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第75話 夢のまどろみ 遠い過去(プディ視点)

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 幸太郎、探しに行かないのね?

 ホロ大丈夫なのかしら?


 何かあったら私が助けに行かなくちゃ。


 

 そんな風に思いながら、横には温かい温もり。
 何も考えていない様な、毛でフサフサなデンの寝顔。
 ちょっと口が上下に動いている。
 夢の中でも何か食べているのかしら?

 平和ね。

 何処からか風が吹いているわ。
 と思ったら、寝ながらデンが尻尾を振っているのね。




 眠りながらもデンの腕が私を胸の中に巻き込もうとしてる。
 少しだけケモノっぽいデンの匂い。

 そんな風にソファーの上はいつもの風景。
 ホロが居ない事以外は。


 幸太郎は携帯をいじりながらも、顔は焦ってはいるけど、走りだす程でもない。むしろ落ち着いている様にも見える。



 私は薄目を開けながらぼんやりしている。
 長い睫毛の隙間から慌てた表情の幸太郎が見えた。



 私も、ホロの為にフォローはしなくちゃ、もう少ししたらデンも起きちゃう。



 そう思いながらも、なんだか眠たくてまどろみに包まれていた。



 なんだか、眠たい。


 なんだろう。




 何かに誘われる様に私は眠りの世界へ、夢の世界へと......引き込まれていた。



※※※※※※

「プディ様、プディ様?」


 その声はすごく懐かしい声だった。


 夢?

 違う。

 コレは私の過去だ。


 過去の記憶だ。



 幼少の頃。


 王は、私の父親は、

 私の事をとても大事にしていた。


 そう私は、お城の外のモノからはそんな風に思われている。言われていると聞いた。



 それは嘘だ。


 父親という存在に会った事はどれぐらいあっただろうか?



 父親の声を聞いた事はどれぐらいあったのだろうか?


 私をここまで、まとも、と言っても良いものか分からないがちゃんとしたモノに育ててくれたのは、父に使えている方々。



 この私を揺り起こしている、おとぼけた様な面白い髭の生えた彼もお父様じゃない。


 だけど、幼い私は、父親の本当の目的、それを知るまでは、素直にすごい人だと思っていたし、尊敬もしていた。



 私は一応、この星の一番偉い存在の一匹娘。

 他の方達よりは優遇されていて、城の中も自由に行き来する事ができた。


 城の外に行く事は許されていなかったけど......。



 だけど、行っては行けない。そう言い聞かされていた場所が城の中にも存在していた。


「そこにはとっても悪いモノを閉じ込めているからね?  可愛らしいプディ王女の事も食べちゃうかもしれないからね? 絶対、絶対近寄ってはいけないよ?」


 そう言い聞かされていた。






 私の国は決まり事があった。


 感情を表に出してはいけない。


 大きな声を出すことも、許されず、いつでも冷静に、平坦な気持ちでいる事が正義であると。


 私も生まれた時からそう教育を受けていたし、それが正義だと思っていた。




 それはある一つの好奇心からだった。





 行っちゃいけないソコは誰も通っていない様なボロボロの階段の上だった。


 私はその階段が見える、その階段が繋がっている廊下を歩いていた。


 周りには誰も居ない。



 その日はすごく忙しい日らしくて、いつも私の周りにいる方達も、今日は居なくて。


 私は本当はお部屋に閉じ込められていたんだ。



 何がきっかけだったかな?







 聞こえたんだ。


 声が。



 何を言っているか分からない。



 だけど、頭に響いてきた声があったんだ。



 この事は誰にも話してなかった。

 声が頭の中で聞こえるって。




 だって変な子だって思われるから。





 そして、今日は、その声がヤケに大きく聞こえた。


 悲鳴? いや違う。

 だけど、カナシソウ、クルシソウ、シンドソウ。


 私達の星はそもそも皆、感情を持たない様にしている。


 だから、だからその声は身近にあまり感じた事のない『感情』で、余計に私の胸に響いた。


 私の部屋はカギがかかっていた。

 だけど、『向こうに行きたい』


 そう、願っただけで、

 カチャリッ

 と簡単に部屋の鍵は開いた。



 私は引き寄せられる様に扉を開ける。

 部屋の前には長い廊下。


 シーンと冷たく感じる程、誰の気配もしない。



 私は戸惑いながらも声の方に向かって歩いた。

 頭の中に聞こえる声の他に、大人達から言い聞かされていた言葉もよぎる。

『そこにはとっても悪いモノを閉じ込めているからね?  可愛らしいプディ王女の事も食べちゃうかもしれないからね? 絶対、絶対近寄ってはいけないよ?』


 そう、言った方は誰だったかしら?

 だけど、私はこの私を呼ぶカナシソウな声に惹かれていた。

 何を言っているかも分からないのに、私の胸に響く。



 いつも揺れる事のない私の心が、揺れていた。


 トクン トクン

 そう私の胸から心音が響いて、私は前足に力を入れた。

 一歩、一歩、前に進む。





 そして、その、私の頭の中に聞こえる、その声は、上っては行けない。

 そう言われていた階段の更に上の方から聞こえた。





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