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第30話 落ち着かないのは俺達の心とデンの尻尾 (ホロ視点)

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 幸太郎が押しかけて来た比奈の帰りを見送って、数時間が経っていた。

 俺達は夕食も終わり、それぞれ、ソファーや床で寛いでいた。

 俺はもちろん定位置のソファーでと言いたいところだが、そこは現在、プディの定位置になってしまっていて、デンのお腹に足を乗せて今日も変わらずプディが寛いでいる。

 合皮のソファーはちょっと固いが、程よく冷たくてお気に入りだったのだが……。

 デンとプディにソファーを取られた俺と幸太郎は、床に座る。

 幸太郎は本を読みながら空いた方の手で俺の頭を撫でる。
 俺は歯向かいたかったが、身体が勝手にクネクネしてしまう。

 目を細めた俺は気持ち良さに抗えず、幸太郎の手に身をゆだねていた。


 それにしても、比奈の勢いは凄かった。

 幸太郎、あの勢いでこられて、よく追い返せたよな……。

 だけど比奈は高校生だもんな……。

 泊めるのは流石にまずいよな……。


 一人と三匹、夜のホノボノとしたひと時を楽しんでいたが、突然プディが耳をピクピクと動かしたかと思えば入り口のドアの方に凄い勢いで走り出した。

 それはもう、ドアに突進するような勢いだ。


 びっくりした俺は、プディの側に駆け寄った。

「にゃっにゃにゃ? にゃーご?(どうした? 何かあったのか? そんなに慌てて、らしくないな……、そんな勢いで突進すると怪我をするだろう?)」

 プディの勢いは止まらず、鬼気迫る様子で二本足立ち、前足でドアをひっかく様に叩いている。

「フーニャン、ニャ―ン(比奈ちゃんが……比奈ちゃんが困っているの、私には分かるの)」


 幸太郎が、俺達の様子がおかしい事に少し驚きながら、本を読むのをやめて、側まで歩いてきた。

「プディちゃん? どうした? 」

 幸太郎はプディが興奮していると思っているんだろうか?
 落ち着く様に、優しい口調で話しかけながらプディの頭を撫でる。

 お構いなしにプディは穴掘りするようにドアを叩き続ける。

「ニャ―? ニャン(比奈が? 比奈は、家に帰っただろう? おい、落ち着けよ)」

「ニャ―、ニャニャニャ(比奈ちゃんが、比奈ちゃんが)」

 プディの様子に、俺も何だか嫌な予感がしてきた……。

 なんだかんだ言っても高校生だしな、見た目も綺麗だし、襲われた?


 何しろ、プディはちょっと得たいが知れないからな、無視できないというか、本当にそう言う事を察知する能力でもありそうだ……。

 俺は、プディは比奈に何かがあって、比奈を助けに行きたいんだと思った。

 俺はプディを優しく撫でている幸太郎に近づき幸太郎の袖を咥え、ドアに向かって引っ張った。

 そして真剣な顔で幸太郎に訴えかけた。

「ニャ―(このドアを開けろ)」

「ん? ホロちゃんも興奮しているのか? 困ったな……。いつもはこんなこと無いのにな」

 駄目だ。伝わらない。


 そう思った俺はプディと一緒にカツカツとドアを一心不乱に叩く。

 その時、いつのまにか側に来ていたデンがドアに向かって後ろ足で立ち前足でドアノブを引っかけ押した。
 
 カチャ

 大きくドアが開く。
 デンは俺達の言っていることを聞いてくれていたのか分からないが満足そうに着地し、こちらを見た。

 俺達はすかさずその隙間から跳び出して玄関に向かって走った。

 びっくりした幸太郎は、慌てたように俺達を追いかけてきた。
「どうしたんだ? おい。外には出ちゃ駄目だぞ? プディ? ホロ?」

 いつもチャンづけで呼んでいるのに、幸太郎も流石に慌てているのか呼び捨てだ。

 俺もプディも玄関の上がり框を下りて、同じように玄関ドアを叩く。

 玄関の向こうは雨音と大きな風の音が響いていている様だった。

「プディちゃん、ホロちゃん? ん? どうしたの? 今からお散歩は風邪ひくよ?」

 幸太郎の言っているのを無視して俺達はドアを叩く。


「プディちゃん? ホロちゃん? 温かい部屋に戻ろう? 」

 幸太郎が途方に暮れたように俺達を見下ろした

 俺達は幸太郎に抱えられそうになったが、俺達も成長している。すぐには捕まらない。
 幸太郎の手を避けて再び玄関ドアを叩く。

「ニャ―(比奈ちゃん! 比奈ちゃん)」

 プディの悲痛の声が響く。

 プディの声にびっくりした幸太郎が目を丸くしていた時、その声に反応したように玄関の外でガタンという音がした。

 デンも俺達の側に来て匂いを嗅いだ後、幸太郎の方に向かってお座りをし、訴えかける様に幸太郎をジッと見つめていた。

 幸太郎はしゃがみ込み俺達、三匹を撫でた後、
「どうした? 誰かいるのか?」

 そう言いながらドアの覗き穴を見た。

 覗き穴を見た幸太郎は俺達を抱え上げ、リビングに避難させた後、玄関のドアを開けた。


 ドアを開けたと同時に聞き覚えのある声が響いた。
「痛っ」

 ドアの前に座り込んでいたのだろうか? 比奈が立ち上がっているのが見えた。 


 雨の中に居たからだろう、かなり濡れていて、化粧や髪形もいつもより乱れている比奈が気まずそうに立っている。


 幸太郎は驚き、
「どうしたんだ? 中に入れ」


 慌てた様子で、比奈を中に入れ、ドアの鍵を閉めて、タオルを取りに、洗面所の方に走って行く。

 バスタオルを比奈に被せながら
「とりあえず、シャワー浴びてこい、風呂も沸かしても良いし」

 そう幸太郎は言い、比奈も気まずそうにしながらも濡れた服を着替えたいからか素直に洗面所に向かった。

「ごめんなさい」

 そう呟いた比奈の声はいつもより少し暗かった。

 幸太郎が控え目に洗面所のドアをノックした。

「はいっ?」
 いつもより高めで裏返っている比奈の声が響いた。

「あっ着替え持って来たんだけど?」

 ドアが少し開き、比奈の白い細い腕が幸太郎の着替えを受け取り、ドアが再びしまった。

「何かあったのか?」

「上がってから話す……」

 




 


 俺達はリビングで比奈が上がってくるのを待っていた。

 俺もプディ―も幸太郎も、比奈がどうしてあんな状態だったのか分からずそわそわしていた。


 デンだけ暢気に尻尾を振っている。




 比奈?

 何があったんだ?

 プディ、やっぱり分かってたんだな。



 流石はプディだな。



 さて、何があったか比奈が風呂から上がってから、尋問だな。


 それまでは皆でそわそわだな。


 デン以外はな。

 デンはパタパタだな、尻尾がな。



 落ち着かないのは俺達の心とデンの尻尾だな。
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