魔王なアイツは遠すぎて......。嫌われモノの俺 戦えない俺の異世界転生生活

やまくる実

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第五章 前世の記憶 

第38話 無理したツケ (タイアン視点)

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 魔化地下王国にショウを連れてきて、数日経つがまだショウは目覚めていない。
 普通に眠っている様に見える幼い寝顔、呼吸は安定しているのに目を開けない。

 俺の寝室にショウが眠っているというのは不思議な感覚だ。


 それにしても……目を開けない理由が分からない。
 やはり、ココに連れてきてしまった事が原因なのか……?
 

 しかし、こんな状態のショウを一人で地上に戻す訳にはいかない。

 幸いすぐに回復したからショウに外傷は残っていない。

 あの時にあった黒いモヤも残っていない。

 なのに何故、目覚めないのか……。
 俺は、ショウの側でずっと目を覚ますのを見守っていたかったが周りがそれを許してくれない。

 ショウの事も地上人と言う事は内緒にしてある。

 だから俺の部屋に寝せていても何も言われない。

 今回の俺の不在、時間にしてみたらそんなに長い時間ではなかったが、周りは俺が忙しいのに、男の恋人に、会いに行っていたと思っている。

 そんな場合ではないと溜まっていた仕事を持ってこられた。

 おかしい……。

 仕事は親父がしていた筈なのに……。

「コレはもう俺の仕事ではないと元魔王さまが……」

 そう言うのは俺の護衛兼今では俺の部下、ユアンさんだ。
 だけどユアンさんは今でも親父至上主義だ。
 親父の命令には逆らえないし、今でも俺よりも親父を優先させている。

「そうか……」
 俺はそう答えながらもユアンさんから書類を受け取り扉を閉めてその大量な書類をショウを寝かせているベッドより少し離れた場所に置いてある自身のデスクに置いた。

 俺は平気なふりをしながらもかなり参っていた。

 
 
 自分のした行動がショウにとって本当に良かったのか……。
 俺がここに連れてきたからショウは目覚めないのかもしれない。

 あちらでもショウを回復する手立てはあったのかもしれない。

 あの時、魔物に変化してしまっている俺をショウは庇った。
 その理由は分からない。
 魔物に変化する前、獣(犬)の姿で目があった様な気がした。

 犬の姿でも少しだけだが面識がある。
 しかし……あの時、ショウは確かに俺の名を呼んだ。

 俺だと分かって、それでも俺を庇ったと言うのか?

 ショウがこんな風になってしまうことが分かっているなら、俺だと気付かれなかった方が良かったとも思ってしまう……。

 ショウの顔に手を伸ばし、髪をかき分け、そっと頬に触れた。
 耳に着けている魔道具は着けたままだ。
 髪色も茶色のままだ……。

 こうしてショウの顔をすぐ見る事が出来る。
 目を覚ますことはまだ無いが触れることはできる。
 それは一人でココで見えない何かと戦っていた頃よりはよほど幸せかもしれない。
 だけど俺の浅はかな行動の所為でこのままショウが目覚めなかったら……そう思うと俺は……。




 そんな風に悶々と考える日々が続いていた。
 俺は考えすぎない為に、ひたすら仕事に打ち込んでいた。

 俺が仕事の量を増やし少し無理をしていることが他の者にも伝わり、気晴らしにと違う仕事を押し付けられた。

 平民街の孤児院に薬を届けてほしいとの事だ。
 確かにショウの側を片時も離れたく無いとも思うが……近くにいると今の俺は良く無いことばかりを考えてしまう……。

 少し王宮を離れた方が良いのかもしれない。

 そう思い俺はその仕事を引き受けた。




 王宮の建物内から平民街に転移した。
 陽を投影させている魔法が視界に入り眩しくて目を細めた。
 魔化地下王国は地下の街。

 だから空はない。

 天井と思われるモノはかなり高く、空とも思える。

 魔力や魔法も発達しており、街の中は明るい。

 この星の魔力は地上での月と関係している。

 月の魔力が届く時の方が魔力を多く使える。

 つまり負の魔力は月の力を原動力にしているのかもしれない。
 この国は、夜を時間で区切っている。

 地上の光はそもそも届かない奥深くにあるこの国は月の力がよく届く向こうの世界での夜をこの世界での昼としている。

 時間で数えると地上とは真逆の時間ということだ。

 
 もう一度転移した俺の目の前には少し古びた作りの孤児院の入り口が見えた。

 本当は街を歩いたりしたほうが気は紛れたのかもしれない。
 いや、歩きながらもショウの事を結局は考えてしまっていたかもしれない。


 入り口から青年が出てきた。

 線が細く、顔立ちが綺麗な青年、細いフレームの眼鏡が知的に見える。

 ショウは地味目可愛いい美人だが、このものはクール美人といった感じだ。
 偏見かもしれないが服装が安っぽい布地じゃなければとても孤児院の者には見えない。

 いつもはショウ以外のモノの事など気にもならないが、髪色が現在のショウと同じ茶色であった事と、耳に俺やショウが着けているモノとデザイン違いの魔道具を着けていたから、気になってしまった。

 このモノも髪色を変えているという事か?

「アレ? 今日はいつもの人じゃないんだね……」

 少し声が高い。
 俺ほどではないけど、背が高く落ち着いて見えたから年上かとも思ったが、俺やショウともさほど年齢は変わらない、もしくは年下の可能性もあるな。

「ああ、今日は代理として私が届けにきた」

 一人称を私というのもなんだか気恥ずかしいが、周りのものから国民の前では「俺」ではなく「私」で話すように言われていた。
 俺が今現在の魔王という事は魔国民にはまだあまり知られてはいない。

 息子に代替わりしたことは知られてはいるが、今回は急すぎた為、まだちゃんとした報告がされていなかった。
 まあ、別に今は知られていなくてもいいか……。


 そうしてその青年に薬が入った袋を渡そうとした時だった。

 グラリと地面が揺れた。
 その揺れとともに大きい音が鳴り響いた。
 俺は咄嗟に目の前にいた青年を庇うように押した。

 そして上から何かが落ちてきた、すぐさま魔力を放ち落ちて来た岩を砕く。

 魔国での困り事、地上に上がってしまい魔物に成ってしまう事、負の魔力を含む砂の雨が降る事、それの他にもあった大きな問題の一つ。
 地上で起こることに従って起こる地割れや落石。

 空高くにある天井から石が落ちてくるそれは魔国が抱える大きな問題だった。

 俺の魔力を持ってすればその落石を避けることも砕くことも容易いことだったが、ココ数日の無理がたたっていたらしい……落石を砕くこともできたし、俺も青年も怪我をした様子はない。だが……俺はそのまま意識を失った。

 
 
 
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