ公爵家に私の籍はあります。それで、そこは私が懇意にしている店です。何か用事でそちらにいらしたのでしょうか? その店のものに変わって頂けますか? それともそれが難しい状況なのですか?』
受信者はティンではなく伝説のS級冒険者とも言われているラザロだった。
しかも後半の声はかなりキツく、クロムウェル公爵家だと名乗りながら、俺をかなり警戒しているような声だった。
これは、何か誤解をされていて、敵認定されているということか?
この人に誤解されたら、ますますティンに逢えなくなってしまう。
『いえ、まあ。私は学園のものに頼まれてこちらに伺ったのですが、こちらの、多分店主だと思うのですが少し年配の男性の悲鳴が聞こえ、中に入った所、横に木箱を転がし中身を散乱させたまま、隣に倒れていまして。幸い意識はあり、どうも腰を痛めたらしく、今、医者か治癒師を私の従者に手配させている所です』
そう俺は早口で言い訳をした。
不法侵入で不審者などと思われたら、俺はこの店にこれから来ることが出来なくなる。
この店は、ティンに繋がっているかもしれない唯一の場所なんだ。
そう思い俺は、必死にみっともなく言い訳を探した。
『なんだって、それは……すまない。私もすぐにそちらに向かう。そこにはティ……コホンッ、じゃなかった。若い店員がいると思うんだが……』
今、確実にティンと言いそうになっていたな……。
『いや、私はここに来てもう数十分経つが、この店主らしき人以外は誰も見ていない。人の気配はこの方以外はいないようだった』
『………………。そうかっ。分かった。10分もあれば向かえるから、少し待っていて頂けますか?』
急にキツくない口調に変わったのは、俺がこの人の敵認定から外れたと思っていいだろうか? ティンと再び逢う為には、どうにかしてこの人は味方につけたいそう思った。
しかしこの人もティンの行方を知らないようだし、実際ココにもティンがいない。
どこか別の場所に使いとして向かっているのだろうか?
色々と言い訳をしているから、ティンを探していると言いずらい。
そんなことを思いながらラザロさんを待っていると、その前に俺が従者に言って手配していた治癒師が到着した。
そして10分後にラザロさんが本当に到着した。
すごい音を立てながら入り口から飛び込んできたみたいな気配がしたから、奥の部屋にいると俺が叫ぶと慌てた顔が全身からわかる感じで入ってきた。
「それにしても、爺さんも若くないんだから無理すんなよ」
そう言ってラザロさんは、店主の元に駆け寄った。
もう治癒師が治療した為、店主は普通に動けるようになったし、俺が金を払って治癒師には帰ってもらった後だった。
「俺を年寄り扱いするんじゃない。ティンには追い越されてしまったがまだまだ現役のつもりだ」
「そうだよ。爺さんがこんな時にティンはどうしたんだ?」
「へ? お前も知らないのか? まあ、俺の腰は元々の持病もあるしこのお方が治癒師を手配してくれたからもう大丈夫だ。それでティンの事だが……ラザロの頼みで別件が入ったって……俺も思ったより時間がかかっているからおかしいと思ったんだが……だけどアイツも、もう大人だし……」
「それはいつの話だ?」
店主の言葉にラザロが、切羽詰まったような顔しながら畳みかけるように話す。
「もうそろそろ一ヶ月近くなる。ラザロが近くにいるなら大丈夫だと思って安心しちまってたっ」
俺も横で二人の会話をしれっと盗み聞きしていたが、その店主の言葉に絶望してしまっていた。
二人の言葉をまとめると、二人はティンの居場所を知らない。
ティンのいなくなったのは一ヶ月近く前。
つまり俺が逢ったすぐ後に、いなくなったという事だ。
しかも店主に嘘をついて……。
ティン、どこに行ってしまったんだ。
「勝手に話を聞いてしまったが誰かいなくなったのか? ティンという方は、貴方が学園に届けに来る前に薬を届けていた少年の事だろ?」
俺自身がティンを探していることを隠しながら俺は、二人の話に加わった。
「そうです。ティンはまあ、少年というと歳でもないですが……」
そう言う店主の顔も隣にいたラザロの顔も、真っ青に曇っていた。
ティンがいなくなったことは、それぐらい深刻だし予想していなかったと言うことか?
「人攫いの可能性もあるし、リッチモンド伯爵家からも騎士団を出そう」
うちは国から魔物の発生が盛んな時期に討伐依頼が出ることもあるから、小規模ではあるが騎士団もあった。
「いや、その必要はない。ことを大きくしたくないし貴方にそんなことまでして頂く理由もない。爺さんの治療費も払う」
そう言ったラザロの目は鋭かった。
大々的に協力できると思っていたが、難しかったか……。
「実は私もティンさんに助けられたことがあって、力になりたいんだ。大事にしたくないと言うならば騎士団も使わないし、父や兄にももちろん言わない。だが俺も捜索を手伝いたいし、何かあったら連絡が欲しいのだが……」
俺の言葉にラザロさんは怪訝そうな顔をし、警戒を強いめられた気がした。
やはり信用してはもらえないか?
「とにかく、何かあって俺にも力になれそうだったら連絡がほしい。これが俺の小型通信魔道具の連絡先だ」
そう言ってラザロさんに俺の連絡先を書いた紙切れを渡した。
まだ警戒は解いていないようだったがなんとか受け取ってくれた。
しかし協力者になったと言う感じではない。
俺も個人的に動き、ティンを探す必要がある。
ティンが本当は平民ではなくオースティン・クロムウェルだったとしても、彼がどの程度戦えるかかも分からない。
少なくてもティンは俺と初対面でぶつかった時、俺の魔力が強すぎるせいで倒れたと思ったぐらいだし、オースティン・クロムウェルも噂ではかなり体が弱かったと言う話を聞いたことがある。
一刻も早く探し出さなければ!
どう探し出すか、手立ては何もない。
俺はそういえば出逢った頃から、ずっとティンの事ばかり探していた気がする。
それは、俺自身が自分の気持ちと向き合う事をしなかったことが原因だ。
今更後悔した所で、どうしようもない。
とにかくティンをどうにかして、見つけなければ……!
ティン、無事でいてくれ!
俺はお前に、まだ何も言えていないっ!!
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