転移想像 ~理想郷を再現するために頑張ります~

すなる

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2章

44話 ラグナ家

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数刻前
イザたちと別れた銀牙はガルに連れられてある場所に向かっていた。
「ガル。俺らはどこに向かっているんだ?だいぶ王城から離れている気がするんだが?」
「…俺の…実家です」
「ガルの実家っていうとこの国で唯一の貴族っていう?」
「はい、貴族とは名ばかりですし…初代王のおかげで家名が有名なだけに過ぎませんけどね」

「それにしてもなんでこんな時に実家に帰るんだ?」
「…少し気になることが出てきたので」
銀牙は首を傾げた。


「まだ確証はないのですが、念のために人狼族と言ってもばれそうにない銀牙さんに同行してもらいました」
「まぁ確かに俺はガル達と似てるけど、気になることっていうのは一体…?」
「…確証が持てたら後で詳しく説明します。とりあえず銀牙さんは俺の冒険者仲間の獣人族として話を合わせてくれませんか?」
「なんだかわからないけど任せてくれ」

話をしながら足を進めていると二人はガルの実家、ラグナ家の近くまで来ていた。
(ここに戻るのも久々だな…)

門の少し前で立ち止まり苦い表情を浮かべるガルを見て銀牙は声をかけた。

「もしかして家族と仲が悪いのか?…だから仲裁に入ってほしいとか…?」
「確かに仲がいいとは言えませんけど…。銀牙さんを連れてきた理由はそれとは関係ありませんよ」
「そうか。とりあえず家に入らないのか?」

「…そうですね。行きましょう」

二人が門に近づくと衛兵が二人に声をかけた。
「何用でこちらへ。ここは由緒あるラグナ家。正当な理由なき者は立ち入りを許されません」
「俺はガル=ラグナ。ラグナ家の三男のガルだ」

それを聞いて衛兵は驚いた顔をするとガルの顔をまじまじと見つめた。
「!!これはガル様…!お久しぶりです」
「覚えていてくれたようでよかった。で?通してもらえるか?」
「もちろんです。ですが…隣の方は…?」
衛兵はガルに軽く頭を下げると。隣の銀牙に目を向けた。

「この人は俺の冒険者仲間だ。身分が証明された獣人族ならラグナ家への出入りしても問題無いと思うが?」
「ガル様がそうおっしゃられるのでしたら…」
衛兵はそういうと門を開き二人を招き入れた。

「俺がここへ来た理由って…今の?」
「ええ、ラグナ家は名ばかりの貴族とはいえ1000年続く家系。他種族からの恨みを買っていたり盗難を狙う賊もたえませんので。賊の侵入を警戒して敷地内に獣人族…それも家の者が信用を置けると認めた人狼族以外は出入りを禁止しているんです」
「なるほどなぁ。でもそれだけ厳重で安全だとしたらわざわざ家まで俺を連れてきたのには別に理由が?」
「ええ、まだ確証はありませんが、戦闘になることも想定しています」
「へへっ。最近あまり戦ってないから腕がなる」


二人は庭を通り屋敷の前にたどり着いた。

銀牙は立派な庭園や屋敷に目を奪われていた。
「はぁ~。立派な家だな~。始まりの村にあるイザさんの家よりでかいな」

さすがは1000年の歴史がある家系。よくある貴族の邸宅と比べても何ら遜色がないほど優美な佇まいをしている。

「では入りましょうか」
ガルがそう言って家の扉に手を掛けようとしたとき、扉が開き誰かが中から出てきた。

「ん?…お前は…?もしかして…ガルか?」
出てきた人狼族の男はガルにそのまま話かけた。

「いや~久しぶりだな~。元気にしてたか!」
「ええ、それなりに…」
ガルはその男を前にして若干委縮している。

「ガル?こちらの人は?」
そういいつつ銀牙の容姿と身なりを品定めするかのように男は目を細めた。

「ここらでは見ない顔だが…?なかなか腕が立ちそうな人狼族だな…?ガルの新しい冒険者仲間か?俺はガルの兄のゲイルだ。よろしくな」
「ガルのお兄さんですか。俺は銀牙といいます。よろしくお願いします」
銀牙はゲイルがさし出した手を取って握手を交わした。

「ガル?どうしたんだ?黙りこくって?久々の兄貴との再会をもっと喜べよ」
ゲイルはガルの顔を覗き込んだ。
ガルはゲイルから目をそらした。

「ははは!まだあの時のことを気にしてるのかよ!もうあの話は済んだことだろう?お前が気にすることは何もない…そうだろう?」
ゲイルはガルの両肩に手を置くと続けてガルの耳元で囁いた。
「お前があのことを黙っていれば俺はお前には何もしない。いいな…?」

直後、ゲイルはガルの背中をぽんっと叩いて笑いながら屋敷を出ていった。
ガルは何かに怯えたような表情をしている。

そんなガルを見て銀牙は声を掛ける。
「…昔何があったか知らないが、いけ好かない兄貴だな」
「…そうですね」

「それで?気になることを調べに来たんじゃないのか?」
「…はい。では屋敷の中に入りましょう。使用人達が居るはずです」

二人は大きな扉を開けて屋敷の中に入る。

するとガルを姿を見るや否や、執事らしき人狼族の老人が駆け寄ってきた。
「ガル様!!ガル様ですね!?…御久しゅうございます!冒険者として活躍されている話は耳にしておりましたが、じいは心配しておりました。よくぞ御無事で…」
老人はガルに会えたことを涙を流して喜んでいた。

「久しぶりだね。カインも元気そうで何よりだよ。色々聞きたいことがあるんだけど場所を変えてもいいかい?」

カインは静かに頷くと応接室のような部屋に二人を案内した。
「それで私に聞きたい話というのは…やはり…」
「ああ、ゲイルの最近の動向について確認させてほしい」

カインは少し黙ってからゆっくりと口を開いた。
「実は…例の事故でランディス様がお亡くなりになり…ガル様も家を出て暫くしてから、夜になるとゲイン様はどこかへ出かけるようになりまして…」

ランディスという名前を聞いてガルの表情が曇った。
鈍い銀牙でも、先ほどからガルの様子がおかしいのは過去にゲイルとランディスとの間に何かがあったのだと確信した。

カインもガルの様子に気が付きながらも静かに話をつづけた。
「私はある日ゲイル様の行動が気になり後を付けることにしたのです。ゲイル様の後を追って行くと聖教会の裏で怪しい魔人族と密会しているところを目撃しました。流石に魔人族が居ては感づかれてしまうのでそれ以上は深追いできそうになく、その日はそこで帰りました」

その話を聞いて二人はイスカリオテにいる魔人族とゲイルは関わりがあると察し、顔を見合わせて頷いた。

「それから暫くして屋敷の裏に急にゲイル様は小屋を建て始めたのです。目的や理由を聞いてもラグナ家の為だの一点張りで詳しく話しては貰えませんでした。小屋が完成してからは夜な夜な小屋に向かうようになり鍵をかけ引きこもるようになりました。常に鍵はゲイル様が持ち歩いているので小屋の中には私は愚かどの使用人も入ったことはありません」

「…カイン。ゲイルが魔人族と密会したり小屋を建て始めたのはランディス兄さんが亡くなって暫くしてからといったな?」

「え?ええ。そうです。今から丁度10年ほど前でしょうか…」

ガルはそれを聞いて表情が暗くなった。そしてカインにある質問を投げかけた。
「最近…この屋敷に長く務めている衛兵が行方不明になる事件はなかったか?」

ガルの質問にカインは驚いていた。
「!?ガル様がどうしてそれを…確かに数名の衛兵が突然いなくなりました…。ですがその話は、ゲイル様が家の信用に関わるから口外するなとおっしゃられていたのでこの家の者以外知らないはずですが…」

ガルは両手で頭を抱え暫く黙り込んでしまった。
「……」

見かねたカインがガルを心配して声をかける。
「ガル様…」

「済まない。大丈夫だ。二人とも聞いてほしいことがある。……今の話を聞いてこれまでに得た情報と合わせて考えると一つ確信が持てたことがある」

「…といいますと?」
「もったい付けないでさっさと言おうぜ。俺もそこのじいさんもガルが言おうとしてることはもう薄々感づいてるぜ」

「ゲイルはイスカリオテと…今王都で事件を起こしている組織と繋がっている。どういう取引が組織とゲイルの間であったのかは知らないが、あいつは今王都で起こっている犯罪に手を貸しているとみて間違いない」

「…ゲイル様が…」
「ゲイルは元からそういうやつさ。…俺は昔からゲイルのことを恐れていて、ずっと誰にも言えなかったことがある。だがイザさんや銀牙さん達と出会い色々な経験をして強くなれた今ならランディス兄さんが死んだ事故の真相も話すことができる。聞いてくれるかカイン」

「ええ、しかと聞かせていただきます」

「あれは…事故なんかじゃなかったんだ。計画的なゲイルの犯行による殺人なんだ…。俺はたまたまゲイルがランディス兄さんとの手合わせの前に武具に細工しているところを見てしまったんだ。その直後訓練でランディス兄さんは帰らぬ人に…。でも誰かに言えばお前も殺すと言われ…俺はまだ幼かったからゲイルが怖くてたまらなくて誰にも言うことが出来なかった。すまない…カイン」
ガルは全てを話し終えると頭を抱えた。


「…私も…そうではないかと思っておりました。ですが公にして調査してもらおうにも確証も証拠もありませんでした。何より由緒あるラグナ家の名を守るために、剣の稽古中に起きた事故という事で処理せざるを得ない世間の風潮が強く、誰もどうすることも出来なかったのです。ガル様…自分を責めないでください。ラグナ家のため…という言い訳を盾に…強く出れなかった私目にも同じ罪があります」

そんな二人を見かねて銀牙がため息をつきながら口を挟んだ。
「…はぁ。なんだか二人とも自分が悪いみたいに言ってるけど、悪いのはゲイルだろ?今さら気にしても仕方ないんじゃないのか?俺は難しい話はよくわからないけど、いまゲイルを止めないと後でもっと後悔するってことだろ?」

二人は銀牙の話を聞いて頭を切り替えた。
「…そうだな。銀牙さんの言うとおりだ。今は過去のことを悔いている場合じゃない。ゲイルを止めなければ…。そのために俺はここに戻ってきたんだから」

「お前が誰を止めるだって?」
部屋の入口の方から声が聞こえ3人が扉の方を振り向くとそこにはゲイルが立っていた。


ガルはゲイルを見て警戒して腰に差している剣に手を掛けた。
「ゲイルっ!!」
「おいおい兄貴を呼び捨てとは偉くなったもんだな?そんなに怖い顔するなって、俺が組織と繋がってる?そんな証拠がどこにあるんだ?」
ガルは歯を噛みしめながら怒りに満ちた目でゲイルを睨みつけていた。

「おー怖い目だこと。10年ぶりに何をしに帰ってきたのかと思って気になって、出かけたふりをして話を聞いてりゃ好き勝手言いやがって。で?俺が何かしてる証拠は?そこまで言うならあるんだよな?」

確かに今ゲイルが犯行に関わっていると知らしめるほどの明確な証拠がない。
ガルは黙ってしまった。
「…」

「ほらな?世の中証拠がないのに疑ってたらそれこそ罪だぜぇ?ははははは」
ゲイルは高笑いをして再び話始めた。
「お前は冒険者になったからいつかのたれ死んでくれると思ってたのになぁ。まさか生きて帰ってくるとは思わなかったぜ。お前は俺の計画の邪魔になるんだよ。だからここで死んでもらうことにした」


ゲイルはそう言い終えると先ほどまでのニヤついた表情から一転、鋭い目つきに変わる。
右手をあげ手招きをすると部屋の外に待機していた衛兵が部屋の中に駆けつけてきた。

ガル達も戦闘態勢を取った。
「いいねぇ。この数相手にやる気か?こいつらはただの衛兵じゃないぜ?魔道具の力で俺の思い通りに動く駒だ。しかも一人一人がAランク冒険者だった者たちを10人だ。あばよっ愚弟」
そういうとゲイルは右手をおろし戦闘開始の合図をだした。

「ガルっ!お前はじいさんを守れ!敵は俺が倒す!!」
「はい!!」
ガルは次々と迫りくる刃を剣で全て打ち払いながらカインを守る。
銀牙はその間に一気に敵をなぎ倒していく。

その様子を見て、はじめは余裕を見せていたゲインが恐怖を感じ始めていた。
「ばかな!?なぜ敵わない!?こいつらは全員Aランクの冒険者なんだぞ!?この王都で最強クラスの奴らなんだぞ!!」

「俺もその上級冒険者ですよ。ゲイルお兄さん」
「くそっ!何が今さらお兄さんだ!!バカにしやがって!!!」

二人が話しているうちに残りの操られていた冒険者をも銀牙が倒してしまっていた。

予想外のガルの強さにも驚いたゲイルだったが、全ての冒険者を一撃で倒していく銀牙を見てさらに驚いていた。
「銀牙…といったか…お前一体何者だ…なんなんだその強さは…」
ゲイルは恐怖を感じ後退りしていた。
先ほどまでの威圧感は感じさせずただ怯えていた。

「俺はCランク冒険者さ」

「その強さでCランクだと!?ふざけているのか!?」
「ふざけてなんかないさ、銀牙さんはまだ冒険者になったばかりなんでね」

「冒険者になったばかりでCランクだと…?はっ!ファランを打ち取ったと噂の例の冒険者パーティの獣人族か!?」

「え?俺達噂になってるのか?」
銀牙はガルに確認した。

「いえ、銀牙さん達がファランを討った冒険者チームと知っているのは、ギルドの上層部と王城に召喚されたときに城内に居たものだけのはず。ゲイル。あなたが何故知ってるんだ?」
ガルはゲイルに剣を向けながら質問した。

「くそっ!こうなったら…」
ゲイルは苦し紛れに隠し持っていた煙幕を使った。
一瞬で周囲は真っ白な煙に包まれた。


「しまった!!」
追い掛けようとしたが予想外の煙幕に若干反応が遅れたのでガルと銀牙はゲイルを見失ってしまった。
二人は煙の中を追いかけてみたが玄関までたどり着いたときにはゲイルは既に屋敷から出てしまっていた。

「逃げられたか…くそっ!」
ガルは扉を叩いて悔しさを露わにした。
(だがあの反応と、それにゲイルの指示で動いていた操られた者たち…つながりがあるとみて確実だな)


煙幕が消え、二人に遅れてカインも玄関まで駆けてきた。
「ガル様…恐らくゲイル様は敷地裏に建てた小屋に…」
息を切らしながらカインはゲイルが向かったと思われる小屋の話をした。

「そうだな。…恐らくその小屋はイスカリオテと関係があるはず」
「さっさと行ってとっちめてやろうぜ」
銀牙は両手拳を胸の前で合わせやる気満々といった感じだ。

「待ってください」
ガルは銀牙に制止を掛けた。
「どうした?追わないのか?」

「先に先ほどの冒険者たちを解放しておきましょう」
「…そうだな。指示を出すものが居なくなっても、あのままにしていくわけにはいかないか」
銀牙は頭をかきながらそう答えた。

三人は先ほどの部屋に戻ると冒険者たちの首に掛けられていた首飾りを外して回った。

銀牙は首飾りをつまんで眺めながら言った。
「これで操られていたってことか?」
「そのようですね。嫌な魔力を感じます」

「とりあえず全部ぶっ壊しておこうか」
そういうと集められた首飾りに銀牙が闇魔法を放って全ての首飾りは粉々に砕け散った。
強力な魔力を発する魔道具をいとも簡単に破壊した銀牙にカインは驚いていた。

「あなたはいったい…」
「カインには話してもいいかな。この人は獣人族ではないんだ」

カインは銀牙を見て確認した。しかしどう見ても人狼族にしか見えないので困惑した。
「…我々と同じ人狼族にしか見えないのですが…」
「見た目はなっ。進化したらこうなっちまったんだ」

カインは何を言っているのかわからないといった顔をしていた。
「進化…?」

「銀牙さんは死の森に住む銀狼から進化したワーウルフなんだ。元は魔物なんだよ」

「!!…なんと…そのようなことが…。いやしかし…それを聞くとあの強さにも納得が出来ます」

「俺のことなんてどうでもいい。奴を追わなくてもいいのか?」
「そうですね。急ぎましょう」


三人が小屋に向かうと扉は開いたままだった。
ゲイルは逃げることに必死だったようだ。

扉を壊す気満々だった銀牙は少し残念そうにしていた。
「なんだ?開いてるじゃないか。…おいガル。中に来てみてくれ」
銀牙に追いついたガルは小屋の中に入る。
そこには地下に続く階段があった。
その先には王城の方角へ、かなり奥まで続いている地下通路がみえる。

「どうやら当たりみたいだな」
「ですね。イザさん達に報告しますか?」
「いや、イザさん達ならきっと別の入り口を見つけてもう乗り込んでいるんじゃないか?俺らはここから入ってまずゲイルを捕える。でいいだろう?」
「そうですね…。奴をこれ以上好き勝手にはさせておけません。ラグナ家の名誉のためにも…」

そのときようやくカインが息を切らしながら二人に追いついてきた。
「はぁ…はぁ…老体には堪えますね…。…屋敷の裏にこんな通路まで作っていたなんて…」

「カイン。お前は屋敷に残ってる使用人たちとギルドへ避難していてくれないか」

「ですが…」
そう言いかけたがガルの真剣な横顔を見てカインはその先の言葉を口にせずに飲み込んだ。
10年前に見た幼かったガルの面影はそこには無く、瞳が見据える先は迷いを感じず、何物にも動じない強い信念を感じさせた。
カインはそんなガルを見て先代の…ガルの父親の姿を重ねていた。
そして誰にも聞こえないような声で呟いた。
「ガル様…立派になられましたね…。旦那様…ラグナ家の意思はしっかりと引き継がれております…」
カインの目に光るものが流れた。

「いってくるよカイン。銀牙さんいいですか?」
「おうっ!さっさと追いついてバカ兄貴を捕えてやろうぜ」

カインに見送られながら、二人はゲイルを追いかけイスカリオテの拠点へ続くと思われる地下通路に入っていった。




ラナ達三人は王城地下から。
イザとエルロンは墓地の地下から。
マティアとガラテアは王城の裏口から。
ガルと銀牙はラグナ家の地下から。

仲間達はそれぞれイスカリオテの深部へ迫ろうとしていた。
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