18 / 28
8
しおりを挟むどんな暑い日でもぴっちりと一番上まで留められた釦を一つずつ外していく。
一度も目にしたことのない凱の裸体。
肩口から胸にかけて大きな刀傷がひきつった痕になっている。
「それ…」
手を伸ばし、そっと触れてみる。
つるりとした盛り上がった表面。
「あぁ…。これは幼い頃奉公に上がっていた先で、奥様の悋気に触れたのですよ」
「え?」
「私が旦那様を誘惑する…と」
きゅと眉を寄せる彼女に微笑み、下半身も脱ぐ。
「お見苦しいですが…」
下穿きに手をかけ、彼女を見て苦く笑う。
「……っ!?」
下穿きが下ろされ、彼女は思わず息を飲んでしまった。
あるべきはずのものがない。
醜く爛れた傷痕があるだけ。
「おわかりになりましたか?
…私には無理なのです」
そう言うと下げていた下穿きを上げ、衣服を身につけだした。
釦をかけていたその手を… 彼女の白い手が遮る。
「どうして?」
「ですから、私は無理なのはお分かりなったでしょう?」
「違うの」
ふるふるとかぶりを振り、彼女は問う。
「なんで…、そんなこと」
「あぁ…。私の国では高貴なご婦人に仕える男は皆こうするのです。不埒なことをしでかさないように」
「宦官…というのですよ」
「カンガン…。高貴な婦人に仕える…ため」
口の中で呟き難しい顔をしている。
「申し訳ありませんね、妙なモノをお見せして」
「…同じ、ね」
「え?」
「私と」
「……」
「私は国一番の方に添うため…
凱は?
凱も痛かった?凱の他にもたくさんいるの?」
「痛かった、ですかね。昔の話しです。たくさんおりましたよ。中には患部から感染して亡くなる者もいましたね」
遠い目でその時を思い出す。
同じ年頃の男が集められ、一部屋に押し込められた。
続く発熱と痛みで気が遠くなった。
泣きわめき、無くしたモノに対する繰り言を呟き発狂する者。
あまり衛生的とはいえない環境で、傷口が腐れて酷い腐臭を放ち息絶える者。
確かに彼女の言うように、同じかもしれない。
ナニかを奪われそれでもナニかを手に入れようとする。
凱が失ったモノの代わりに家族は安寧な暮らしが約束された。
後宮のちょっとしたクーデターのとばっちりで彼の国を後にしたが、それでも首を刎ねられた同僚達よりはずっとマシだった。
少し高い声と若く見える外見(この国の人達には特に若く見られる)の秘密はこんなところにあった。
そうかこの娘と自分は同じか…とストンと胸に落ち着くと、ますますこの少女を押し上げなければと誓いを新たにした。
「お嬢様、明日のことですが…」
「大丈夫
もう大丈夫よ。凱の為にも、私、やり遂げる」
彼女もまた凱と同じ境遇と思うことで、自分一人ではないと心を強く持てたようだった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
1
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる