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第116話 夢の中で、まさかの再会(ホロ視点)

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 ココは何処だろう?

 目の前の景色は見たことがない色の空だった。
 俺は思わず数回瞬きを繰り返した。

 フワフワと何処かを漂っている。

 空の上?
 だけど先程も言ったが、普通の空と色が違う様にも思う。
 色々な空気、風に色がついていて、それが飛び交っている様にも見えて不思議な感じだ。

 下を向くと地面はかなり下にあった。
 
 思わず、落ちる! と俺はもがいた。
 空気を切る様にバタバタと足を動かし、手もワチャワチャと[犬かき]ならぬ[猫かき]をする。

 俺の手じゃなかった右前足をそっと何かが掴んだ。

 ん?

 それはとても見覚えのある茶色い毛のモフモフとした掌だった......。

  掌からさらに上に目線を写すと、キョトンと首を傾げ可愛くコチラを見つめる、クマのぬいぐるみ。

 辰吉の顔がそこにあった。


『白いニャンコさん。不思議ですね。あなたから辰也さんの匂いがします。あなたは辰也さんですか?』

 そう、辰吉が声を発した。

 これは一体。

 風変わりな夢を見ていると言うのか?

 雪と一緒に生活をしていた時、雪がとても大事にしていたぬいぐるみが、俺の夢に登場する。
 まあそれは良くある事だろう。

 だけど、このクマのぬいぐるみ、辰吉が夢に登場する時、いつも必ず雪が居たのだが、今日は辰吉だけだ。
 しかも喋っている。

 まあ夢は色々あるよな......。

『辰吉、久しぶりだな。喋れるんだな。
雪が居ないから雪の腹話術(エセ)じゃないから声の高さもいつもとはちがうな。
実際は変声期後の少年の様にちょっとだけ低いんだな。
俺が辰也だって、こんな姿なのに分かるんだな......。
なんか嬉しいな』


 へへへっ、と俺は笑った。

 なんだか夢だからだろうか?
 猫の姿なのに、いつもの猫語じゃない。
 
 この言葉は何処の言葉だ?
 俺はどうしてこう言う言葉を喋っているのか分からない。
 だけど、何故かちゃんと理解はできる。


 
 日本語ではない言葉を喋っていると分かるのに、頭の中には日本語として変換されて聞こえるといったら良いだろうか?


 だけどこの言葉、何処かで聞いた。
 そうだ。

 雪とプディが喋っていた言葉だ。

 俺は何故、こんな言葉で話しているんだろう? 





 不安定な状態、しかも不安定な気持ちになった俺は本当は辰吉の掌をギュッと握り返したいのに、子猫な白い、手、じゃなくて俺の前足では、辰吉の前足が握れない。


 手を繋ぐ様に前足同士で触れ合って、空の上に浮かんでいた俺と辰吉。

 目線を下に向けると、地面を歩いていたのは数匹の猫達。

 皆、前足に少し違和感がある。

 あの前足、クウロと一緒だ。
 指が1本ずつ多くてなんだかモチモチしている。


 そして、その猫達の集団から少し離れた所で、重たそうな荷物を運んでいる黒猫が、俺が幼い頃に実家で飼っていたクウロにそっくりだった。

 クウロに似た黒猫に目を奪われていた俺だったが辰吉が喋り出したので、目線を辰吉に戻した。



『この夢、僕も始めは何処なんだかわかりませんでした。
だけど、この前の辰也さんと、雪さんが僕を通じて繋がった事で、僕は深い所で、雪さんと辰也さんと繋がったんです。

この夢は雪さんの夢。

正確には雪さんが過去の事を夢に見ていて、僕達はその夢の中に入りこんでいる様ですよ?』



 
 辰吉の言っている事は衝撃的な内容だった。
 この前、雪の声が俺はハンカチから聞こえていたが、雪には俺の声が辰吉から聞こえていたという事なのか?
 なんかメルヘンだな。

 そして、この夢が雪の過去?
 この幻想的な世界で、雪は生まれ育ったというのか?


 へっ?

 雪の夢の割に、雪は何処にいるというんだ?

 不思議に思いながら、俺は再び、クウロに似た黒猫を眺めていた。
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