22 / 30
白々
しおりを挟む
花園さんのクラスは本当に結束が硬いし、相沢は人望があるのだと思った。聖薇が思わせぶりなことを言っただけですぐにツテを探し出してきたのだ。
「先輩に二人、卒業生に一人、噂が立ってるのがいるって。御崎も噂されてた」
相沢もうんざりしたような喋り方だった。先輩に二人、ということは同時攻略されているのだろうか。流石にそんなことはないと思いたいけれど。
呆れ返って口を閉ざしそうになったら、聖薇が変わって言葉を継いだ。
「ただのおとりなのに心外ね。私は他に好きな人がいるのに」
その場に乗じて思わせぶりなことを言ってアピールするのが本当にうまいと感心する。半分は褒めているけれど、こっちはこっちで少し呆れそうでもある。
「……お、おう」
思い当たりなのか、気になつてしょうがないのか、相沢の返事はキレが悪い。そんの相沢が可愛いと、聖薇は軽やかに小さな笑みを零した。
「ね、悠介。ありがとう」
「べ、別に……この間の貸しは返さないとな」
「借りたままでいいのよ。だって、返されたら終わってしまうわ」
だから土下座をしたというのか? 聖薇のことが好きなら、土下座させた側にと心のしこりとして残ってしまうだろう。下手すれば一生。そのしこりを残すために聖薇が土下座をしたかと思うと、それは少し、女の情念的恐ろしさを感じてしまう。別れ際に真珠のピアスをベットの下に投げて残すようなものだ。
「ん……そういう見方も、あるな……」
反面、あまり考えない人、相沢。説得されてしまったようで、意味を噛み締めつつ返事をしてきた。確かに聖薇にはこれくらい単純な人間の方があっているのかもしれない。……聖薇に、単純なんて言わないで、悠介は純粋なの! なんて怒られてしまった。つくづく趣味が合わない。
「じゃあ、今度、お前が返しきれないくらいの貸しを作ってやる」
「楽しみにしてるわ。それじゃあ、また明日。おやすみなさいまし」
不意に電話先からそっと息が吹きかかる雑音。笑ったらしい。相沢の声が弾む。
「お前のその挨拶、最後に聞いたのいつだっけな。すげー懐かしい」
「そうね。私、ずっと電話番号消してないんだから」
「ああ、俺もだよ」
優しい声に聖薇の胸がキュンとなった。電話を切るのが名残惜しくなったようで、矢継ぎ早に言葉を投げかける。
「絶対にまたかけなさいよ。命令なんですから。よろしくてね?」
「うん、かける」
「別に用事がなくてもかけていい権利を差し上げるわ。喜びなさい」
「わかったよ、ありがとう」
「べ、別に、電話を切るのが嫌になったわけじゃなくてよ。さっさと寝ていい夢を見ることね」
「……ん、おやすみな。お前も早く寝ないと体に悪いぞ」
もっと悠介の声を聞きたい。なんだかいじらしいような聖薇の気持ちが、電話を切らせない。終わりそうな会話が寂しくて切ない。
そんな聖薇の心境を、少し勘違いしたのだろう。
「聖薇は俺が絶対に守るから、安心しろ。……じゃ」
照れたように、電話は足早に切れた。電子音が耳にうるさい。
「……そういうところが大好きなの!」
聖薇は布団に倒れこんで、ぎゅーっと電話を抱きしめた。胸がドキドキしていて、体が数センチ浮くくらいだった。
なんて乙女な。これが恋って言うなら、私がなんとなく関先生にフラついたのは浮かれてただけ、などと思っても許されるだろうか。
携帯を充電して予習でもしようかと机へ向かう。と、携帯がブルブル振動した。画面を見ると関先生だ。内心ではものすごく腹立たしいけれど、ここで異変を悟られてはいけない。素知らぬ顔をして電話に出る。
「やあ」
先生はいつもの調子だ。私は焦らず慌てず録音機能を起動させる。一分三十秒と時間は限られているけれど、きちんと活用すれば重要な言質になるかもしれない。ただ、私から先生を好きというような素振りをうかがわせるのは、第三者が聞いたときに印象がよくないか。情報を引き出さなくてはいけない、保身をしなければいけない、これがスパイの辛いところ……なんて、スパイでもないか。
悲しいことに、興味を失ってしまうと話の一つ一つがつまらなくなっていく。空笑いをしてやり過ごす。なんてバカバカしいのだろう。つまらない合コンってこんな感じなのだろうか。
かわい子ぶって愛想よくまるで音ゲーのようにタイミングを合わせて言葉をコンボする。携帯ゲームなんかではハートマークをタッチし続けるとより親密な態度を貰えたりする。どうやらフルコンボみたいだドン。
「好きだよ」
関先生は言った。どの口が言うのだろうか。優しげで楽しげな声に呆れてしまう。きちんと録画できたかは問題だけど、ひとまず叩きつけるに値する情報は入手できたか。ならば、終わらせる方向に持っていきたい。
「じゃあ、本当に好きなら、百回好きって言って下さる?」
「そんなに一度に言ったら疲れるよ。百日間、毎日電話をかけて、一回ずつ好きって言うんじゃダメかい?」
「ロマンチックね。明日もかけて下さるの?」
「もちろんさ。僕は君に百回思いを伝えなくちゃいけないんだからね」
何を浮かれたことを。
「うふふ。先生、おやすみなさいまし」
私はニコニコ笑って電話を切る。電池が一つになってしまった熱い携帯をゆっくり置いて、布団まで行く。引っつかんだ枕を無言で振り回して叩きつけた。
「先輩に二人、卒業生に一人、噂が立ってるのがいるって。御崎も噂されてた」
相沢もうんざりしたような喋り方だった。先輩に二人、ということは同時攻略されているのだろうか。流石にそんなことはないと思いたいけれど。
呆れ返って口を閉ざしそうになったら、聖薇が変わって言葉を継いだ。
「ただのおとりなのに心外ね。私は他に好きな人がいるのに」
その場に乗じて思わせぶりなことを言ってアピールするのが本当にうまいと感心する。半分は褒めているけれど、こっちはこっちで少し呆れそうでもある。
「……お、おう」
思い当たりなのか、気になつてしょうがないのか、相沢の返事はキレが悪い。そんの相沢が可愛いと、聖薇は軽やかに小さな笑みを零した。
「ね、悠介。ありがとう」
「べ、別に……この間の貸しは返さないとな」
「借りたままでいいのよ。だって、返されたら終わってしまうわ」
だから土下座をしたというのか? 聖薇のことが好きなら、土下座させた側にと心のしこりとして残ってしまうだろう。下手すれば一生。そのしこりを残すために聖薇が土下座をしたかと思うと、それは少し、女の情念的恐ろしさを感じてしまう。別れ際に真珠のピアスをベットの下に投げて残すようなものだ。
「ん……そういう見方も、あるな……」
反面、あまり考えない人、相沢。説得されてしまったようで、意味を噛み締めつつ返事をしてきた。確かに聖薇にはこれくらい単純な人間の方があっているのかもしれない。……聖薇に、単純なんて言わないで、悠介は純粋なの! なんて怒られてしまった。つくづく趣味が合わない。
「じゃあ、今度、お前が返しきれないくらいの貸しを作ってやる」
「楽しみにしてるわ。それじゃあ、また明日。おやすみなさいまし」
不意に電話先からそっと息が吹きかかる雑音。笑ったらしい。相沢の声が弾む。
「お前のその挨拶、最後に聞いたのいつだっけな。すげー懐かしい」
「そうね。私、ずっと電話番号消してないんだから」
「ああ、俺もだよ」
優しい声に聖薇の胸がキュンとなった。電話を切るのが名残惜しくなったようで、矢継ぎ早に言葉を投げかける。
「絶対にまたかけなさいよ。命令なんですから。よろしくてね?」
「うん、かける」
「別に用事がなくてもかけていい権利を差し上げるわ。喜びなさい」
「わかったよ、ありがとう」
「べ、別に、電話を切るのが嫌になったわけじゃなくてよ。さっさと寝ていい夢を見ることね」
「……ん、おやすみな。お前も早く寝ないと体に悪いぞ」
もっと悠介の声を聞きたい。なんだかいじらしいような聖薇の気持ちが、電話を切らせない。終わりそうな会話が寂しくて切ない。
そんな聖薇の心境を、少し勘違いしたのだろう。
「聖薇は俺が絶対に守るから、安心しろ。……じゃ」
照れたように、電話は足早に切れた。電子音が耳にうるさい。
「……そういうところが大好きなの!」
聖薇は布団に倒れこんで、ぎゅーっと電話を抱きしめた。胸がドキドキしていて、体が数センチ浮くくらいだった。
なんて乙女な。これが恋って言うなら、私がなんとなく関先生にフラついたのは浮かれてただけ、などと思っても許されるだろうか。
携帯を充電して予習でもしようかと机へ向かう。と、携帯がブルブル振動した。画面を見ると関先生だ。内心ではものすごく腹立たしいけれど、ここで異変を悟られてはいけない。素知らぬ顔をして電話に出る。
「やあ」
先生はいつもの調子だ。私は焦らず慌てず録音機能を起動させる。一分三十秒と時間は限られているけれど、きちんと活用すれば重要な言質になるかもしれない。ただ、私から先生を好きというような素振りをうかがわせるのは、第三者が聞いたときに印象がよくないか。情報を引き出さなくてはいけない、保身をしなければいけない、これがスパイの辛いところ……なんて、スパイでもないか。
悲しいことに、興味を失ってしまうと話の一つ一つがつまらなくなっていく。空笑いをしてやり過ごす。なんてバカバカしいのだろう。つまらない合コンってこんな感じなのだろうか。
かわい子ぶって愛想よくまるで音ゲーのようにタイミングを合わせて言葉をコンボする。携帯ゲームなんかではハートマークをタッチし続けるとより親密な態度を貰えたりする。どうやらフルコンボみたいだドン。
「好きだよ」
関先生は言った。どの口が言うのだろうか。優しげで楽しげな声に呆れてしまう。きちんと録画できたかは問題だけど、ひとまず叩きつけるに値する情報は入手できたか。ならば、終わらせる方向に持っていきたい。
「じゃあ、本当に好きなら、百回好きって言って下さる?」
「そんなに一度に言ったら疲れるよ。百日間、毎日電話をかけて、一回ずつ好きって言うんじゃダメかい?」
「ロマンチックね。明日もかけて下さるの?」
「もちろんさ。僕は君に百回思いを伝えなくちゃいけないんだからね」
何を浮かれたことを。
「うふふ。先生、おやすみなさいまし」
私はニコニコ笑って電話を切る。電池が一つになってしまった熱い携帯をゆっくり置いて、布団まで行く。引っつかんだ枕を無言で振り回して叩きつけた。
0
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢として断罪? 残念、全員が私を庇うので処刑されませんでした
ゆっこ
恋愛
豪奢な大広間の中心で、私はただひとり立たされていた。
玉座の上には婚約者である王太子・レオンハルト殿下。その隣には、涙を浮かべながら震えている聖女――いえ、平民出身の婚約者候補、ミリア嬢。
そして取り巻くように並ぶ廷臣や貴族たちの視線は、一斉に私へと向けられていた。
そう、これは断罪劇。
「アリシア・フォン・ヴァレンシュタイン! お前は聖女ミリアを虐げ、幾度も侮辱し、王宮の秩序を乱した。その罪により、婚約破棄を宣告し、さらには……」
殿下が声を張り上げた。
「――処刑とする!」
広間がざわめいた。
けれど私は、ただ静かに微笑んだ。
(あぁ……やっぱり、来たわね。この展開)
当て馬令息の婚約者になったので美味しいお菓子を食べながら聖女との恋を応援しようと思います!
朱音ゆうひ@11/5受賞作が発売されます
恋愛
「わたくし、当て馬令息の婚約者では?」
伯爵令嬢コーデリアは家同士が決めた婚約者ジャスティンと出会った瞬間、前世の記憶を思い出した。
ここは小説に出てくる世界で、当て馬令息ジャスティンは聖女に片思いするキャラ。婚約者に遠慮してアプローチできないまま失恋する優しいお兄様系キャラで、前世での推しだったのだ。
「わたくし、ジャスティン様の恋を応援しますわ」
推しの幸せが自分の幸せ! あとお菓子が美味しい!
特に小説では出番がなく悪役令嬢でもなんでもない脇役以前のモブキャラ(?)コーデリアは、全力でジャスティンを応援することにした!
※ゆるゆるほんわかハートフルラブコメ。
サブキャラに軽く百合カップルが出てきたりします
他サイトにも掲載しています( https://ncode.syosetu.com/n5753hy/ )
悪役令嬢に転生したので地味令嬢に変装したら、婚約者が離れてくれないのですが。
槙村まき
恋愛
スマホ向け乙女ゲーム『時戻りの少女~ささやかな日々をあなたと共に~』の悪役令嬢、リシェリア・オゼリエに転生した主人公は、処刑される未来を変えるために地味に地味で地味な令嬢に変装して生きていくことを決意した。
それなのに学園に入学しても婚約者である王太子ルーカスは付きまとってくるし、ゲームのヒロインからはなぜか「私の代わりにヒロインになって!」とお願いされるし……。
挙句の果てには、ある日隠れていた図書室で、ルーカスに唇を奪われてしまう。
そんな感じで悪役令嬢がヤンデレ気味な王子から逃げようとしながらも、ヒロインと共に攻略対象者たちを助ける? 話になるはず……!
第二章以降は、11時と23時に更新予定です。
他サイトにも掲載しています。
よろしくお願いします。
25.4.25 HOTランキング(女性向け)四位、ありがとうございます!
悪役令嬢が美形すぎるせいで話が進まない
陽炎氷柱
恋愛
「傾国の美女になってしまったんだが」
デブス系悪役令嬢に生まれた私は、とにかく美しい悪の華になろうとがんばった。賢くて美しい令嬢なら、だとえ断罪されてもまだ未来がある。
そう思って、前世の知識を活用してダイエットに励んだのだが。
いつの間にかパトロンが大量発生していた。
ところでヒロインさん、そんなにハンカチを強く嚙んだら歯並びが悪くなりますよ?
十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!
翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。
「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。
そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。
死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。
どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。
その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない!
そして死なない!!
そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、
何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?!
「殿下!私、死にたくありません!」
✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼
※他サイトより転載した作品です。
断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます
山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。
でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。
それを証明すれば断罪回避できるはず。
幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。
チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。
処刑5秒前だから、今すぐに!
宮廷外交官の天才令嬢、王子に愛想をつかれて婚約破棄されたあげく、実家まで追放されてケダモノ男爵に読み書きを教えることになりました
悠木真帆
恋愛
子爵令嬢のシャルティナ・ルーリックは宮廷外交官として日々忙しくはたらく毎日。
クールな見た目と頭の回転の速さからついたあだ名は氷の令嬢。
婚約者である王子カイル・ドルトラードを長らくほったらかしてしまうほど仕事に没頭していた。
そんなある日の夜会でシャルティナは王子から婚約破棄を宣言されてしまう。
そしてそのとなりには見知らぬ令嬢が⋯⋯
王子の婚約者ではなくなった途端、シャルティナは宮廷外交官の立場まで失い、見かねた父の強引な勧めで冒険者あがりの男爵のところへ行くことになる。
シャルティナは宮廷外交官の実績を活かして辣腕を振るおうと張り切るが、男爵から命じられた任務は男爵に文字の読み書きを教えることだった⋯⋯
【完結】ヒロインに転生しましたが、モブのイケオジが好きなので、悪役令嬢の婚約破棄を回避させたつもりが、やっぱり婚約破棄されている。
樹結理(きゆり)
恋愛
「アイリーン、貴女との婚約は破棄させてもらう」
大勢が集まるパーティの場で、この国の第一王子セルディ殿下がそう宣言した。
はぁぁあ!? なんでどうしてそうなった!!
私の必死の努力を返してー!!
乙女ゲーム『ラベルシアの乙女』の世界に転生してしまった日本人のアラサー女子。
気付けば物語が始まる学園への入学式の日。
私ってヒロインなの!?攻略対象のイケメンたちに囲まれる日々。でも!私が好きなのは攻略対象たちじゃないのよー!!
私が好きなのは攻略対象でもなんでもない、物語にたった二回しか出てこないイケオジ!
所謂モブと言っても過言ではないほど、関わることが少ないイケオジ。
でもでも!せっかくこの世界に転生出来たのなら何度も見たイケメンたちよりも、レアなイケオジを!!
攻略対象たちや悪役令嬢と友好的な関係を築きつつ、悪役令嬢の婚約破棄を回避しつつ、イケオジを狙う十六歳、侯爵令嬢!
必死に悪役令嬢の婚約破棄イベントを回避してきたつもりが、なんでどうしてそうなった!!
やっぱり婚約破棄されてるじゃないのー!!
必死に努力したのは無駄足だったのか!?ヒロインは一体誰と結ばれるのか……。
※この物語は作者の世界観から成り立っております。正式な貴族社会をお望みの方はご遠慮ください。
※この作品は小説家になろう、カクヨムで完結済み。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる