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2章

37話 侍女ガラテア

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うなだれたルナを抱えるガラテアを目の前にしたガルは冷静さを保っていられなかった。

ガルは怒りに任せガラテアにとびかかり剣をふるう。
ガラテアは剣を余裕で回避してルナを抱えたまま飛びのいた。

(俺の剣をこうもあっさりと…! こいつただの侍女なんかじゃない!!)
ガルは少し冷静になりガラテアを実力を理解し剣を構えなおした。


そのときルナが意識を取り戻し口を開いた。
「…まってガル…違うのよ」
「ルナ!無事なのか!?」

ルナはガラテアの手から降り説明をした。
「この人は私を襲ったのではなくて助けてくれたの」
「…どういうことだ…?」

「私がこの部屋に入ったとき、一緒に魔物が入り込んでいたの」
「俺はずっと通路に居たのに一体どこから!?」

「私の影に潜んでいたみたいで…急に影から飛び出して来てそれで…」
(さっき感じた視線の正体はそいつか…!なんでもっと早く気が付かなかったんだ!!くそっ!!)
ガルは険しい顔をしている。

「それでね…?ガラテアは私を守って魔法でその魔物を倒してくれたのよ。私は急なことでびっくりしちゃってちょっと気を失ってたみたいで…」
「そういうことだったのか…勘違いで剣を向けたことを謝罪する。ルナを助けてくれて本当にありがとう」
剣を納めガルはガラテアに頭を下げた。

「気にしないで。これも私の仕事だから」
ガラテアは無表情のままそう答えた。

「通路に居た兵士達は自我が無く操られているようだったが、あれはあなた達の仕業なのか?」
(自我を失っていたが、あの兵士の使っていた剣技は…)

「いえ、それはアルマ様を狙っている敵の仕業です。この部屋には結界があり、先ほどの魔物のように特殊な方法を持ちいらない限りは邪な魔力を持った者は立ち入ることが出来ないようになっています。なので我々が出てきた場合やアルマ様に会いに来る者が居た場合は攻撃するように命令されていたのだと思います」

(ここに魔物を仕向けるために、出入りを許されているルナに魔物を付けていたということか…。一体誰が…?それにしても人を完全に操れる魔法やスキルなんて聞いたことがないぞ…。)

「先ほどの動き…君は一体何者なんだ」
「私はアルマ様の侍女です。それ以上でもそれ以下でもありません」
ガラテアは淡々とそう答えた。

ガルは釈然としない様子だったが。ガラテアは敵ではないようなのでここに来た理由を話し始めた。
「俺がここに来たのは貴方に聞きたいことがあったからなんだ。話を聞いてもらえるだろうか?」
ガラテアは静かに頷いた。


「最近この国とその周囲で腕利きの者を攫う事件が続いている。その件に関して王からの依頼で俺と仲間達が調査を始めたんだ。だが敵の情報はなにも掴めないでいた。そこにアルマさんからのあの手紙。おかげで敵組織の重要な情報を知ることができた。手紙から、アルマさんには何か人と会えない事情があるというのも分かった…」

ガルは少し間をおいて真剣な顔で懇願した。
「ガラテアさん。いま王都で起こっている事件の黒幕とその組織が行おうとしていることについて何か知っているのなら教えてもらえないだろうか。たのむ」
ガルは深く頭を下げた。
ガルは事件に巻き込まれている可能性が高い3人のことを思い歯をかみしめながら深く頭を下げている。

そんなガルを見つめながらガラテアは口を開いた。
「あの手紙を読める者やその仲間がここに来たら全部説明するようにアルマ様から言われています。ルナ様もお聴きください」

こうしてガラテアは知っていることをガルとルナに話してくれた。


ガラテアから話を聞いて色々と状況が見えてきた。

アルマは年々魔力を失っているので、このまま魔獣の封印を維持して居られても50年やそこらだということ。
理由は分からないがイスカリオテはアルマを倒して魔獣を解き放とうとしていること。
10年ほど前からその動きは活発になり城の内部にまで手が回り始めていたこと。
敵の中に今のアルマと同等かそれ以上の力を持つものが複数居るということ。
その敵の存在や城の内部にまで敵が入り込んでいるということから、信頼のおけるガラテア以外を遮断し自室とその周囲に二重に結界を張ることで魔獣の封印と自信の身を守るのが精いっぱいだったということを聞かされた。

「それで直接会うことはできない…と言っていたのか」
「そんな…この国で10年も前からそんなことが起こっていたなんて…」
ルナは王女でありながら自分が何も知らなかったとこに悔いている。

「それで、何故俺らに協力を仰いだんだ?イザさん達はここにきて間もない。何故アルマさんはそんなイザさん達を知っていて、信じて手紙を託したんだ?あの手紙はイザさんやマティアさんでないと読むことができない魔法が掛けられていたときいているが…」
「アルマ様は数か月前に自身と同じ賢者の落とし子が復活されたのを感じ取ったそうです。そして先日その存在が近く来ていることを感じ、賢者の落とし子ならば協力者に足るだろうと言っておられました」

「イザさんからもその話は聞いたが、賢者の落とし子ってのは一体何なんだ?アルマさんはやはりマティアさんと同じ…その…エーテロイドってことなのか?」
「そこはガラテアには分かりかねます。ですが信頼に足る存在と感じ託したと言っておられました」

「あの…話に水を差すようで申し訳ないのですが…イザやマティアという方やえーてろいど?って…何ですか?」
知らない名前や存在が出てきて状況が呑み込めずにルナは戸惑っていた。
ガルはここまで聞かせてしまったらもう隠しても仕方ないと思い、ルナにすべてを説明した。


全ての話を聞いて、更にルナは困惑した様子だった。
「なんだか信じられない話ばかりで夢を見ているようです…ですがこれは現実なんですね」
「そうだな。俺もあの人たちに初めて会ったころは常識はずれなことばかりなので、ルナと同じく理解が追い付かなかった。でもイザさん達に出会えたことで自分の中の世界が開けた気がする。今はあの人たちの仲間で居られることで自分に自信も持てるし、以前の俺よりもいくらか成長できた気がするよ」

そう言い切るガルを見ていたルナにはガルの存在がいつもより大きくそして輝いて見えた。
「ガルはいつも立派ですよ♪私の自慢の幼馴染ですから…♪」
「ルナ…ありがとう…」
二人は見つめ合っていた。

「仲睦まじい男女、といった雰囲気のところ大変申し訳ないのですが、続きをお話してもかまいませんか?」
ガラテアの言葉でハッとして二人は顔を赤くした。

「アルマ様からここに来るものが居たらこちらをお渡しするように言付かっております」
そう言うとガラテアは真紅に光る宝石のような物を差し出した。

ガルはその石を手に取ってまじまじと眺めた。その宝石は普通の魔石とは違い不思議な力を放っているようにガルには感じられた。

「魔石とは違うようだが…?これは…?」
「こちらは破邪石といって以前アルマ様が自身の魔法を込めて御作りになられた魔道具です。この破邪石を使用すると一定距離内の魔法効果や魔法アイテムの効力を無力化できると聞いています」

「そんな凄いものが作り出せるなんて…しかしこれを一体どうやって使えというんだ?」
「使い方はお任せすると言っておられました。ですがきっと役立つであろうと」

「ちなみにその魔法を発動させるにはどのように?」
「通常の魔石のように魔力を込めると発動するそうです。ただしかなり高い魔力を込めなければ発動できないと聞いています」


「高い魔力か…俺には使用できそうにないが…ありがとう。預からせてもらう」
「一度使用すると壊れてしまうそうなので使いどころには注意してください」
「ありがとう」
(これは俺には扱えそうにないし俺には使い道も今のところ見えてこないな…。ラナさんかイザさんと合流したときに渡しておこう)

「ガラテアさん色々ありがとう。ガラテアさんにはアルマさんを守る役目があることは分かっている。だがその腕を見込んで一つ頼みを聞いてもらえないだろうか?話を聞いた限り城の中の者も信用できそうにない…だからルナと王を守ってやってはくれないか?」

ガラテアは静かに頷き答えた。
「アルマ様の元からあまり離れるわけには行きませんが、私の手の届く範囲でならばお引き受けします」

「ありがたい」
ガルはガラテアに頭を下げた。

「ルナ。俺はやることができたから行ってくる」
「止めても無駄なのですね」
ガルは分かってるじゃないかと言うようにルナに笑いかけた。

ルナもガルの性格を理解しているので諦めたかのようにため息をついた。
「はぁ…わかりました。気をつけてください。次は皆さんと揃ってお話しできると信じています」
「ああ、今度イザさん達も紹介するよ」

そういうとガルは足早に部屋を出ていった。

(ガル…それにフェル、ミーシャ、ナック…どうか皆さん無事でいてください)
ルナは皆の無事を願いながらガルの後姿を見送った。



とある部屋にて
ランスとベルモッドが会話していた。
「王女に付けていた魔物が討たれたようです」
「…そうか、やはりあの程度の魔物を潜り込ませたところでアルマを討つには至らないか。結界魔法とは厄介なものだな…」

「やはり当初の計画通り彼らを使うしかないかと」
「そうだな。それで…?どこまで進んでいる?」
「手駒の確保は予定通りに。先ほどかなり魔力の高い者たちも捉えたと報告も入りました」
「ほう?僥倖だな。では…お前は仕上げに向けて動いてくれ。例の奴らももう不要。使い潰して構わん」
「かしこまりました」
「それと…そろそろバティスにも声をかけておいてくれ」
ランスは静かに頷いて去って行った。

(ふふ、もうすぐだ。…もうすぐ私が長年追い求めていたものが手に入る…)
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