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2章

36話 王女様

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ガルはラナ達と別れルナ王女の部屋の前に来ていた。

ドアをノックして扉を開ける。
ガルの姿を見るや否やとても綺麗な真っ白な毛の狐人族の娘がガルに飛びついてきた。
「ガル!」
「おっとっと!急に飛びつくなよ。はしたないぞ一応王女なんだから」
「だって死の森に調査に向かうって言ってから一度も顔を見せないんだもの!心配するじゃない!」
ルナは涙目になりながら怒っている。
「悪かったって。でも討伐が済んだ後に念話で無事だと報告したじゃないか」
「幼馴染がタイラントボア9体を一人で相手したなんて聞いて心配しない人がどこに居るんですか!!」
「ご、ごめんって」
「まぁいいわっ♪こうしてちゃんと顔を見せに来てくれたから許してあげる♪それで今回は一人なの?フェルたちは?」


ルナは感が鋭く嘘はすぐに見抜かれてしまうのでガルは現状を素直に説明した。
「え…そんな…嘘でしょ?」
「…」
ルナは恐怖と悲しみで涙がこぼれた。

「俺が必ず3人を救い出して見せる。あいつらならそう簡単にやられたりはしないはずさ」
「まって!ガルまで居なくなったら私…!」
ルナはとても悲しそうな表情をしている。

そんなルナの頭を撫でながらガルは言った。
「大丈夫。俺はある人達に出会って強くなれたんだ。力だけじゃなく心も。だから必ずみんなを救い出してみせる。それに、その人たちが一緒に動いてくれてる。とても心強い方達だよ」
「強い方達…?」
「ああ、いつかルナにも紹介しようと思う。みんなとても強いし良い人たちだよ」
「ガルがそういうならほんとにいい人達なんでしょうね。いつか会わせてね♪約束よ?」
ルナは涙を拭いながら小指を出した。
ガルもそれに応じて指切りをする。


ガルは見られている感覚を感じて少し神妙な顔をしていた。
…ガル…?どうしたの?」
「いや、なんでもない」

(一瞬気配を感じた気がするが、気のせいか?今は何も感じないな)


ガルは話を戻した。
「ここに来たのにはもう一つ理由があるんだ」
「?」
ルナは首を傾げた。

「ルナ。俺をガラテアさんのところに案内してくれないか?」
「ガラテアってアルマ様の侍女の?」
「ああ、俺はアルマさんとは面識がないし、会えないのは分かってる。けど、侍女のガラテアさんになら会えないかと思って」

「私もアルマ様とは小さなころに数回お会いした程度だから…。私が行ってもガラテアがアルマ様の元を離れてあなたに会うかは分からないわよ?」
「ダメもとでいい。聞いてみてくれないか?」
「わかったわ。ガルの頼みだもの!私にできることなら任せなさい♪」



ルナの案内で別棟の最上階にあるアルマの部屋がある階に移動した。

ここに来る途中にルナから聞いた話ではアルマはもう10年くらい前から自室にこもりっきりで侍女のガラテア以外は部屋に近づけないらしい。
なんでも特別な研究をしているから…と人払いをし、アルマが認めたもの以外は出入りできない結界を部屋に張っているらしい。
それでもアルマが宮廷魔術師としての席を奪われないのはこの国に今でも貢献し続けているからだろうだ。


「引きこもって居ながら何ができるというんだ?」
先ほどまであどけた表情をしていたルナが急に真面目な顔をして話始めた。
「…本当はこれは王の家族と一部の家臣にしか知らされていないことなんだけど…ガルになら話しても…いいかな。絶対に口外禁止よ…?」

ルナのいつになく真剣な表情を見て、ガルは静かに頷くと息をのんでルナの話に耳を傾けた。
「アルマ様はその強大な魔力でこの国を今でも魔物から守っているのよ」
「どういうことだ?魔物なんてそこら中にいるじゃないか?」
「そこらで発生する魔物のことじゃないわ…。先々代の王が健在の頃、この国が強大な魔物に襲われたって話は貴方も聞いたことがあるでしょう?」
「ああ、たしか首が3つある巨大な狼。おとぎ話で聞く伝説の魔獣みたいだったって話だな。でもその魔物は当時の王が討ち払ったって話じゃ…」
ルナは首を横に振った。

「それは国民を不安に煽らないように造られた話。当時の国の猛者たちでもまるで歯が立たず危機に陥っていた時に、アルマ様が現れて助けてくれたというのが本当の話なの」
「!?なんでそんな話を秘匿にしているんだ?」
「アルマ様がそうしろとおっしゃられたからよ。実はアルマ様はその魔物を倒したわけではないの。アルマ様は魔物の力に1歩及ばなかったから特殊な魔法を使って魔物を封印しているのよ」

「なっ!そんな大事なことを何故隠し……いや…そうか。…そんなことが知れれば何時封印が解けて魔物が現れるかわからない。国中に混乱が起きる…ということか」
「ええ、その通りです。それを危惧して当時の王もアルマの話を飲んで事実を隠蔽することにしたらしいの」

「着いたわ。この先がアルマ様のお部屋がある区画よ」



別塔の階段を登りきると通路の両脇には兵士が立っていた。

アルマの部屋へ続く通路を守る護衛のようだ。
「ここから先は当代の王家しか立ち入りを許していないの。だからガルは少しここで待っていてね?」
「ああ、わかった」
ルナが兵士にガラテアに会いに来たと話をし奥に進もうとする。

するといきなり兵士たちがルナに斬りかかろうとした。
「なっ!?」
慌ててガルは剣を抜きルナを助ける。

兵士が振り下ろした剣をギリギリのところでガルは受け止めることができた。
「お前ら何故ルナを攻撃する!一体何のつもりだ!?」
「アルマニ…チカヅクモノハ…ショブン」
(こいつら…何かおかしい)

「ルナっ!とにかく奥の部屋へ!こいつらの相手は俺に任せろ!!」
「でもっ!!」
「いいからいってくれ!お前に何かあったら俺は…!さぁ早く!」
「…わかりました…では一つ王女命令です。絶対に無事に私の前に戻ること。怪我の一つでも受けたらあとで重罰に課しますからねっ!」
「ああ!きつい命令なとこで!こいつらを押さえたら直ぐ合流する!」

こうしてガルが兵士達と剣を交えている間にルナは奥の部屋へ駆け込んだ。
するとそこには一人の女性が立っていた。
まっすぐな黒髪の妙齢な人間の女性だ。
「ルナ様ですね。お久しぶりです」
「ガラテアですか!?御無事でしたか!!」

ガラテアと呼ばれたその女は右手の魔力を集中させ雷の魔法を手の上で発現させた。
「…とうとうここまで来てしまいましたか…」
「ガラテア…一体何を…」



兵士二人と交戦していたガルは戸惑いながらもなんとか二人を倒していた。
「なかなかの手練れだった…しかしこいつらはいったい…操られていたのか…?」

そのとき奥の部屋からルナの叫び声が響いた。
『キャアアアアアアアアア!!!』

「ルナっ!!!」
ガルは慌てて奥の部屋に駆け込むとそこにはうなだれたルナを抱えたガラテアが立っていた。
それを目にしたガルは怒りに満ちた表情で剣を構えた。
「貴様…!いったいルナに何をした!!」
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